夜魔族
空が白み始めた頃リノアは疲れた顔で夜魔族を見渡す。数日続けた部族会議に結論が出た事に安堵する。
この辺りを偵察したが対抗出来る戦力はなくここを頼るしかないとわかった所でもあった。
「皆の意見はわかったわ。ハルクとロイド様にも確認を取り次第改めてアンリと交渉します。」
リノアが歩む先、道が空け森へ進む。遠くには夜を徹して作業をしている音が小さく聞こえ笑みが零れた。
彼等は必死だったのですね。そして私達は違った・・・。これで会合の席にいたというのだから相手してもらえなくて当然でした。
今は違うといえる。ロイド様が完治され近くここを出なければならない時になりようやく理解出来た。
「おいアンリに話があるなら今すぐ向かえ。親睦会の準備であいつはもう行動している。」
ビクリと震え振り返った先には紙を手に立つカイネがいた。
リノアは渡された紙を月明かり頼りに読むとハルクとロイドの字で全てを任せる旨が書かれている。
「この時間に交渉が終わるならお前達も主賓になれる。あいつは強く押せば流される性格だから頑張れよ。」
「何故そんな事を教えてくれるのですか?」
カイネは悩む顔でリノアと向き合う。
「お前らがいなくなったらアンリは後を考えない手段に出るつもりだ。その程度には追い詰められている。」
「私達を戦力と捉えていると言うことですか?」
カイネは首を横に振り肩を竦める。
「いや、ただ客人に迷惑をかけたくないってだけだろう。
アンリは獣人達を殺す為にドワーフ達から重金属汚染物を買おうとしている。簡単に言うなら川に入れとけば川下の生物は近いうちに全滅だ。」
「イ・・・イカレてます。なんて事考えるのですか!?」
リノアは驚愕を隠さずに口にした。カイネもだよな、と同意しつつ続ける。
「アンリに常識を求めるな。あいつはやると決めたら手段を選ばん。
行動を起さないのはお前達が他魔族に糾弾されるのを考慮しているからだ。」
リノアは動揺し膝を付く。滞在中に行われたら止められなかった責任を追及されかねない事だ。でも、と思いカイネに聞く。
「私達が加わったとしてもそれを止める理由にはなりませんよね?」
「止めさせるのを条件に組み込め。駄目だったら私が止めるつもりだが多分懐柔されるからな。」
リノアはカイネは金の為なら何でもやると教えられた事を思い出し項垂れた。
「止めます。こちらにはトレント族が居るのですからそのような事認める訳にはいきません。」
気持ちを新たにアンリが作業している家に向かった。
アンリはこれから行われる親睦会の準備をしていた。ピザの試作も兼ねたもので石窯は増設され既に火をくべ温度を安定させる作業に入っている。
生地発酵を確かめるように触った時扉が叩かれた。
「開いてるよ。」
「早朝失礼します。アンリに話があってきました。」
アンリはコップに飲み物を注ぎ机に置く。
「うん、カイネが動いてたからだろうとは思っていたが前にも言った通り提供出来るものがないから交渉にはならないぞ。」
「いえ、私達も考えがあります。そして知った以上責任も。」
リノアは羽をたたみ椅子に座る。互いに視線を交わしアンリも椅子に座った。
「聞こう。夜魔姉の考えを教えてくれ。」
「では、まずはこちらが提供出来る事。そして求める事を話します。良いですか?」
アンリの頷きを待ってリノアは話す。一族の総意、求める事をそしてカイネから教えられた事を。
「私達が提供出来るのは人材と戦力、そして知識です。求める事は貴方が考えている方法の破棄と安定した収入、そして誇りを取り戻す場です。」
「やはり夜魔姉も俺の簡単安全殲滅方法に反対か。・・・だが他は納得した。」
アンリはリノア達の調書を思い出す。数に押され戦う前に逃げ出した事も一族を逃がす為にハルクと殿に残りロイドに助けられた事も知っている。
戦う事すら出来ず住処を追われたのはどれほどの屈辱なのかはアンリには理解出来ない事だがそれでも、と思い決めている事を口にした。
「復讐をするなら無理だ。俺は獣人達も必要なら迎えるつもりでいる。」
「わかっています。今本当に欲しいものは鬼とエルフの力。戦力を増やし今度こそ勝って誇りを取り戻したい・・・そう願う私達は愚かでしょうか?」
アンリは首を横に振る。それでリノアは安堵し席を立ち頭を下げた。
「場と力を貸して下さい。」
アンリは思う。下げられた頭と震える手がこれが彼女が今出来る誠意なのだろうと。人間に対しての懇願などプライドが許さない筈だがそれを一族の為に押し殺しているのが伝わる。
「とりあえず頭を上げてくれ。そのままなら話が出来ない。」
アンリを見据える顔はあらゆるリスクを考慮した上での決断を秘め今の自分ではそれに対する明確な答えは持っていない。
ならばと思いそして頷く。
「了解した。交渉を始めよう夜魔ね・・・リノアさん。」
リノアは呼び名からアンリが本気で向き合った事を理解しもう1度頭を下げた。
アンリは現状を整理した。
夜魔達が加わるなら戦略も事業も広がる。だが条件に出された戦略の破棄が響くな、と思いため息をつく。
「どうしても俺の戦略を認めてくれないのか・・・。」
「貴方の考えは戦いとは言えません。何より時間が不確定です。」
アンリは肩を竦め、
「それは考えの違いだな。全ての事には表裏があるように何も直接やりあうだけが戦いじゃない。
時間にしても諸々考えているが当座は獣人に扮して人間の国を襲い誘導する事で解消するつもりでいた。人が勝つならその後の商売相手にもなるしな。」
リノアは言葉に詰まる。おそらくこれ以外にも幾重にも策を練っているのだろう。その全てが気付かぬ内に貶める方法だと確信し敵に回した時アンリは危険人物になると改めて認識した。
「だが条件を全て認めるよ。俺を含めた皆の命を戦場に置く事で不足している提供分としてもらう。それでいいなら今後の話をしよう。」
「もちろんです。私達はそれ以上を望みません。」
アンリも頷き確認をとる。
「この交渉は夜魔族とトレント族の総意として考えていいのか?」
「えぇ、証書はここに、協力出来る事は何でもしますが私達は拒否権が欲しい。使われるのではなく共存を求めます。」
「無理強いはしないから好きにしてくれ。頼む時はサラかラズを通した方がいいか?」
リノアはいえ、と口にし拳を握る。
「貴方と対等の条件を結ぶつもりです。サラ様達に言われたなら私達に断る選択肢は無くなりますから。」
「了解した。ならば夜魔達には皆のサポートに回ってもらいたい。トレント族は特性を生かして森林の開拓をお願いする。」
アンリは机に転移魔術を起動させ地図を取り出す。
印を付けた所を指で示し、
「この辺りを夜魔族、トレント族の居住区域でどうだろうか?」
「わかりました。それより・・・。」
「わかっているよ。今後戦略を話す場にはリノアさんにも参加してもらう。拒否権があるから駄目なら言ってくれ。」
アンリはリノアの安堵を見てそれから、と口にし続ける。
「俺は生物を攻撃出来ない制約を受けている。だから真っ当な戦いが出来ない。まぁ、するつもりも無いけどな。
だが不安に思わせたなら悪かった。気を付けるよ・・・多分。」
リノアから困惑した目を向けられるが事実だからなんとも言えない。
「その事は後でサラにでも聞いてくれ。話は終わったな?
ラズもエルフ達を連れて朝方着くから各族長と補佐を招いて顔合わせの親睦会をするつもりだから夜魔姉達も参加してくれよ。」




