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鬼と人と約束と  作者: 敦人
一章 獣人族の侵攻
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新たな事業

泉前の広場でアンリは3人の魔族に仕事を割り振っている。

説明を聞き部下達に伝える為にメモを取るのはアキナとイマルだ。


「こんなもんかな。後は現地の責任者に聞いてくれ。」

「あの・・・。自分達はどうすれば?」


ロイズが戸惑うように手を挙げた。背後にいる同族も同様のようでざわめきが起きる。それをアンリは制して、


「ロイズ達には話があるから着いてきてくれ。ここで話すのもなんだしな。」


アンリは先に森へ歩いていく為幻影族は意味もわからないまま従った。


一族の先頭を歩くロイズは緊張で拳を強く握る。

過去にも複数の魔族と与する事はあったがそのどれも切り捨てられてきた経験が不要と宣告されるのではと思う。

自分達は下級に分類されるが個体数が少ない為最下級にも勢力で劣り、取り柄となるものもないのは自覚している。だがここを離れた後荒れ始めた森で生き抜く事は出来ない事が不安を恐怖に変える。


「待ったか?連れてきたぞ。」


アンリは開けた場にいるカイネの横で振り返り、


「悪いんだがロイズ達は・・・」

「待ってくれ!頼むアンリさん・・・他に行く所もないんだ。」


アンリはカイネと顔を合わせ互いに首を傾げた。


「なんの事かわからないが落ち着け。アンリに何か言われたのか?」

「俺まだ何も言ってないぞ。多分・・・。」


カイネはアンリの膝に後ろから蹴りを入れ正座させると頭を掴みブンブン振り、


「多分ってなんだ!?またお前が無意識に変な事したんだろう!幻影族は必要だから気を使えって言っただろうが!!」

「痛い痛い、ロイズ助けてくれ!?俺なんかした?」


ロイズは慌てて首を横に振り口を開く。


「いえ何も。付いてくるように言われただけです。」

「聞いたかカイネ!?謝れ。謝らないと俺泣いちゃうぞ。・・・・・・ごめんなさい!!」


カイネはアンリに手刀を叩き込み謝らせると幻影族を視界に収め口を開いた。


「自分で謝ったから問題ないな?もちろん幻影族にはここに居てもらうつもりだから気にするな。

ロイズ達には特殊な仕事を頼むつもりだ。後で説明するが要約すれば諜報といえるな。」


カイネが手振りで幻影族に座るように指示をして泣き真似をしているアンリを立たせる。


「サラとアンリとも話したがお前達の特性を活かすなら暗殺者か諜報活動のどちらかだろう。今後も考えるなら情報を制する人材が必要と考えている。出来そうか?」

「カイネ様。自分達はやった事がありません。それでも出来るのですか?」

「私が出来るようにさせる。帰ってきたらラズにも協力させるつもりだがな。」


髪を整え直したアンリも口を開く。


「諜報活動中の飲食と情報交換のサポートは俺が転移魔術でするつもりだ。

カイネには必要な知識や体力作りを頼んだ。でもロイズ達が嫌なら別の仕事を考えるよ?」


アンリは思案しながらも続ける。


「ロイズ達には悪いんだが危険も多いし道徳に反した事も頼むかもしれない。それでも幻影族が最適だと思っているんだが受けてくれないか?」


ロイズは必要とされた喜びが全身を支配したのがわかり片膝を付き頭を下げる。背後で全員がそれに倣った気配があり、同じ気持ちなのだろうと思うと更に喜びが身体を満たした。


「やります、やらせて下さい。どんな仕事も任せてくれ。」

「頼むよ。ロイズ達の仕事が今後の生命線になる。必要な物があれば揃えるから言ってくれ。」


アンリの横にいるカイネは妙に張り切っているから任せて大丈夫だろうと思う。


「お前ら立て。私の指示に返事は1つだ。イエス、シスター。わかったな?」

「「「イエス、シスター。」」」


カイネはよろしいと頷きアンリに振り返る。


「なんか楽しくなってきたな。」

「ほどほどに頼むよ。それと試作テスト昼過ぎにやるからそれまでには戻って来てくれ。」


アンリはカイネ達と別れ次の準備へ向かった。








昼食後にアンリ、マーニャ、ガイアスは泉の前にいた。隣にはカイネが運んで来た荷車がありそれを前に事前打合せ中だ。


「私達の方は問題ありませんがこれは大丈夫でしょうか?」

「それをテストするんだよ。お客を乗せて問題あったら投資が無駄になるからな。」


アンリが触れる物は出前機を大きくして椅子を付けた姿をしていた。細かくドワーフ達に調整してもらったがテスト無しに本番をする訳にはいかない。


しばらくして伝えた全員が揃ったのを確認してからアンリは口を開く。


「何人かには伝えていたが来週からこれでソドムの周りを空中散策する事業をしようと思う。

安全性や知名度が広がり次第シーズ大森林を突っ切る新たな移動手段として馬の地位を奪うつもりだ。」


全員を見渡し続ける。


「今回の事業はカイネに頼み魔族と人間の共存の1歩として教会にも話を通してある。」

「あぁ、実働の時は教会のエンブレムを付けるから目障りだと思う奴はいるが強行手段にでる馬鹿はいないだろう。」


ケイトが手を挙げ口を開く。


「前回ので学習したのね。で?誰が一番に乗るの?」

「俺はダメだ高所恐怖症でね。自分の視界の高さに震える事があるからな。」


ケイトとカイネは無言でアンリを引きずり椅子に押さえつけてハーネスを付け始めた。


「待て待て!?俺の話聞いてたか?」

「えぇ、ふざける余裕があるのは伝わったわ。」

「騒ぐとハーネスも外したまま飛ばせるぞ。」


アンリが大人しくなったのを確認したマーニャが上部の掴みを鉤爪で握る。サラ達が頷くのを確認して声をだす。


「では行きますね。少し揺れますよ。」


アンリの視界がグンッと上がり身体が違和感に襲われる。声を出す間もなく木々を超える。


「これは・・・凄いな。マーニャはいつもこの景色を見てるのか。」


呟く下には普段見上げる木々があり首を回せば遠くに大森林を貫く街道と思しき茶色の線がある。

見える先まで緑に染まる地平線と俯瞰する自分に感動を覚えた所で回遊が始まった。

アンリは揺れや気温、風などを感じ今後の問題となる所を思案する。

やがてゆっくり降下し始め泉前に降り立った。


「これはヤバイな。めちゃくちゃ楽しいぞ。」


アンリの言葉を聞きサラがワクワクしながら椅子に座る。マーニャから別のハーピーに代わり飛び立って行くのを見送るとギートが羨ましそうに呟く。


「俺も自由に空を飛べたらな・・・。」

「それは駄目だ。空を飛べる者は希少でなければ有り難みがないだろう?ギートが求めるまま翼を生やしだしたら気持ち悪いだろうが。」


ギートはえ?、とたじろぐがアンリは気にしないまま続ける。


「いいか?なんの為に種族が分かれているか考えろ。欲しいまま詰め込んだ生物は残飯バケツの中身と変わらない雑多な生き物じゃないか?俺はそんな悲しい者を見たくない。」

「えっと、なんかすみません。」


謝るギートに頷きサラが降りて来るまでに新作のデザートを転移魔術で取り出す。

石窯のテストも兼ねて作った小さめのシュークリームだ。


「客寄せにこれを使うつもりだから感想を頼むな。」


渡されたカイネは戸惑う事なくそのまま口に含み頷く。


「客寄せには勿体ないから別のにしないか・・・?」

「売れる位が丁度いいんだよ。お客はお得感に応じて金を使うからな。」


なるほどとカイネが悪い笑みで頷いた時サラが降りて来た。

代わるようにケイトがシュークリーム片手に乗り込み飛び立つのを見送った後感じた問題点をガイアスとマーニャに報告し3人はそれぞれの意見を受け見直す点を洗い出す事にした。

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