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鬼と人と約束と  作者: 敦人
一章 獣人族の侵攻
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観察者

アンリ、ガイアス、ハンネスは3人で溶岩を加工した石を鼻歌交じりに組み合わせ石窯を作っていた。


「完成したらピザを焼こうと思ってるから楽しみにしててくれ。後は風呂も大きくしたいんだ。」

「ピザがわからんが何でも任せてくれ。ここにいると楽しくて仕方ない。」

「旦那の頼みなら何でも作るから言ってくれよ。」


2人の言葉にアンリが笑顔になった時首根っこを掴まれる。


「なっだれだ!?」

「アンリ?私は怒っているの・・・理解出来た?」


アンリは声の主を理解して抵抗を止めズルズル引き摺られるのに任せながら口を開く。


「I am苦しい・・・。」

「ふざけない!!貴方魔族達に変な呼び名付けたでしょう。殺されるとは思わないの!?」

「変じゃないぞ。わかりやすいのを真剣に考えた結果だ。」


ケイトはアンリに正座をさせ説教をはじめようとした時背後から声がかかった。


「あの~。ちょっとよろしいですか?」

「夜魔姉助けてくれ!?何故かケイトが怒ってるんだ!!」


アンリは必死に両手をバタバタしながらアピールするがケイトに睨まれた為しょんぼりする。それを確認したケイトはやって来たリノアに深く頭を下げる。


「リノアさんこの馬鹿が失礼な事を言って申し訳ありません。直ぐに訂正させるので許してください。」

「気にしないでいいですよ。サラ様が認めたなら私達は受け入れるだけですので。それよりアンリに話があるので少しお借りしてもよろしいですか?」

「それは大事だな。直ぐに行こう。」


アンリは立ち上がりリノアの背を押しながら急いで場を離れようと先に進む。

ケイトは大きな溜息をしこれ以上問題が起きない事を祈り日課のジョギングに向かった。





アンリは夜魔達に貸したテントの1つで座っていた。リノアが使っているものだ。


「助かったよ。ケイトは何故か俺に厳しいんだ。で?デュラさんの事なら後は自然治癒だけだが。」

「その件はありがとうございます。大変な恩が出来てしまいました。」

「ん?治療の対価は貰っている。まだ確認はしてないが情報と引換の筈だろう?」


リノアは首を横に振り否定する。

それは前提であり自分達では無理な事を救って貰った事実がある以上恩だと思う。


「いえ、大きな恩と捉えています。これはハルク、ロイド様とも話した事です。」

「必要ない、俺は商人だから約束は守る。信用に関わるからな。むしろケイトの説教から逃がしてくれた恩が出来た。」


リノアはどうしたものかと思う。

おそらく何を言ったとしてもこの恩を認める事はないのだろう。だが恩とは受けた側が思うことでありそれを返せないのは心苦しいものでもある。

だが恩を糧に無条件で此処に協力する事は出来ない。後を考え同族達の事を思うならば感情で決めるべきではないからだ。


「私達とも会合をしてくれませんか?協力出来る事があるかも知れません。」

「断る。確かに夜魔姉達とトレ兄が味方になってくれるなら心強いし頼みたい事もあるがこちらから提供出来る事がない。」


アンリは首を横に振り否定しながら更に言葉を続ける。


「今の状況が終わったなら夜魔姉達はある程度の地位を確保出来る強さがある。

だが此処に留まるならば戦いになるぞ。それはデュラさんの治療も住処を離れた意味もなくなる事だ。俺はそれに見合う対価を持たないから夜魔姉達とは取引出来ない。」

「それでも・・・」


アンリは片手で制して立ち上がる。


「話は終わりだ。デュラさんが完治したら後は自由にしなよ。それまではお客様だからゆっくりしていってくれ。」


リノアは口を噤みアンリを見送り今のままでは交渉すらしてもらえない事に歯噛みした。

鬼やエルフの庇護を受けたいと思う一方で良いように使われたくないとも思う。

全員で話し合わなければならない事だと思い召集を決める。







西の森にある丘の1つは全面が色とりどりの花で覆われていた。その中心に屋敷があり花畑を四方に貫く石道がある。

その1つの道を歩きながら伸びをする少女がいた。

吸血鬼の長であり魔王の1人エミルだ。

陽光を気にせず全身に浴びながら屋敷を目指す。


「この辺りはムカつく位平和ね。人間達も荒らすならこの花畑を踏み荒らせば面白かったのに。」

「面白い冗談ね。そんな事愛しいクラシスが認める筈ないわ。」


花畑から現れた女はエミルの前で歩みを止める。


「遅い到着・・・暇だからお花達に水をあげてたわ。」

「わかってるでしょ。馬鹿共はギルドのせいで暴徒になるし。ほっとけば領土が荒れるから粛清に出てたの。フェミナの所は荒れなかったの?」

「この子達が教えてくれたから先に挨拶したら皆逃げて行ったわ。」


フェミナが花に触れ愛おしそうに撫でるのを見たエミルは舌打ちをして視線を逸らした。


「さ、屋敷に行きましょう。東の森が面白くなってきたから教えてあげる。」

「紅茶に血を入れて用意してよね。」






テラスの椅子に深く反り返るように座るエミルは眼下の花畑を見る。

机に置かれた花に手を乗せ頷くフェミナから視線を逸らす為だ。

フェミナは花から手を離しエミルを見る。


「東の森では人狼族が支配者に名乗りでたみたいね。対抗馬は鬼の娘とラズを有するハーピー、猫又達よ。」

「ふ~ん。ラズが動いてるって事はカイネも?」


えぇ、とフェミナが頷く。


「獣人族が東側を支配し終われば間違いなくぶつかるでしょうね。やっと東の森を統治する者が現れる。そうなれば・・・。」

「その前に虫人達とぶつかるでしょう?土蜘蛛達に動きは無いの?」


エミルは置かれた紅茶を1口飲み満足気に頷く。


「土蜘蛛が率いるなら犬っコロも迂闊な侵攻はしないんじゃない?」

「今の所地下迷宮から出て来ないつもりとしかわからないわ。彼処には花が無いもの。」


フェミナは花と会話する事で東西の森で起こる大半を見聞きしている。それをエミルが嫌う事も知っているが気にするつもりはない。


「侵攻が始まったら九尾も招待するから映像で観れるわ。ワクワクしない?」

「あの狐生きてたの?クロムに殺されたと思ってたけど・・・。」

「魔力を落として人の国に逃げ延びてたみたいね。獣人達を唆したのも彼女よ。ご丁寧に記憶も奪っているようだから本気じゃないかしら? 」


フェミナは心底楽しそうだ。だがエミルにもその気持ちはわかるつもりだ。

長く生きると刺激が見知った事になりあらゆる事が退屈になる。今回の事は2人にとって久々の娯楽だった。


「キースは誘った?」

「もちろん、でも女を抱く方が良いって断られたわ。海を渡るのが面倒なだけの癖に。・・・ところでそれ何かしら?」


エミルが指輪から出したパンと小瓶に入った薄茶色の物体をフェミナは指差す。

エミルはモグッ、と口に含み、


「うん美味しい。ソドムでおかしな物を作る人間がいるらしく部下を向かわせたらこれを持ってきたの。」


フェミナの半目も気にせずエミルは続ける。


「その人間・・・アンリだったかな?に、我が主は血を求めると伝えたら貧血にはレバーだと渡された物みたい。パンとワインに合うの。」

「貴女貧血だったの・・・?」

「違うよ?でも何処で間違えたんだろう?レバーペースト・・・美味しいからいいけど。食べる?」


フェミナは首を横に振り溜息を付いた。

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