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鬼と人と約束と  作者: 敦人
一章 獣人族の侵攻
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治療

森の中荷車をナイトーさんに引かせているカイネは転移されてきた手紙を開いた。

アンリが現状を記したものだ。


「夜魔にトレント、デュラハンね・・・。アイツらが負ける軍勢がこっちに来たら手に負えんな。」


呟き返事を裏に書き持っていると腕に書かれた魔術式が浮かび紙が消えた。

溜息をつき、最悪の場合の対処も講じて置くことを決め荷車に寝転んだ。






アンリは手紙を受け取りカイネが来るまでの時間で夕食の支度を進める。招いた魔族にも振る舞うならカレーにしようと決めた。


「カレー粉が無いから全部作らなきゃなぁ。」


お手伝い役のリルトに頼みスリこぎと石臼を使いニンニク、生姜、唐辛子、黒胡椒、ウコン、ナツメグなどのスパイスを塩を加えて潰してもらった。

大鍋で玉ねぎ、人参、ローリエ、を脂身で炒め潰したトマトを加える。


「出来ました。この位で良いですか?」

「ありがとう。次は猪肉と置いてある野菜の皮を剥いて切ってくれ。」


リルトから受け取ったスパイスも加え炒めターメリックで色を付け小麦粉を加えてルーを作る。

渡される肉と野菜と骨から取った出汁を投入して一息着く。


「リルトは覚えが良くて助かるよ。今まで作った物とかレシピ書いてあるから暇な時見といてな。」

「いいんですか?秘密にしとくものでは無いのでしょうか?」

「いいよ。大したもんじゃないしリルトが引き継いでくれるならいつ死んでも安心だ。」


目を伏せ言葉に詰まるリルトの頭に手を乗せ、


「例えだから気にするな。後は鍋底焦がさないように混ぜるだけだ。辛いなら牛乳や蜂蜜を入れてもいいから調整してくれ俺はデュラさんの食事を作る。」


カイネが来るまでにやる事はまだまだある。食事を作った後は新しく加わる魔族の仕事を考えなければならない。


「少しは楽になるといいけどな・・・。」







サラはリノアから話を聞き終わり思案していた。

マーニャが内容を纏めギートが補足している為ギートに声を掛ける


「夜魔姉達が襲われたのが3週間前か・・・。どう思う?」

「サラ様!?夜魔姉って・・・。」

「アンリが決めたならそれが最善なんだろう。会合も終わり決まった事だしな。そう呼ばれるのが嫌なら私に言え別の呼び名を考えさせる。」


リノアとハルクも頷きギート達を見る。


「サラ様が決めたなら私は構いませんから気にしないでいいですよ。」

「決定だな。でどう思う?」

「わ、わかりました。・・・ギルドの襲撃より前に人狼達は動いていたって事ですから何かしら異常が起きているのは間違いないかと。」


サラは嘘が無かった事を確認している。だからこそ時間のズレや相手が気になる。


誰かが唆したのだろうとは思うが誰がそんな事出来るのか?とも思う。

人狼の階級は最上級。同族以外を信用しない筈だがリノアの話では熊の獣人とも組んでいたらしい。

今までにない事態に囚われ思考が進まない事に苛立ち席を立つ。


「話は以上だな?私は仕事に戻るから纏めたらアンリに渡しとけ。考えるのはアイツの仕事だ。」


リノアとハルクは席を立ち頭を下げる。


「益になるかわからない情報ですがお聞き下さってありがとうございます。どうかロイド様をよろしくお願い致します。」

「あぁ約束は守る。夜には会話位出来るだろうからそれまでゆっくりしておけ。」








カイネは陽が落ちる前に到着した。

大木前にいた夜魔達が逃げるように散るのに眺め荷車からナイトーさんを離し扉を開ける。


「来たぞ。準備は出来てるな?」

「もちろんだ。風呂は沸かし直したし夕食も作ってある。治療後の事は問題ない。」

「ぶっ倒れる準備は完璧だな。素晴らしい、神も喜んでいる。」


リルトに指示をしてカイネと3階に上がる。

カイネは部屋の扉を開くと介護に付けていた猫又に退出するよう促す。


「これから先は見られたくないから早く出ろ。」


アンリは視線を向けた猫又に頷きしなを作り顎に手を当てる。


「い、痛くしないでね・・・。優しくしてくれなきゃ駄目だよ?」

「遺言はそれでいいのか?」

「ごめんなさい!ちょっとした茶目っ気です!!」


カイネは引き気味の猫又が部屋から出るのを確認してロイドに視線を移すと目覚めているようだが目の前で起きた奇行に対応出来ずにいるようだ。


「そのまま動くな喋るなこっちを見るな。傷を確かめるからそのままでいろ。それとここで行う事を口外したら殺す。いいな?」


カイネの警告にロイドは片手でヘルムの目を覆う事で肯定する。


カイネはロイドに触れスキル[同調]を発動させた。自身と照らし合わせ異常がある所を感知するとふむ、と頷き手を離す。


「魔力の流れがおかしい箇所があるな。そこを治せば動けるようにはなる。」

「わかった。治療するからサポートを頼む。」


カイネはアンリの身体に触れ魔力量を同調させながら回復の経過を見た。


よく鍛錬してる・・・。万能性を求め多分野に手を伸ばす凡俗と違い特化しているな。

更にスキルに従い魔力を無駄にしない独自の工夫がしてある。このまま成長するなら・・・。


問題のある部位が治療し終わったのを確認し口を開く。


「後は自然治癒でいい。倒れる前に何か言っとく事はあるか?」

「デュラさんの食事は粥があるからそっちで、弱った内蔵でカレー食べたら死ぬから気をつけてな。後は・・・デュラさんってどうやって食べるの?」


カイネは後半の言葉にふむ、と顎に右手を当て、左手は右肘に添え考えるとアンリが横に倒れていく。

カイネのスキルが物理的に切れた為だ。ゴンと音がして頭から床に倒れたのを確認して首を横に振った。


「すまん、故意じゃないから許してくれ。後でサラに運んでもらうから風邪引くなよ。」

「あの・・・。もういいですか?」


ロイドが身体の調子を確かめるように起き上がるが手は目を覆ったままだ。


「あぁ、食事を運ばせるからまだ寝とけ。ここで暴れるつもりなら私が相手になるから大人しくしとけよ。」

「そのようなつもりはありませんよシスター。治療ありがとうございます。この恩は必ず返します。」


頭を手に持ち腰を折る事で礼をするロイドにカイネは手をヒラヒラさせ出口へ向かう。扉を超えながら、


「礼はそこの男に言いな。そいつの頼みじゃないなら私が来る事も無かったからな。」


カイネが部屋から出た後残されたロイドは倒れたアンリに視線を移す。ベットが視界を遮り全体は見えないが動く気配はない。


「デュラさん・・・私の事でしょうか・・・?」







サラはアンリを寝室に運んだ後1階に降りた。

入口の扉は開け放たれ夜魔達が忙しなく皿に盛られた食事を持って移動している。


「カレーって名前の料理です。サラ様の分はお肉多めにしときました。」

「悪いな。お前も休めずっと働いてるだろう。」


リルトから皿を受け取り席に着くと先に食べていたカイネが匙を持って口を開く。


「美味いが辛いぞ。食えなきゃお前の嫌いなサラダと交換してやるから言えよ。」

「泉に叩き込むぞ。アンリが作るなら美味いのはわかっている。それよりデュラさんは治ったのか?」

「お前もそう呼んでるのか。怪我は治ったが全快するには休息と食事だな。」


カイネの言葉にサラが頷くがカイネの横にいるヴァンとケイトは頭を抑え呻くように言葉を絞りだす。


「デュラさんって・・・あの馬鹿。」

「何がどうなったらそんな呼び名を付けることになるんだ・・・。」


カイネは2人の肩に手を乗せ頷く。


「受け入れろそれがアンリだ。」


カイネの言葉に2人は机に頭を乗せ項垂れた。

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