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鬼と人と約束と  作者: 敦人
一章 獣人族の侵攻
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会合前

陽が登り始め森に住む者が活動を開始する頃アンリは風呂に水を張っていた。風呂底に置いた石に転移魔術を掛け泉にも同様の物を置き水を転移させている。

水位を確認して魔術を解除しお湯にする為薪に火を付けて厨房に戻る。その後も朝食の準備と昼の炊き出しの仕込みをする為他の住人よりも早起きして行動していた。


ギルドの襲撃から2週間が経過したが未だ大きな混乱はないようで平和な日常だ。


「相変わらず早起きね。ちゃんと休んでるの?」


声に振り向くとケイトが伸びをしながら階段を降りてくる。


「まぁある程度な。風呂沸かしてるからもう少し待ってくれ。」

「先にジョギングしてくるから急がなくていいわ。後嘘は良くない、そう思わない?」


ケイトは顔を覗き込むように近づく。


「疲れた顔ね・・・。目にクマもあるし、ちゃんと寝なきゃ体持たないわよ?」

「教えた通り俺は戦えない。その時が来たら命懸けで戦うのは俺以外の皆だからな。俺にとって戦いは今なんだ。」


ケイト達はアンリの失ったものを聞かされていた。

それがどれほど困難な生き方になるかは戦いに身を置く者では理解出来ない範疇の事だった。


「無理しないようにね。貴方が倒れたら誰に嫌な仕事押し付ければいいのよ。」

「心配するなら負担を回すなよ!まぁ大丈夫さ。体調管理は大人の基本、そうだろ?」


ケイトは手をヒラヒラ振って外へ出る。

天気はいいから周辺の下見を兼ねて走り出した。







黄色のヘルムを被り赤く染めた棒を振りながらサラを誘導するアンリは今日は笛を用意していた。


「よ~し。その辺に置いてくれ。下に転がせるような位置がいいな。」

「もう少し斜面の角度を付ければより轢殺出来るな。私が調整しとこう。」


草木で巨岩を隠すように指示をしながら測量担当のドワーフに声を掛ける。


「ハンネスさん。地の利以外にもこの辺りを優位にしたいんだが。」

「旦那、ここでは無理だぜ。高台と罠で手一杯だ。堀を作るのは今は無理だから壁を高くするのが限界だ。」

「ならそれで。この周辺を城塞都市にしとかなきゃこれからが心配だ。」


ハンネスは頭を掻き頷く。


「旦那からは十分な金を貰ってるしな。少し設計し直すから時間をくれ。」


アンリは頼んだ、と伝えサラと現場を離れる。

この後にはマーニャとギートが魔族の長を連れてくる予定だからその準備もしなくてはならない。


「やる事が多すぎる・・・。」

「少し休め。最近殆ど寝てないだろ。」

「そうは言ってもな。いつ戦いが始まるかわからない以上急がなきゃ全てが無駄になる。」


心配してくれるサラには悪いが今は時間が惜しい。いつまでと期限があればやれる範囲を決めて他は切り捨てるがそれがないから質が悪い。


「合流してくれる魔族が居ればいいんだかな。」

「そうだな。ラズはいつ戻るかわかるか?」

「弁当にメモがあったよ。頼んだ事は終わったから今週中には何人かエルフを連れて帰ってくるみたいだ。」


午後の会合、集落の開拓、商品制作、ギルド関連、次の事業の試作テスト、情報収集に戦略と魔族の勉強と数えた所で考えるのを止めた。

今はやれる事からやっていくしかないと決めて会合場所の泉へ向かう。


「攻撃的な奴がいたら対処は任せる。」

「好きにしていいってことか。そんな奴がいると楽しいんだけどな。」


サラの言葉を頼もしいと思いつつそんな事にならない事を願って先に進んだ。







泉と家の間の広場にマーニャが3人の魔族を連れて立っている。

サラと2人で近づくと3人はそれぞれ跪くように地に伏せ頭を下げる。


「ピクシー族の長イマルです。」

「幻影族の長ロイズといいます。」

「ホビット族の長アキナデス。」


ロイズはサラが1歩近づいたのを感じ片膝から土下座に移行していた。イマルとアキナは元から小さな身体を更に縮めている。


「俺はアンリだ。聞いてると思うが人間でサラの代わりに話すからよろしく。とりあえず立って楽にしてくれ。」


3人が立ち上がり緊張した顔でサラとアンリを交互に見る。


「大丈夫だから落ち着いてくれ。ギートは?」

「先程までいたのですが猫又達が慌てたように森へ連れていきました。」

「待たせるとは良い身分だな。もう1度叩きのめしとくか。」


サラが笑みを浮かべながら指を鳴らした時正面の森からギートが走ってくる。

スピードそのままに跳躍すると両膝を地に付き草の上を滑走しながらサラの前で止まり頭を下げた。


「遅れてすいませんでしたー!!後アンリ殿怪我人がこちらに来ます。治療をしてくれ。」

「スライディング土下座とは見事だ。で?怪我人って事は獣人の襲撃か?」


いえ、と口にしたギートは肩で大きく呼吸をしながら咳き込みそれ以上が続かない。


「わかった。安全なら行くよ、マーニャ3人を頼んだ。」


サラがギートの腕を掴み立たせ道案内をさせる。アンリはナイトーさんをカイネに貸さなきゃなと思いながら2人を追いかけた。


着いた先には猫又達が荷車を懸命に引いていた。

押すようにしている2人の男女は見慣れない魔族でギートが声を掛けた者だろうと思うが今は怪我人の治療が先だ。

サラが見慣れない魔族とアンリの間に立ち警戒をしている。それに安心しつつアンリが荷車を覗きこむとそこには傷だらけの鎧が横たわっていた。


「・・・ギート?俺は死者の蘇生は出来ないんだ。この方首取れてるから埋めてやろう。」

「アンリ殿、この方はデュラハンだ。取れていい種族だから早く!!」

「首が取れていい生物なんているのか?絶対駄目だろ・・・やるだけ無駄じゃないか?」


アンリは訝しい気持ちを抑え回復魔術を起動させる。

青く光る術式が触れた所にある傷が徐々に消えていくのを見ながら鎧の姿をした魔族だと理解した。

目に付く傷が消えた所で魔術を停止させギートに声を掛ける。


「応急処置は済んだから後は家に戻ってからやる。多分今日だけでは完治は無理だ。」

「了解。お前ら急いで運べ!!サラ様とアンリ殿は乗っていきますか?」

「サラと後ろの2人と話すからいいよ。」


ギートは頷くと部下達と荷車を運びだした。それを見送ると2人に向き直る。


「治療に関しては任せてくれ。だがどう見ても2人はデュラハン?には見えないんだがどういう関係だ?」


恭しくサラに頭を下げている2人が顔を上げた。

黒を基調にした衣服を纏う女がアンリに視線を合わせ再び頭を下げる。


「私は夜魔族の長リノアです。こちらがトレント族のハルク、デュラハン族のロイド様は私達の恩人です。」

「ほぅ、トレントとはなかなかの大物が来たな。だがギートが知り合いとは思えん。」

「猫又族とは巨人族が森を支配しかけた頃知り合いそれからの付き合いです。」


リノアの言葉にハルクも頷く。


「ふーん。で?彼の治療の為にこっちに来たって事かな?」

「それもあるのですが我等の住処を獣人に襲われまして・・・。その、猫又族を頼りに来たのです。」

「そっか。ギート達は集落移ったから後で話しなよ。俺もそっちの情報がほしいし。で他の皆は?」


リノアは整った顔に険を浮かべ頭を下げる。


「安全かわからなかったのでこの先で待機させてます。・・・正直に言うなら人間が素直に治療してくれると思っていなかったら。」

「当然だな。だが安心しろ私もアンリは約束は守る、治すと言ったなら必ず治すし治させる。」

「無償労働は嫌なので。対価は獣人の情報でどうだ?」


リノアとハルクは顔を合わせ再び頭を下げる。


「ではそれでお願い致します。疑ってすみません。」

「よしよし、仕事が1つ減った。まぁ、他の魔族と会合もあるし治療はその後になるけどな。とりあえず皆を連れてきなよ。安全も約束する。」

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