人魔大戦 〜北側戦局 ④〜
眩い閃光と共に生じた破壊の力は、連なる木々を連鎖的にへし折り、地形ごと削り、崩壊していく音と共に土煙が立ち込めていく。
その破壊の痕跡の中心で何かが割れる音と共に目を覚ましたロイは、全身を濡らす冷や汗を感じながら消えていく負傷を視界に安堵の吐息を洩らした。
マジであっぶねぇ・・・俺のスキルじゃなきゃ死んでたぞ。
痺れを払い呼吸を落ち着けながら、土煙の奥から届く少女の嘲笑う声を耳に舌打ちをする。
他の魔王達と比べ、エミルの情報はとても少ない。
普段は自領土に籠もり、些事の全てを側近に任せる傾向が強く、引きずりだそうと手出しすれば苛烈な報復により戦闘、観測者共に皆殺しとなる事も少ない為だ。
とはいえ、もう少し情報を集めて残す努力をしておけよなぁ。スキルの1つもわからねぇ状況じゃあ対応出来ねぇぞ。
遥か前に挑み散った先達達に恨み節を思いつつ、大きく伸びをしながら周囲に迫る死霊族に氷系の魔術を放ち、地と足を固定した。
エミルのいる方向に注意を払いつつ固定した死霊族達の首と腕を落とし無力化させる。
エミルが引き連れて来たのが人をベースにしたザコで助かっているが、巨人族や魔族、魔獣の肉体を素体にした配下をいつ引き出して来るかわからねぇ。
出来るだけ早めに対応策を見つけたいんだが・・・ヤツをどうやって攻略するかは全く浮かばねぇからなぁ。
装備の負傷を確かめ、衝撃を受け流せるように風系の術式で全身を纏い歩みを進める。
先程のふざけた魔力放出がスキルを紐解くヒントになる気がするが・・・何を契機にしているのかもう一度試して見せてもらうかね。
土煙が消える前に奇襲をかける為に身を前に倒し加速した。
口端を血で染めながら、内から込み上げる感情に従い嘲笑っていたエミルは、落ち着きを取り戻すと眼窩から飛び出した眼球をしまい、背骨ごと貫かれた剣を無造作に引き抜いた。
腹に空いた裂傷も目の負傷も即座に塞がり、その痛痒をくすぐったく思いまた笑う。
「あ〜楽し。やっぱこうじゃなきゃ戦いって感じしないよね。」
エミルの胸を満たす充足感は、逃げず、引かず、抗ったロイへの称賛によるものだ。
魔王の座に付いてからも人魔問わず挑まれる事はあるが、まともに切り結ぶだけの力量を持つものはとても少なく、その数少ない者達も大半は、撤退戦が主で、今日のようにまともに立ち塞がり迎撃されたのはいつぶりだったかと思う。
最後はカイネと殺りあった以来かなぁ・・・最近は、人間とあまり関わってなかったけどみんながこうならもう少し遊んでみようかなぁ。
最近関わった人間を比較対象にしようとし、良く知る者としてアンリの顔が浮かべ首を横に振る。
口を開けば商売、策謀、巨乳について語る馬鹿が普通とは思いたくない。となれば次は、カイネか。確かに強いけどそれ以上に金の亡者で参考にならない気が・・・。
そもそもあの2人は特殊過ぎだと結論を付け、自身の人付き合いの少なさから普通の定義がわからない事について落ち込んだ時、視界の左側の土煙が切り裂かれ斬撃が腕に食い込む。
「あ、おかえり〜。生きていたようで良かった良かった。ねぇねぇ、普通って何?」
「知るかボケ!?死ね!!」
「いきなり暴言は普通じゃないよね。たぶん。」
追撃の為に短刀を引き抜こうとしたロイより早く、血に塗れた腕に力を込め、筋力で刃を固定し抜けなくさせたエミルは反対の腕でロイの顔面を打ち抜く。
顔に迫る拳撃に対するロイは、即座に短刀から手を離し、振るわれた腕の外に位置取ると伸び切った手首を下から掴み引く事で、エミルの重心をずらす。
そのまま腰を切りつつ掴んだ手首を返し、足先を戻しながら反対の腕をエミルの肘下に腕を差し込み前傾に崩す形で天秤投げを決め、地に叩き付けた。
本来ならそのまま腕を極めるか、絞め技に移るが相手は人外の腕力を誇る吸血鬼。俺の技量程度では力で外される可能性を考えるべきだ。
なら、と思考を回すロイは、一連の流れで見えていた周囲の状況から戦術を決める。
短刀は抜けず剣を拾いにいく時間は無い。串刺しや首を切り落として朝までの時間稼ぎは諦めなくてはならない以上、頭部への打撃による失神で時間を稼ぐのが次善って所か。
判断を下すと即座に身体を起こそうとしたエミルの側頭部に魔力を纏わせた爪先による蹴りを浴びせる。
鉄で覆われた足先が鈍い音を立て直撃し、身体を反転させ仰向けになったエミルの顔面に踵を踏み落とした。
エミルは、頭部を揺らす打撃に目をチカチカさせ、鼻と歯が折れた痛みと血の味が占める中、それでも楽しいと口端を吊り上げる。
久しぶりに遠慮の無い戦闘が出来る高揚と愉悦が全身に熱を灯し歓喜に似た感情を抱いていた。
良い・・・とても良い。特に容赦が無いのが最高に良い。
揺らされ過ぎた頭は正常な思考より感情を優先させ、スキルが全身に纏う魔力を増大させていく。
「アハハッ!楽しい、楽しい楽しい楽しい楽しい楽しい楽しい楽しい楽しいね!?」
「まだ意識があるかよ。死ね!!」
「無理〜楽しいもん。」
続けて踏み落とされた足を掴んだエミルは、羽の駆動のみで身体を垂直に浮かせると身を回しハンマー投げの要領でロイを空へ投げると舌を噛み、腕に刺さる短刀をより深く突き刺し、それをシーソーのように前後に動かし痛みを増大させながら獰猛に笑う。
「アハッ、アハハッ、ハハハハハハハ!!最っっ高に楽しいっ!!!」
スキルで作り出した、周囲の空間が歪み、地を揺るがす程濃密な魔力をロイの落下方向に放ち森を薙ぎ払った。
揺れる地面と轟音の連続に目を覚めしたアンリは、脳を揺らされたかのような酷い頭痛から地に吐瀉物を吐き出し呻く。
うぅ・・・なんで森で寝てるんだ?気持ち悪いし、なんかうるさいし・・・さっきまで何してたんだったか。
「大丈夫ですかアンリ様?」
背を擦られ、水の入った革袋を差し出す相手に視線を移し、頭を下げた。
2度程口を濯ぎ、身体を起こしたアンリは、一度頭を振り意識を鮮明にしていく。
「すまないカリオストさん。最近は、仲間達の死を受け止めきれず酒に逃げる事も多くてね・・・いつの間にか寝てしまっていたようだ。」
殴った事による脳震盪を酒の飲み過ぎと誤解している事に外交問題にならずに済みそうだと安堵したカリオストは、えぇ、えぇ、と優しく取り繕う声で相槌を繰り返し諭す。
「不死の私共からすればそのような些事でと思いますが、貴方様は人間の身。重責に潰されぬよう、そして思いに囚われ過ぎない為にも今は休まれた方が宜しい。」
「あぁ、そうかもな。うん。また倒れない内に帰るか。迷惑をかけたね。」
「いえいえ、お気になさらず。依頼しているモノの運搬宜しくお願い致します。」
大木に転移魔術式を敷くアンリは、指輪から注文書と依頼内容、委託書の紙がある事を確かめ頷く。
「数日以内に届けるようにする。それと可能なら暇人達も連れてくるから此処で使ってくれ。」
「暇人達・・・ですか?」
「あぁ、やる気があるか声をかけておくだけだから期待は半々程度にね。」
青く光る魔術式から離れたカリオストは、首を傾げながらも頷く。
会釈をするアンリの姿が魔術式に飲まれた事を確認し疲れを含む息を吐いた。
「なんとか誤魔化せた・・・さぁ、前線の指揮に戻らなくては。」
空が白む前にアンリにかかりきりで空けていた前線を確認し、状況を立て直す為に先へ向かう。
年末年始にかけ私事で時間が取れず更新が遅れるかもしれません。
お読み頂いている皆様に大変なご迷惑をおかけし申し訳ありません。
来年もよろしくお願い致します。良いお年を。




