人魔大戦 〜北側戦局 ③〜
嫌だねぇ死を恐れない敵ってのは・・・。
シャウラが指揮する軍が作る断続的な銃撃と砲撃の先には、動けなくなるまで破壊された仲間の身体を盾にした死霊族の群れが迫っていた。
木柵と土塁による砦の優位と銃撃、砲撃、魔術を尽くしているがその距離は徐々に縮まっている為、焦りの空気が陣営に漂い始めている。
痛みによる戸惑いも軋みも無く、怯えすらない集団を相手にするのはいつだって厳しいものだからねぇ。不慣れな地で、予定に無かった防衛戦と考えればよくやっているほうなんだけど・・・仕方ない、もう少し手を加えようか。
シャウラは、スキル[物質生成 ゴーレム]を用い、合わせた両手の間から鼠程度の大きさの人形を数体生み出すと視覚共有と自立駆動の魔術を刻み柵の外へ放り投げた。
共有の魔術を用いたゴーレムを動かし斥候のように敵陣の情報を集めさせる為に進ませる。
ゴーレム達から送られてくる複数の視界が次々と視界に浮かび、脳の情報処理が追い付かず頭が割れるような痛みを寄越すのを耐えられるギリギリまで最適化していき見える範囲から情報を割り出していく。
スケルトン、ゾンビ、ミイラが部隊構成の大半・・・吸血鬼もいるにはいるが統率可能な指揮官クラスは見当たらないか。
今日は前線に出ていないだけなのか、別の事情でもあってかからきりなのかはわからないが明日以降もこんな感じだと助かるんだけどねぇ。
そんな甘い手合では無いか。と思いつつ、歩兵扱いの死霊族も十分な脅威だと考え直す。
死ぬ事で免疫系が停止した肉体は、体内の細菌の増殖を抑え込めなくなり、腐敗した遺体は、それらの細菌の温床として、肉片1つでも傷口に触れれば破傷風や様々な感染症を引き起こす細菌兵器そのものといえる脅威。
今回は、そのような病の化身といえる敵が集団で襲ってくる悪夢以外のなにものでもない状況だ。
懸念の思いを胸に置き、ゴーレム達の正面に整列している他と異なる敵部隊を注視する。
共有した視界の範囲では生者と変わらない肌の張り保ち、血色の悪さを化粧で誤魔化し生前と変わらない身体に憑依した死霊族・・・丁寧な腐敗防止の処理でもしたのかね。
かつての仲間の成れの果てとわかっていてるからこそ、生前を強く思い起こさせる姿は、感傷を揺さぶり銃を向け相手をさせるのは士気に関わるかもしれないねぇ。
「これらを作るよう指示した奴は、性根が腐った外道だねぇ。今までの幼月のやり口でないから、これは道化の仕業かなぁ。」
「副長代理?」
「なんでもないよ〜ヒルデさん。なんでもないけどこっちの方向に面倒な敵が来ているから砲撃しとこうか。出来るだけ多めに。」
はぐらかすように笑う表情に配慮と気遣いの色を感じたヒルデは、それを口にせず頷く。
私達が知らない方が良いような敵の策があったのかしら・・・。
「野戦砲部隊。聞こえましたか?」
「「「勿論です姉さん!!!」」」
「姉さんじゃありませんっ!?」
「仲いいねぇ。良いよ〜おじさんほっこりしちゃう。」
赤面するヒルデに笑いかけたシャウラは、砲兵達に親指を立てる。
「さぁ仕事だ仕事。夜明けまでもう少しだからチャキチャキ働こうね。」
結束を示す声の連なりが生まれ、シャウラを筆頭とした防衛部隊の動きが加速していく。
遠く背後から轟く雄叫びを耳に止めるロイは、防衛戦は上手く行っているのだと、確信し目の前の脅威に意識を傾けた。
月夜に浮かぶ白銀の髪と赤眼の幼女・・・それは対峙した時から全身を強張らせる『死』そのものであり、過去に陥ったあらゆる窮地を霞ませる威圧をもってそこにいる。
対峙して理解した・・・こいつは常識の範疇に収まらない化物。数多の英雄、勇士達を叩き潰し君臨する不死者達を照らす沈まない月。つまるところ災害だって事だ。
向けられている赤い視線だけで喉の乾きを覚え、身体が萎縮していく感覚を得る。
ヤバいなこりゃ。だが、ここまで積み上げた実績と、乗り越えてきた窮地の経験があるからこそ、この威圧感を前にしても絶望しなくて済むってもんだ。
緊張を解く為に僅かに緩めた口から細く息を吐き、剣を握り直そうとした時、エミルの姿が霞んだ気がし即座に頭を下げた前転で回避行動に移る。
今いた地に深い斬撃跡が刻まれ、破砕する音を背で受け距離を離したロイに、クスクスと嗤う声と嘲りを含んだ言葉が届く。
「私から目を離しちゃ駄目だよ。隙だらけでつい狙っちゃった。」
「忠告どうも。仕留められていたらカッコついたなお嬢ちゃん。」
「ふふ、じゃあカッコ良い所見せちゃうから死んでよ。」
翼のはためきだけで宙を滑るように距離を潰し振るわれたエミルの右腕を剣で受けたロイは、身体が浮く感覚と共に後ろに吹き飛ばされた。
防御術式を背に展開し、大木の激突のクッションにしたロイは、腕の痺れを払い喉を鳴らす。
おいおいマジかよ。ガキのリーチじゃあ無ければ直撃していたぞ。受けてこの威力は、今まで戦ってきた吸血鬼共が比較にならん。
再び振るわれた攻撃を避け、剣の一振りを返すロイは、集中を増していきながら隙を伺い体勢を整える。
戦闘馬鹿の鬼族の流れを組むだけあって戦法も似ていやがる。
人の術理、摂理を矮小な小細工とし、力で薙ぎ払うやり口は好みだが種族差による性能、魔力出力、なにより生きた年月差が生む経験が相手にはある。
受けに回れば押し潰されると判断したロイは、風系の魔術式を展開し、速度増加の加護を風に変え武器に纏わせた。
「なぁ、お前・・・。」
なに?と言葉を返そうとしたエミルは、腹部を貫く剣の痛みに、え?と声を洩らす。
ロイの行動は、驚く程に早く的確だった。
言葉を止め、注意を逸すと同時に投じた剣により機先を制すと、柄尻を押し蹴り後ろの大木に突き刺す。
良し!刃渡りから神経系も断った!下半身は動かない筈!!
聖魔術式を追加展開し両手に付与するとまずは、掌に空気を含んだ掌底を右耳に打ち込み鼓膜と三半規管を揺らし、そのまま髪を掴み頭部を固定する。
あ、と漏れる言葉を無視したロイは、瞼の上の方から指を指し入れ奥で僅かに指先を曲げる事で紅い眼球くり抜き、外に押し出した。
勝てる!?と浮つく気持ちを抑え、呻くその首に向け薙いだ短刀はエミルの腕に阻まれ空に舞う。
眼窩から飛び出し伸びた視神経とそれらを支える筋繊維が脈動し向けられた眼球が距離を離したロイを追い、血を吐き出す口元を笑みに変えていく。
「やるね。良いよ良いよ。ここ200年位の間なら一番じゃないかなぁ。」
スキル[転換 痛覚]を用い、痛みを魔力に変えていくエミルは、身体の治癒では無く広げた掌に集めていき、魔力で光玉を形作っていく。
「貴方の研鑽にご褒美をあげる。賜りなさい。」
炸裂する光玉がロイのいる地点を地形ごと消し飛ばした。




