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鬼と人と約束と  作者: 敦人
一章 獣人族の侵攻
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魔族講義

眼鏡を掛けたケイトは壁に資料を押しピンで貼り付けていく。

壁の前にはアンリとヴァンが正座で待機していた。アンリは魔族図鑑を開きながら痺れを何とかしようと身を捩る。


「ケイト早く。もう限界だ・・・。後壁に穴を空けると樹液が出るから止めてくれ。」

「なんで僕まで・・・。」

「文句言わない!大体まだ始まってないでしょう!」




アンリ達の後ろにある机ではサラとカイネがカードに興じながら3人のやり取りを酒の肴に楽しんでいた。

全ての資料を貼り付けたケイトは振り返りアンリから没収した赤く染めた棒を教鞭のように扱い手を叩き音を鳴らす。


「では始めるわ。サラさんとカイネさんには補足があればご指導お願いします。」


はいよ、と手を上げ答えた2人に一礼し資料の一番上を示す。そこには階級の文字があり一覧表になっている。


神域、最上級、上級、中級、下級、最下級と続き大まかな魔族の名称が階級に沿うように分類されていた。

最上級の欄には鬼、エルフ、竜人、ドライアド、吸血鬼、墜天、悪魔、天使、などの名称があり猫又とハーピーは中級に記されている。


「大まかだけどギルドでは中級以上は1人戦うのは危険と習います。」


アンリが手を挙げ、


「何故眼鏡?後獣人が猫又だけなのはなんでだ?」

「眼鏡は雰囲気作りです。頭良さそうに見えると本にありました。獣人系、虫人系は種類が多岐に渡るので省いたわ。」


ただ、と続き、


「どちらも共に最上級から下級まで幅広くわかれているわ。」


ケイトはサラ達に視線を向け問題無いことを確認して話を進める為棒で特性と書かれた資料を示す。


「すぐには覚えれないでしょうからアンリにわかるのを挙げると鬼族は金剛体、エルフは精霊使役、猫又族は視覚強化、ハーピーは風操作、ドワーフは精査、私達人間は適応ってところかしら。

一族全員に備わった能力だけど個体で差があるのも特徴かな。」

「難しいな・・・。ヴァンは覚えてるのか?」

「ギルドで講習やるのである程度は。」

「ならその都度教えてくれ。そうすれば覚えなくて済む。」


ケイトがアンリの頭に手刀を叩き込む。


「貴方のジョブは魔術師でしょう。記憶力は強化されてるんだからしっかり覚えなさい!」

「厳しい・・・。なぁ、神域の欄が空白なのは何故だ?」

「それはですね・・・」


ヴァンが教えようとしたがケイトが咳払いをして止める。


「教えるのは私の役目よ。・・・神域は教会が認定した畏怖を表す階級。」


資料のドライアド、吸血鬼、墜天を棒で示す。


「生存を確認しているのは3名。ドライアド族長フェミナ、吸血鬼族長エミル、堕天使族長キース。3名とも魔王としてそれぞれの領地の支配者として君臨しているわ。」


地図が書かれた資料の西側の森、そこから北に広がる渓谷、隣の大陸の山岳地域を示す。


「間違っても関わらないこと。特にアンリ!貴方はふざけてばかりだから逆鱗に触れたら挽肉にされるわよ。」

「俺は真面目なつもりなんだが。でもこうグシャッとされるのならたまにサラが寝惚けて俺の腕を潰すぞ。」

「悪かったって。1人で寝てる期間が長かったからたまに忘れるんだ・・・。」


アンリに憐れむ視線が集いケイトが首を振り1歩引きながら口を開く。


「そんな事されて一緒に寝ようとする神経がわからないわ・・・。」

「怪我なら治せるしな・・・。それに寝る時は魔力切れで倒れてるから無抵抗だ。」

「ケイトそんな目で見てやるな可哀想だろう。後補足するがラズも神域に認定されている。長らく隠遁してるから死んだと思われて抹消されてるがな。」


カイネの言葉にケイトが固まりやがて狼狽えながらサラに視線を向けた。


「私は違うぞ。大人しくしてたからな。」


ケイトは思わぬ情報に動揺するが深呼吸を1つして気持ちを落ち着かせてから正座の2人に視線を向け、


「神域に認定された者は皆、魂が核となっている為それを破壊されない限り死なないと言われています。その為非常に厄介な個体ね。」

「そんな魔族がいるなら世界征服されないのか?」


ケイトはアンリを残念な人を見る目で捉える。はぁ、溜息をこぼし、


「個体がどれほど強力でも1人です。戦いとなればそれを避けて戦況を進めるものでしょう?1人でどうにか出来る力があるなら争いは生まれません。

それに力で統治出来る領土には限界があるのよ。」


アンリはそれもそうかと頷く。

確かにそんな厄介な奴と戦うなら無視していない所を攻めるのが普通だ。

万一征服出来たとしても手が届かないなら領土を維持出来ず新たな脅威を生む可能性がある為行動に起こす事はないだろう。

だが1つ疑問が浮かぶ。


「人間には神域認定されている者はいるのか?」

「いないわ。ただ同等と評され人の命を超えた者ならいる。ギルドに報告があるのは7人ね。大国の王達と教会のお抱えよ。」


ケイトの説明によるとカンラムの皇帝と最側近、ルフラの国王と魔道元帥がそうらしい。


「教会は2人いるけど公表されてないのよね・・・。隣の大陸にある海運商業国家メーテナの王が最後1人かな。質問は?」

「教会の1人はカイネだろ?もう1人は?」


アンリは足の痺れから身体を動かさず首だけ回しカイネを横目で見る。

カイネはカードを机に伏せ身体事振り返った。


「確かに1人は私だな。で、もう1人は教皇の側近だ。もっとも荒事専門の粛清者だから表に出てこないから知られていないのも仕方ない。

もう1つ訂正するが公表はしたぞ。今の教会の体系になる前だがな。」


カイネの言葉にケイトは再び固まっている。ヴァンも同様だ。

アンリは2人を無視して質問を続けた。


「もう1人には会ったことあるのか?」

「当たり前だ、お互い長く生きてる。私は魔族、アイツは人間、教義の障害を排除するのが仕事の裏方同士顔合わせ位するさ。」


もっとも、と続き、


「私はそこまで仕事熱心じゃない。布施さえ貰えるなら大抵の事には目を瞑る主義だ。」

「ハハハ、流石カイネだ。」

「褒めるな照れるだろ。だが敬っていいぞ。」


アンリは拍手をして視線を前に戻す。そこには口を開けたまま固まっているケイトがいた。


「どうした?馬鹿みたいな顔してるぞ。」

「・・・とりあえずイラッとしたからお仕置きするわ。」


動きを取り戻したケイトは棒で正座しているアンリの太股をつつく。

アンリはくすぐったいような痺れから逃れる為身体を横に倒し逃げようとした。


「ノー!!ごめんなさい。お願いだから止めて!!」

「ヴァン?同じ目にあいたくなければアンリを抑えなさい。」


即座にヴァンはガシッとアンリの手を掴み逃亡を阻止する。


「離せ!離さないとあれだぞ。酷いぞ!その・・・泣かせるぞ・・・俺を!?」

「本当にすいません。後意味がわからないです。」

「諦めなさい。カイネさんとサラさんもどうですか?」


声を掛けられた2人はカードを伏せ立ち上がると手をグーパーしながら笑みを浮かべアンリに近づく。


「待ってくれ。そのどうか、どうかお慈悲を・・・。」

「アンリ残念な知らせだ、慈悲は今日売り切れらしい。次は予約しときな。」

「面白そうだから私も混ぜろ。」

「止~め~ろ~!!」


絶叫が室内に響く中ヴァンは悶えるアンリと現状を見つめ俯いた。


「なんだこれカオス過ぎる・・・。これから大丈夫ですかね?」



ヴァンは嵐が過ぎるまで目を瞑り静かに過ごす事にした。

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