開拓 ①
ケイトが前方に魔術式を展開させると風を収縮させ塊にした魔術を指の動きに沿うように進み地面が深く削れ道が出来る。
集落の中心を貫く川の通り道を作っている所だ。
「おぉー凄いな。」
ケイトは横で賞賛しているアンリに視線を向ける。頭に視線が止まり手にした棒にも視線を止め、
「その格好は何なの?」
ケイトは朝から言いたかった言葉を遂に口にした。
「ん?変か?俺の居た国では工事の時はこんな格好だが。」
アンリは金属製のヘルムを黄色く染めて緑で安全第一と書いた物を被り赤い棒を手にしていた。
それらを確かめるように手に取り見直してから口を開く。
「反射材を用意出来なかったから服は違うが・・・。身嗜みに厳しいな。完璧主義は疲れるぞ。」
「貴方以外そんな格好してないでしょう!なんで目を離すとふざけるのか聞いてるの!?」
「おいおい、酷いこと言うもんじゃない。それがアンリさんの個性だろう。」
ガイアスがしょんぼりしたアンリの肩を支えながらフォローする。
「早起きして用意したのに・・・。うちのケイトは反抗期みたいなの・・・。口悪くて困るわ。」
「大変だよな。うちの娘もそうだから年頃ってやつさ。」
ケイトはしなを作り小首を傾げるアンリと共感するガイアスにローキックを放ち、更に2人を睨み地図を丸め筒状にして頭を叩く。
「ふざけていないでさっさと働きなさい!返事は?」
「イエス。姉さん!!」
「イエス。姉さん!!」
ケイトが拳を上げると2人は走って行動を開始した。
「馴染んでるなぁ。」
石灰と砂を水で練り合わせながらヴァンが呟く。
ケイトとヴァンは専属としてアンリに雇われる形で協力する事に決まった。
専属の雇用主を持つのはギルド内の上位者以外いなく基本、王族や貴族にコネを持つ者に限られる。
雇用主が衣食住の面倒をみる為危険な仕事を受けずとも生活出来るのが利点でギルド所属者の憧れでもあった。
「人生どうなるかわからないもんだ。」
「ヴァンもキリキリ働く!アンリも手伝いなさい!!」
「イエッサー!!」
アンリは棒を置き敬礼をするとヴァンと行動を同じくし、ヴァンが申し訳なさそうに頭を下げた。
「雇って貰っていてすいません。ケイトさんしっかり者だから悪気はないんです。」
「いいよいいよ。指示してもらう方が楽だから気にすんな。」
猫又達が2人が練り合わせた物をガイアスの指示で地に塗るのを確認したケイトは丸めた地図を開いた。
川の大筋となる道を作った後も枝分かれした小道を作る作業がある為急がなければならない。
再度魔術式を展開させ地図の印に沿うように発動させた。
サラは自身の倍以上ある岩を片手にギートに振り返る。
「どこに置けばいい?」
「サラ様危ないから小石みたいに扱わないでください!!」
「ならさっさと指示しなよ。ここの監督はギートだろうが。」
ギートは測量をしているドワーフの職人に指示を仰ぐ為走り寄ると地図を広げ顔を見合わせる。
「早く!どこに置けばいいか教えてくれ!?あのままだとこちらに投げてきそうだ!!」
「落ち着け猫又の族長。流石にそんな事しないだろう。」
2人はサラに視線を向ける。そこにはお手玉のように巨岩を上に投げている姿があった。
周りの部下達も心無しか遠ざかっている気がする。
2人はすぐさま地図に視線を落とし邪魔にならない場所を探そうとした時轟音と共に木が折れる音が森に響く。
サラが巨岩を投げ森を破壊した音だ。
「面倒だから遠くに捨てた。さっさと作業を進めるぞ。」
サラの言葉に2人は頷き小さく呟く。
「アンリ殿・・・。助けて。」
マーニャは他部族の長に話をした帰り道、轟音と共に木々が倒れ道が出来たのを空から確認した。
今朝割り振られた場所からギートの管轄になった所だろうと思い大体何があったかを想像して頭痛を感じる。
「サラ様の仕業でしょうね・・・。明日からアンリさんに監督してもらわないと森がめちゃくちゃになります。」
川を通す為の作業をしているアンリの下へ急ぐ事にした。
石灰を運搬していたアンリはマーニャから報告を受け頷く。
「合流してくれる魔族がいたのは嬉しいな。いつごろになるんだ?」
「それはまだ・・・。ですが下級魔族の多くは縄張りを捨て移動を始めるようですから声をかけるつもりです。」
「下級?まぁ人手が増えるのはいい事だ。その調子で勧誘を頼むよ。」
マーニャは頷き先程起きた事も報告する。
「サラが遊んでるのか・・・。それは良くないな。ケイトに怒ってもらおう。」
「嫌よ。サラさんに怒るなんて出来る訳ないでしょう。」
アンリはビクリと震え石灰の入った袋を落とすと声に視線を向ける。そこには腕を組み半目を向けるケイトがいた。
「俺にはすぐ怒るくせに差別するなよ・・・しないで?」
「なんで疑問形になるのよ。あんたはふざけるから叱るの。サラさんは強いから叱られないの。わかる?」
「つまり差別ということだな。」
ヨヨヨ、と泣き真似をするアンリを無視したケイトはマーニャに向き直り、
「要望通りアンリをサラさんの監督にするわ。というよりこいつガイアスといるとすぐふざけるのよ。引き取って欲しいくらいだわ。」
「はぁ、アンリさんはいつもこんな感じだったような気がしますがギートに伝えときましょう。きっと喜ぶと思いますよ。」
マーニャは言葉を残し空へ飛び立つ。それを見送ったケイトは泣き真似を止めたアンリに視線を向けた。
「まさか魔族の階級を知らないの?」
「魔族は魔族だろう?詳しく知らん。」
「本当に?特性とかは?」
「なんだそれ。スキルとは違うのか?」
はぁ、と溜息をこぼしたケイトは憐れむ視線をアンリに向ける。
「夕食後に魔族講義をします。知りませんでしたで雇用主に死なれたら私達が困るもの。」
「重要な事なら手短にわかりやすくお願いします。」
「重要な事だからしっかりやるわよ!その間あんたは正座だから覚悟なさい。」
ケイトは再び溜息をこぼし講義を考えながら作業に取り掛かった。




