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鬼と人と約束と  作者: 敦人
一章 獣人族の侵攻
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会議

机を囲んだ者達の前に飲み物が運ばれる。

アンリが用意しといたものだが運ぶのはヴァンと名乗ったカイネが連れてきた男だ。

緊張した態度から見えるのは脅して従わせているのだろうとは思うがアンリにはどうする事も出来ない。

運び終え扉の前に待機したヴァンは全員の視線を浴びてぷるぷる震えていた。

先程までケイトと話していた時と違い顔は強ばり手は白くなるほど強く握られている。


「そんな所にいたら話せないから座ってくれ。」


ヴァンはアンリの声にビクリと震えながらケイトの隣の席に座る。


「じゃあ始めようか。まずは・・・。」

「馬の事だ。大事なのは金の話だからな。」


アンリの声を遮りカイネが声をだす。


「売るのはいい、だがその後も私は儲けたい。案はあるんだろうな。」


カイネはアンリに視線を向ける。

アンリはやれやれと溜息をついてカイネと視線を合わせた。


「その後か、なら前に頼んだ物はいつ出来る?」


それはサムト達が来た時に話した事業の話だ。


「それなら今週にも試作品は出来る筈だが今は馬の話だ。誤魔化すなよ。」

「カイネ。その事業が始動したら馬の値段は暴落するぞ。わかるか?今売れば飼料代や世話役を貸馬屋に押し付ける事が出来る。年明けにでも買い戻すつもりだが納得してくれるか?」


カイネは顎に手を当て思案している。先を促す視線が来たので、

「買い戻した馬はそのままディストラントに売りつける。俺達次第であの国の農耕は栄えるぞ。」

「そういう事か・・・。なら馬の売人と買取人の名義を変えなければならないか。」


カイネは納得したように頷く。


「売人はケイトに頼もう。俺達との関係もソドムに知れていないからな。買取人は教会用とでも理由を付けてカイネがやってくれ。」


ケイトは理解出来ないようで首を傾げている。


「売人と買取人が同じであったり繋がりがあると諍いを生むだろ。今後起こす馬の暴落は意図的ではないと思わせなければならない。」


アンリの考えは馬を抱えるリスクを貸馬屋に押し付け暴落後に森が落ち着いたら買い戻しディストラントにそのまま売る。

その際農耕の障害になる魔族や魔獣の脅威を取り除く事で売りやすく値上げをするつもりだった。

それとは別に物の流通ルートの権利を売る事で農耕等内政に従事させやすくするつもりもある。


「ディストラントには平穏と引き換えに国内での商売を認めてもらうつもりだ。ソドム以外でも稼げる場を持った方がいいだろう?」

「では私がディストラントを襲う者達を諌めましょう。」


ラズの言葉に不安があるのでアンリは確認をとる。


「全滅させるなよ。他の魔族が住み着くだけだからな。1人では手が足らないだろうから何人必要だ?」

「いえ、近くに住む同胞を連れていくので必要ありません。」


アンリは手元の資料に視線を落とす。東の森の魔族分布が書かれている資料にはエルフの文字はない。


「私達の里は幻惑の魔術に覆われているのでそこには載っていませんよ。」

「そっか。任せていいんだな?」


ラズの頷きを信じ任せる事にした。





「今後最大の脅威になるのはどこの魔族か予想出来るか?」

「獣人だな。霧の谷を荒らす奴はいないから竜人共が動く事は無いだろう。」

「気候変動とかで初めに行動をするのが獣人共だから間違い無いだろう。」



サラとカイネが地図の東側を大きく印を付ける。続けるように、

「数が厄介だ。普段は敵対していてもこの機に結束されたら手に負えなくなる。」

「なら次は集落の防衛だな。こちらはサラとマーニャ、ギートに任せたい。」


集落周辺の地図を開き必要なポイントに印を付ける。


「ここに守るに有利な地形を作りたい。通り道を掘り返し左右に壁を作ってくれ。マーニャは樹木に高台を用意して欲しいな。」

「任せとけ。効率を考えたら専門家が欲しい所だがガイアスに頼むのか?」

「そのつもりだ。同時にこの辺りの上下水道や住居整理も行いたいからな。」


地図に幾つかの線を引き必要な情報を書き込む。

ガイアスが来たら意見を聞き手直しをするつもりだ。


「勝手に決めてるけどマーニャは何か意見は無いのか?」

「集落を守るのに必要な事はおまかせします。ですが他の魔族が来たらどうしますか?」


アンリは魔族分布が記された資料に視線を移す。


「出来るだけ引き入れたいかな。現状手が足りないからな。」

「アンリ殿。付き合いのある魔族に話してもいいか?」

「私も幾つか心当たりがある方がいます。声をかけてみましょう。応じる方達がいるかも知れません。」


アンリは頷き地図に住居となりそうな場所を幾つか決め印を付ける。


「俺とサラの事伝えてくれよ。後から揉めるのは嫌だからな。」


食料に関しては狩猟が得意な魔族に任せれば良いし必要に応じてソドムで仕入れる余裕はある。

だがそれも限界がある為早めに農耕や酪農を始めなければならないな。


「現状こんな所か・・・。ケイトとヴァンにも色々と手伝って貰うからそのつもりで。」


2人は全員の視線を受け緊張した顔のまま頷く。







ギートとマーニャが部下を連れ帰るのを見送った後アンリは指輪を転移させ取り出す。


「さてと。中身は何かな。」

「魔具か。誰のだ?」

「クラシスのだろう。だが今は俺のだ!拾ったからな。」

「子供かお前は。だが中身が気になるな。ここでは人目があるから寝室に行くぞ。」


アンリとサラがコソコソしているのを見逃さなかったカイネに机まで連れ戻される。


「痛いぞ。俺はか弱いんだから暴力やめろよ。」

「いいから隠した物を出せ。神はいつでも見ているぞ。」

「・・・覗き?」


カイネがアンリの頭を手刀で小突く。

サラは早めに観念したようで椅子に座り瓢箪から酒を煽ると机を示す。


「バレたなら仕方ないからここでお披露目しよう。」

「抵抗しろよ!サラが頼りなんだぞ。」

「カイネとラズを同時に相手出来るか。潔く諦めろ。」


サラがそういうならそうなんだろと思い机に指輪を置き指先に触れ魔力を通す。

金貨や銀貨、食料や水が取り出され鎧と剣が1つずつ出てきた。

更に魔力を通すと魔術書、兵法書が続きギルドのクエストを纏めた書類や内部資料が机に広がった。

最後に赤い実が3つ机に落ちて中身が空になる。

カイネが指輪を手に取り確かめるように調べ口を開いた。


「大型の収用魔具だな。この3倍は許容範囲だ。」

「流石ギルドマスター。良いもの持ってるな。」

「その指輪クラシスさんの物ですか。よく奪えましたね。」


アンリは肩を竦め首を横に振る。


「落ちてたからな。拾っただけだ。」


中身を検品し始めた4人から離れた所でヴァンとケイトが赤い実を注視し、それを察したかのようにカイネが必要無いものを指輪に収納し始め机に残された物は本と書類だけになった。


「これは隠しときな。なかなか良い物だから無くさないようにな。」

「ならクラシスの剣と並んで宝物庫に置いとくか。」

「そんな場所作ったんですか?」

「アンリが鬼は宝を集める者だって言うからな。場所は秘密だ。」


サラとアンリは満足げに頷く。

その後ケイトとヴァンにも協力させて書類の精査を夜が耽るまで続けた。

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