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鬼と人と約束と  作者: 敦人
一章 獣人族の侵攻
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帰還

屋根が無く空が見える空間の中心に大木がある。

モドリギと呼ばれる木だ。その樹上には赤い実を付けていた。

周囲を石壁と鉄柵で覆われた大木の根本に1人の男の姿が現れた。

クラシスだ。


「クソ、治療班を呼べ。それと連絡班にシーズから撤退の合図を送るように伝えろ。今すぐだ!」


クラシスの言葉を受け鉄柵の外にいた衛兵が走り出す。

クラシスも医務室に向かう為柵を過ぎた時声がきた。


「敗走か?俺達を待たないからそうなる。」

「ヴェイグか。いつ戻るかわからんお前等をアテに出来るか。」

「そう言ってくれるな、仕事はしてるんだ。噂の商人にやられたのか?」


クラシスは痛む左肩を抑え首を横に振る。


「鬼だ。東の森には純粋な鬼がいる。教会に確認を取るが刺激させる行動をとるなよ。」

「噂はデマじゃ無かったってことか。商人には会えたのか?」

「あぁ、道化の様な男だ。ふざけているが抜け目ない。」


ヴェイグに肩を貸してもらいクラシスは医務室へ向かう。


「しばらくはシーズ大森林関連の仕事は受けん。今回の件で荒れるからな。」

「了解。連絡班に伝令はしとこう。他に何かあるか?」


クラシスは頷きもっとも大事な事を口にする。


「悪いが金を貸してくれ。妻への仕送りが出来ないんだ。」

「またギャンブルか?嫁さんと別居中なのに懲りないな。」

「言うな。後ギャンブルじゃない。指輪を無くしただけだ。」








「だ~か~ら~!いちいち俺に報告するなよ。」


アンリは厨房で作業をしながら文句を言う。


「ギート達が引っ越して来るならマーニャに相談すればいいだろうが。」

「いえ、マーニャがアンリ殿に相談してこいと。」

「何でだよ。俺は此処に住んでるだけで長はマーニャだぞ。」


ギートは困っているのかなおも食い下がる。


「マーニャもサラ様もアンリ殿を頼れとしか言わないです。」


猫又族が住んでいた地はギルドの兵士達により荒らされていた。

事前にハーピー達から情報を得ていたおかげで人的被害は少なく済んだが族内では鬼の庇護を願う声が増し相談に来たのだ。


「お前等面倒事を俺に押し付けて楽しようとしてないか?俺にわかるのは商売関係だけだぞ。」


アンリはスキルに従い商売で損をしない選択しているが自分だけしか判定しない。

直接関係しない事には反応がない以上何が最善がわからないから判断が出来ないのだが・・・。


「許可だけ貰えれば後はこちらでなんとでもするので・・・。」

「なら勝手にしろよ。マーニャと決めたなら文句はないから。」

「よし!後は馬はどうする?」

「カイネに支持してあるからほっといていいよ。一応逃げないように繋いどいてくれ。」


カイネが連れてきた馬の総数は80を超えていたが手元に置いとくには世話役がいない上に飼料もない為ソドムの貸馬屋に売りつけるのが最善とカイネと決めた所だ。

その後の商売の展開も出来ているが仲間達の手助け無しでは成功しないから食後にでも相談しようと思う。




ケイトは机から離れた所で風呂上がりの髪を拭きながら全体を観察していた。

ギルド本部を出発してから久しぶりの湯浴みに満足しつつもそれぞれの関係を把握する為に意識を傾ける。

アンリが魔族達の中心人物のようでひっきりなしに報告を受けては文句を言いながら指示を飛ばしていた。


「指示は意外とまともなのね。行動するとおかしくなるのは何故?」


こぼす呟きは森での行動と先程の魔族への紹介を重ねてのものだ。


まさかギルド所属と紹介されるとは思ってなかったわ・・・。


アンリは帰るなりギートとマーニャにケイトを紹介した。


「ギルドに所属しているケイトだ。俺を狙って襲ってきたが今後を考えてスカウトしたから揉めるなよ。」

「アンリ殿本気か!?命を狙った者を引き入れるなんて普通じゃないぞ。」


アンリは肩を竦め半目を向ける。


「ギートも俺を殺そうとしただろ。」

「いや、あれは・・・そのすいません。しかしギルドの兵達にはこちらも荒らされてるから文句が出るぞ。」

「原因は俺を狙った事だから文句は俺に言ってくれ。」

「・・・私はアンリさんに文句はありません。一族には伝えておきますがそちらの方本当に大丈夫なんですね?」


アンリは頷く。

ギートもこれ以上言っても聞かないと諦めたようで溜息混じりに言葉をだした。


「こちらも揉める事はないよう伝えとく。あとカイネ様が連れてきた男に関しても同じ扱いで良いのか?」

「カイネも連れてきたのか。それで良いよ。2人には負担かけるがよろしく頼む。」




魔族からの報復を覚悟してたケイトはそれだけで終わった事に拍子抜けしていた。

更に気になるのは中心人物になるだけの力を持つ鬼とエルフは殆ど会話に参加せず机でカードを使い遊んでいる事だ。

たまに猫又やハーピーが報告しても手を振りアンリを示すだけでまた遊び始める。


「雑務と労働を分担してるのかな?それにしてはアンリは文句言い続けてるけどな・・・。」

「面倒事はアンリに任せとけば良いんだよ。必要なら勝手に頼ってくる。」


ケイトはビクリと跳ね振り返る。そこには黒衣のシスターが自分を見下ろしていた。


「身構えるな。クラシスが連れてたって事は上級魔術師だな。色々扱き使われるから覚悟しとくんだな。」

「シスターカイネ・・・。その私の身分は奴隷と思えばいいのでしょうか?」

「畏まるな。面倒だ。あんたは客人だよ。奴隷扱いを嫌うアンリに感謝しな。」


何か言おうとした時室内にアンリの声が通った。


「出来たぞ。運ぶの手伝ってくれ。」


全員が素早く机を空け厨房から料理を運び出す。

ケイトもそれに倣い全てを運び終え空いている席に座る。

皿に載った料理をケイトは見た事があった。


「ハンバーグ?」

「なんだこの世界にもあるんだな。カンラムだったか?そこでは普通か?」


アンリの言葉に首を横に振る。


「王侯様の食事に招かれた時に出た物よ。」

「ふーん。案外庶民派なんだな。まぁいいや冷める前に食ってくれ。」


サラはナイフで肉を切ると肉汁が零れるのも気にせず口に含む。そしてひとしきり頷いた後もう一口食べアンリに親指を上に立て感想を伝える。それを見たカイネ達も続くように食事が始まった。


「前に食べたのより美味しい・・・。」


ケイトが呟いた言葉にアンリは内心でガッツポーズをとる。

アンリは肉の美味さは赤身と脂身の割合だと思う。

元の世界では品種改良した肉があり深く考えた事も無かったがこの世界では到底望めないものだった。

それを補う為に試作を繰り返した結果鹿肉の赤身と猪肉の脂身を挽肉にして混ぜ合わせる事で今まで以上の味を作り出していた。

秋の猪は脂身も多く捨てる事もあった為尚更嬉しい結果だ。

ソースにも気を使い臭みを消す為トマトをベースに香辛料を効かせ玉ねぎを多めに使った物をかけてある。


「アンリ。これは大量生産出来るのか?教会で売ろうぜ。」

「出来るが今は無理だ。これから忙しくなるからそっちに集中したい。」


カイネが落ち込むが今後を考えれば商品開発よりも大事な事がある。




片付けも終わった頃仲間を集め今後の事を話し合う事にした。

2階のスペースの机に周辺の地図や資料を並べた時マーニャとギートも部下を連れ合流しそれぞれ空いている席に座る。

ここでの話しが今後の大筋を決める事になるのを全員が理解している為緊張が室内を満たしていた。

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