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鬼と人と約束と  作者: 敦人
一章 獣人族の侵攻
26/448

決着

「裂〜け~た~、裂~け~た~ターゲットの腹が。な~らんだ~、な~らんだ~、名無しの墓が。」


森の中、先頭を歩くラズは機嫌良く歌を口ずさむ。


「花の歌にそんな歌詞を付けるなよ。それになんで童謡のメロディーを知ってるんだ?」

「花の歌でしたか。昔教わったのですがその人も鼻唄でしたから歌詞は知りませんでした。」


アンリはそれ以上の追求をやめ伸びをする。

横には合流したナイトーさん、その背に糸で拘束されたケイトが揺られていた。


「サラの方は終わってるかな?」

「どうでしょうか。クラシスさんといえば魔族では有名な人間ですからね。」


アンリは首を傾げ続きを促す。


「噂ですが西の魔王の知り合いみたいです。実力を示し奴隷から解放されたと聞いています。」

「奴隷・・・ね。」

「おそらくはアンリさんと同じように異世界から森へ流れてきた方でしょう。今回はずいぶん荒らされたので面倒になりそうですね。」

「今後が問題かぁ。森の中荒れそうだもんな。」


はぁと溜息をこぼし項垂れる。


「えぇ、今回の件で様々な魔族が移動するでしょうから混乱が起きますね。私達に接近しようとする者も増えるでしょう。」


楽しくなりそうですね。と微笑まれるが再び溜息をこぼす。


「その辺りも考えとかなきゃな。サラじゃ話にならんし。」

「心中お察しします。」

「なら手伝ってくれよ。ラズも実力者だろ」

「邪魔者の排除なら任せてください。それ以外の交渉は面倒なのでお任せします。」

「ラズは正直だなぁ。」


アンリは仕事が増えた事を理解して木々に覆われた空を見る。

交渉を任せれる人材を見つけなきゃなと思い先を歩くラズに付いていく。





淡い光りを纏う剣先はサラの腹部に刺さっていた。

だがそれ以上進む事を刀身を握るサラの手により阻まれている。

込められた力に従うようにクラシスの身体が後退し剣先が抜ける。


「いいねぇ。まだ楽しませてくれるとは驚いたよ!」


サラは笑みを浮かべ刺された腹をなぞるように手を這わす。

クラシスは剣を取り戻す事を諦め柄から手を離した。

これは不味い状況だと思う。

左肩は負傷し、武器は奪われた。体力的にも鬼とやり合うのは不可能だが相手は今まで以上にやる気に満ちている。

鬼族の特性か腹の傷も行動を躊躇わす負傷にはなっていないのが見て取れる。更に鬼から感じる気配はかつて自分の所有者だった魔王に並ぶ威圧感だった。

クラシスは戦いが倒す事から生き延びる事になった事を明確に理解した。


下手な行動は相手を刺激して即座に戦闘が開始するだろうと思いこの先を考える。

クラシスは機を制するのは得意だと自負がある。

今の武器は言葉だと思い口を開いた。


「ふぅ、参った。俺の負けでいい。」


疲れたように数歩後退し左肩を庇いながら距離を空ける。


「何故避けれたのか教えて欲しいんだか?」

「まだやれるだろう?」

「もう無理だ。これでも精一杯だったんだぜ。」


クラシスは首を横に振りその場に座り込み戦うつもりがない事を示す。

サラはそれを残念に感じる。もっとこの時間が続いてほしいと思うが限界なら仕方ないとも思う。


「なら楽しませてくれた礼として応えようか。私は嘘がわかるスキルを持ってる。フェイントもその範疇って事だ。」

「あぁ・・・なるほど。死力を尽くし騙したつもりだったが無意味だったか。」


クラシスは会話に乗ってくれた事に安堵し懐に手を入れる。

サラも剣を足元に突き刺し座る男に視線を向けた。


「なかなか楽しかったよ。人間と戦うのは驚きが多く心躍るものだ。」

「そりゃどうも。・・・あの男はアンタの所有物か?」

「所有物ではないな。だが庇護下にある。アンリに手を出すなら私が相手って事だ。」


クラシスは嫌そうな顔で首を横に振る。逃げる隙を作る為スキル[異音]を発動させた。


「フェミナと同等な奴と戦えるか。もう引き受けないさ。」


クラシスの声はサラの背後から届く。


「仲間も剣も指輪も無くしたがこれ以上は無くせない。」


サラは声のする背後に振り返るが誰もいない。

クラシスはその隙に懐から赤い実を取り出し噛み砕くと身体は霞み消えていく。


「またな。」


振り返ったサラの視線の先でクラシスが手を振るような仕草を残し完全に消えた。


「音響操作系ね・・・。まぁ逃げられたなら仕方ないか。」


サラは呟き剣を片手にアンリが消えた方向へ歩みを進めた。






「ラズも来てたのか。アンリも無事で何よりだな。」


サラは正面から歩いてくるラズとアンリに手を挙げる。

アンリは駆け寄りサラの腹部に回復魔術を唱え治療を終えると傷口が残ってない事を確かめサラの全体を視界に収めると一つ頷き、


「やはりエロい。破れかけの服が妙な色気を放っていると思うがどうだろう?」

「いや、私に言われましても・・・。」


ラズは困ったように首を傾げサラに向き直る。


「クラシスさんと戦ったそうですが始末出来ましたか?」

「逃げられた。赤い実を食ったら消えていったよ。」

「モドリギの種ですね。実が砕けると親木の元へ連れ戻される効果があるようです。」


サラは納得したように頷きもう一つの疑問を口にする。


「フェミナって何かわかるか?」


ラズは僅かに沈黙し頷いた。


「西にいる花畑の魔王の名前です。ドライアドクイーンや暴神が通称ですね。」

「ふーん。西側には興味ないが面白そうな奴いるんだねぇ。」


サラは笑みを浮かべ腹をつついているアンリの頬を摘む。


「イテテ。まて、コブ取り爺さんになるだろうが。」

「誰だそれ。だいたいコブも無ければ爺さんって年じゃないだろ。」


サラは腕を上げアンリの足が地から離れた所で指を離す。


「ったく。で、その女は始末しないのか?」

「アンリさんが殺すなと言うので・・・。」

「・・・布団を汚すなよ。」


サラは仕方なさそうな視線をアンリに向ける。


「あれあれ?誤解が生じてるぞ。」

「ハハハ、冗談だ。でなんの為だ?」


ナイトーさんの背から下ろされたケイトを示す。


「魔術の種類が豊富だから役立つと思ってな。これからを考えると必要な人材じゃないか?」


サラとラズは顔を見合わせ頷く。


「ケイトだったかな?是非とも承諾して欲しいんだが。」


ケイトは命が助かる道が出来た事に安堵した。だが簡単に頷けば色々と足下を見られる事は想像に難くない。

だからここは表情を変えず返答する。


「断ると言ったら?こっちも仲間を失ってるし受ける理由がないわ。」


返答に対する態度は3者異なっていた。

アンリは返答を思案する。サラは指を鳴らしつつ強気な発言に笑みを浮かべた。

そしてラズが主張するように手を挙げ視線を集める。


「不要なら釜茹でやってみたいです。私温度調整頑張るのできっと長く楽しめると思います。」


ラズは目をキラキラさせてしきりに頷く。


「ちゃんと水分補給もさせます。じっくり茹でた人は最後どのような表情を魅せてくれるのか気になりませんか?」


アンリとサラは視線を横に流しラズと視線を合わさないようにする。

ケイトはそれを見て鈍い汗を全身に感じる。即座に口にする台詞は、


「任せて何でもやるわ。」

「流石だ。そう言ってくれると信じていたよ。」


アンリは拘束を解き笑顔でケイトと握手する。


「・・・あなたには罪悪感ってないの?」

「ハハハ、襲われたばかりでは特に感じないな。」


当たらなかったがと付け加えられた事にムカッとしたケイトは握る手を自身の右に勢いよく引き込む。

当然のようにアンリの身体が引き込まれるのに合わせて左フックを脇腹へ叩き込んだ。


「ゴフゥッ!」


手を離すとアンリが膝から崩れ落ちる。

当たった事に喜びを覚えるが魔族2人を怒らせてないか気になった。恐る恐る視線を向けると、


「ん?気にするな。この程度は日常だから文句は無い。」

「えぇ。ですが恨みを抱え行動に起こしたなら私が貴女を始末します。」


ラズはケイトに近寄り耳元で囁くように、


「楽には死ねませんからお忘れなきように。」


ケイトは直立したまま何度も首を下に振る。

別れも敗北もいちいち気にしてたら精神を病むのがギルドという仕事だ。

危険は承知でその分の手当は貰っていたのだから結果に文句はない。

むしろ初めに仕掛けたのはこちらなのだから恨まれるのは自分の方ではないかと思う。


「大丈夫、ちゃんと協力するわ。でもやられたら反撃してもいいのよね?」

「程度にもよるが好きにしなよ。なんなら私達に言ってくれてもいい。」


サラは脇腹を庇うアンリを抱えナイトーさんの背に乗る。


「さっさと帰ろうか。夕飯遅くなるとカイネが暴れるからな。」

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