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鬼と人と約束と  作者: 敦人
一章 獣人族の侵攻
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交渉

森の中、アンリに対峙するクラシスは焦りを感じていた。


遠距離攻撃を避ける相手、罠に嵌った仲間、そして目の前で地に落ちた自分の指輪を拾っている男。


現状を確認し不味いと思う。

あの指輪には今月の生活費が・・・妻への仕送りが出来なくなる。



「テメー、それを返せ!」


地に伏したフォルグが声を荒げるがアンリは指輪を右手に収めると転移術式を起動させて指輪を消すと首を傾げ、


「なんの事だ?俺は何も持ってないぞ?」

「今どこかに移しただろうが!!返さないと殺すぞこの野郎!」

「乱暴な言葉だな。あれは君の物じゃないだろう?サイズが合わないのは見てわかるぞ。」


フォルグとアンリのやり取りにチャンスを見出したクラシスは声を挟む。


「俺の物だ。返して貰いたい。」


アンリはなるほどと頷き、そして首を横に振る。


「クラシスさんだったね。言い難い事だがお仲間が盗んでいたようだ。彼は俺が拘束しとくから急ぎソドムの警備隊を呼んで来た方がいい。それが彼の為でもある。」

「クラシスから預かってただけだ!頭おかしいのかテメー!」

「盗人は皆そう言うんだ。世界が変われど変わらぬのがこれとは悲しい話だ。」

「違う違う、本当にフォルグに預けていたんだ。」


アンリは肩を竦め憐れみの視線をクラシスに向けると大げさに身振りを交えて口を開いた。


「仲間だからと庇う事が良い事とは限らない。ここは彼の更生を信じ送り出すのが最善だと思わないか?」

「だから盗んでねー!!」

「うるさいな。わかった、わかったよ。なら指輪も交渉材料に加えよう。

そこの盗人と指輪が大事なら今回の件から引いてくれないか?」


フォルグの怒声が響くがアンリは無視している事からクラシスは剣ではなく言を用いる場になった事を理解した。

相手は初めから攻撃をしてない事を考えればこの状況を狙っていたのだと思う。だが条件次第ならのんでもいいと思い先を促すとアンリは一つ頷き口を開く。


「まずは確認だ。そちらの目的は俺の命だろう?こちらの要求はギルド全員の撤退と今回の依頼の破棄だ。互いの生き方がぶつかった結果と諦め俺は賠償を求めない。」


アンリは再び指輪を手元に転移させる。


「俺の命の対価としてこの指輪と盗人の命でどうだろう?釣り合いはとれてると思うんだが?」

「今日ではなく、今回だな?」


クラシスは相手の頷きを見て内心舌打ちをする。今日ならのめる条件だが依頼の破棄ともなれば信用に関わる事だ。

失敗でも全滅でもなく破棄・・・積み上げた信用を失う可能性がある以上容易に頷く訳には行かない。


「破棄は出来ない、こちらも仕事でね。信用第一でやっている事を理解してくれ。」

「なら、撤退でどうだ?適当な理由をつけて一ヶ月程時間を空けるならそれでもいい。」


悪い話じゃないだろう?と促す。


「それも駄目だ。滞在費を貰ってる以上遅延行為は信用に関わる。出来て3日だ。」

「拒否ばかりで気が滅入るな。交渉決裂なら俺自身がここから転移して離脱するとしても考えは変わらないか?」


クラシスは首を横に振り確信している事を言葉にした。


「出来ないんだろ?可能なら鉢合わせしないからな。それでも話に付き合っているのはフォルグのようになりたくないからとお前に遠距離攻撃が当たらないからだ。」


アンリはニヤリと笑い指輪を転移させる。


「正解だ。まだ未熟でね、ある程度の大きさとなると維持出来なくて強制的に閉じる。」


困ったものだと肩を竦めるとクラシスから声がきた。


「命が惜しいならギルドに加盟しろ。服従を条件に助けてやる、それがこちらの譲歩だ。」

「ん?それでもいいが俺の仕事はここまでだからな。後は任せるよ。」


クラシスは言葉の意味がわからず動きを止める。だが返事は背後から届いた。


「生きてて良かった。後は私に任せとけ。」


振り返るクラシスとケイトの視線は1人の女と魔獣を捉え距離で置くように1歩後ずさりをする。


「嘘・・・鬼?」


ケイトの言葉を無視して2人の間を悠然と歩く女がアンリの前で止まり首に手を当て振り返り、


「怪我は無いな。コイツらは私が相手していいんだよな?」

「あぁ後はサラに任せるよ。手早く頼む夕飯の支度が遅れるからな。」




フォルグは現れた女の脅威をこの場の誰よりも感じとっていた。

自身が前衛を務め強敵と直接対峙するジョブなのも要因の一つだろう。

コイツはヤバイ。何とか先を奪わねば、と思い拘束されてる手が邪魔だと改めて気付く。


「ケイト!!腕を切れ!」


言葉と同時左腕を風魔術が断つ。


躊躇なしか、だがそれがいいと思い身体を前に倒し落とした剣を右手で拾い倒れるように切り掛る。

フォルグはスキル[爆破]を発動させ剣速を増し接触と同時にも発動させた。

太刀筋は首から腰に抜ける筈だが振り抜く事が出来ず止まっている。

クラシスの視線は女を覆う煙の中から手が伸びフォルグの首を掴むと無造作に掲げられたのを捉えた。

腕が上がるにつられフォルグの足が地を離れ頂点に達した所で勢いよく投げ飛ばされる。



アンリは煙が晴れるにつれ服は焦げ所々穴が空いているが無傷のサラを確認した。


「何とも無いのか・・・?」

「あぁ、あの程度ならな。」


アンリは頷きサラを改めて見る。


「燃えた服から見える肌ってなんかエロいな。」

「あー、褒めてるんだよな?」

「当たり前だ。誇るべき身体だと思うぞ。」


アンリは木に当たり動かなくなったフォルグに手を合わせ頭を下げ、


「最後にいい仕事をしたな眼福です。本当にありがとう。」


サラはクラシスと目が合うと肩を竦め口元を釣り上げた。


「こういう奴だ。気にするな、私はもう慣れた。」

「大変だな。魔族とはいえ同情するよ。」

「必要ない、私は楽しんでいるからな。そしてお前らとの戦いも楽しそうだ。」


3人は黙祷をしているアンリを置き去りに戦闘を開始した。

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