邂逅 ①
空は暗雲に包まれ陽が届かぬ森の中、ナイトーさんと共に食材採取をしていたアンリは悩んでいた。
サラは猫又達と畑を作りに出掛け、ラズもカイネに用があると言い残し朝から教会に行ってしまった。
そんな中スキルだけが危険を警告する。初めてこの世界に来た時と変わらぬ予感がアンリを包んでいた。
「参ったな。この場に居ても集落へ向かっても危険か。」
仕方ないので危険を感じない方に逃げるが僅かの安堵を得るとすぐ予感がくる。
「クソ、追われてるのか?やり過ごしたいが・・・。」
現状出来る最善の為目立つナイトーさんと別れ1人で逃げる事にした。
ギルドマスター、クラシス。女魔術師、ケイト。剣士、フォルグの3人は森を歩き何度も戦闘を行いながら東の森を進んでいた。
手にした剣や杖を前に翳し周囲の警戒を怠らない姿は熟練の探索者である。
「やはりこちらに気付いて逃げているな。このまま追うぞ。」
クラシスが示す足跡は2つに別れていた。
1つは魔獣の物、1つは人間の物。
共に別の方向へ枯葉や湿りのある地面に跡を残している。
「こちらの森で正解だね。魔獣といる人間なんて滅多にいないから間違いないよ。早く追い付き仕事を済ませよう。」
ケイトが逸るがクラシスは窘めつつ戦いの準備をする。
「フォルグこれを預かってくれ。」
渡した物は指輪の形をした魔具だ。
「あいよ。相変わらず細かい魔力調整が苦手なんだな。練習しろよ?」
クラシスの持つ剣は魔力を込め力を発揮する魔具だが使おうとすると指輪にも魔力を通してしまい中身が出る事が何度もあった。
それを知るフォルグは軽口と共に左手の指にはめ剣を掴み握り心地を確かめる。
「サイズが小さいな、だが問題ないだろうよ。さっさと追い付こうか。」
他の仲間達に手柄を取られる前に追い付こうと3人は先へ進む。
「やはり撒けないか。」
1人言葉をこぼしたアンリは迎撃の準備に取り掛かった。
「間に合ってくれよ。」
攻撃が出来ない以上足止めと撹乱になるがここで相対しようと決め行動を開始した。
アンリの前に3人の人間が現れる。周囲を警戒し互いに会話ができる所で歩みを止めた。
「付いてきたみたいだが何か用か?俺は人生で忙しい。どうでもいい事なら帰ってくれ。」
1歩前に進みクラシスが応える。
「魔族に与する人間・・・貴様で間違いないな?」
「間違いだと言ったら帰ってくれるのか?俺は見ての通り秋の味覚を採取しているだけだが?」
背にしたリュックの中身を見せる。柿やキノコ類が詰まっている。
「帰って調理しなきゃならない。つまり俺は忙しい、わかったか?」
「俺達の質問に答えた事にはなっていないのはわかっているのか?」
アンリは肩を竦め剣を手にした男を見て首を傾げた。
「人見知りでね。名前も知らない人の質問に応じる勇気がないんだ。出来れば名乗ってくれないか?」
両手を広げ全身が見えるように1歩踏み出し武器の類は持っていない事をアピールする為ターンをして会釈をする。
「アンリという。見ての通りの一般人だ。」
3人は沈黙していた。ケイトは頭痛がするのか頭を抑え視線を逸らす。
フォルグは奇異な物を見る目でアンリを捉えクラシスの横に立った。
クラシスは僅かによろめきフォルグに支えられ体勢を整えつつアンリに片手をだし待ったの構えをする。
そして3人は円陣を組み相談を始めた。
「ちょっとー!! もっと悪そうな奴だと思ってたんだけど。頭は悪そうだけど。」
「予想と違うのはよくある事だが一般人ってあんなだったか?」
「二人共落ち着け!会話は出来る。ここから互いの立場を明確にする。いいな?」
3人は頷き互いの拳を当て結束を確認。振り返るとそこには待ちに飽き、倒れた木に腰掛けて柿を齧るアンリと名乗った男と視線が合う。
「・・・・・・。」
再び沈黙。
「話し合いは終わったか?では元気よく自己紹介を頼む。」
クラシスは戯言を無視する事にして口を開く。
「ギルドマスターをしているクラシスだ。右にいるのがフォルグ。左がケイト。ギルドに所属している者達だ。さぁ質問に答えろ。」
アンリは柿を飲み込みながら返答を考え立ち上がり、
「魔族とはハーピーや猫又達でいいんだよな?彼等は商品の制作に協力してもらっているだけだ。与してる訳じゃなく雇用者と労働者と捉えてくれ。」
その言葉が終わる直後ケイトが動いた。杖を前に即座に魔術式を展開しアンリの横に放つ。
「それが与してるって言うのよー!!」
ふざけた言動をする相手に対しての脅しであり優位に進める為僅かに当たるように発射した火球はアンリの後ろの木に当たる。
「危ねぇー。避けなきゃ当たってたぞ。」
ケイトは首を捻り指を1つ立て尋ねる。
「もう1回いい?」
返事が来る前に再び魔術式を展開。
今度は確実に当てるつもりで狙った火球は放たれた時には相手は横に移動していた。
「返事してないだろう!?何なのこの女?頭おかしいぞ。」
「アンタに言われたくないわー!!」
更に範囲型の魔術式を起動させ5m四方を焼き尽くすがアンリはさっさと退避して火柱を背に元の位置へ戻って行く。
クラシスは冷静にアンリを観察していた。
放たれる前に移動したな・・・それも魔術式の展開より速く。有り得ない反応速度、戦闘慣れしているのかスキルなのか。
有益な人材ならギルドへ加入させてもいいと思いアンリに視線を合わせる。
「ケイトが失礼した。・・・何故魔族と共にいる?人間との争いを知らないのか?」
「知らないね。それを善悪で語るなよ?魔族から見れば人間が悪になる、そんな移ろう主観の話は意味がないだろ?」
クラシスは会話と事前に報告された情報から相手を分析する。
善悪ではなく損得で動く人間か?商人に多いがそこには常識や社会の主流が必ず介在されるのだがこの男にはそれが希薄。
ともすれば悪とわかっていても選択しかねない雰囲気すら感じる。危険だ、だがコントロール出来れば有用な性質だな。
「では貴様は人々が作り上げた価値観などどうでもいいと、そう言うのか?」
問われた言葉にアンリは首を傾げると遠い目をして溜息とともに言葉を作る。
「最近変なシスターと付き合いがあるんだがアレを見ていると善悪ってなんだろうなって思うよ。」
クラシスは事前に部下達に集めさせた情報を思い出すと1人の女が該当した。
ソドム教会のシスター、カイネだったか・・・。
会ったことはないが無茶苦茶な性格と行動をするらしいな。
「あー。そのシスターが異常だ。そう、他の教会関係者はまともだから間違えないように。」
「だろうな。なら教会の教えが善であり正しいのか?」
アンリの言葉にクラシス達は頷く。
「なら魔族とも仲良くしなきゃな。"汝の敵を愛せ"だったな?いい言葉だ。」
そう思うだろ?とクラシスに問いかける。
クラシスは嵌められた事に気付き顔を顰め、沈黙の後フォルグが1歩前に踏み出した。
「言葉回しはお前の勝ちでいい。俺達は仕事をするだけだ。」
アンリとの距離を詰める為走り剣を構え前に身体を倒し相手が避けようが対応するつもりで集中する。
5歩と進んだ時フォルグの足が何かに躓いた。視線を下にして気付くのは木と木の間に太い紐が張られていた。
「まぁそうなるよな。それナイトーさんの手綱ほどいた物だから大切にな。」
言ってアンリは術式を起動させる。
フォルグの上半身辺りの地面に書いた転移魔術が光り、身体を飲み込もうとする。
「グゥッ!?」
フォルグの左手が肩まで沈み身体が倒れるが、即座に剣を捨て右手で術式の外を掴み身体を持ちあげるが、
「はい、残念。」
言葉と同時、術式が収束し残された左手を捕らえた。腕に触れる術式の表面は青い障壁が光り密着する。
「通過中に術式を閉じると切断されるらしいな。俺は事情があってそうならないが。」
よかったな。と倒れた男に声をかけてから視線をクラシスに向け笑顔で口を開いた。
「で、この木から生えてるのが彼の腕。さて人質も出来たし和やかに交渉をしよう。」




