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鬼と人と約束と  作者: 敦人
一章 獣人族の侵攻
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サラの過去

黄金色の草原が目の前に広がる

風になびく草に反してサラに感覚はない、眼球だけが宙に浮いて俯瞰しているようだ。

あぁ、久しぶりだな・・・。

声はでないが思う事は出来た。


何度となく見た夢であり、過去の自分の記憶だ。

森へ来る前に過ごした場であり大切な人と別れた場でもある。


だからこそ、ある方向へ視線を向ける。

そこには過去の自分がいた。背丈は小さく、髪の色以外は全てが幼い自分が蹲るように草に隠れている。

なびく風に揺られる髪、それを気にする事もなく夢中で何かをしていた。

草を踏む音がし人間の女が現れる。フードを叩き土埃を落としまっすぐ幼い自分へ向かい手を差し出す。


「見つけた、終わったから帰ろうか。」

「遅いよ~。アンリはのんびりさんだね。」


苦笑した女に手を引かれ草原を歩いて行く。

それを追うように景色が変わった。



視界は小屋の中、部屋の中心に机があり、幼い自分と女が食事をしていた。


「アンリ、アンリお肉食べたいよ。」


対面には苦笑する顔、頷き口を動かす。


「サラが大きくなったら色々捕まえてね。それまでは我慢、我慢。」

「え~スキル使ってよ。あれなら明日に食べれるよ。」

「駄目よ。私のスキルは良くないの、サラも影響受けちゃうかもしれない呪いなのよ。」

「私強いから大丈夫だもん。」

「うーん、なら来月はサラと出会った記念日だからお肉を用意するわ。楽しみがあると我慢も出来るでしょ?」


無邪気に笑い会話する自分とそれに応える女を視界に頭を横に振る。

思い出すのはその日が来なかった事と何も知らず守られていた事。

どうして気付かなかったんだろうな・・・。

そしてまた景色が変わる。



炎に包まれた草原、火に呑まれ崩れる小屋、全てが赤く染まる中手を引かれ走っていた。


「何で?ねぇ何が起きたの?」


前を走る女に必死に声をかける。


「何でこんな事されるの?大丈夫なのアンリ?」


女の背や腕には矢が刺さり痛みからか質問からか苦悶の表情を浮かべている。

炎に包まれた草原から離れ森が近くになった時女の足が止まる。


「サラ、ここからは1人で行きなさい。この森に入れば安全だから。」


女の顔はいつもの笑顔で幼いサラを不安にさせまいとしていた。


「やだよ、やだ。アンリも一緒に行こう?」

「私はやる事があるの。でも大丈夫終わったらすぐ追いつくから。」


少女は首を横に振り涙を浮かべる。


「何で嘘つくの?やだよ、もうわがまま言わないからずっと一緒にいようよ。」

「ごめんね。でも必要な事だからわかってほしいの。」


風が吹き草原の方向から大勢の人間の声が届く、焦りを帯びた女は少女の肩を掴み森に向かせる。


「約束よ。私がいなくても楽しい事はたくさんあるから。それでも寂しいと思ったなら私との日々を思い出して笑いなさい。私の名はサラと共にあるからきっと楽しくなるわ。」


女が淡く光り少女を包む。

涙を流しながら何かに導かれるようにサラは森へ歩きだす。


「許して・・・。こうでもしなきゃ聞いてくれないから。

本当に毎日が楽しかったわ、何があっても負けず無事でいてね。」


言葉と同時に女が再び光り離れた少女へ向かい包み込んだのを見てから草原へ顔を向ける。


「スキルもこれで打ち止め、後はあの子の為に時間を稼がせてもらうわ。」




サラはその言葉と同時に目を覚ます。息を切らし場所を確認。寝室、そしてベッドの上だ。更に覗き込む男がいる。

同じ名を持つ全く違うアンリだ。


「おはよう、朝御飯出来たぞ。」


いつもの挨拶が来た。


「あぁ、すぐ行くよ。」


頷き部屋を出ようと歩き出す背中を見て思う。

レウが変な事言うから思い出したじゃないか。

だが思い出した。あの人のスキルは呪いだったな・・・。


「アンリ。レウの話を覚えているか?」


振り返ったアンリは頬を掻き、


「名前に呪い・・・だったかな。特に気にして無いけど何で?」

「過去の私が原因だとしたら・・・幼い頃の友人が私にかけていたとしたら?」


サラは拳に力を篭める。嫌われるのが怖いと思ったからだ。


「サラは悪くないな。俺も気にしない。

それに見ようによっては選択肢が増えるって事だからお得じゃないか。お礼でも言おうか?」


サラの葛藤など知らぬように答えられた。

数秒の沈黙、


「前向きだな。正直驚いた。」

「だろ?何事も捉え方次第だとわかってきた、そんな気がするよ。」


アンリは背を向け部屋を出る。

それを見送り夢を思い出し確かに思うことがある。


「私も楽しかったよ。そしてありがとう。」


朝食へ向かうことにした。





階段を降り1階に着くとアンリの背中が見える。

頭を掻き、僅かに狼狽している姿は何か起きている事をサラに感じさせた。隣に立ち視線を同じにする。


「・・・・・・。」


そこにシスターズがラズと共に朝食を食べていた。

サラが思うにあの2人が食べている物は私とアンリの分だろう。

カイネが顔を上げた為視線が合う。そのまま片手を上げ、


「これ、私達のだよな?貰っているぞ。」


サラは無言でカイネに拳を叩き込んだ。

筋力任せに身を前に、机の上を飛ぶように跳躍し拳を振るう。眼下ではフランとラズが皿を持ち椅子を引いている。


カイネの判断は的確だった。迫る鬼を前に皿を机の端に置き被害が及ばないようにすると同時に足で地を蹴り身体ごと椅子を後ろに倒す。

振るわれる拳が眼前を通り抜け、過ぎるサラの身体を掴み倒れる勢いに任せ地面に叩きつけた。

フロントスープレックスだ。


ここで暴れるとアンリが怒ると判断し、倒れたサラを超え扉へ向かう。

その背にフランが拳を握り声をだした。


「カイネ様。頑張って下さい。」


片手を上げ応えた所でサラが起き上がり肩を回しながら口を開く。


「同じように泉に叩き込んでやる。外へ出ろ。」






アンリは2人が外で派手に争い始めたのを見て扉を閉めた。


「で?何でここにいるんだ?」


椅子を戻し食事を再開したフランに尋ねる。


「・・・散歩次いでに朝食を頂こうと思いました。」


アンリは無言で、厨房へ向かう。


成程、遂に用なく来るようになってしまったか・・・。このままではここに住むと言い始めるのも時間の問題かも知れない。


だが止める事は出来ないから成り行きに任せようと決め追加の朝食を作り始めた。




「サラさんの昔ですか。何故そんな事を?」


ラズに今朝の会話を話す。思えばサラの事をあまり知らない。


「サラさんの御友人の事はわかりません。

ですが私が知っている事ならお話しましょう。アンリさん。鬼はどうやって生まれるかご存知ですか?」

「知らない。魔族図鑑にも鬼の欄は無かったな。」


ラズは頷き、


「鬼は確認が殆どない存在です。

恨みや恐怖が大量に集まった時それを糧に存在を形作る、肉体ではなく精神寄りの存在であり種族として繁殖する事がない為です。」


ラズは更に続ける。


「その為、個体数が圧倒的に少ないです。

私が知っている限りサラさんを含めて3人いました。ですが2人はクロムとの戦いで死んだ為純粋な鬼はサラさん1人だけです。」

「勇者の戦いを知っているのか?」

「もちろんです。私もカイネもクロムと共に戦った者ですから。

あぁ、サラさんは違いますよ、あの方は恐らく私達の戦いが原因で生まれた存在です。」


アンリは腕を組み思案する。


「ラズは魔族なのに人間に付いたのか?」

「えぇ。エルフ族の代表として相対し言論でも戦闘でも見事に負けました。完敗でしたね。

強い者に従うのが私達の流儀ですが殆どの方は人間に与するのが余程嫌なのか戦い死んでいきました。」


ラズが特殊なのかそれとも当時の魔族が苛烈なのか?

考えてもわからないから先を促す。


「サラさんが確認されたのは500年位前です。

大森林、近隣の人の国、構わず荒し回っていました。

ほっとけば人間も魔族の王も粛清に入ると判断したカイネによりサラさんは倒され大人しくなったんです。」


ラズは苦笑をし更に口を開く。


「結果、誰も鬼と極力関わらなくなりました。何かの拍子に悪鬼が復活するかもしれないと思ったからです。」

「今見る限りそんな事ないように思えるけど?」

「それは貴方が居るからでしょう。

貴方が緩衝材になるから関われる、居なくなればサラさんはまた孤独です。それを忘れないで下さいね。」


それに頷き礼を言う。


「ありがとう。少しはわかったよ、サラの為にも交流を増やす方法考える事にするよ。」


ラズは微笑みと共に頷く。




「勝ったぞ。さぁ飯大盛りだ用意しろ、そして治療もだ。」


ボロボロのシスターが扉を開け机に倒れ込んだ。扉の外では関節に刃物を刺され動けなくなったサラが倒れている。

アンリはため息をつきサラとカイネの治療と食事の用意して1日の始まりを迎えた。

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