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鬼と人と約束と  作者: 敦人
一章 獣人族の侵攻
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誘い

ソドムへ続く関所に並ぶ人は今日も長い列を成し並ぶ商人や旅人達は荷車に座り談笑している。待ち時間は長いが情報交換の場として有効活用され次の行き先や治安を確認していた。


「何故俺は村を出てしまったんだ。」


焦る言葉はサムトの口から出る。

並ぶ列は遅々として進まない、焦る気持ちは既に村内に入った人物によるものだ。


現れる筈の土曜日朝から村の外で待機していたサムト達の前にナイトウルフに乗った男が魔族の女2人と現れたが彼等は止められる事なく衛兵に案内され村へ入ってしまった。

追いかけたが関所で止められてしまう。


「あの方達は特別だ。残念だが順番を守ってくれ。」


サムト達が再び村へ入るにはまだ列があり、出来る事は待つ事だけだった。






走る眼前は多くの人で溢れている。辺りに漂う匂いは教会の方向から流れていた。


「団長、我等が道を開きます。どうかお急ぎを。」


部下達が人混みをかき分け道を作る。


「退いてくれ。王に託された使命があるんだ・・・。」


サムトは部下達が作った道を進み教会前に辿り着く。

多くの人達が石を積み上げた焼き場を囲み談笑している光景が目に入るが今は教会に向かう。

机の前にいるハーピーに詰めかけ、


「ここにアンリ殿がいるだろう?呼んで来てくれないか?」

「アンリ様は仕事中です。列にお並び下さいね。」


また列か・・・。

項垂れるがここで荒事を起こすわけにはいかない、気持ちを切り替え列に並ぶと目に入るのはメニュー表だが金額を疑う。


「1皿銅貨3枚?高いな。」


労働者の平均日当が銀貨1枚。

銅貨20枚で銀貨1枚、同じく20枚で金貨1枚に値する。

食事となると銅貨2枚で釣りが来る中1皿で銅貨3枚は異常な数値だ。

だが並ぶ人は絶えずサムト達の後ろにも続いて行く。



先頭になり先日見た白衣のシスターに声をかける。


「アンリ殿はいるか?呼んでほしいのだか。」


シスターは背後にその事を伝え先程魔獣に乗っていた男が来た。


「なんだ?俺は忙しい、用なら時間を作るから後にしてくれ。」


サムトは周囲の状況からここで粘るのは良くないと判断し列から外れようとした時背後から声がかかる。


「お前等まだ居たのか?なら時間潰しに私らの所に来い。分かってるだろうが食べるなら肉は買えよ?」

サムトが振り向くと黒衣のシスターがいた。


「問題あるのか?アンリが暇になるまで時間はあるだろう?」


サムトは考えるが頷き1皿買う。部下達に待機を命じシスターに付いていく。


着いた場には鬼とエルフと竜人がいる。カイネは座り空いた席を示すと、


「座れ、食べながら話そうじゃないか。」


サムトは気付かなかったがカイネは3人に目配せをしていた。3人は来た騎士を見て静かに頷き返す。


身に付けた鎧や剣を見て上級騎士と判断、3人の思惑は適当に煽てて散財させるに一致した。


「美女揃いで緊張しますね。少しですがこの場をお借りさせて下さい。」


サラは酒売りの猫又娘から酒を受け取りサムトに渡す。


「世辞の礼だ。騎士様の話聞かせてくれよ?」


サムトは妙な笑顔を浮かべた一同に気付かぬまま話に華を咲かせた。





アンリは教会の庭から先程の騎士が列の先頭に居るのを確認した。来る度に大量に肉やつまみを買っているがこれで5回目だ。

かなり酔っているのか足下がふらつきカイネに付き添われ支えられながら注文していた。


「大丈夫か?あれ。」

「駄目でしょう。既に剣が無いですから身ぐるみ剥がされるのも時間の問題かと。」


ギートの言葉に目眩がするが今は助けてやれない。並ぶ人が再び増えて場を離れられないからだ。

アンリはほっとこうと思い彼の為に少し多めに肉を乗せた皿を渡した。






陽が沈み教会の中では打ち上げが行われている。外には酔い潰れた人達がいるが誰も気にした様子はなく売上を前に酒を酌み交わしていた。


「おいおい、フラン見ろよこれ。布施でもこれだけあるぞ。」

「やりましたねカイネ様。定期的に催し更なる搾取をしましょう。」


物騒なシスターズの目の前には売上の5%とフランへの対価そして酔った人達の布施が置かれていた。


「言っとくがBBQはやらないぞ。疲れすぎる。」


何より今は秋だ、寒くなれば屋外での集客はよろしくない。


「次やるなら教会内で餃子かお好み焼き、後はピザだな。」

「何か分からないがお前が作るなら神も許すと言っている。此処を好きに使え、必要な物があればガイアスに作らせとくから言えよ。」


カイネは上機嫌だ。ワイン片手にクルクル周りながら許可してくれた。


「サラ、経費引いた儲けはどうだった?」

「予想以上だ。見ろ豪遊出来るぞ。」


見せられたコインは換金済みで金貨や銀貨が大半でいまいち価値が分からない。


「管理は任せた。俺が持っていたら奪われるからな。」

全員が笑い夜が更けるまで打ち上げは続く。





朝日が登る頃サムト達騎士団は青い顔で教会に向かう。

目を覚ますと装備の一切が無く、滞在費として国から預かった金も無くなっていた。

盗まれたと思ったサムトを止めたのは部下達だ。

酔って辺りの人に奢り続け金を使い果たし、全員の装備すら魔族に渡し遊び続けた事を聞かされる。


何て事をしてしまったんだ。酔っていたとはいえ許される事ではない・・・。

こんな事ならもっと接待を受けて慣れておけば良かった・・・。

後悔は尽きず現状は変わらぬままだが、せめて王からの使命を果たす為教会に辿り着く。

扉を叩こうとした時後ろから声が来た。


「ん?昨日の騎士達だよな?。用があるにせよこんな時間に来なくてもいいだろうに。」


サムト達の背後には魔獣に乗ったアンリが呆れた顔でいた。





机の上には朝食が並んでいる。

サムト達の分も用意されており、目の前に置かれた料理の対面、紹介状を手にしたアンリから声が来る。


「つまり、俺にサムトさん達の国に来ないかって誘いでいいのかな?」

「そのように受け取って頂いて構いません。もちろん出来る限りの待遇で迎えさせて頂きます。」


サムトの言葉を聞きアンリは首を横に振る。


「辞めとくよ。わざわざ来てもらって悪いけど俺は現状で満足している。」


その言葉に晴れやかになる4人と沈むサムト達。


「悪いね。冬前に稼ぐ大事な時期だしな。」

「貴方を狙う者がいます。それでもここを離れませんか?」


サムトの言葉に答えたのはサラとラズだ。


「存じていますよ。素直な方が教えてくれましたから。」

「私達が守るつもりだが問題はあるのか?」

「・・・・・・。」


威圧を込められた声に場が沈黙する。


サムトはディストラントの騎士団長の誇りも自負もある。今迄幾度となく魔族を撃退した自信もあるが3人が纏う雰囲気は異常で危険だと察知していた。


「そういう事だから俺は大丈夫だ。1人の時襲われたらすぐ死ぬけどな。」


ハハハ、と笑うアンリに視線が集まる。


「さて、早く食ってくれ、この人数だと片付け大変だからな。」






片付けをしようと席を立つアンリに声がかかる。


「アンリ殿、出来るなら1度我等が国に遊びに来て頂けませんか?」

「ん~、何で?」

「知識を教授してほしいからです。例えば今の肉にかかっていたソース。」

「あぁ、夏みかんのジャムを使ったんだ。サラが肉、肉言うからさっぱりした味を作った。朝でも悪く無かっただろ?」


フルーツソースとして商品のジャムにワインと蜂蜜で煮詰め肉汁を濾しマスタードを加え塩胡椒で味を整えた物だ。


「大変美味しかったです。貴方の食の知識を知り国に役立てたいので是非1度来て頂きたい。」

「俺1人だと旅出来ないから行くならサラ達も一緒だけど良いのか?」


サムトは僅かに思案し頷く。


「カイネ殿が一緒なら教会の教えとして可能です。」

「神は調和を望んでいるからな。誰でも友人になりなさいと言っている。守られないのが現状だがな。」

カイネの言葉に頷き、


「わかった。生きてて暇になったら行くよ。さっきの紹介状保管しとかなきゃな。」




片付けを終えたアンリは礼拝堂に戻ると異様な光景が広がっている。

高らかに笑いながら金を見せるカイネと悔しそうに歯噛みするサムト。


「いつもニコニコ、カイネ金融へようこそ。利息は日に3割のヒサンでお貸しします。」


カイネは邪悪な笑みを浮かべフランも大袈裟なお辞儀をしている。


「なんだあれ?」


近くにいたラズに尋ねる。


「昨日のBBQで所持金使い果たしたらしく宿の支払いもできないそうで工面している所ですよ。」


使わせた犯人が身内の為罪悪感が湧いてきた。はぁ、とため息を付きサラを呼び、


「サムトさん。俺が貸すよ。」


カイネが真顔になり慌てて声をだす。


「待て、私の商売の邪魔をするな。」

「原因はお前等だろう?それに神の使徒なら助けてやろうぜ。」

「分かってないな、神に仕える前に私は金の亡者だ。チャンスを生み出しそして逃さん。」


何なのこのシスター、と思うがカイネは畳み掛けるように続ける。


「いいか?全てという字は金の字で覆う事が出来る。つまり、」


両手を広げ、天を仰いだカイネは高らかに言い放つ。


「金こそ全てだ!!!」


フランの拍手が教会に響くがアンリは無視してサラから受け取った指輪型の魔具からコインを出し金貨3枚を渡す。


「帰るのに足りるか?」

「充分ですが良いのですか?その・・・利息は?」

「要らないよ。次会ったら優遇してくれ。後そこの亡者、商売の話があるから普通に戻ってくれ。」


舌打ちをして寄ってきたカイネに次の商売の構想を話す。




「クソ、何故だ、何故気付かなかった・・・。私には天啓は無いのか。」


不信心だからじゃないか?と思うが口にはしない。


本気で落ち込むカイネをフランに任せサムトに向き直る。


「いや、面白い発想ですよ。こんな事聞いた事もないです・・・ただ安全面が不安ですね。」


それはおいおいガイアスと決めればいい事だから今はほっとこうと思う。専門的な事は技術者に任せるのが一番だ。


「サムトさんが面白いって思うなら大丈夫だな。ここには常識人が俺しかいなくてね、確証が得られて良かった。」



アンリを置いて円陣を組む魔族2人とシスターズは小声で確認しあう。


「どう思うよ?あんな奴が常識人ってこの世は終わりじゃないか?」

「その通りです。神の奇跡を以てしても救い難いです。」

「気付かない、いえ、気付けないのはとても可哀想ですから責めるのは止めましょう。」

「そうだな、アンリは常識人って思い込みたいらしいからな。」


4人は振り返りアンリを見る、その目はとても悲しい色を帯びていた。


「お前は常識人(哀)でいいよ。うん・・・大丈夫だ。」

「その目を止めろ、後なんか変なの後ろに付けなかったか?」


無視され、フランとカイネがガイアスを呼びに出ていく。

サラとラズも無言で机に戻りカードを手にした所でサムトがアンリの肩に手を置き口を開いた。


「気を確かに、まだ大丈夫です。」


そして騎士達がアンリの肩を励ますように叩き扉から出ていく。

教会内が静かになりカードを擦る音だけになる。


「まだってなんだよ・・・。」


アンリは久しぶりに泣きそうになっていた。

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