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鬼と人と約束と  作者: 敦人
一章 獣人族の侵攻
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呪術師

陽が登りきる前時刻は9時頃だが教会の前の道には多くの人で混みあっていた。

礼拝に訪れた人ではなく買い物とBBQの客だ。事前にハーピー族が知らせを出していたがそれ以上に教会が擁する流奴が主催するとあって興味を惹かれた者達が多い。

アンリの作る物の評判もあり集客は予想以上だった。


「おいおい、これはチャンスじゃないか?チャンスだろ?毎朝面倒な礼拝をしてたおかげだ。」


カイネの言葉は教会内部に響きアンリは顔を顰める。


「なんだその顔は?今日をやりきれば金に困らん、収穫祭と思って頑張れ。」

「なら手伝ってくれるのか?」

「それは無理だな、私は護衛兼賑やかしだ。食う方は任せろ。代わりにフランを付けるから好きに使え。」


カイネの言葉を受けフランが頭を下げる。


「よろしくお願いします。何なりと御用命下さい。」

「あぁ、よろしくな・・・。後お前ら金は払えよ。」

「なんだと!?ならもう少し安く設定しとくんだったな。クソ、稼ぐ方に気を取られてた。」


カイネの言葉を無視して準備に取り掛かった。



1時間も経つ頃には道は人で埋め尽くされ教会横の荒地にも人が溢れ始めていた。

辺りに甘く香ばしい匂いが立ち込めそれが新たな客を呼ぶ。

猫又達が新しく来た人用の焼き場を作るが間に合っていない。



アンリの前にも肉を求めた人が並んでいる。会計と提供をリルトとフランに任せても追い付いていない状況に肉を切る手を休めずに愚痴をこぼす、


「BBQは失敗だったな、手が足りん。」

「頑張って下さい。後タレの追加は何処ですか?」


教会内部を示すとフランは走り取りに行く。


「クソ、マーニャ達早く来てくれ。」


願いが通じたのかマーニャに連れられギートが空から舞い降りる。


「お待たせしました。現場指揮はお任せ下さい。」

「部下もすぐ来る、アンリ殿、切り分け手伝うぜ。」


頷き、需要に追いつく為速度を増す。




陽が登りきり場が落ち着いた頃アンリは休憩をしようとした時サラに呼び止められる。


「落ち着いたか?珍しい奴がお前を待ってるぞ。来る次いでにこれ持ってくれ。」


サラの両手には肉が盛られた皿がありそれを受け取る。追加で同じ量を持ったサラの後に続く。

着いた焼き場にはカイネとラズそして見知らぬ魔族がいた。

青に近い黒の髪に鬼とは違う角が生えている。赤い目が印象的な女性だ。


「誰?会ったことあったか?」

「会うのは初めてです、私は竜人族のレウといいます。アンリ・・・殿?さん?様?」


アンリはサラと焼き場に座りながら口を開く。


「どれでもいいよ。で、レウさんは俺に何か用?」


レウは鬼の持ってきた肉を勝手に焼いている人間に赤い目を向け買った品物を手に取り、


「いえ、久しぶり村に来たら変わった物を売る店だったので作り手に興味が湧いただけです。」

「そりゃどうも。好みがあれば作るからいつでも言ってくれ。」


焼けた肉を食べ始めたアンリを観察する。

レウは呪術師だ。アンリから伝わる違和感は目にした時から感じていた。


違和感というより異常・・・何かの呪い?でも誰が?

視線をサラ、カイネ、ラズと移しアンリの違和感と比べるが感じる波長が違う。この事に気付いてる素振りもない。

アンリに視線を戻すと目が合う。


「なんだ?食べたいならこれをやろう。」


意図していた訳ではないが焼けた肉が渡される、受け取りながらも疑問を口にした。


「どうも、あの、何で呪いを受けてる・・・の?」

「誰が?」

「アンリさんが。」


アンリは自身を指差し体を見る。

至って普通、鏡がないから顔は分からないが目に見える範囲でおかしな所はない。ターンもして確認、運動性も大丈夫。


「異常なし、冗談か?」


カイネも首を傾げ疑問を口にする。


「私には分からないがレウは呪術師だったな、何か感じるのか?」

「はい、アンリさん確認してもいいですか?」


心当たりはないからどうぞと伝えるとレウは横に移動しアンリの両頬に手を当てる。

のぞき込まれる目は赤く透き通り綺麗だった。

アンリは緊張する。整った顔が近くなり鼻が付きそうな距離にある、どうすれば良いのか分からず息を詰めその目を見返す。


「あの・・・その手は何ですか?」


アンリの両手はレウの頭に生えた角をしっかり握っている。


「緊張から咄嗟に掴んだ希望がこれでした。」


背後ではサラ達が爆笑しているが気にしない。

レウは戦慄する。

この状況は予想していませんでした・・・というより初対面でやる事じゃないでしょう。その思いは鑑定をもって納得に変わる。


「もう大丈夫です。手を離してくれますか?」


アンリも手を離す。

レウは髪を整え衣を正しアンリを改めて見る。


「あなたではなく名前に呪いがかけられています。内容はおそらく常識と非常識の境を消すもの。」


アンリは告げられた言葉に肩を竦め聞く。


「俺の常識が間違ってると?」


その言葉に誰も応えず静寂が場を包む。

それを破るようにラズが、


「おかしい人は自分では気付けないという事ですね。」

「悲しい、とても悲しい話だね。」


全員が示し合わせたように、


「お前の事だよ!!」


アンリは過去を思い出すが心当たりはない、だから冗談と思い笑顔で言う。


「やはり問題ない。おかしな事をいうなよ。」


無視され、カイネがサラに聞く。


「名付けたのはお前だったよな?呪いもかけたのか?」

「私は呪いを知らん。本人じゃなく名前なんか余計わからん。」


レウも頷く。

自分でも名前に付加させる方法など知らないのだから本当だろうと思い、サラに伝える。


「安心していいと思います。悪しき呪いではなく何かを願いかけられたものですから。」


ラズが焼いた肉を取りながら口を開く。


「解呪は出来ないのですか?」


レウは僅かに悩むが頷く。

改めてアンリに向き直り、何も言わず両頬に手を当て解呪に取り掛かる。今度は角を掴まれないようにアンリを座らせてある。


「あの・・・普通にして下さい。」


アンリの手は足の竜爪を触れていた。


「興味があったのでつい・・・。気にせずどうぞ。」


レウは改めて戦慄する。

これも予想していませんでした、ってより馬鹿なんですか・・・?

手は爪や指を確認するように動き回り、それにくすぐったさを感じるが無視する。

頬から手を離し1歩後ずさり全員を視界に収めたレウは首を横に振る。


「無理です。私には手に負えない呪いです。」


内心この人も、と思うが口には出さない。

力不足に頭を下げた所で声が来る。


「別にいいよ。今の所問題ないし気にしないから。」


アンリの言葉に全員が沈黙した。

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