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鬼と人と約束と  作者: 敦人
一章 獣人族の侵攻
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予兆

木々から木漏れ日が漏れる岩に腰掛けたラズは布に包まれた弁当を膝に乗せる。蓋を開けると中には小麦粉を薄く伸ばし焼いた生地に焼肉と香草が包まれた物が入っていた。


「あら、香草と食べるとまた美味しいですね。」


一口食べ感想を漏らすと正面に視線を向ける。


「先程の話は間違いありませんね?もし嘘なら私とても悲しいです。」


両腕を矢でいくつも串刺しにされ木に縫い付けられた男に話しかける。その顔は浅く切り刻まれ血を飛ばしながらしきりに頷いている。


「分かりました。では食事後に続きをしますので思い出した事があれば遠慮なく教えて下さいね。」


また一口弁当の中身を食べ笑顔になる。この後は趣味に没頭出来ると思うとラズの気持ちは幸せに包まれていた。






アンリとサラは集落の周りの散策が終わり少し離れた所で休憩していた。サラは瓢箪の中身を飲みアンリを見る。


「使える物はあったか?」

「難しいな、畑とか作れば自給自足出来るのにもったいない。」


一通りみたが家畜も飼っておらず作物も育てていない。完全に狩猟で生活しているようだった。


「ハーピーは略奪と狩りで生活している魔族だからな。空を飛べるから行動範囲が広い、それで良いんだろ。」


成程、だが商品の安定生産の為には農作は必要だ。しかし専門的な知識は無いからどうしよう・・・。


「猫又も狩猟が主か?」

「そうだな。だがアイツらは弱い獣人だから作物も育ててた筈だ。」

「ならギートに農業詳しい奴連れて来させてこの辺りでも出来るか見てもらおう。」


伝令にマーニャの部下を借りる為一度集落に戻る事にした。





ギートは農作に従事する部下を引き連れ森を駆けていた。

鬼からの伝令で待たせれば何があるか分からない焦燥からも速度を増していく。


ハーピーの集落に着けば話をするのはアンリ殿だろう、あの方は問題ない。だが遅くなれば鬼の怒りを買う恐れがある。それはまずい事だ。


「急げ、着けばどうとでもなる。」


応、と返事を聞き更に速度をあげた。




広場に着いたギートは息を整えながら周囲を見渡す。部下達は困惑しているがそれも仕方ないと思う。

目の前には敷物の上でハーピー族が鍋の物を瓶詰めしたり粘土の様な石鹸を捏ねたりしていた。視界の隅では布に羽毛を詰めている物達もいるがアンリ殿が関わっているなら普通だと割り切りサラの前に跪く。


「お呼び頂き感謝の極み、如何なる御用名でもお申し付け下さい。」


下げた頭が鬼により掴まれ起こされる。そのまま立たされ足が宙に浮き頭蓋が悲鳴をあげる程握られる。


「なんでお前らは堅苦しいんだ?あぁ?普通にしろ!殺すぞ!?」


手を離され地面に倒れ付すギート。アンリが近くにきて回復魔術を掛けられたのが分かった。


「大丈夫か?もっと気軽にいこうぜ。」


それは無理だと猫又達は俯いたまま動かない。


「もっと言ってやれアンリ、私達は楽しく生活したいんだってな。」


ハハハ、と笑いアンリとハイタッチをした時ギートが立ち上がる。サラが指さすのを見て、


「死ぬかと思った・・・、あーアンリ殿何か御用ですか?」


ギートは多少崩した口調で鬼とハイタッチをして吹き飛ばされた人間に視線を向ける。


「つぁー。イテテ、なんか腕がプラプラする・・・。」


ギートは立とうとするアンリの腕を見て、


「アンリ殿、肩外れてます。動かない方が良いです。」

「マジか!?誰かはめてくれ!!」


サラは笑いながら崩れ落ちているのでギートがウロウロしているアンリに近づき肩をはめる。


「イテテ、あーびっくりした。ありがとなギート。」


いえ、と返事し改めてこの人間が理解出来ないと確信する。


「で、御用は何ですか?言われた通りの部下を連れて来たのですが。」

「あぁ、農業や酪農を教えて欲しいんだ。ここでもやろうと思ってな。」





ギートは開けた土地を前に部下達に土壌調査から始めさせた。

土に合う作物を育てた方が楽だからだ。何を作っても商品にするのはアンリ頼みだがサラも期待した目で猫又達を見ている。ギートは視線に耐えれず口を開く。


「何か希望あるなら土壌改良も出来ますが?」


それにアンリが答える。


「あージャガイモやキャベツが欲しいな。後は麦か米。水田でも畑でも良いから手間掛からない方が良いな。後は土に合うやつで良いよ。」


頷きながら部下達の様子を見るが難航しているようだ。


「時間がかかると思うので彼らに任せてアンリ殿の希望に沿うようやらせます。」

「ん、悪いね。なら俺達はハーピー達に商品の作り方教えてるよ。」


2人が去るのを見送りギートは緊張を解きため息をこぼした。





カイネは弁当を持ち機嫌良く教会の扉を開ける。


「フラン、戻ったぞ。」


祭壇の前には珍しく礼拝をしている者達がいた。

フランは彼らを示し困った顔で口を開く。


「おかえりなさいませ、カイネ様。そのアンリさんにお客様です。」


アンリに客?ここ以外で人間と接してないから有り得ん。追い返した方が楽だな。

カイネは少し思案し結論を決め祭壇まで歩く。


「祈りは済んだか?済んだろ?なら布施して帰れ、ここにアンリはいない。」


サムトは立ち上がりカイネを見る。

噂通りのシスターだと認識し、


「ではどちらに居るのでしょう?」

「さてな、此処は私等と神の家だ。居ない事に変わりない。」

「そうですか・・・。ならしばらくこの村に滞在させて頂きます。宜しいですね?」


サムトはカイネの言葉に苛立ちを覚え伝える。


「好きにしなよ、面倒さえ起こさなきゃ私も神も寛大だ。後はお前ら次第さ。」


カイネはサムト達が教会を出るのを見送りため息をこぼす。


「面倒にならなきゃ良いが・・・。フラン土産だ、留守番ご苦労だったな。」


フランに弁当を渡し椅子に座り込む。天を仰ぎまたため息をこぼした。




市場を歩く騎士達の歩みは荒い。


「団長、何故あの者達から聞き出さないのですか?教会の者とはいえあの様な態度許せませぬ。」


逸る部下を宥めサムトは口を開く。


「あのシスターは怪物の類だ、敵対するべきではない。何より我等の使命は戦闘では無いのだ。」


一目見ただけで伝わるシスターの雰囲気が今まで出会った誰よりも危険だとサムトには理解出来た。


「この村を徹底的に捜索しろ。ただし荒事を起こすのは禁ずる。良いな!」


訝しみながらも敬礼をし捜索に向かう部下を後に宿へ向かう。

道中、店の中や道行く人や魔族を見て感想をこぼす。


「おかしな所だ。こんな村に本当に居るのか・・・?」



陽が沈みきった頃サムトは部下達の報告を聞き結論を纏めた。

アンリと名乗る人間は確かにいる。そして魔獣を連れ魔族と共に商売をしているらしい。

土日は教会前にいるが住んでる場所を知っているのは教会の2人だけか・・・。

頭が痛くなるが部下の言葉に気持ちを切り替える。


「我々以外にもここで商売をしている人間を探してる者達がいるようです。」

「私が聞いた者も先日同じような事を聞かれたと言っておりましたので間違い無いかと。」


サムトに焦りが生まれるがそれを押し殺し追加の命令を下す。


「その者達の素性が分かるなら調べよ。そしてアンリと名乗る者を見つけ次第真偽は問わぬ迅速に報告をしろ。」


全員の返事を聞き解散させる。




同時刻、アンリはラズから情報と血塗れの鎧を貰っていた。


「俺、ギルドに狙われてるのか・・・なんで?」


アンリは鎧を小川で洗いながら疑問を口にした。


「念入りに聞いたのですがそこまで知らないようでした。」


ふーんと、返事をしつつそれ以上詳しく聞くのは止めておく。


「確実に面倒事だよな?今週のBBQやめとくか。」


横で鎧を洗っていたサラが勢いよく振り向くと、


「待て、結論をだすな。大丈夫だから待ってくれ。」

「危険ならソドムに行かないぞ。店はマーニャに任せればいいし。」


ラズも焦りを帯びた声をだす。


「大丈夫です。道中も村内もお守りしますから安心安全です。」


アンリは悩むが2人がいるならいいかと結論した。


「ならしっかり守ってくれよ?ほっとくとすぐ死ぬからな、俺。」


2人の頷きを見て後は流れに任せる事にしようと決めた。

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