引越し
小屋入口に荷車があり周囲に10人程の魔族が集まっていた。
アンリは荷物を荷車に乗せ一息着く。視線の先にはハーピーや猫又達荷造りをしてくれている。
「今更だけど本当に良いのか?」
隣のサラに声をかけると笑みが見え、
「あぁ、拘りがある訳じゃ無いからな。他部族と交流するなら此処じゃない方が便利だ。」
鬼が住む小屋は魔族にとって不可侵扱いで理由なくやって来ないからだ。
「そっか。なら新しい所でもよろしくな。」
ナイトーさんに跨り小屋を後にする。
短い期間だったが離れる事に少し寂しさを感じるがサラはそれ以上の感慨がある筈だ。
ラズは先行して準備してくれるって事だから着いたら少しはゆっくりしたいな、などと思いながら背にいるサラに寄り掛かる。
サラの温もりが背に伝わり安心すると睡魔が襲ってきた。
最近あまり休めて無いからな・・・。
サラに許しを貰い揺られるまま目を瞑る。
周囲を歩く猫又族の戦士達は驚愕の目をアンリに向ける。
「おい、サラ様に抱えられて寝てるぞ。」
「あぁ、どんな精神してんだあの人間。だが羨ましい。」
小声で話す戦士達は鬼への畏怖から寝てる男へ興味を移していく。そんな猫又族の会話に加わるハーピー族の戦士達。
「いやいや、集落に来た時なんて魔獣を枕にラズ様とサラ様、3人で寝てる恐れ知らずの変人さ。」
「そうそう、アンリ様は来た時も避けて、噛んで、調理して、脅して、遊ぶ変な人間だったんだから。」
ハーピーの妙な説明に猫又達が首を捻る。
「なんだそれ?ちゃんと説明してくれ。」
「わからないのか?ふむ、土下座を前に調理して暴力を匂わせて脅しながら子供達に食料を渡し手なずけ、マーニャ様を酒で倒して寝る。これでどうだ?」
「余計わからん、頭の中ではおかしい光景になっているんだが・・・」
「それで正解さ。アンリ様もおかしい人なのは間違いないからね。」
2部族間で会話をしているとサラが顔を向ける。
「おい、寝てる奴がいるから黙れ。アンリの陰口なら殺すぞ。」
殺気と共に伝わる言葉に全員が黙る。
足音と荷車を引く音、そして寝息を立てるアンリ以外静かなまま目的地に到着した。
アンリは揺らされ起こされた。
「起きたか?着いたからマーニャの所に行くぞ。」
寝ぼけながらも頷く。周囲の皆にお礼をいうと直立不動のまま、
「アンリ様、足元お気をつけて。荷物は先に運んで起きますので!」
小屋との態度の違いに半目をサラに向けるが素知らぬ顔で先に歩いて行ってしまう。仕方ないから振り返り礼を言う。
「ありがとう。サラに何か言われただろうけど気にするな。俺からキツく言っとくから許してやってくれ。」
歩く後ろ姿を見送り残された者達は汗を玉で流し座り込む。
「怖かった・・・マジで。」
「サラ様はアンリ様には甘いから気を付けましょう。」
「何かあればアンリ様を頼るしかないな。」
全員が苦笑し荷運びを開始した。
サラと並び広場へ入ると数人のハーピー達とマーニャが目に入る。
マーニャは片膝を付き胸に手を当て頭を下げ口上を述べた。
「私の領地への移住誠に有難く思います。我等一族手足の如くお使い下さいませ。」
サラは面倒そうな顔でマーニャに近付き頭を掴み持ち上げる。
「そういう畏まったのが嫌だから1人で暮らしてたんだよ。普通にしろ、分かったな!」
ギリリと音がしそうな力が込められているのがわかった。
「サラ、止めろ。それ以上やると死ぬぞ。」
アンリの声に握る手を離し解放するとマーニャは座り込み頭を抑え呻く。
アンリは視線が合うようしゃがみ回復魔術をかけ、
「色々迷惑かけると思うがよろしくな。サラに悪気は無いから許してやってくれ。」
はい、と消え入りそうな声を聞きながら立ち上がるのを助け尋ねる。
「ラズはどこだ?後俺らは何処に住めばいい?」
治療を終えたマーニャの案内で近くの泉へ向う。
ラズがそこにいるらしく住居も泉近くらしい。
周囲の近くを流れる小川の先に澄んだ泉があった。湧き出る水量が豊富なのか予想より広く深いようだ。
泉の縁でラズとドワーフ達が釣りをしながら酒を飲んでいる。
気づいたのかラズが立ち上がり手を振っていた。
「移動お疲れ様でした。荷運びも終わったようですよ。」
示す先には巨木をくり抜いた扉があり、先程荷運びを手伝ってくれた魔族達が整列している。
「すごいな。入って良いのか?」
ラズとガイアスが立ち上がり扉を開け案内されアンリ達は後ろに続き説明を受ける。
1階は調理スペースと食卓、保存用空間が広がり、2階には広い空間になっていた。机があり多目的スペースのようだ。
3階は寝室と客間がそれぞれ2部屋ずつあり予想を上回る住居にサラと2人で驚く。
「ガイアスさん。すごいな、言葉が見つからないぞ。」
「カイネ嬢がお代を弾んでくれたからな。だが喜んでくれたなら何よりだ。サラ様も満足してくれるかい?」
「あぁ、良い仕事だ。礼になるかわからんが何かあれば言え、力になろう。」
「最高の褒美だ。今から好きに使ってくれ、ただ勝手に改築すると木が倒れるから気を付けてくれよ。」
カイネってお金持ってたんだな・・・。怠けてる姿しか見てないから想像出来ん。
そんな思いを感じたのかサラとラズが説明してくれた。
「カイネとフランはナイトーさんを使って略奪をしてるからな。」
「えぇ、関所を避ける商人が狙い目だと言ってました。」
朝からナイトーさんと出掛ける事が多いのはそういう事か・・・。
「襲うのは変装したフランとナイトーさん。助けるのはカイネ。おかげで布施も信仰も増えたらしいな。」
「はい、資金も集まり、商人も助けてもらえてナイトーさんも運動できる。皆幸せですね。」
なんかおかしいが気にしない、どうせ止められないからほっとこう。
「でも教会的には良いのか?教えに反してるだろ?」
「不正な富で友人を作るべし、主の言葉だ。問題無い。」
声に視線を向けると部屋を見渡しながら歩いて来るカイネがいた。
「なかなか良い家だな。流石ガイアスだ。」
「応、カイネ嬢にも褒めて貰ったぜ。」
ガハハと笑い合うドワーフ達。
「アンリ。頼んでた物は出来たか?やるなら今日だと思って来たんだが。」
「あぁ、出来てるよ。支度するから夕方まで時間くれ。」
「良し。求めよ、さらば与えられんだな。」
「そんな大層な事じゃ無いけどな。」
アンリは手を振り調理場へ向かうと気になるのかサラとラズが着いてきた。
「何を頼まれてたんだ?食い物か?肉だと嬉しいぞ。」
良い勘してるな、だが何かは分かるまい。
保管庫の扉を開け目当ての壺を探し当てる。その中身の液体を見せ、
「これだよ。試作品だけどな。」
ニンニクと甘めの醤油に柑橘の匂いが広がる。
「なんだコレ?わかるか?」
「いえ・・・おそらく調味料?」
「正解。焼肉のタレだ。新しい肉用調味料作ってくれって言われてたんだ。」
醤油やザラメ、蜂蜜に酒、すり潰した果物や玉ねぎ、にんにくを混ぜ唐辛子と胡麻を加え煮詰めた物だ。
「カイネが教会でBBQで儲けたいらしいから頑張ってみた。俺は肉の加工があるから暇なら外で焼き場作ってくれよ。鉄網は荷物の中にある筈だ。」
「お任せ下さい。サラさん力仕事ですよ。」
2人が嬉しそうに外へ向かうのを見送り準備に取り掛かった。
日が沈み焼き場の近くに人影が集まる。肉の焼ける音に香ばしい匂いが周囲に漂う中、網の上は戦場になっていた。
「箸を離せ、顔面撃ち抜いて教会の新しいシンボルにするぞ。」
「やってみろ。奪い、欲するまま行動するのが鬼だ。ここは引かん。」
サラとカイネのお肉争奪戦は激しく隣が避難する。
アンリはマーニャとガイアスが助けを求めて来たのでため息をつき転移魔術を起動させる。
「あっ!?」
サラの手が青く光り、箸がアンリの手に移る。その隙にカイネが肉を自分の皿に取るのを見て、
「喧嘩するならもう作らないからな。それで良いなら続けてくれ。」
箸をサラに返し、追加の肉を網に乗せる。
「悪かった、もう大丈夫だ。・・・今のは転移だな?サラに魔術式を書いたのか?」
「あぁ、ラズにも書いてある。」
自分にも書いた魔術式同士を繋げ触れた物を転移させるしか出来ないけどな、と付け足す。
悲しそうなサラに自分の肉を渡し機嫌をとっているとラズが、
「遠出してもお弁当を送ってくれるんです。こちらも荷物を送れるから便利な魔術です。」
ガタッと音がしカイネが立ち上がる。それを見ずに、
「弁当送ってくれって言うなら嫌だぞ。」
「何故だ?神も私も悲しむぞ。」
カイネを見ると真剣な顔が目に入る。
どんな思考してたらこんな事でそんな顔になるのか理解出来ん・・・。
「転移は起動すると疲れるから嫌。」
アンリの言葉を聞きカイネは思考する。
出来ないではなく疲れるか・・・ならばこいつは強めに押せば頷く扱いやすい性格の筈だ。
だが無理にやらせると期待以下の弁当になる可能性があるな・・・ここは強要ではなく共存が最善。
「アンリ、頷くなら魔術の鍛錬私が指導してやる。わかるだろ?私のスキルはそれが可能だ」
場が沈黙する。スキルを隠しているカイネがそれを交渉に用いた為だ。
それを理解している者達は静かに成り行きを見守る中、カイネが再び口を開く。
「どうだ?悪い話じゃないだろ。なんならより専門的な魔術書も教会から取り寄せよう。」
「・・・わかった。送るのは12時だ。器の返却は翌日同じ時間手に持っていればいい。」
「良し、交渉成立だな。神に感謝を。」
アンリは片付けを終え階段を上がろうと1歩踏み出した時にラズが振り向く。
「お疲れ様でした、とても美味しかったですよ。後私、明日遠出しますからお弁当よろしくお願いしますね。」
「わかった。何処に行くんだ?」
ラズは僅かに曇った顔になる。逡巡し口を開いた。
「最近、人の兵士が森を彷徨いているらしいので理由を聞こうと思いまして。」
「やり過ぎないようにな。問題あるなら教えてくれ。サラは明日暇か?」
「ん?あぁ、やる事はないな。」
「なら明日この辺り見たいから付き合ってくれ。」
「はいよ、任せとけ。」
それに頷き、カイネと倒れるまで魔術の鍛錬をして一日が終わる。




