商売開始
ソドムで商売を終え家路に付いていた3人はナイトウルフが荷車を引くのを見ながら小屋へ向かっていた。
思い返すと初日から忙しかった・・・。
魔獣を連れて来たせいで関所で自分だけ怒られ、教会の中では集客用に作ったプリンを狙うシスター2人とそれを守る鬼とエルフの戦いが始まった。
プリンの話を聞いたシスター達は静かに席を立ち抗議活動を始める為に部屋の隅で打ち合わせしてから頷き行動を開始した。
「お前等だけ食べて私等には無いのか?神は嘆いているぞ。」
「そのとおりですカイネ様。神は平等を求めていると仰っています。」
匙を持ちジリジリと距離を詰める2人にサラは荷物の前にラズは弓を構え警告を発する。
「私等は試食を兼ねているんだ。それ以上近づくなら殴り飛ばすぞ。」
「そこで止まりなさい、踏み出せば2人共容赦はしません!」
弦が軋み威嚇すると同時にアンリは巻き込まれないように外に出たのが商売の始まりだった。
結局半日が過ぎ誰も寄ってこないのを理解し、小さな商品を試供品として村で配る事にした。
傍らに魔獣を連れた人間を皆、遠巻きに見ていたが無料の誘惑に負けチラシと共に全て無くなる。
教会に戻ると4人が祭壇の前で跪き祈りを捧げており、床には空になったプリンの容器が散乱していた。
扉を締め周囲を確認すると他の商品も荒らされているのが目に入る。敢えて足音を大きく鳴らし進み咳払いを1つ、
「説明してくれるか?」
その言葉にビクリと反応したサラに近寄り肩に手を置き出来るだけ低い声を意識して口を開いた。
「俺、結構怒ってるけど何か言う事ない?」
振り向いた鬼と無言で視線を交わすと目が伏せられ、
「その・・・悪かった、許してくれ。」
その言葉を無視して全員床に正座させ4人の前に立ち見下ろし口を開く。
「で、俺はどうすれば良い?」
全員口を噤み視線を合わせないのを確認し空の容器を1つ手に取り掲げる。
「商売が出来なきゃ俺は生活出来ない。邪魔をするなら死ねと言っていると解釈していいんだな?」
サラとラズが顔上げ、
「違うぞ!断じて違う!!」
「えぇ!そんな事ありません。信じて下さい!」
カイネとフランに視線を向けると2人の言葉を肯定するように頷き続けていた。
「今回の事は何かの間違いだったと?2度とこんな事が起きないと信じて良いのか?」
4人が高速で縦に頭を振るのを確認し怒りを納める事にした。
守って貰わなきゃならないから立場的にも自分が下なのでこの当たりが潮時だからだ。
「明日も客が来ないなら全員で試供品とチラシを配ってもらう。良いな?」
改めて頷く4人を見て教会内で作業を始める事にし、荒されてない商品の数を確認すると予想より多かった事に安堵した。
追加のチラシをフランに任せ、大きな物を小瓶に移し替え数を確保した所で夕方になり4人がソワソワしだしたがアンリは荷物の確認をしながら首を横に振る。
「言っとくが夕飯は作らないぞ、市場に繁盛してる弁当屋があったからそこでいいんじゃないか?」
フランは項垂れ、カイネが真剣に表情で詰め寄る。
「あの店はダメだ。公に栽培出来ない植物を使ってるからな。」
「それで並んでる人は皆生気が無かったのか・・・違法じゃないのか?」
「布施は貰ってる。問題ない。」
問題しかないこの村の治安に不安を覚えつつ4人が中毒になっても困るので結局作る事になり初日が終わった。
2日目の商売が始まり露店前には試供品効果か少ないながらも人が来てくれた。
丁寧に説明をしてなんとか売りつつ集客用の試供品を持って4人を送り出すと腕に鳥の翼がくっついた姿の魔族の女性がウロウロしながらこちらを見ているのに気付いた。
だがお客の相手を優先している為こちらからは何も出来ず客足が途絶えた頃女性も居なくなっていた。
「何だったんだろう・・・。」
呟き露店の後片付けをする。
教会に戻り聞いた所ハーピー族らしい。カイネに『猿でも分かる魔族図鑑』を借りて村を後にした。
小屋に着く前に陽が沈み辺りは静寂に包まれる。虫の鳴き声すらしない森の中、歩を止め周囲を伺う2人が口を開いた。
「妙だな。」
「えぇ、静か過ぎます。何か潜んでいますね。」
「マジか・・・。」
荷車に寄りかかるアンリにサラが声をかける。
「大丈夫だ、気取られる位なら大した事ないからな」
頷き、急いで魔獣と荷車を繋ぐハーネスを外す。
「俺はナイトーさんと荷車を守る、そっちは任せた。」
「ナイトーさん?誰だ?」
ガゥと魔獣が返事をし、2人は固まる。
「アンリさん、その魔獣の名前ですか?」
「そうだよ。ナイトウルフだからナイトーさんだ。」
沈黙があり、エルフと鬼が顔を合わせる。
「おい、どうリアクションすればいい?アンリはネームセンスも失ってたのか?」
「分かりませんが、今は潜む者の処理が先ではないかと・・・」
サラは荷車に視線を移す。2mを超える魔獣に寄りかかる男と任せろと言わんばかりに尻尾を振るナイトーさんがいる。
「あぁ、うん荷車は任せる。ヤバくなったら逃げろよ。」
伝え、ラズと森へ入った。
周囲は変わらず静寂に包まれているが地面には移動した形跡がある。近い時間に通過した者がいるのは間違い無いと確信した。
「荷車1つの人間7人だな。商人か?」
しゃがみ、轍や足跡を見ているラズが首を振り、
「いえ、街道から外れていますし、足跡から見て何人かは武装していますね。」
示す足跡は深く沈んでいて鎧を纏った重さによるもので更に先をラズが示す。
「こちらに気付いて荷車だけ先行させてますね。他の方は散った様です。」
「追えば迎撃されるって事か。」
それに頷きラズが向き直り弓と矢筒を装備する。
「どうしますか?面倒なら私が相手しますが?」
「いや、私もやるよ。この辺りをウロウロされるのは気分が悪い。」
ここは村と小屋を繋ぐ通り道、今後の為に憂いは無くしておこうと轍を追う。
森を進んだ時ソレはきた、矢だ。全体を黒く染められ闇に溶け込むように作られた物だ。
硬い音をたてサラの顔に当たった矢は地面に転がる。
「さて、挨拶は貰ったから始めようか。」
矢の来た方向にサラが駆け出す、それを見送るラズは跳躍し木の上に移り姿を消した。
サラの視線に3人を捉える。装備から1人は弓兵と判断、加速した時大木の陰から剣が横薙ぎにきた。
それを左腕で受け右拳を振る。
グシャッと音をたて剣を持つ男の胸が鎧ごと陥没する。口から血を吐き出し倒れかけるが、鎧を掴み前にいる弓兵に向け投げつける。木を揺らし2人倒れるのを確認して、
「まずは2人と、次来なよ。」
険の表情を浮かべる2人に向け笑い歩を進める。
ラズは木々の上を渡り目的の荷車に追いつく、引く人間は2人、積荷は布が掛けられていて判断出来ない。
確認の為に荷車の前に音も無く降り笑みを浮かべる。
「こんばんは。森に何の御用でしょうか?」
返答は無く攻撃がくる、ラズはそれをバックステップで躱し矢を放つ。それぞれ3矢ずつ剣を握る腕を穿った。
矢には糸が付いていてそれを束ねた別の矢を横の木上方に打ち込む。
ラズは宙吊りになりもがく2人の男に近づき短刀を足に突き刺した。
「挨拶は基本ですよ。質問にも答えて下さいね?」
短刀を抜いて妖しく笑みを浮かべた。
アンリは手を前に出し五指を広げ、待て話し合おうのポーズで目の前のナイフを握る男に対峙している。傍らには魔獣がお座りのままアンリを見ていた。
「なんだお前、命が惜しいなら荷車を渡せ。」
ビビり震えるアンリを見た男から声が来る。それに首を横に振り、
「ダメだ。それより早めに逃げた方がいいぞ、この辺りは危険だ。」
親切で伝えた言葉は男の感情を逆撫でしたようでナイフを握る手に力が籠るが男は冷静を失わなず目の前の魔獣が厄介だと認識していた。
ナイトウルフは魔獣の中で中位クラスに該当し集団なら上位クラスの危険度になる。それを手なずける人間など聞いた事も無く冷や汗が浮き出る。
個体の大きさからまだ大人にはなっていない。群れの気配も無いことを確認、状況から1人でも狩れると判断し、懐から加速用魔術符を取り出し魔獣に駆け出す。
「なら死ね。」
それにアンリは1歩引き、
「頼んだナイトーさん。」
魔獣が立ち迎撃した。
男は加速しながら身を反転させナイフを魔獣の肩に刺す、その勢いでナイフを抜きアンリに向き直ると眼前に石が来る。アンリが投じた物だ。
それを手で払いのけようとした時、眼前に青い魔術式が広がった。
「!?」
アンリの攻撃判定に対しての制約だが、それは目くらましになり男の進む足を躊躇わした。瞬間、横から魔獣の牙が男の頭を襲う。
「ナイトーさん、グロいからもう止めて。」
頭を噛み砕きつつ魔獣がアンリに向く、口から落ちた男が地に横たわり痙攣を1つして動かなくなる。
「だから言ったのに、ナイトーさん大丈夫か?」
魔獣の肩に回復魔術をかける。傷が塞がり、お座りのまま褒めて欲しそうな目と合う、それにひとしきり応えた後アンリは男の服から符を取り出し遺体に手を合わせ荷車に座る。手にした符をかざし見る。
「これなんだろうな。」
そのまま森に消えた仲間達を待つ事にした。
サラは最後の1人と遊んでいた。
「ハァァッ!」
烈迫の気合いを込めた男の大剣はサラの肩に当たり止まる、それを握り潰し更に距離を詰める。
「もう、やる事無いのか?なら終わりにしようか。」
サラは逃げようとした男の腕を掴み潰した。
声にならない苦悶を浮かべた顔を掴みそのまま地面に叩き付ける。嫌な音と共に辺りが赤く染まり動かなくなったのを確認し周囲を見渡す。
「これで全部か?」
体を起こしたサラは踵を返しアンリの元へ向かう事にした。
ラズは荷車の布を捲り積荷を見る。そこには5人の魔族の子供達が縄で縛られ横たわっていた。
「あらあら、今解きますからね。」
手足を縛る縄を切り解放した時背後から声がきた。
「奴隷狩りだったのか。」
振り向くと荷車を引く魔獣とアンリとサラがいた。
「えぇ、そのようです。あの方達からも聞きましたから間違いないかと。」
アンリは指し示す方向に目を向けると内蔵を地に落とした男2人が吊られている。その足は肉を削がれ骨が見えており拷問された後だと物語っていた。
引く気持ちを切り替え話を進める。
子供達に水を与え話を聞くと、3人は猫又族で2人はハーピー族の子供達だった。
「この子達は自分で住んでた所に戻れるみたいだ。」
サラ達に声を掛け猫又族の3人を指差す。
その口には村で売れ残った棒付きの飴を咥え、手には瓶詰めの同じ物を3人で抱えている。
頭を下げ遠ざかるのを見送りハーピー族の2人を示す。
「この子達は帰り道が分からないみたいだ。ハーピー族の集落分かるか?」
「わかりますよ。ここから少し外れた所にありますので寄って行きますか?」
ラズの言葉に頷く、3人が走り去った方を見ていたサラが羨ましそうに口にする。
「私等には飴は無いのか?」
「欲しいの・・・?」
サラとラズが無言で視線を交わしアンリを見て頷く。
小屋への進路を変え先に進む子供達とサラとラズは飴を咥えて御機嫌でハーピー族の集落に向かうことにした。




