来訪者 ~フェミナ~
城塞都市内は今までにない賑わいを見せていた。
魔王就任祝いが3日前から行われており通りのあちこちでBBQをしている者達や魔王への挨拶を終えた東の森に住む魔族達が久しぶりの再会に肩を叩き酒を呑む姿と笑い声が響いている。
その賑わいから西に少し離れた泉前の広場は静寂に包まれていた。
広場前にある族長達や人間の王達が囲む鉄板の上で肉が焼ける音がしているが全員が同じ方向を見たまま動きを止めていた。
アンリは肉を乗せた皿を両手に持ち進む足を止め3m程の距離で微笑んでいる見慣れない女性に首を傾げてから皆に向き直り全員の視線がその女性に集中している事を確認して会釈をし歩き出した。
恐らく挨拶に来た魔族の1人だろうと思いながら席に座り隣のラズに声をかける。
「誰だあの人?いつからいたか知ってる?」
「・・・あの人はフェミナさんです。呼んでいたのですか?」
いや、と口にし改めてフェミナに向き直る。
緑を基調とした服とスカートを纏い、優雅に微笑む佇まいが似合う美しい人だな。と確認しもっとも大事な事を思考した。
大きい・・・胸もだが何より身長だ。
多分ラズより背が高いから180cmは超えているだろう。
スカートから見える足から頭まで1度視線を送り深く頷く。
「理解したよ・・・背が伸びるに連れ胸の成長余地が広がったと考えるのは進化論として正しいという事だな。」
フェミナの微笑みが凍りつき、全員が無言で俯く。
それらを確認したアンリは立ち上がり歩を進め、フェミナに右手を差し出すと晴れやかな笑顔で視線を合わせ続ける。
「どうやら皆も無言の頷きで肯定してくれたようだ。機会があったなら貴女をモデルケースに学会で発表しても良いかな?」
フェミナは差し出された右手を握り泉までぶん投げた。
拍手と歓声の音が響く中フェミナは背に鈍い汗を感じながら項垂れていた。
海魔族に助けられながら泉の縁に辿り着いたアンリが何事も無かったかのように巨木をくり抜いた家に向かっている姿を見てから大きく溜息をつく。
「予想と違うわ、もっと威厳ある邂逅になる筈だったのに・・・。」
「ココ、言うたであろう。あやつは妾史上最大のイカレとな。下調べが甘かった主が悪い。」
「知ってはいたわ!でも!!でもよ!?あんなの予想外過ぎて対応出来る訳ないじゃない!!!」
拍手をしていた全員が同意として親指をたてた事にフェミナは自分が思い描いていた通りにいかないだろうと予期して膝から崩れ落ちた。
ノイルは慰めの意味を込めて肩に手を置き視線を着替えを終え家から出て来たアンリに向け、
「頭は冷えたかえ?西の魔王が主に用があるようよ。」
「あぁ、みなまで言わなくてもいい。勘違いしていたがフェミナさんはあれだ、迷子だな?全く西と東を間違えるだなんておっちょこちょいな人だな。」
ハハハ、と笑うアンリは更に項垂れたフェミナの肩に手を置き、
「ソドムまでなら転移させるから後は1人で帰れるね?」
「貴方・・・もしかして意図的にふざけてるのかしら?」
「・・・まさか貴女の居住地まで着いてかないとならない程方向音痴なのか!?どうしよう俺、フェミナさんの家知らないからお家の人に連絡取る?」
無言で張り倒されたアンリに再び全員から拍手が送られた。
泉前の倒木に座り込んだフェミナは背後で説教をされている声を聞きながら拾った石を投げつつ気持ちの立て直しをしていた。
長く生き、多くの者達と出会い、戦い、対話をしてきた自分だがこの状況は経験に無い事だ。
花達から情報を得て、一応手土産を用意し、シミュレーションもしながら台詞まで考えていた時間は何だったんだろう。と思い大きな溜息と共にまた小石を水面に飛ばした。
アンリも正座をしながら不貞腐れたように顔を背けている。
その両頬を叩き正面に向き直らせたケイトは睨みつけ、
「だ~か~ら!魔王相手にふざけると挽肉にされるって教えたでしょう!?なんで真面目に出来ないの!?」
「そんな事言われても思った事を正直に言葉にしただけから・・・ホントだよ?」
「少しは考えろって言ってんの!!
ほら、フェミナさん?様?の背をちゃんと見なさい!あんなに落ち込んで可哀想でしょう!!!」
示された方向を見たアンリは、動きを止めそしてより項垂れたフェミナを確認した。
「ケイトの言葉で更に小さくなったな・・・。」
「え!?あ、いや違うのよ?ほら、その~そう!思った事を言っただけでね?」
「ココ、ケイトや主も考えて喋るが良い。
人間に同情されるようではフェミナがキレてもおかしくないのでな。」
ケイトはすいません、と口にし改めてアンリを睨みつけてから退避した。
「やれやれ助かったよ。じゃあ俺も王様達と飲み直すからあとはよろしぐぇっ。」
立ち上がろうとしたアンリの襟首を掴んだノイルはサラとラズに視線を送りフェミナの下へ向かう。
頷いた2人は嫌そうな顔でワインを飲んでいるカイネと立ち上がり、残されたアンリを守る為に後ろに置き顔を見合わせた。
「クソ、なんでアイツが来るんだよ?なんの用事か知らんが適当な部下でも遣いに寄越すって頭は無かったのか。」
「まぁまぁ。来訪には驚きましたがあんなに落ち込んでいるフェミナさんは初めて見たのでラッキーですよ。」
「なぁ、アレが前言ってた花畑の魔王か?あまり強そうに見えないんだが。」
瓢箪から酒を煽ったサラはもう一度フェミナに視線を向け肩を竦め、
「問題を起こすならさっさと始末した方が楽だろ。」
「あ~それは止めときましょう。基本お花が好きな方って感じですが荒事になるとおっかない位強いんですよ。」
「あぁ、昔クロムと私達で討伐に行って返り討ちにあった。わかるな?アレはあの時代から地位が変わらん唯一の魔王だ。」
2人の実力をよく理解しているサラは嘘を言っていない事と、ノイルやルークス、ナードもいる上でそれでも戦いを避けようとしている事に自身の認識の甘さを感じ、その差を確認する為に言葉を作る。
「勝てないって事か?」
「いや、勝てるさ。ここにいる奴ら大半は巻き添え食らって死ぬだろうがな。」
「そしてその後に3国の人の兵達と西の魔族全員を相手にした戦争が起きますのでどの道全滅でしょう。」
成程と、頷き面倒な相手だなと思いながら歩いてくるフェミナに視線を向けた。
笑みを浮かべるノイルと未だ元気のないフェミナは3人の前で立ち止まり、
「ココ、アンリの魔王就任祝いとテストに来たようよ。」
「えぇ・・・やる気無くなったけどそのつもり。時間ある?」
3人は警戒をしながら後ろに振り向くとアンリは頷き前に出る。
「そうか・・・とりあえずは来訪感謝するよ。
そして当然時間はあるとも。何しろ今週中は祝いの期間としているからな。」
フェミナはノイルから聞いた情報からこの人間は時間を与えるとふざけはじめる傾向にある事を理解し口を開く。
「そう。なら長く祝いを遮るのも野暮だから単刀直入に聞くわね。
貴方、人の国を滅ぼす事が出来るかしら?」
「・・・物騒な話だな。俺から攻めるって事か?」
「そうなるわね。私の配下に人間の魔王を認めさせる為にはカンラム、もしくはルフラのような大国を滅ぼす可能性を見せて欲しいのよ。
もし、見込みが無いなら・・・殺すわ。」
殺気に3人が身構え、再び静寂に包まれた場でアンリは頷く。
「考えはあるがまずは全員座ろうか。」
「時間稼ぎでは無いわね?」
「あのな。俺は戦うつもりは無いがそれを理由に備えも考えもしない程馬鹿でもないつもりだ。
だが・・・この場で話すには条件がある。」
首を傾げるフェミナをサラの隣の席に座らせ、
「これから話す策はサラ達には教えてあるけど他の人達は控えめに言って多分引くと思うんだ。
そして魔族達だけならまだしも友好的な王様達に俺の評価を誤解されるかも知れないからその対価が欲しい。
そうだな・・・俺を魔王と認めたなら俺達に対する暴力行為を禁止するって所でどうだろう?」
「・・・いいわ。但し、貴方達が敵意を向けたならその限りではないけどね。」
了承を込めて頷いたアンリは転移で資料と2つ袋を取り出しそれを横に置くと両手を広げ一礼する。
「あぁ、自己紹介が遅れて申し訳ない。知ってるだろうがアンリだ。皆に比べて個性が無い事に悩む普通の人間だからお手柔らかにね。」
半目で睨むフェミナに笑顔を向けたアンリは鉄板に肉や海産物を乗せながら取り皿と箸を渡し、
「さぁ、安全を買う商談を始めよう。仮想の相手国はどちらかな?」




