幕間 ~交渉 海魔族 ② ~
林の中、木陰に涼しさと居心地の良さを感じながら進むラズは先を行き落葉の踏み跡や岩場に生えた苔の削れなどを確認し振り返る。
「アンリさんはこちらに向かったようですね。」
「流石は狩人だな。しかしアンリには1人になるなと言っているのに。」
不安げに視線を回すサラに苦笑したラズは先程の違和感を口にした。
「アンリさんが商談中に逃げるとはどういうことでしょうか?」
「あの場で話を進めるより1度場を離す必要があったって事だろう。」
「私も同意見ですがそれが何か・・・ですよね?」
それは知らん。と呟きラズが示す岩場を越えると丘の上に座り海視線を向けるアンリがいた。
足音に振り向いたアンリは2人を見てから頷く。
「来たか。全く時間が無い中始まる商談程厄介なものはないな。」
「・・・いつもの悪巧み中でしたか?」
「いや、実際にこの島を見る時間が無かったから見学ついでに必要な情報を整理するのが目的かな。」
サラは言葉を無視してアンリの横に立つと耳を掴み立ち上がらせ痛みをアピールするアンリを睨みつけた。
「1人になるなって言ったよな?」
「・・・うん。」
「反省してるか?」
「悪かったよ。でも先を思えば必要な時間だから許してくれ。」
溜息と共に手を離したサラはアンリの横に座りラズも腰掛け苦笑した。
「サラさん心配症ですね~。ルークスさん達が見回りして危険な魔獣はいない事は確認済みですよ。」
「こいつは虫に襲われて泣く奴だぞ。そんな報告当てになるか。」
「ふふ、なんだか弟を守るお姉さんみたいですね。」
こそばゆい表情をしたサラは咳払いをして気持ちを切り替えた。
「これ以上茶化される前に話を進めてくれ。」
「そうだな。カイネには後で話すが2人にはお願いがある。
海魔族を優遇するつもりだがその際の他魔族の不満を抑えれるか?」
「それは・・・出来ますがそれ程の価値があるとは思えませんよ?」
サラも頷き同意を示すがアンリは首を横に振り口を開いた。
「いや、産業として見た場合とてつもない利益を生み、他国に対して圧倒的に優位にたてる重要な人材だ。」
アンリは首を傾げた2人に説明を始めた。
アンリ達がシーラの下へ戻った頃カイネとフランは砂浜にラルフを埋めながら視線を隣に向けた。
そこでも娼館の女達が同様にソドムの警護隊長を埋めているのを確認し満足気に笑みを濃くする。
「さて、そろそろ商談も始まるだろうしこちらも仕上げだな。」
「わかりました。カニを捕まえてきますので2人の顔周りに放ちましょう。」
フランが娼館の女達と岩場へ向かうのを見送り視線を埋められた2人に落とす。
「夏は浮かれるものだがはしゃぎすぎたな。カメラは没収しておく。」
「待て待てカイネさん。それ旦那から借りたものだから貸しにすると何要求されるかわかんねぇから怖ぇよ。こっちの兄さんだけで許してくれ。」
「僕は写真撮ってないですからね!?ただナンパしてただけの健全な男です!この人はさっきソドムで写真を売ろうと言っていたので有罪ですが。」
カイネは罪を擦り付け合う2人に笑顔を向け十字をきる。
「リノアからクレームが来てな。報酬も受け取った以上お前らは有罪だ。アーメン。」
「「嫌だぁっーー!!!」」
カイネはフラン達が戻るまでに逃げようともがく2人に砂を追加しながら待つことにした。
アンリはラズとサラを背後に置きシーラと改めて向き合うと1度頭を下げる。
「席を外して済まない。突然の迫害に驚いてしまってね。 」
「はぁ、それはいいんですがその・・・大丈夫ですか?」
「いつもの事だから気にしないでくれ。ではこちらが提供出来るものを話そう。」
首を傾げるシーラに視線を合わせ、
「まずは傘下ではなく同盟という事を前提に考えてくれ。
その際、貴女達が懸念しているであろう魔族との諍いだが後ろの2人が全て引き受けよう。
そしてこれから先関わる者全てが貴女達の力を認めれる仕事と報酬でどうだろうか?」
「仕事・・・?」
「あぁ船便の護衛、または妨害業務、そして養殖だ。」
疑問の表情で首を傾げるシーラを手を前に出し制して続ける。
「護衛というよりはマルナの船を襲わないでくれという事だ。話は通しておくから暇ならからかうついでに先導してくれても良い。
そして、妨害は不都合な船が現れた際は好きにしてくれという事だ。沈めるなり暗礁に乗り上げさせるなりして貰えるなら俺の商売は順調に進む。」
「・・・特定の船を見逃すだけなら今までとさほど変わりないので構いませんが私としては養殖の方が気になりますね。」
ふむ、と頷き気恥しそうに頬を掻いたアンリは両指をもじもじさせながら言葉を作る。
「本来予定に無かった事なんだけどね・・・先程真面目にやれと言われその事をちゃんと考えた結果思い当たったんだ。」
サラとラズが先程の説明を思い出し俯いた事に気付かないアンリは照れたように顔を赤くさせ、
「あぁ、全く恥ずかしい話だよ。彼女達は何故日本人なのに真珠の養殖業をしないのか?とそう言いたかったんだろう。
まさかカイネ達が俺のいた世界の知識をそこまで理解していたとは・・・正直驚いたし身体が震えたよ。」
シーラが固まりそして項垂れるのを見たラズは慌てて言葉をかける。
「シーラさん。本当にすみませんがアンリさんは色々事情があって思考回路がおかしい人なんです。」
「ラズは何を言っているんだ。日本人が真珠養殖方法を確立させ富を築いた事は事実だぞ。
確かに結果として世界的な裁判沙汰になったが勝訴したしある国は産業衰退により多くの失業者と餓死者が出る事になったがそれは需要と供給の割合がわからず価格暴落したからで決しておかしい事ではない!」
胸を張るアンリは立ち上がり、
「俺には専門的な知識は無いが方法は教育番組で見た気がするからノイルに記憶を取り出して貰い試してみよう。
そこで取れる真珠は勿論、貝殻は石灰にすれば今後の建築に大きく役立ち、身は食べれば良いから捨てるところが無い素晴らしい提案だとシーラさんも思うだろ!?」
「・・・まぁ提案は何となくわかりましたが魔王様は1度落ち着いてから医者に見てもらった方が良いですよ。」
アンリは何故かまたおかしい人扱いされてる気がしてゆっくりと首を傾げる。
呼吸を確認し、そして自身の提案を何度も反芻してやはり大きな富を生む事業だと確信してから手を叩き頷く。
「貴女の懸念はまだ話してない販売ルートや加工の件によるものだね?
大丈夫。加工はエルフ族とドワーフ達に任せるし販売先は俺の店とディストラントに卸すから任せてくれ。」
「そういう事じゃ・・・いえ、もういいです。」
「納得してもらえたようで何よりだ。これから先は金に目が眩む素晴らしい日々が貴女を待っているよ。
ついでに可能なら珊瑚とかも買い取るから手隙の時に集めてくれると有難い。」
困惑したシーラはサラ達に助けを求めるが首を横に振られ諦めたように頷いた。
「わかりました・・・ですが1つ求めている物がありますのでそれが条件です。」
「支度金も人材も当然用意するが?」
「それはどうも。正直予想外の提案過ぎて考えてませんでした。
ですがその事以外にこの島を求めてもいいでしょうか?」
数秒悩み思案したアンリは頷く。
「リック王に交渉しよう。だが理由を聞いても良いか?」
「私達は特定の居場所を持たない魔族ですが事業に参加するなら居住先があった方が都合が良いでしょう。
この島は昔から休憩を兼ねて使っていましたから滅多に人も寄り付かず都合が良いかと。」
成程、と同意したアンリはある疑問を感じラズ達に振り返り、
「もしかしてリック王は海魔族の事知ってて貸してくれたのかな?」
「海辺の海魔族は強いですからね~。手に負えないから何とかしてくれの意味合いもあったと思いますよ。」
「利用されたって事か・・・流石は王様だな。やられたよ。」
ひとしきり笑ったアンリは首を傾げるシーラに向き直り手を差し出す。
「こちらは条件を飲もう。貴女が納得し同盟を組んで貰えるならこの手を取ってくれ。それをもって対等の付き合いといこうか。」
岩場から立ち上がったシーラは手を握り1度頭を下げ、
「是非、魔王様・・・いえ対等ならアンリさんと呼びますね。
是非とも一族、そして共に生きる者達の庇護をよろしくお願いします。それが叶うなら貴方に従いましょう。」
「対等なんだから従わなくて良いよ。でも良き繁栄を願い協力し合おうじゃないか。」




