平穏
時刻は昼過ぎ、風も無く日が照らす森は影とはいえ蒸し暑く案内された酒場の椅子に座ったラルフは大きな溜息をこぼした。
「疲れた・・・何なんですかあの商人は?」
城塞都市の案内を任されたヴァンとケイトは対面に座り顔を見合わせ口を開く。
「何があったかわからないですが気にしないで下さい。」
「そうそう、アンリは通常がおかしいから深く考えない方が楽よ。」
はぁ、と頷き首を傾げる。
「おかしいとわかってて雇われてる・・・?貴方達ももしかして・・・!?」
「ヴァン?こいつ泉に叩き込みなさい。そしたら私が雷魔術放つから。」
「絶対僕より強いですから嫌ですよ。あそこにギルカさんがいるから頼みましょう。」
2人が警備の仕事をしている人狼族の青年を呼ぼうと立ち上がりかけ、慌てて手を前に出して制止したラルフは話題を変えるために1度笑顔を作り頷く。
「冗談ですよ~。それでここでなにをするんですか?」
ラルフは怪訝な顔をする2人を宥めつつ思う。
契約金は前払いで年単位では貰っている以上逃亡するつもりもない。
そして住居としての部屋も紹介された後での案内に疑問を感じていた。
「・・・まぁいいわ。ここで暮らすなら最低限の知識がないと不便でしょ?貴方が雇われたおかげで私達の賃金もあがったからそのお礼として詳しい人を呼んでるから到着待ちよ。」
ケイトが振り向く先には大通りがあり賑わっている。道行く魔族に挨拶をしている2人を眺めていると机にグラスと酒が運ばれてきた。
一礼をし立ち去る夜魔族に会釈の返したラルフは立ち去る背を見て、
「しかし夜魔族を初めて見たけど綺麗ですね・・・。お近付きになりたいなぁ。」
「夜魔族とエルフ族は美形揃いですからね。アンリさんは皆と仲良いから頼んだらどうですか?」
「・・・あの人に任せるとふざけた紹介しますよね?」
2人は無言でグラスに酒を注ぎ乾杯をしてから空にする。
ケイトは店員に手を挙げ追加を頼んでから遠い目をして空を仰いだ。
「ふざけない時ってあるのかしら?」
ヴァンが無言で首を横に振ると同時に追加の酒とつまみが机に置かれ声が来た。
「ケイトさん、ヴァンさんお久しぶりですね。御来店ありがとうございます。こちらの方は?」
「あらマルフェス久しぶり。この人はラルフよ。アンリに雇われた傭兵だから良くしてあげてね。」
会釈をしたラルフに深く一礼したマルフェスは笑顔で握手をし、
「これから大変でしょうから憂さ晴らしは当店をご利用ください。酒も賭博もありますし最近は興行としての格闘戦も行っておりますので何かあればお世話させていただきます。」
「あ、どうも。その時はよろしくお願いします。」
「はい。それではごゆっくりどうぞ。」
一礼をして立ち去るマルフェスを見送りながらラルフはつまみの焼鳥を手に取り1度匂いを嗅いでから口に運ぶ。
「ん!?これ美味しいなぁ。」
「この店はアンリさんがレシピを渡してるから何を頼んでも美味しいですよ。通りの屋台も同様なので暇な時食べ歩きとかしてみたらどうですか?」
頷いたラルフは酒を口に含み周囲を見渡しながら思う。
各国と変わらない賑わい・・・流通が良いのだろうか通った店先の品揃えも豊富だった。
これはインフラに力を注いでいるのかな?それとも別の目的があっての副産物かな?
あの商人の思惑が読めない以上推測でしかなく何をしようとしているのかはわからないが面白くなりそうだ。
笑みを深くした時ラルフの肩に手が置かれ声が来た。
「ココ、人間が3人揃うとは面白い企てかえ?妾も混ぜるが良い。」
ラルフは戦慄した。
ここは魔族の支配する土地とあり警戒は緩めていなかった。今も足音や床の軋み音を聞き分け近付く者がいないかを判断している。
なのにこの肩に置かれた者の動きに関しては全く感知していなかったからだ。
そしていつの間にか肩から手が離れて既に自身の隣の椅子に座っている事に驚愕した。
「はぁ!?え?いやいや、えぇ・・・?」
「何を変な声を出しておる。呼ばれたから来たが邪魔だったかえ?」
「ノイルさんわざわざ御足労ありがとうございます。無理言ってすいませんでした。」
「よいよい。2人も仕事ご苦労であった。しばらくは休暇予定かの?」
頷いた2人に目尻を下げたノイルは頬杖をつきラルフに向き直る。
「では功労者2人の頼みに応え妾がこの地の有力者を教えてやろう。」
ヴァンに手を伸ばしスキル[強奪 記憶]を使ったノイルは取り出した玉を掲げ笑みを濃くした。
カードを伏せ1度伸びをしたカイネはワインを口に含んでから頬杖をつき口を開いた。
「来月に魔王就任祝いと戦勝祝いだったな。その頃にはスラグも引き上げた後だからしばらくはゆっくり出来そうだ。」
「カイネは立場的に良いのか?阻止するのが普通だと思うが。」
「教皇には新たな魔王が誕生した事は伝えてあるから問題ない・・・と思う。」
そっか、と頷いたアンリは机に伸び対面のサラをつつく。
「今更だけど俺じゃない方が格好つかないか?俺か弱いよ?守られ系人間だよ?」
「そういう魔王がいても良いだろう。前例がないから私は楽しみだ。」
「私も楽しみですよ。それでアンリさんはこの先何を優先するか考えてますか?」
姿勢そのままにラズに振り向いたアンリはサラのカードを3枚抜くとそれを場に出して追加のカードを渡す。
「それで揃ったろ?
で、先だったな・・・まぁしばらくは外交と内政に注力したいかな。特に流奴関係は進めないと赤字部門だしほっとくと教会の信用に関わる。」
サラはカードを開きフルハウスを見せてから頷く。
「いつも通り好きにやればいい。何があってもわたしが守る。」
チップを投げるように渡したカイネはアンリを睨み、
「お前が相手だと勝てないんだから手助けするなよ!」
「そうです。アンリさんのスキルはイカサマと変わらないでしょう。」
「まぁまぁ次は止めとくから許しておくれ。
そんで、まあ一応就任祝いの時各魔族が挨拶に来るだろうからその事を話して協力を仰ぐ感じかなぁ。
後は当面は海だな。その事で俺は忙しい。」
カードを切り直し振り分けるラズは首を傾げ、
「海ですか?夏季休暇を取りしばらく空けると聞いてますが・・・。」
「あぁ、娼館の姉さん達との約束もあるし族長達はなかなか休めないだろうから交代で少しでも休ませようと思ってリック王に無人島を借りてある。
何よりエコロジーを気にした水着面積20%削減計画を遂行中だから楽しい夏になりそうだ。あぁ怒るから水着の事は夜魔姉には内緒だぞ。」
ふむと頷いたカイネは立ち上がり厨房に向け声を放った。
「リルト~今すぐリノアに伝えてこい。神が望んでおられる。」
アンリが制止する間をなく頷き窓から飛び立ったリルトは夜魔族の居住区へ向かう。
羽ばたきの音を聞きながら項垂れたアンリは今以上に机に広がり目を潤ませ口を開く。
「・・・サラは助けてくれる?」
「私だけなら庇う事も出来たんだがな・・・こうなれば大人しく怒られろ。それが1番被害がない筈だ。」
バタバタ暴れ嫌々するアンリを無視して3人はゲームを再開した。
長い話にお付き合い頂きありがとうございます。これで二章終わりです。
幕間を投稿し終えたら三章を始めるつもりですが仕事が忙しく更新ペースを変えようと思っています。
お読み頂いている方々には申し訳ありませんがよろしくお願いします。




