交渉 ~ラルフ ~
執務室にて通信魔具を確認していたクラシスは目を覆い俯いた。
スラグ王国の第1騎士団が壊滅した報告が映された画面をもう一度見て溜息をつき1度席を立つと窓まで歩き遥か先にある戦闘があったであろう地に思いを馳せていると背後から声が来た。
「マスター。突然立ち上がり黄昏るのは傍目から見て気持ち悪いです。病気ですか?」
「・・・フィンは気遣いという言葉を知っているか?」
「当然です。ですが現在ギルドはルフラ周辺の動きを監視しそれを纏める業務で忙しいので早く席に戻り仕事を進める事こそ皆への気遣いではないでしょうか。」
クラシスは無言で席に戻り事務仕事を開始するが思うのはかつて面倒を見て、そして商売敵になった友人の事だ。
ラルフが各国を渡る通行許可を取り寄せたのは自分でありキチガイじみた商人と関わる事で自身のおかしい部分を再認識してほしいとの思いと魔族と接する事で見識を広める良い機会になると思っていたが第1騎士団壊滅とは予想外の事だったからだ。
もう一度窓に視線向けようとした時ノックも無く勢いよく扉が開かれた。
「ヤッホー。クラシス元気?元気かな?元気だよね?
いやいやシーズ大森林への探索依頼が許可されたなんて聞いて飛んできたよ。さぁ褒めて。」
クラシスは無言で駆け込んで来たフローを捕まえると隣の私室に引きずり込む。
執務室の全員が無言でその背を視線だけで追い、いつもの事と無視して作業を続行した。
私室で各国の通行許可を手渡したクラシスは席につき落ち着きのないフローに視線を向ける。
「スラグ王国出立の報せを受けた友人がクラン公国に付いていないらしい。その調査を名目に大森林への調査を認めよう。」
「え~。私の目的はついでなの?ついでかな?それは嫌。だってだって、キマイラとか魔獣の材料値下がりしてるから私の錬金した物売れないんだよ?困っちゃう。」
「フロー。俺もお前に頼むのは苦渋の決断だが適任者が他にいなかったんだ。
受けるなら大森林探索に役立つあの馬鹿商人へのゴールドパスを渡すつもりだが?」
へぇ、と目を輝かせたフローは続けて、と促す。
「傭兵ラルフを知っているか?魔獣狩りを得手としている剣士だ。」
「知ってるよ~。去年の魔猪騒動での武功が認められ英雄認定された人でしょ?」
「あぁ、彼は昔世話をした友人でスラグへ向かい行方不明になっていてな・・・その行方を知りたい。」
気まずそうに扉に視線を向け、声を潜めたフローは、
「傭兵団所属の英雄と繋がってるなんて立場的に不味いでしょ。大丈夫なの?大丈夫じゃないよね?笑っていい?」
「笑うな!一応外ではバレないような態度で接しているからお前が漏らさなければ問題ない。とはいえこういう自体になり仕事とは言え情報を流したのは不味かったと後悔している。頼めるか?」
頬を掻き、書類を確かめたフローは姿勢を正し頷く。
「確かスラグ王国は魔族・・・アンリちゃんと揉めてたよね?なら出立が確かとして考えるなら拉致したのはフランちゃんだと思う。つまりシスターカイネが関わっているって事かな。」
「俺も同じ結論だ。恐らく城門に辿り着く前に捕まり連れていかれたか・・・。」
「殺されたか・・・よね。行方の調査でいいのなら受けるわ。報復は無理、それでいいのよね?」
クラシスは頷き、懐から取り出した一枚の書類を渡す。
前回アンリに雇われた際の交通費の未払いが記された紙を確認したフローは姿勢を楽にして頷き目尻を下げる。
「街道のハーピー達に見せれば連れて行ってくれるかな?くれるよね?楽しみだよ。」
「何かあったとしてもギルドは大森林へ救援は送れない。それを念頭に慎重に頼むぞ。」
「OK~。モドリギの種持ってくしアンリちゃんは話せばわかる子だから大丈夫だよ。だよね?やっぱりわかんない。」
笑うフローにクラシスは不安を覚えつつも依頼金を渡しルート説明に入った。
ラルフは1度目を閉じ現状を確認していた。
目覚めるまで待っていたという事は今は殺す気は無い筈で装備も盗られているから金目の物目当てでもない。
そして記憶を見たと言っていた事と先程の夢がスキルによるものとしたら情報は抜かれていると考えるべきだろう。
となれば目的は自分の勧誘かな・・・。
そこまで思い目を空けると首を傾げた商人の顔がありそれに向け口を開いた。
「こちらの要件は知っていると思っていいんですよね?」
「ん?あぁ、サラかラズと手合わせしたいんだろう。勝てたならギルドマスターの地位を貰えるとかそんなだったかな?」
「期待外れだったらです。まぁそれはもう諦めたのでいいんですけどね。」
アンリの返答に間違いなく記憶を見られた事を理解したラルフは幾つか浮かぶ選択肢の中から敵対行為と逃亡を除外する事にした。
場所も何もわからないことと竜人族がいるなら何処まで逃げようと先回りされる事は間違いないからだ。
「で、貴方は僕に何を望んでいますか?」
「ふむ、話が早くて助かるよ。
現状ラルフさんは何処にも雇われていない無職状態だね。」
「フリーランスです!!言葉一つで全然意味が違いますからね!?」
アンリは両手をヒラヒラさせて落ち着かせてからカイネ達に視線を向け、
「仕事もせず蓄えを食いつぶしながらふらふらしていた挙句に傷害事件を起こしかけた人で合ってるよな?」
「ん~まぁ概ね間違いではないな。神と私、そしてフランが証人だ。」
「そう聞くと英雄と言うよりダメ人間ですね。」
「人間の寿命は短いのに無意味な時間を過ごすとは贅沢だな・・・。」
ラルフは無言で口をパクパクさせてから酷く落ち込んだように項垂れる。
アンリは視線を戻し溜息をつき、
「世間の目は厳しいね・・・。俺も元の世界では仕事をバックれたダメ人間と思われてるだろうから同情するよ。」
「い、今のは貴方が原因で起きた中傷ですよ!」
肩を竦めたアンリは首を傾げ、
「落ち着けって。俺達はそう思っただけで真実じゃないならどうでも良いだろう?目を向けるのは未来だよ。」
「・・・なんか釈然としないですが要は僕を雇いたいという話ですよね?」
「そうだけどその前に聞きたいんだがギルドと傭兵って何が違うんだ?傭兵団本部がルフラにあるのは知ってるが業務的に違いがあるなら聞いておきたい。」
数秒の沈黙の後に頷いたラルフは傭兵団の説明を始めた。
説明を聞き終えメモをとっていたアンリは頷き会釈を送る。
「基本的な仕事や体系はギルドとそう変わらないが次代への相互助力サービスがあるのか。」
「サービスとは違いますが戦死した傭兵の家族が生活に困らないよう資金援助や育児、教育などを行っていますがそれが何か?」
「・・・資金の管理は本部でいいとして万一の際の援助を目当てに入団する者も多そうだな。」
ラルフは頷き、
「一応契約金の1割を本部に送る事になっていてその積み立て金額と任務の危険度と活躍により遺族への援助が決まっているらしいですね。
僕は独り身なので詳しく調べてませんが。」
「いやいや、勉強になったよ。俺も同様の事を個人的に行っているが制度として作るなら死んだ後も困らない素晴らしい話だった。」
首を傾げたラルフは目の前の商人に違和感を覚えつつ口を開く。
「まぁ、逃げれなさそうだし今は貴方に興味があるから雇って貰えるなら応じますよ。」
ラルフはアンリの顔が引き攣った事に気づき慌てておかしな意味じゃ無いですよ。と付け加えるとアンリは動揺し椅子を引き身体を抱くように両手を交差させる。
「真剣に興味があるという事だね!?
ごめん、俺ノーマルだから本当にごめんね。」
サラ達はカードを机に伏せ、顔を寄せ合うと、
「おい、訂正したらより悪化したぞ。」
「さすがアンリさん。脳の配線がおかしいままです。」
「神が嘆くほど思考がぶっ飛んでるな・・・。」
3人がヒソヒソ話す内容を聞きながらラルフは大きく呼吸をし気持ちを落ち着かせる。
「良いですか?よく聞いてください。貴方の行動が何を生むのか、それに興味があるだけです!後は僕に足りないものが学べるかもしれないから応じるってだけですよ。」
「あ、あぁそうか勘違いしたよ。しかし足りないもの・・・一般常識や客観的に物事を見る精神かな?」
「それ貴方に足りないものです。自覚があるなら直してください。」
肩を竦めスルーしたアンリは立ち上がりラルフの拘束を解くと改めて席に戻る。
「いやはやお互い誤解し合う話し合いだったが相互理解出来て何よりだ。ではここからは詳しく契約内容の話といこうか。」
ラルフは妙な商人との会話が続く事に頭を抱え気持ちを切り替えてから応じた。




