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鬼と人と約束と  作者: 敦人
二章 謀略の魔王
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ラルフの過去

1面の草原を1人歩く子供がいた。手にはヒーローの人形を握り涙を泣きながらアテもなくたださまよっている。

風に揺られる草の動きに怯えながら目尻を拭い小さな歩幅で背後にある森から少しでも離れようと懸命に歩を進めていた。


それを眺めるラルフは過去の記憶だと思い出していた。

自分が覚えているこの世界に来た最初の記憶。

今でも運が良かったと思う。

武器も力も経験も知識すらない幼い自分では歩く方向が違っていたら村には着けず何より魔獣に襲われ死んでいただろう。


これは過ぎた事で夢だから無駄だろうと思いつつ声を掛けようとした時何かが割れる音がして景色が暗転した。







意識だけのラルフは揺られる振動と音が支配する木の檻の中憔悴しきりに顔や体に痣を作った子供達の中にいる幼い自分を見て愚かだったなと思う。

辿り着いた村で自分の境遇を知り、それを認めず村を離れた時に奴隷商に捕まったからだ。


本来禁止されている商売だが、何処にでもモグリはいたし、世継ぎが生まれない貴族達への後継者斡旋を名目に使い捨ての労働力として商売する者もいる。


捕まった子供達の中には人間以外の魔族の子供もいるが全員の目から光は無く絶望だけが檻を満たしていた。


この時はキツかったな・・・。


売られる先で見世物になりやりたくもない事をやらされ、売れ残った者は指導として殴られ続けるのが日常の地獄の日々だった。


自分は売れなかったから尚更酷い時間だったなぁ。


共にいた者が消え新しい子供が檻に入る。それを何度も見ながら毎日神に祈っていた。

早く買ってもらえますようにと祈っていたのが何時からか早く楽になれますようにと祈りが変わり、そして全てを諦め習慣として形だけの祈りをするようになるまでそんな日々を送り続けた。


後で知った事だが異世界の記憶を持つ者は面倒事や脱走を企てる事が多く特殊な技能を持つ者以外は売れる事がないらしい。

それを思い返し自嘲気味に笑った時また何かが割れる音がして景色が暗転した。







気付くと戦火に包まれた景色が広がっていた。

小国同士の小競り合いだったらしいがそれ故に事前の情報が無くこの地を進んでいた奴隷商は巻き込まれたのだろうと今なら思えた。


壊れた檻から逃げる子供達を尻目に地に座り込み殴られない為に身に付けた笑みを貼り付けた自分を見ていたラルフは思う。


この夢はいつ終わるのかな・・・。


そして過去の記憶通りにその青年は来た。

馬を止め剣を鞘にしまうと地に降り差し出される手がある。


「大丈夫か!?」


心配されたその言葉と手にただただ泣きそれでも笑みが崩れない自分が情けないと思うがその青年、クラシスは檻を見て、自分の痣を見て全てを察したのかただ強く抱きしめてくれた。


立てるな?と声が来て、それに頷くと馬上に挙げられる。背に鎧の冷たさと人の温かさを感じまた泣く幼い自分に苦笑するラルフは進む先に視線を向けるとまた何かが割れる音がして景色が暗転する。






そこからの見る夢は幸福だった。

ギルドに所属するクラシスは自分が加入する事を認めなかったが生活の面倒を見てくれ剣技を教えてくれた。

実力が付いてきた頃、養子として迎えたいと言ってくれる方もいたがそれを断って剣技を学び続け成人する頃には剣技の他に魔術や旅の知識を得て独り立ちに何不自由無い知識を持つに至り旅立ちを決意した。

過ごす年月の中でギルドマスターに就任したクラシスは多忙を極めていたが時間を作り見送りに来てくれていた。


ラルフはこれは夢であり記憶であり決して伝わる事は無いと理解していたが心配そうに眉を顰めるクラシスに深く頭を下げる。

目線をあげると夢の自分は昔と違い自分の意思で笑い握手を求め、それに応えてくれたクラシスは苦笑する。


「商売敵の傭兵になるらしいな・・・。」

「はい、ギルドに入れてもらえなかったから仕方なくですよ。でも戦果を挙げて貴方に認めさせます!そしていつか追い抜かしてギルドマスターの地位奪っちゃいますよ。」

「ハハ、やれるものならやってみろ。

・・・またな、次からは敵として会うこともあるだろう。」

「今まで本当にお世話になりました。

袂を分かつことになりますがこれまでの恩は忘れません。そして、何時かクラシスさんに実力を認めさせてみせます!」


頬を掻いたクラシスは首を横に振り、


「敵になるなら恩は忘れろ。それが最低限の生き残る心構えだ。

それじゃあな。戦場以外では友人として対等の付き合いを頼むよ。お互い引退する時まで生きてるといいな。」


手を振り背を向けたクラシスに深く頭を下げた時また何かが割れる音がして暗転する。






それはついさっきの記憶。恩師の敗北を噂で聞き興味を持った商人に会う為にスラグからクランへ渡った時の事だ。

寂れた酒場で今後をどうするかを考えていた時に入店してきた2人の聖職者に目を奪われた。

一人は白衣の法衣を纏い、一人は黒衣の法衣を纏った共に美しいシスターだ。聖職者が酒場にいる事が珍しい事もありカウンターに座り注文を済ませた2人は店内全員の注目を集めていた。

視線に気付いた黒衣のシスターは背後に振り返り睨む視線を店内に向け、


「何見てんだ?もしかして奢ってくれるのか?」

「・・・・・・。」


全員が視線を逸らす中つまらなそうに姿勢を戻したシスターをしばらく盗み見ているとその右手に魔術式が浮かび青く光った。

何が起きたのかわからないが手にした紙を読んでから席を立つシスター達が気になり後を付けようと尾行を開始した。


今なら止めておくべきだった、とも思うが疎らな人の陰に隠れながらの尾行は当然バレていてそして倒された自分の姿を確認した所で視界が暗転する。

これが走馬灯なのかな?と思っていると気だるさを感じ重い瞼を開く事が出来た。


瞬きをし視線を向けた先には机があり、対面には写真で見た商人が座っている。視線を横にずらすと黒衣のシスターとエルフと鬼がカードで遊んでいた。

夢が終わった事を確かめる為に手指を動かそうとした時拘束されている事には気付いた。


これは不味いなぁ・・・武器もないし、鎧も脱がされてる。どうしよう?


思考を回しつつ僅かでも情報を得ようと部屋中に視線を向けた時正面から声が届いた。


「おはよう。カイネが手荒な真似をして悪かったね。顎は治療したが大丈夫かな?」


声に先程の記憶を思い出し痛みがない事を確認して頷く。


「それは良かった。ラルフさん、貴方の経歴は確認しそれ相応の実力者という事で拘束させてもらっている。

決して俺の趣味とか性癖とかそういう事じゃないから誤解しないでね。」


全員が動きを止め、沈黙が室内を満たすがアンリはラルフの視線に首を傾げ、


「どうしたんだ?俺は男に見つめられる趣味はないんだが・・・。あぁ済まない、記憶を見たが貴方の性癖がそっちだとは確認してなかった。後で担当出来そうな者を探しておこう。」

「違います!!って言うかいきなりどんな方向に話を進めてるんですか!?」


カードを開き2人の賭けチップを回収していたラズは困った様に苦笑し口を開く。


「アンリさんはそういう人ですから気にしない方が良いですよ。」


そうだな、とサラとカイネも頷きカードを振り分けながら同意した。

アンリは3人に手を挙げ応え、


「何のことかわからないがいつも通りという事らしいね?日常とは意識せずとも繰り返す。それを実感した気持ちだよ。」

「あぁ・・・クラシスさんが貴方の事をイカレてるって言ってたのを思い出しました。」

「全く、あの人も陰口とは酷い人だ。まぁ気にしても仕方ないから話を戻すが・・・確か緊縛趣味の話だったな。」

「そんな話してないですよ!?

はぁ、話してくれるなら何の為に捕られらてるか聞いてないのでそこから説明して下さい。」


あぁ、とアンリは2度3度と頷き。


「一応あれだ。魔獣狩りで功を成した英雄様が会いに来たという事でせっかくだから機会を作ったんだが何やら突然斬りかかってくる通り魔と聞いて警戒しているのが今の状況だ。」

「あ、まぁ・・・何となく理解出来ました。

ただ、こちらの用事が済んだら解放してもらえるとは思えないのですが?」

「理解が早いのは助かるよ。こちらとしてはお互い流奴だし仲良く手を取り合えるのでは?とそんな話がしたいと思っている。聞いてもらえるかな?」


アンリは組んだ指に顎を乗せ、笑みを浮かべた。

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