会談後
4人が退室した応接間でファルモットは安堵の吐息を漏らし椅子に深く座ると頭の後ろで手を組んだ。
視線の先ではアンリが試供品として振舞ったケーキを丁寧に包んでいる姿があり首を傾げる。
「王様は何してんだ?」
「見てわからんか?アンリ殿が作る菓子類は娘が喜ぶので渡そうと思っておるのよ。」
子煩悩だな・・・と呟きそして新たな疑問を口にした。
「リアラ様が喜ぶって・・・アイツたまに来てるのか?」
「まぁの。外交館として貸しておる部屋で儂と共に車椅子をレーサー仕様に改造しておる。
それをリアラの奴も手伝ってくれてな。父として嬉しい限りよ。」
「王様がおかしくなった原因がわかった・・・。って護衛無しで平気なのか!?」
綺麗に包装し終わったケーキを掲げ確めたリベルトは満足そうに頷く。
「あれはイカレておるが不要な大事など起こさぬと信頼しておるからな。で、ファルモットよ。あの男を見た感想は?」
「あ、あぁそうだな・・・今回の件で手の内を晒した訳ではないって事しか・・・油断も隙も見せれねぇタイプの人間って所ですかね。」
「それがわかっておるなら良い。
主の仕事は諜報に近いがこの国と魔族の架け橋となる事も重要な仕事だ。慎重な行動を頼むぞ。」
アンリ達は打ち合わせ通りにスラグ王国との戦闘を終えそれぞれの住居に戻っていた。
既に陽は沈み闇に包まれた森の1角で焚火を眺めワインを飲んでいたカイネは足音に振り向き口を開く。
「あいつの記憶はどうだった?」
「駄目よな・・・あれは子供の内にこの世界に来たようで使える記憶はなかったわ。」
舌打ちをして項垂れたカイネはゆっくりと呼吸をし、
「面倒になったな・・・。アンリに報告しちまったから下手に始末も出来ん。」
「ココ、叫ぶ癖を持った戦いをする記憶が多いが優秀な戦士よな。」
「そうだな、体術も剣筋も良い、馬鹿な戦い方さえしなければ一級品だった。あいつのスキルはわかったか?」
「幸運操作の中でも最上級のものよ。発動中に限り範囲内の生物全てを上回る幸運になると言ったところよな。」
天を仰ぎ夜の色を眺めてから大きく溜息を吐いたカイネは思う。
優秀な人材は手元に置いておきたい。癖は直せば良いのだからなんとでもなるだろうが問題はアンリを害するかだな・・・。
「あいつは見学と言っていたが誰かの依頼か?」
「そのような記憶は無かったの。アンリへの純粋な興味に動かされた者のようじゃ。」
「相変わらず尋問要らずの良いスキルだな。
なら始末は無しだ。懐柔、それが無理ならラズに改心させる事にしよう。」
ノイルは言葉の先を想像し首を横に振る。
「死ぬの・・・ラズは加減をせぬから死か発狂しか先がないぞえ?」
「それも神の思し召しと諦めるさ。」
「主のスキルを使えば懐柔も容易ではないかえ?」
カイネは即座に銃口をノイルに向け、引き金に指を置き殺意を込めた目を向ける。
「正直に答えろよ・・・どこで私のスキルを見た?」
「おぉ、怖い怖い。」
両手を挙げたノイルは目を細め、
「獣人族をけしかけた時フェミナの所で見させてもらったのよ。確証ではないが主のスキルは共鳴系。それも最上級のものと見ておるが?」
「・・・・・・。」
「ココ、あくまで推測故許せ。なにより妾のスキルを利用しておる対価としてこの程度の邪推は悪くないと思うがの?」
カイネは引き金に触れる指を意識しながら考えていた。自身のスキルは触れる事で発動条件を満たすものでその為に近接戦闘を覚えたのだ。
だがスキルの全貌が知れ渡れば前提が崩れる事になり戦闘時の危険が増すことになる。
だからこそ先を想像し可能性を模索した。
ここでノイルを殺せるか?
無理、こいつは怪物だ。焚火が近くにある以上苦戦も考えられる上に騒ぎになりかねない。
ノイルの意識を自分に同調出来るか?
無理、推測されている以上触れられる事に警戒している筈だ。
更に幾つかの思考を重ねふぅ、と息を引き金から指を離したカイネは銃口を下げつつも睨む視線は変わらずに口端をあげる。
「私を怒らせるとどうなるかわかるだろう?ここは引いてやるからそれ以上の詮索は止めておけ。そして口外もな。」
ココ、と笑い頷いたノイルはこれ以上は危険よな。と思い会釈とともに言葉を作る。
「もう口にはせん。なんなら鬼の娘に確かめて貰っても良いぞ?」
「・・・なら良い。だが私の警告は1度だけと思っておけ。」
笑みを戻し頷いたノイルは背を向け同族が待つ地へ足を向けた。
ラズはアンリ達の寝室の扉をノックしてから開き動きを止めてから気を取り直し、1度目を擦ってから改めて確認をした。
視線の先でベッドに寝そべり上半身裸のアンリがサラにマッサージをされている姿を見て見間違いでない事を理解し入室と同時に扉を閉める。
「何をしてるんですか?」
「あぁ、ラズか。見ての通り人間の脆さの確認だ。」
「掴む時はちゃんと手加減してね!?折れても治せるけど痛いからね!!?」
歩を進め椅子に座ったラズは体を張った確かめ方ですねと思いながらもう一度アンリを見て感想を口にした。
「アンリさん見た目より鍛えてますね。出会った頃より2回り位筋肉が付いてますよ。」
肩を押され数秒後にバタバタ暴れ出したアンリは息を整えながら、
「筋トレもあるが何よりナイトーさんの散歩中背中にしがみついてるからな。今は全力で走られても耐えれるようになったけどサラの指圧には耐えれない。」
「鬼の力は異常ですから耐えれる人はいないのでは?」
サラは困ったように眉を顰め頷く。
「そうなんだよ。人間の脆さを確認しておかないと普通の生活でもアンリを傷つけてしまうからたまにこうやって限界を勉強している。」
言葉と共に肩を押したサラは直ぐにバタバタ暴れるアンリを見て力を弱めた。
殆ど力を入れてないつもりだがそれでも痛がる姿に更に眉を寄せ頬を掻く。
痛みを逃がす為に深く呼吸を繰り返したアンリは顔をラズに向け、
「ラズもどうだ?いつポッキリ折れるかわからない恐怖で発汗作用も抜群な鬼マッサージだぞ。」
「妙なオプション付きですね。それはアンリさんだけ楽しんで下さい。」
サラに背を反らされる姿に仲睦まじいですね。と微笑んだラズは用事を思い出し小さく手を挙げ、
「カイネが捕らえてきた人間ですがアンリさんに会いたいそうですけどどうします?」
「別に・・・痛い痛い!折れるって!?
ふぅ・・・別に良いよ。今はノイルの所にいるんだよな?」
「はい。カイネ曰く記憶を抜いて刺客では無いと確かめたそうです。出来るなら懐柔して欲しいと伝言を預かってますが可能ですか?」
身を起こしたアンリはサラに促されるまま服を着て頷く。
「人の協力者は欲しいよな。ケイトとヴァンには苦労かけてるし・・・クランでの事業を思うと何とかしなきゃ2人から猛抗議がきそうで面倒だから頑張るよ。」
「ありがとうございます。無理なら私が担当するので気楽にお願いしますね。」
では、会釈をし扉に向かったラズはそこで1度振り返り、
「あぁ、そうでした。スラグ王国との戦いも終わった事ですからアンリさんの魔王就任祝いの告知を出してもいいですよね?」
「俺の事より戦勝祝いをメインにしてくれ。その方が祝い易いからな。」
頷いたラズが扉を閉めるとサラによる鬼マッサージ両腕編が始まった。




