出発前日~魅惑のプリン~
森の中ラズはリュックを背に小屋へ向かい走っていた。
小屋に住むようになり半月が過ぎた頃、ようやく明日から土日のみだが商売が始める準備が出来た事をカイネに伝え頼まれた買い出しも済んだ帰りだ。
アンリが作る物は長く生きた自分でさえ考えに無いものが多く文明において自分と大きくかけ離れているのが理解出来る。
商売の成功は金を生み目的へ大きく前身する為期待してしまう。
「今までの流奴は何故作らなかったのでしょう?」
疑問に対する答えはないがおそらく守ってもらわなければ生きれない者、自立出来る者では行動が違うのだろうと考えた時声が来た。
大きく威圧的な声だ。
「止まれ、荷物全て渡すなら殺しはしない。」
目の前に熊の獣人が現れ思考が停止する。
「・・・私に言っているのでしょうか?だとしたらお断りします。」
「そうか。なら奪わせてもらう事にしよう。」
その言葉に口の端が上がり笑みを形作る。今日までの忙しくも満足した日々のご褒美だと確信し、
「本気ですよね?では懸命な抵抗をお願いします。すぐ諦めたらダメですよ?」
ラズは森を駆けながらスキル[物質生成 糸]を使い糸を木々に張り巡らせながら獣人の攻撃を躱す。出来るだけ傷つけないように捕えねば楽しむ時間が短くなるからだ。
細く触れても気付かぬ糸は切れず伸びながら追いかける獣人に巻付き動きを奪う。
「なんだこれは!?」
ラズはその言葉を無視して腰の短刀を抜き小指を縦に貫く。
「ガァァァ!」
苦悶の表情を浮かべる獣人の瞼に触れ糸を使い閉じれぬようにし笑みを浮かべる。
「さぁ毛皮を剥ぎますから頑張って耐えて下さいね?」
伝え実行した。
ラズの前には獣人だった肉塊が転がっている。
その皮膚は全て剥がれ四肢は無く眼球もくり貫かれて息絶えていた。
「とても満足出来ました。次からは気を付けて下さいね?」
短刀に着いた血を拭い鞘にしまう。
「遅くなると心配させてしまうのでここでさようなら。」
小屋へ向けてまた走り出した。
アンリは帰ってきたラズから荷物を受け取り夕食のデザート作りを開始する。この世界に来てから初の試みだ。
椅子に向かうエルフを見て違和感を覚える。
「ラズ。誰かと戦ったのか?」
ラズはその言葉に動きが止めた。目の前では振り返らず作業をしている背中があり、
「いえ・・・ですが何故?」
「髪に血が付いてるから。狩りなら獲物がある筈だろ?早めに洗った方が良いよ。」
アンリは振り返り、木箱から作った石鹸を渡す。
「感想聞かせてね。後趣味にとやかく言わないけど誤魔化すなら騙しきってほしいかな。」
項垂れすいませんと呟き川へ向かうラズの後ろ姿を見送りまた作業に戻る。
ラズは川で髪を洗う。ハーブの香りがする石鹸は汚れを落とし気持ちを落ち着けてくれる。
「本当によく気付きますね・・・」
久しぶりの楽しみだったとはいえ気を使ったつもりでしたが・・・。
「避けられてしまうでしょうか。」
呟き、少し後悔する。
自分の趣味は理解されない事は分かっているがそれでもこの半月の間得た日々失うのは嫌だった。
恐れず接してくれる人は少なく永く得られなかった日常があった。
拒絶されるのは慣れていると思う一方で今までのように過ごしたいならどうすれば良いのか悩み時間だけが過ぎていく。
「おい、暇なら手伝ってくれよ。」
振り向き声の方に顔を向ける。視線の先にはサラとアンリが荷車に荷物を積んでいた。
「石鹸どうだった?もっと香り強めの方が良いかな?」
変わらない声があり、俯いたままアンリに近寄る。
「あの・・・怖くないんですか?怒ってたりとか・・・」
小さくなる声になんで?と返され、
「その・・・誤魔化そうとしましたし。」
俯きが深くなり声が更に小さくなるが、
「趣味なんだろ?俺がやられた訳じゃないから特に気にしてないけど・・・ただ俺にはやめてくれよ。痛いの嫌だから。」
顔をあげると2人と目線が合い、
「私もカイネも気にしないだろ?コイツもそういう人間だって事だ。つまり外道だな。」
「外道じゃない!そういう趣味もあるのだと理解しようとしてるだけだ。」
「一般からすれば同じさ。諦めろ。」
ラズはそんなやり取りをする2人に苦笑する。
「アンリさん頑張って理解して下さいね。後石鹸は良い仕上がりでしたよ。」
夕食が終わり机に昼作ったデザートを置く。
ラズが作ってくれた蒸籠の試しを兼ねて作ったプリンだ。
牛乳に砂糖を熱しながら溶かし冷めたら混ぜた卵に加え濾してからカラメルソースを入れた器に卵液を入れ蒸籠で蒸しただけの物だ。火が強くすがたってしまったが試作品だから気にしない。
初めて見るのか謎の物体に手を出さない2人の前で1口食べてみる。
まぁこんなもんだな・・・バニラエッセンスがないから少し物足りない気もするが仕方ない。集客方法の1つとして使えればいいかなと思い更に1口食べる。
そんな姿を見ていたサラが恐る恐るプリンを口にした。
カランと乾いた音をたて机に匙が落ちる。
匙を洗って手渡すがしばしの沈黙が場を支配する。
その姿をラズと見て不安を感じる。しくじったかと思い機嫌を戻す為のプランを高速で思考するが、
「上手い・・・なんだこれは・・・」
そして更に1口食べ頷く、
「ラズ?要らないなら貰うから置いておけ。代わりに酒でも飲むといい。」
瓢箪を指差すサラを無視してラズも口にする。
「・・・・・・」
またも沈黙がありそして、
「これどうやって作るんですか?」
「教えても良いけど前みたいに諦めない?」
先日調理を教えたがすぐ諦め、私は食べる方で頑張りますと鬼と同盟を組んだのを思い出す。半目を向けると、
「その・・・なんでもありません。」
ラズが俯き視線を落とすと空になった器と交換しようと手を伸ばしているサラがいる。その手を叩き自分の分を確保する。
「ダメです。奪うつもりならサラさんでも戦いますよ。」
アンリは睨み合う2人に追加をそれぞれ渡し、
「ほら、喧嘩するならもう作らないぞ。」
2人は受け取りそれぞれ席を少し離し首を横に振る。
「まだ喧嘩してないぞ。」
「えぇ。争う理由がありませんので・・・。」
腕を組み無言で見るが2人共視線を合わせない。
ため息をつき魔術書を開くと鬼とエルフは素早くプリンを食べ終わり席を立つ。
「アンリさん。魔術鍛錬手伝いますよ」
「それが良い、片付けは私がしとこう。しっかりやれよ。」
息の合った連携で場が流れる。まぁいいやと思い思考を切り替える事にした。
明日から商売が始まる事に不安と期待を感じながら倒れるまで鍛錬をして、いつもの様に寝室に運ばれる。
サラは寝室から戻るとラズと目が合った。
「明日成功しますよね。」
どうかなと呟き更に、
「私等の存在が邪魔だからな。」
率直な意見を言う。2人共に思い当たる事が多すぎて沈黙が場を支配する。
サラは話題を変える為に酒を飲み。
「しかし本当に手なずけるとはな・・・」
それはアンリが餌をやっていた魔獣の事だ。
2人が気付いた時にはアンリは背に乗り散歩していた。魔獣も振り落とさない様に気を使っていたのが伝わる仕草にどうするべきか悩んだのを覚えている。
「あれは驚きましたね。やはりあの人異常ですよ。」
「だな、イカレてるのは間違いない。荷車を運ばせるらしいから楽にはなったが。」
村で避けられる自分達と魔獣・・・どう考えても商売の成功が見えないがなんとかするしかない。
「今日は休みましょう。」
ラズも同じ思いなのだろうと思い頷き寝室へ向かった。




