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鬼と人と約束と  作者: 敦人
二章 謀略の魔王
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会談 ~メナス ④ ~

丘上で振り返り息を整えた男は爆炎があがる地を見て安堵の息を漏らした。

助かったと思い、丘下に降下していく竜人族と思わしき影を見て舌打ちをした時正面から声がきた。


「ここまでご苦労さん。お前がヴェルダだな?」


驚愕から1度跳ね振り返るとそこには白い法衣を纏うシスターと黒い法衣を纏うシスターがワイン瓶を傾けている。

黒衣のシスターは瓶から口を離し袖で口元を拭うと肩を竦めヴェルダに銃口を向けた。


「質問に答えろよ。私の引き金はお前が思うより軽いんだが?」

「あ、待て。そうだ俺がヴェルダだ。貴女達はスラグ教会から派遣された者か?」

「いやいや、だが僥倖だな。私は神が遣わしたお迎えさ。じゃあな神様によろしく伝えてくれ。」


引き金が絞られ銃声が響きヴェルダの頭が吹き飛んだ。


「追っ手に自己紹介とか頭悪すぎます。あそこまで馬鹿だと神に会えないのでは?」

「神は馬鹿程愛し手元に呼びせるものさ。その証拠に頭の悪い奴程早死するだろう。」


ハハハ、と笑うカイネは視線を村がある方向に向け、


「お前もそう思うだろう?次いでに送ってやろうか?」


丘下に続く道横の木から観念したように頬を掻いた青年が現れ肩を竦める。


「いや~参りましたね。尾行、バレてましたか。」

「当然だ。酒場から着いてきたようだが今日は定休日でな。祈りは他所でやりな。」

「いえいえ、祈る神はこの世界にいませんよ。それで救われた試しも無いですし。」


それもそうだな、と頷いたカイネはフランを下がらせつつ前に1歩進み、


「で、要件は?」

「そうですね~今の行動からすると貴方達は魔族側ですよね?本来は見学だったのですがお手合わせとかどうです?」


言葉と同時に距離を詰めた青年、ラルフは剣に魔力を込め、


「喰らえ!刃波擊!!!」


振るわれた剣筋を見ていたカイネは思う。


たまにこういう奴がいるが何故攻撃の起点を声にだすんだ?タイミングも位置も相手に教える愚考で笑わそうとしているのかも知れんが理解出来ないな。


右から袈裟斬りで迫る剣筋を身を屈め避けると最善の選択を思い行動した。


剣を振るに限らず力を込める際は歯を食いしばるべきだが何故かこいつは喋っていた。馬鹿だからそんな基本も知らないのだろうが結論としては顎が開いている筈だ。


カイネは右掌底をラルフの顎を外す為に耳の前に打ち込み即座に左手に持っていたワイン瓶を振り上げた。

空に向かい打ち上げられたラルフは外れた顎が戻る際舌を噛んだのか口から血を噴きながらそのままの勢いで背から倒れる。駄目押しで踵による踏みつけを顔面に2発打ち込んでからカイネは伸びをしフランに向き直った。


「よく見ておけ、馬鹿の姿は己を正すものだ。だがあまり見るなよ教育に良くない。」

「カイネ様・・・実は酔ってますね?」

「かも知れん・・・人の金で呑む酒ほど美味いものはないから調子に乗ったな。」


髪をかきあげ風を身体に受け熱を冷ますカイネは地に落ちた剣を拾うとフランに渡し、


「まぁ要件は済んだし飲み直しだな。酒場へ戻るぞ。」

「この男まだ生きてますがトドメは?」

「殺さず連れていく。まだ利用価値があるからな。」


フランは驚きから1度身を停止させカイネとラルフを交互に見て口を開いた。


「ストーカー紛いの事をした上で斬りかかってきた不審者を助けるんですか!カイネ様とは思えない行為です!?」

「そう言うな。そいつの言動からして流奴だろう。それも記憶持ちだな。

アンリの事業の為に有効利用しなくては神が悲しむ。」


言葉に頷いたフランはスキル[収納]を発動させカイネの指示する物をしまい始めた。










サラは腕を組み、思案するメナスを眺めながらやばい時間が始まりつつある事を感じていた。


目の前の机にはお茶会セットが置かれアンリが忙しなく動いている。今朝焼いていたおやつのレモンケーキ切り分けハーブティーを注いでいる姿は集中力が切れ普段のアンリに戻りつつある兆しだろうと思う。

何とか間に合えばいいが、と思い、駄目なら私が力で頷かせる事が最善だろうと決めた。






メナスは思考しながら冷汗を背に浮かべていた。


認めねばならないと思う。相手は戦場で覇を競い武を比べる者ではないが自分では手に負えない怪物だと。


1度目を瞑り思考するのは戦闘に至った経緯だ。


初めは王の気まぐれだったと思う。

魔族も流奴も認めない気風が良い商品の流通を許さなかった。

結果、門前払いをされる商人が増えその噂から国を訪れる者達が激減する事になった。シーズ大森林の街道を魔獣が往来しているとの噂がトドメとなり本来ある筈だった関税や宿泊に使う金が無くなり国として懸念を感じたのだ。

それを認めず矛先を向けたのが目の前の相手、アンリだ。

今だから理解出来きたが敵にしてはならない相手に国軍をぶつけ、そして最も力のある軍が壊滅した。まだ第2騎士団は健在だが奮起した所で戦うことなく逃げると宣言された状況で何が出来るのだろうか。


悔しさから身を震わせ激情に委ね殺したいとも思う。だが拘束された今となってはそれも無理で冷静に考えねば国が滅ぶと理解している事で理性を保っていた。


1度息を吐き、どう答えるかと視線を机に下ろすと目の前に皿が置かれる。

戻る手に視線を向けると声が来た。


「メナスさん。俺は応援すると言ったんだよ?貴方に足りない物も理解しているとも。」

「・・・・・・。」

「無視か・・・では一方的な提案だ。

貴方がこの場で頷くなら流通の停止を年末まで待とう。そして、そしてだ!貴族を丸め込む為の金も用意しよう。」


既にフォークを手に食べ始めてるサラ以外の視線がアンリに集中し応える前に1度深く頷く。


「信用してないようだな。確かに俺は至って普通でか弱く心許ない商人だが金はある。」


リベルトも頷き、


「前半は完全に無視して良いがアンリ殿は3カ国の貿易に影響を及ぼし商品の流通を支配している。

下手な国家に匹敵する金と成長性を手にしていると言えよう。」

「リベルト王は酷い人だね。

まぁ、働いてる魔族への給付があるからそこまでの貯蓄は無いよ。だが商売の手は緩めないからいずれそうなる努力はする。今後可能なら教会に任せたい事業も検討中だしな。」


胸を張るアンリは視線をメナスに向け、


「最終確認をしよう。単純な暗殺では貴方は王に付く立場ではない。

だがクーデターならどうか?民からの信頼も厚い貴方が!裏で貴族達を纏め世論を味方に王へ名乗り上げたなら結果はどうだろうか!?

・・・・・・俺の戦い方を理解した貴方なら2度と今回のような間違いが起きない素晴らしい結果になるのではないかな?」


思考をフルに回すメナスは副長の頷きを見て自身も諦め頷く。


「俺達の負けだ・・・。そちらの提案に乗ろう。」

「最善の判断だ。まぁ、成功したならこれから長い付き合いになるだろうがよろしく頼むよ。」


笑みを作るアンリを改めて危険視したメナスはこの場を忘れないと心に秘めた。

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