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鬼と人と約束と  作者: 敦人
二章 謀略の魔王
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謀略の地

息を切らし走る男がいた。

鎧に傷を受け煤と土で汚れた身体は所々に負傷が見て取れる男は怯え何度も振り返り走りながら丘を越え先程の光景を思い出し身を震わせた。





それは突如として飛来した。

初めに気付いたのは音、空から聞こえる大気を裂く飛翔音に第1騎士団全員が上を見た。

旋回しながら空を舞う影群を視認し、


「なぁ、あれはなんだ?」

「わからんが・・・鳥じゃあないだろう。夜魔族なら捕まえたいな。」

「俺もだ。知り合いがペットにしたいんだとよ。出来るなら愛玩用にエルフも欲しい。」

「エルフは強いらしいが所詮下等な魔族だろう?とはいえ仲間の頼みだ。従順な奴を捕まえたら売ってやるよ。」


下卑た笑い声がそこかしこから起こり、1人が銃を空へ向け発砲した。


「クソ、当たらねえ・・・のか?下からじゃわかんねぇな。」

「ハハハ、下手くそめ。貸してみろ。」


続く動きで別の者達も影に向かい射撃する動きが作られる。

幾重にも音が重なり硝煙の臭いが辺りを包み悪態と笑い声が場を満たした時それは起きた。

食料品が積まれてた荷車付近に何かが落ち、そして爆炎と共に荷車と馬が吹き飛んだのだ。

それに驚いた近くの馬は駆け出し進行先の兵士にぶつかりながら逃げそしてまた別の地でも爆炎があがり四肢が千切れた幾人が空を舞っていた。





悲鳴と爆音が響く地を丘から眺めていたラズは近くで観察したい衝動を抑えながら恍惚とした表情で感嘆の吐息を洩らす。


「あぁ・・・とても良いですね。今度私も火薬を使わせてもらいたいです。捉えた者の口に含めて火を付けたらどのような顔が見れるのでしょうか。」

「ココ、顔は知らんが結果はわかりやすいの。してナードや。竜人共は荷車以外にも落としておるようだがあれは誰の指示かえ?」


ノイルの問に腕を組み視線を逸らしたナードはボソリと、


「部族会議中、儂は寝てたから誰が指揮しておるのか知らんもん。」

「・・・今日も遅刻してましたね。いつもの寝坊ですか?」

「ラズや勘違いするなよ。儂はいつもの様にサボるつもりで温泉に浸かり帰ったら自室の扉が閉ざしたまま溶接されててな。地下迷宮で仕事しておるドワーフ達に扉の付け替えを頼み込んでたら遅くなったのよ。」


ノイルは哀れみの視線を向けて何度か見た戦支度の姿ではない事に気付いた。

武器も無ければ皮鎧はサイズが合ってないのか留め具が外れたままただ着ているだけの姿だった。


「「可哀想・・・。」」

「声を揃えるな!儂だって最近どんどん威厳が無くなっておるから何とかせねばなぁと思い直し面倒だが来たのだ!!!」

「いっその事アンリさんみたいな方針にしたらどうですか?」

「絶っっ対・イ・ヤ・じゃ!

そうならない為に今日こそ部下達に武勇を見せ付け『実は儂って凄い』と思わせると決めておるのだ!!」


ノイルは爆音と炎に包まれる戦場に視線を向け首を傾げる。


「人間があの地で生き残れるのかの?」

「無理ですよね・・・。仕方ないので私かノイルさんと戦いますか?先の丘にはカイネもいますけど?」


戦況を記したメモを手に転移を待つノイルの横でナードは膝から力を失い崩れ落ちた。






手にした火花が散りやすい用加工された火薬容器を持ち旋回していたレウは眼下が赤に包まれ何処に投下すれば良いか迷っていた。

第1騎士団は貴族のみの構成で人数は多くない為投下範囲は狭まり、目標である馬車や荷車は炎に包まれ人と思われる黒い点も固まらず四方に逃げているからだ。


「あ~これはやり過ぎたかも知れません・・・火薬を落とすだけの簡単な作業だったので加減がわかりませんね。」


いえ、と応じたシルトに視線を向けると会釈が返され、


「スラグの貴族を減らす事も目的の1つ。これは効率良く進められたと思うべきです。」

「シルトは前向きですね。ですが第2騎士団が来るまで戦闘を続けていなければアンリさんの思惑と外れますよ?」

「まぁ、そこは演技と勢いで何とか乗り切りましょう。戦利品を漁る振りをして交戦前に手筈通りに逃げればわかりませんって。」


ふむ、と頷き数秒の思案の後に神妙な面持ちで飛翔する竜人族全員に向け声を作る。


「全員降下!ファーストコンタクトはやり過ぎましたがこの際無視して殲滅戦に入ります!逃げている人間共を追いなさい!!」


旋回する竜人族が高度を下げ今尚逃げようと地を這う影に向かった。







応接間内はアンリの言葉を待ち静寂に包まれていた。

転移魔術を使い手にメモを取り出したアンリは文字を追い頷き別の紙にメモを書き転移で送ると咳払いをしてリベルトに視線を向ける。


「大変申し訳ない事だが第1騎士団が駐留していた地を荒らしてしまったようだ。必要なら整地の費用はこちらで負担するから許してほしい。」


言葉に先程言った事が実行されたのだと理解したメナスもリベルトに視線を向け口を開く。


「どういう事だ!貴方は魔族を国内に招き入れたのか!?」

「どういう事も何も国土の通行許可はスラグ王国にのみ出した訳ではない。我が国は双方の国に対して中立を取る事にしただけよ。

これは互いの軍が進軍中に邂逅し戦闘を行わざる得なかったという事だな?」


頷いたアンリはもう一度リベルトに深く頭を下げ礼とし、メナスに向き直る。

実際にはカイネ達が偵察にあたり進軍ルートと時刻を割り出し、隣国のディストラントで行っている河川工事の資材置き場から竜人族達を急行させたのだがそれを認めるのは不都合な為に否定の言葉を作った。


「いや全く俺としても心が痛む事だ。きっと竜人族も不意の遭遇に慌てて戦闘行為に至ったのだろう。」


わざとらしく目を伏せ首を振るアンリと隣で肩を震わせ笑いを堪えるサラを見て、それが予定通り事であったと思うが、追求しても確証がない為に歯を食いしばり睨み口を開いた。


「ヴェルダ達は全滅したのか・・・?」

「多分ね。貴族なら身代金目的に生かしとくって戦法もあるだろうが今回の目的と反するから生かしとく理由がない。」

「目的・・・?」


あぁ、と頷いたアンリはスラグ王国の人口割合が書かれた資料を指差し、


「貴方は運が良い。これはサイモン王の暗殺どころかクーデターを起こしやすくする助力となるだろう。

良いか?貴族の数が減り力を失うなら王の権威は失墜し平民の意見が通りやすくなる事を意味する。」


アンリは頬杖をつき更に地図を指差す。


「そしてこれは仮の話だがもし、第2騎士団が今回の戦場に救援に戻るなら竜人族は驚き戦闘する事なく撤退するだろう。

貴方はそれを功績として皆を奮起させ進軍するといい。

何しろ森前の砦には第2騎士団全員が1週間は維持出来る保存食と水を保管しているからそれを奪い更に功績を重ねてくれ。」

「貴様・・・何を考えている!?」


怒声をあげたメナスは応じるアンリの顔に張り付いた笑みを見て背筋を震わせた。


「なに簡単な事だよ。砦の奪還、魔族の撃退を功績とし、空爆による物資不足を理由に帰還してくれという事だ。

第1騎士団を失うが尚も武勇を示した貴方を国民は歓迎し、王も賞賛と共に迎えるだろう。

その後に英雄足る貴方が息子や近しい者を失い憤る貴族達をまとめ、無茶な戦闘を行った責任を王に問い、国民の総意としてサイモン王に対しクーデターを起こせば丸く収まるのではないかな?」


驚愕に目を見開き思考が追いついてないメナスに時間を与えるために椅子に深く腰を下ろし拍手を送る。


「おめでとう次期スラグ王メナスさん。俺は貴方が玉座に付くことを応援するよ。」

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