会談 ~メナス ③ ~
破壊された机の撤去と新しい机の搬入作業を眺めるファルモットはここまでの現状を思い返しながらアンリと名乗る男に狂気に近い感覚を感じていた。
軍や重要拠点以外を攻める戦いはある。かつては自分もやった事でその効果としては相手の注意を防衛に向けさせ戦況を打開する可能性を秘めている事も知っている。
だが迫る軍を無視して平民に狙いを定める戦い方は聞いたことがない。これはスラグ王国の狙いが魔族の殲滅ではなくアンリであるからこそ出来る事だがそれでもまともな精神では取らない策だろう・・・。
「それを躊躇なくやるかね・・・普通じゃねぇな。」
こぼした呟きにリベルトも頷く。
「まともでないのは確かよ。だからこそ魔王を襲名しておるのじゃろう。」
「まともじゃ出来ねぇって事だな。で、王様はあの男をどう見る?」
「そうよな・・・理性が蒸発気味じゃが賢しい人間よ。あの者の行動次第で多くの国、人が振り回されるであろうな。」
アンリは腕を組みながら椅子を後ろに傾け拘束されたメナスに口を開く。
「予想より短気だな。まぁ先に先に言っておくとこの展開は想定通りで何も問題はないから安心してくれ。」
「始めから手を出させるつもりだったのか!?」
「そうなるな。武具を取り上げた会談に参加してくれる程俺を信用してないだろう?
この先の話は貴方達が容易に頷く話じゃないからその前に無力化しておこうと思ってね。短気は損気。勉強になったね。」
サラに拍手を求めてからハイタッチをして机に改めて資料を広げる。
「さてと、貴方達の目的は俺の命だろうがこの際ハッキリ言っておこう。無理だから諦めた方がいい。
俺はスキルで不意打ちも暗殺も察知出来るし転移魔術を使う魔術師だ。」
椅子の傾きを水平に戻し頬杖をつき、
「刺客を察知し、何処にでも現れ消える俺を殺す事が出来るなら話は別だが・・・食料を止められ時間のない今となっては無理だろ?」
無言を肯定と受け止めたアンリは地図を見えやすい位置に移動させると現在進軍中の土地に駒を置く。
「結論から言うとメナスさんにはサイモン王の暗殺をしてもらう。それをもって停戦協定を結ぼうか。」
「「なっ!?ふざけるな!!!」」
メナスと副長の怒声に肩を竦めつつ、
「口の悪い人だ。安心、真面目を信条に行動している俺がふざけた事など・・・ないよね?」
「「「ずっとだぁっ!!!」」」
全員が示し合わせたように口を揃えアンリは、おぉ、と仰け反る。
「恐ろしい事に誤解されていたようだ。だが安心してくれ、ちゃんとやる。」
アンリの言葉に手をあげ注目を集めたリベルトは目を伏せ、
「儂な・・・お主といる空間で安心を感じた事ないんじゃが?」
「リベルト王は浅慮な方だ。安心とは当たり前にあり認識出来ないものだから当然だろう?日常の有り難みを感じない、それが安らぎというものだよ。」
腕を組みしきりに頷くアンリに全員が視線を逸らす事で無視をする。
イカれた空気になりつつあるな、と思ったメナスは改めて拒否の言葉を口にした。
「サイモン王の暗殺など認められる話では無い!」
「まぁそうだろうね。でも現状を理解しているのかな?そちらの勝利条件は消えた以上どれだけ損害なく済むかを考えるのが長の仕事だろう。
この条件を飲めないならスラグ王国は緩かな衰退の後滅亡するだけで結果は変わらん。もっとも俺はどっちでも良いんだが?」
殺意に満ちた視線に首を傾げ、
「後、前提が間違えてるようだがこれは商談ではなく提案だ。この後俺が行う事を説明するからその後自分で最善を判断すればいい。」
1度伸びをしてから地図のカンラムやマルナに指差し、
「もし貴方達が諦めず侵攻を続けた時の事を教えよう。
俺はカンラムに行き値上げ交渉を終えたら被害が出ないように仲間達に避難を兼ねた休暇を与え森の北側に移動させるつもりだ。
俺自身はサラ達を連れて各国の観光かマルナのリック王に頼み無人島でも借りてバカンスを楽しむよ。」
「貴様には戦う気はないのか!?」
「うん無いよ。そもそも戦わなきゃならない理由がないからね。
ほっとけば帰る貴方達を相手に奮闘する時間があるなら別の事に使うのは当たり前だろ?
各国からの非難があるから必要以上に森を荒らす事も出来ない貴方達は森林浴でも楽しんで帰ると良い。」
顔を紅潮させるメナスに向け溜息をつき頬杖をついたサラは憐れみの視線を向け口を開く。
「アンリはな、負けも逃げる事もなんとも思わない人間なんだよ。相対すれば戦えるなんて思うのが間違いだったな。」
「利益最優先と言ってくれ。現状ではスラグ王国とまともに争う価値がないだけだ。」
まぁ、と続け言葉を探すように視線さ迷わせてから頷く。
「そうは言っても、第1騎士団には壊滅してもらうつもりだ。
ところで話は変わるがファルモットさんは銃を使った事は?」
ファルモットは声にあ?と視線を向け頷く。
「あるがそれがなんだ?」
「では、空飛ぶ鳥を撃ち落とした事はあるかな?」
「ねぇよ。当たる訳ねぇだろ。」
よろしい、と頷いたアンリは転移で取り出した黒い粉の入った小瓶をメナス達に見えるように机に置く。
「俺のいた世界でも飛ぶ鳥相手は散弾銃を使うもので狙撃など運が良くなければまず不可能だ。
で、メナスさんに聞きたいんだが第1騎士団は装備の充実さから貴重品の銃を持ってきているのは知っているんだが飛ぶ鳥・・・いや防護魔術壁を張った竜人を落とせる?」
「無理だろう・・・銃の真価は集団における平地戦にある。そのような曲射をするものではない。」
アンリはうんうん、と頷き笑顔で小瓶を掲げ、
「これは砂糖とかリン石とか混ぜた火薬なんだけど食料や弾薬を運ぶ荷車に落とす事になってるから。」
目を驚愕に見開いたメナスは言葉を作ろうとし思考が追いつかず、え?と疑問を口にする。
貼り付けた笑顔を浮かべるアンリは首を傾げ、
「銃の弱点は弾薬の補充だろう?輸送元を潰して携行してる分を使い切らせたなら杖と変わらんって事だ。
ついでに食料を焼き払えるなら貴方達の帰還が早くなるから得しかない戦法だろう。さぁ拍手プリーズ。」
サラが拍手をしそれに手を挙げ応えてから一礼をし、
「これが先程言ったサイモン王暗殺へのお膳立ての最初だ。この後を話す前に貴方は王に仕えているのか?それとも国に仕えているのか?それをしっかり考えて聞いてくれ。」




