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鬼と人と約束と  作者: 敦人
二章 謀略の魔王
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会談 ~メナス ②~

静寂に包まれた応接間の中心で椅子に腰掛けたままメナスは目の前の男、アンリを見ると頷きが返され椅子を隣の鬼に寄せる動きが追加された。


「ふっふっふ。遂に羨望の眼差しが向けられたな。ならば更に見せつけてやろう!

あぁ、俺は性癖で他人を否定しない主義だから君達も遠慮なく距離を近くするといい。」


メナスは何か言おうとしたが再び場が荒れるだろうと思い無視をする。

腕を机に乗せ身体をサラに寄せつつ楽にさせたアンリは険の表情を浮かべるメナスと副長を交互に見てから書類を取り出した。

同様に腕を机に乗せたメナスは表情を変えずに思う。


先程からの言動と事前に得ていた情報から相手は頭がおかしい系の人間である事は承知していたし実感もした。

だがそれでも今の発言は聞き流す訳にはいかない事で、真意を確認しなければ重大な事になるかもしれんな・・・。


思考を纏めつつまずは確認の言葉を作る事にした。


「よくわからないな・・・まだ開戦してない戦いが終わっているとはどういう事かな?

それも俺達が負けていると決めるのは冗談としてでも言葉選びが足りないと思うのだか?」


その言葉に反応したかのようにサラが肩を震わせながら笑い、口を開いた。


「ハハハ、まだ始まってないだとよ。お前ら進軍してきてるんだろ?

クク、他国の領土に遊びに来ているだけ、なんて言わないだろうな。」

「笑い過ぎだぞ。とはいえ俺も同意見だがな。

まさかとは思うがお互い布陣してヨーイドンで始まる遊びかスポーツみたいなものが開戦なんて思ってないだろ?

それなら俺達が受けないなら帰ってくれるって事になるしな。」


背もたれに重心を移したアンリは続ける。


「貴方達が軍備を整え始めた時から俺達も準備はしていたし、行動を考えた時が始まりと捉えていたが間違っていたかな?」


眉を顰めたメナスは1度目を閉じそして気持ちを切り替え剣の柄に手を掛けた。


「失礼した。既に開戦している、それで間違いないが重ねて確認だ。

この場もまた戦場と捉えて良いという事だな?」

「勿論だとも。とはいえ剣を振るわれる前に警告をしとこうか、俺の剣はこちらのサラだ。その際の対応は一任しているから行動はよく考えてくれ。」


メナス達は視線を隣に向け、端正な顔に似合わぬ獰猛な笑みを浮かべる鬼を確認し、アンリに視線を戻し柄から手を離す。


「・・・・・・勝敗が着いているという点は?」

「うん、理解を早める為に書類を読んでもらった後に話そうか。」







スラグ王国の軍が上げる砂煙を眺める丘の上でカイネとフランは転移されてきたメモを確認すると伸びをして進軍に背を向けた。

2人はメナス、ヴェルダが会談に来なかった際に教会からの使者に扮して近づきフランのスキルで拉致をする為に来ていたがそれが不要となり近場の村へ歩を進める。

1度振り返ったカイネは口端を上げ、


「クク、ヴェルダは今日で死ぬ事が確定したな。馬鹿な奴だ。」

「神に愛され過ぎたのでしょう。スラグ教会が葬儀を執り行うなら祝花を送っておきますか?」

「馬鹿に使う金はない。ほっとけ。」


笑顔で頷いたフランは足取り軽くカイネを追い抜かし身を回す事で振り返り丘下の村を指差す。


「では暇なのでアンリさんからの合図まで酒場で時間潰ししますか?」

「確か滞在費は経費だったよな・・・。良し!高い酒をのみまくるぞ。」


2人はハイタッチをし丘を急いで下り酒場を目指した。






メナスと副長は貿易協定が記された紙やスラグ王国内の産業と輸出入のデータ、そして地図へと視線を移し、読み終えると全身に冷汗を浮かべる。

1度身震いをしてから視線を上げると声が来た。


「さてと、正しく理解しているかの確認として言葉にしよう。

俺は貿易協定を通じてスラグ王国を囲む4つの国の内マルナ、ディストラント、クランの国の商業ルートを握っている。

残すはカンラムだけだが残念な事に時間が足りず参加の打診は取れていない。

とはいえ、経済的そして食料の流通ルートの締め付けとしてはこれでも充分だろうが・・・。」


地図のスラグからカンラムには通じる道に印を付けつつある契約書を取り出す。

それはクラシスを雇った際の未払いが書かれたものだ。


「まぁ、これのおかげで俺の身分はギルドマスターが保証してくれるからダメ押しとして会談後にでもカンラムに行き、商業組合にスラグへ輸出する食料品の値上げを提言しておこう。

君達の国の食料自給率では食糧危機に見舞われるだろうからいくら高くても買うしかないもんな。」


ハハハ、と笑いそして質問は?と問う。


「なめるなよ商人・・・我が国にも数年分の食料の備蓄はある。この程度で降伏すると思うな!」

「おぉ、素晴らしい。まぁ俺はどっちでも良いんだけどね。」


メナスは気軽な言葉に歯を噛み締め睨むが肩を竦めたアンリは手をヒラヒラさせ、


「スラグからの兵糧が届かなくなる貴方達は適当にやり過ごせば帰るだろう?それに今回の件を恩としてカンラムの商業組合に取り入り向こうで新たな販売ルートを増やせると思えば悪くない取引だ。

それと強気なのは結構だがメナスさんの想定より早く餓死者はでるよ。何しろ暇な魔族をスラグ国内の農業地帯や主要な陸路で暴れされる予定だ。」


言葉を受け机に拳を叩きつけ立ち上がったメナスは怒声をあげる。


「貴様・・・正気か!?何万、いやそれ以上の民が死ぬと理解してるのか!?」

「勿論理解しているし正気だとも。逆に問いたいが被害者の俺が一方的に攻めて来る敵国に考慮すると思ってるのか?」


アンリは肘を付き、組んだ指に顎を乗せた姿勢になり続ける。


「誤解無いように言うなら戦争とはつまるところ我を押し通し欲する物を得るビジネスの場であり、君達が兵と剣、魔術で進めようとしたように俺は金と条約で優位性を得ただけの事だよ。

とはいえメナスさん次第で停戦協定を結んでも構わないが?」


アンリの言葉への返答は行動で返された。

メナスは机を前に押しだしアンリとサラが椅子との間に挟まれる形を作りつつ自身の間には剣を振るう為に距離を作る。

金属が擦れる音は一瞬、アンリの首を薙ぐ為に振るった剣は突如起き上がった机に阻まれた。



サラが蹴り上げた机は剣を噛んだまま天井にぶつかりそして地に落ち砕ける音を響かせた。

護衛兵達が慌ただしく駆け込んで来るのと同時にサラは立ち上がりアンリとメナス達の間で肩を回す。


「話は終わったようだが殺して良いのか?」

「うーん駄目かな。まだ話はあるからメナスさんも副長さんも落ち着いてくれよ。

俺に傷1つ付けたなら停戦協定は結べなくなる、そうだよなリベルト王?」


ファルモットに椅子ごと引かれ体勢を前のめりにしていたリベルトは咳き込みながら頷く。


「そうじゃな。それに儂が取り持ったこの場で魔族の王であるアンリ殿を害するなど認められる事ではない。」

「だ、そうだ。俺の首はスラグ王国の衰退を意味している事を理解して行動してくれ。」


メナス達は護衛兵に囲まれつつある現状と言葉の意味を理解し忌々しい気持ちを抑え剣を手放した。

拘束される2人を背に書類を拾い集めたアンリは手を叩き、


「替えの机が来たら会談を再開しよう。あぁ勿論壊した机は弁償するから心配しないでくれ。」

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