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鬼と人と約束と  作者: 敦人
二章 謀略の魔王
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会談 ~メナス ①~

クラン公国内、城下町は不穏な空気に包まれていた。

先日にあった戦いの影響、そして森へ進軍するスラグ王国の兵達の情報による為が話題の大半を占めている。

王の許可の下進んでいる軍の規模は自国の軍を上回り行軍を見た者からの不安を煽る噂話が街全体を包んでいた。

それらの報告を受けつつ民の安静に奔走していたグレイグは疲れた顔で軽食屋の椅子に座り外へ視線を向けた。


「メナス卿が到着したそうだ。夕刻にも会談が始まるとの事だがどう思う?」


問いは対面の席に足を伸ばした姿勢で天井を眺めているファルモットに向けられたものであり、思案を終え視線を同じくすると頬杖を付き口を開く。


「変な商人の影響で王様最近元気だからなぁ。団長は見たか?あの車輪の付いた椅子。」

「あぁ、あのふざけた商人から贈られた車椅子とかいうやつだろう。

昔のように活動的になったと古参の者達は泣いて喜んでいるそうだが・・・庭師は別の意味で泣いていたな。」

「整地した側から王様が爆走しながら荒らしているんだからそうなるだろうよ。可哀想な話だ。」


項垂れ机に伸びたグレイグは視線だけファルモットに向け、


「伏せっていた時よりはマシとしよう。それより傷はどうだ?」

「問題ないぜ。今回の会談に参加しろって事は外交官として魔族の領域に潜入するのは俺か?」

「そうだ。並の者では出来ない重要な任務だからこそ任せたい。今回の場で商人・・・いや、魔王アンリがどのような者か知る機会にしてくれ。」


頬を掻き腕組みをしたファルモットは思う。

外交官として行くのは良い。団長が腕利きを集め実戦で力を試していた事は知ってるから共に行く者にも不安はないし前回の戦いで魔族に興味が増したのも事実だ。

だが、この国を空ける事に不安があり、万一の際森から動く事が出来ないのでは?と思うと容易に頷く事は出来ないでいた。

それを感じたのか苦笑したグレイグは身体を起こし再び外へ視線を向ける。


「俺はこの国が好きだ。生まれ育った事もあるがいつも賑やかで栄え続ける姿に活力を得ていた。

それが脅かされ、そして今転機がある・・・それを良い方向にする為には最も信頼の置ける者に任せたい。」


頬を掻き向き直り頭を下げ、


「頼りなく不足の多い俺だが信じてくれないか?この国の為に尽力してみせる。」

「俺はいつも団長を信じてる。だから今回の決定も間違いないだろうさ。

前回、なんの手柄も挙げれなかった俺が何を出来るかわかんねぇが任せてくれ。」


苦笑し合う2人は会談までの時間を外交官としての行動を煮詰める話し合いに入った。








クラン公国城内、正門を潜ったメナスと副長は片付けが終わりつつあるが荒らされた中庭を進む。

未だ戦闘の痕を残す場を見渡し、初めからアンリとリベルトが共謀し自軍を誘い出そうとしていたのでは?という懸念が解消された事に安堵の吐息を洩らし先導する兵に向け口を開く。


「激闘・・・それがこの場で起きたのだな。」

「いえ、お恥ずかしい事ですが私共の軍は鬼1人に圧倒されました。力不足を嘆くばかりです。」

「鬼か・・・。噂は聞いてはいたが本物という事か。礼を言う、その情報だけでも来たかいがあった。」


恐縮です。と兵が頭を下げそして先を示す。


「こちらが王の居住区である西館です。従者を呼んで来ますので貴賓室でお寛ぎ下さい。」


会釈を返し城内から来た従者に案内された部屋に入り荷物を置いてから副長と共に椅子に座る。


「敵の戦力が少しですがわかりましたね。」

「あぁ、鬼相手に直接はぶつかれまい。相手をするなら何か戦略を考えねばな・・・。」


地図を開くと進軍中の位置に駒を置き、森の中心を仮定だが相手の本陣とした駒を置く。

そこに現在判明している魔族の種類を記したメモを並べ思案と共に頷く。


「土蜘蛛、エルフが厄介だな。共に森での戦いを得意としている以上平地に誘い出したい所だが・・・。」

「防衛戦に徹するなら出てこないのでは?今回の会談を受けた見返りとして戦場の指定をするなら可能かも知れませんが。」

「リベルト王にも許可が必要な事だが考慮しておこう。」


手元の紙にメモをし、


「だが・・・鬼の対策にはなるまい。何か案はあるか?」

「やはり相手しないのが得策かと。最小の戦力で足止めをし、その間に軍を進めるしかないでしょう。

ですがこれは第1騎士団との連携も必須になります。」

「戻り次第、情報の共有を兼ねた軍議を開く事を申請しよう。」


会談の時間まで地図上の駒を使った模擬戦を幾度か行いつつ互いに意見を交わしていく。







陽が傾いた頃、城内のある部屋を囲むように警護兵がいた。扉前、両隣の部屋にも兵がおり、外にも窓が見える範囲で配置されている。

異常といえる警護体制を敷く理由は集った面子によるものだ。


会談用に手を加えた応接間で椅子に座るリベルトの背後でファルモットは既に椅子に座り相手を待つメナスを見る。


幾度も死線を潜った者が持つ雰囲気があり、佇まいに隙がない。装備も自身の持つ物より格段に上物を身に纏いつつ身体の一部となるよう使い込まれていた。

それらを確認しつつ、何か不測の事態の際には如何に王を守るかを思案していると扉が叩かれ開かれた。





全員の視線が自身に向けられている事に一瞬怯んだアンリは周囲を見渡し横のサラに視線を合わせてからふむ、と頷く。


「俺たちだけカップルか・・・なんという優越感!さぁ羨望の眼差しをプリーズ!!」


静寂が生まれ扉が閉まる音とともに頬を掻いたリベルトが咳払いと共に手を挙げ、


「儂は既婚者だから・・・パスで。」

「俺達もだ。」


メナスと副長も同意し全員の視線がファルモットに集まる。

それに応えず視線を逸らしたファルモットにアンリは頷き、


「安心したまえ。そんな君を可哀想とは思わない・・・よ?」

「てめぇぶっ殺すぞ!?」


ファルモットが怒声を飛ばし逃げたアンリを追いかけるやり取りを眺めるメナスは溜息をつきつつ警戒を対面に座り笑っている女に向け思う。


こいつが鬼だな・・・身に纏う雰囲気が人のそれから外れている。


ラルフから聞いたギルドマスターとの戦闘情報を思い出しながら会談内容次第では剣による応対も考えねばな、と決め咳払いと共にリベルトに視線を向けた。


「そろそろ始めてもよろしいですか?」


リベルトは頷き、壁際に追い詰められ両手を挙げて降参している商人と襟首を掴み揺さぶるファルモットに向け、


「その辺にしておけ、アンリ殿は一応客人だ。」


舌打ちをし離れたファルモットを避けサラの隣に避難したアンリは呼吸を整え肩を竦めると溜息混じりに言葉を作る。


「これが男の嫉妬・・・身体がガタガタ震えるな。」

「リベルト王・・・こいつ斬ってもいいよな?いいだろ?」

「気持ちはわかるが駄目じゃ。見えない所で小突く位にしておくように。」


頷きアンリの肩に手を置いたファルモットは扉を示し、


「ちょっと散歩行こうか?」

「・・・俺は今から会談だから1人で行ってらっしゃい。ついでに何か飲み物でも用意してくれると助かるよ。」


青筋を浮かべたファルモットが全身で怒りを表現する横で勝ち誇ったアンリは胸を張りメナス達に向き直り笑みと共に口を開く。


「貴方達の敗北をこの場で教えてやろう。」


部屋の空気が張り詰める中アンリの勝利宣言から会談が始まった。

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