画策 ④
厨房内でリルトと共に調理していたアンリは手を止め振り返る。
既に机に座り食事待ちの姿勢で机を囲むサラ、プラタ、ラズ、フラン、ノイルに向け疑問を言葉にした。
「ヴェルダが会談に来ない確率はどの程度と予測しているんだ?」
「そうよな・・・3割程度が妥当かの。」
「3割か。面倒な数字だな。」
ノイルの答えに思考を働かせながら視線を戻し調理を再開した。
マルナから試作目的で取り寄せたエビとイカを脂とニンニクの葉と共に炒め生米を投入し全体に火を入れた所でエビの殻から取ったスープを加え、サフランで色を付ける。
汁を飛ばす為に石窯に入れてメモをしているリルトに任せ机に振り返り、
「その時はプランBを改良して対応しよう。」
「プランB?他にも考えていたのか?」
疑問の声を作るサラに頷き、
「思うようにならないのが人生だからな。最善でなくとも近い結果になる策は他にも用意してあるさ。」
手に転移させた資料を取り出し整理するとそれを机に広げ全員に見えるようにする。
「ヴェルダが会談に来てくれるなら貿易協定の加盟を餌に利権を集中させ王へのクーデターを起こさせるつもりだったがメナス相手では無理だろう。」
「そうですね。堅物と聞いていますよ。」
「なら、この手しかないな。少し準備が増えるが最終的な結論は変わらないと思うがどうだ?」
資料を読み終えたプラタは頭を抱えるように項垂れ資料を隣のノイルに見えやすいようにずらす。
「相変わらず外道だな。まともな戦いをする気は無いのか?」
「無い!そんな暇も、余裕もある訳無いだろう。俺は忙しいんだ。」
「ココ、忙しいを理由に行う手段としては手がかかるのう。
これは損害は少なそうな策じゃから本音はそちらかえ? 」
ノイルの言葉に動きを止めたアンリは頷きで応え、
「知り合いや仲間が死ねば悲しいからな。
直接ぶつかるよりは何倍もマシな策とはいえメナスには恨まれるだろうな。」
「ココ、些事よ、些事。戦いとはそういうもの故気にする事はない。」
そうだな、と頷きリルトが石窯から取り出した鉄鍋を机に置くのを手伝いながら気持ちを切り替えた。
「簡単な作りだがパエリアだ。具材と出汁で変化が利く料理だから試してみてくれ。」
一礼し机から離れたリルトはメモを片手にアンリを見上げ、
「前回は兎肉と骨の出汁を使ったものでしたね。あれも美味しかったですが味が違うのに同じ名前の料理何ですね。」
「調理過程が同じだからな。似た料理にピラフがあるから今度教えてあげるよ。」
笑顔で頷いたリルトと共に席に付き食事を始めた。
ディストラント郊外の川の工事は佳境に入りつつあり、現場監督役のガイアスは図面を眺めながら出来栄えに満足していた。
オーダー通り橋は木造で作り、氾濫の恐れがないように頑強かつ高めの壁で川を囲っている。
水路作りも終え、城下町への供給も試験的だが行い今のところ問題がない事も確認していた。
確認と見回りに来ていたサムトは騎士団を待機させガイアスの横まで歩を進める。
「調子はどうですか?」
「順調順調。来月には終わりそうだな。ガハハ。」
「有難い事です。治水、利水の知識が乏しい我が国に取ってアンリ殿の提案でどれだけ救われただろうか。」
作業をしている魔族を眺めながら頷き、そしてガイアスに向き直る。
「ガイアス殿はこの工事が終わったらどうするのですか?確かドワーフ族の住処は西の森と聞いていますが帰られるのですか?」
「まだまだアンリさんが寄越した仕事があるから帰れねぇなぁ。
いっそ家族を連れ城塞都市に引っ越そうかなんても考えてるんだが・・・簡単には出来ない事だからなぁ。」
ガイアスの頬を掻きながらの言葉にサムトは首を傾げ、
「勉強不足で申し訳ないのですが何か問題でも?」
「あぁ・・・引越しには魔王様の許可が欲しいんだよ。ほら、勝手気ままだと勢力図が変わっちまうだろう?
出稼ぎならまだしも引っ越すならフェミナ様にお願いしなくちゃならないんだが・・・あの人怖いからなぁ。」
サムトは記憶を頼りにフェミナと名乗る魔王を思い出そうとしてそして眉を顰める。
「エミルやキースは人前に姿を現す事もあると聞いていますが・・・フェミナは殆ど記録にないような・・・。」
「あの人は領土から出る事自体が殆どないからだな。一応話せば聞いてくれる人らしいが雰囲気があり過ぎて俺達みたいなのが声を掛けれる方じゃねえのよ。」
ガハハと笑うガイアスに同意するようにサムトは頷き視線を再び工事に向けた。
食事後、片付けを終えたアンリは机でゆっくりお茶を啜るラズに向き直り口を開く。
「悪いけど落ち着いたら砦まで行ってもらいたい。スラグの兵が来るまで半月程はあるだろうからそれまでにあの地の下見とプランA、Bが可能かの確認をして欲しい。」
「どちらにも共通する撤退路の確保という事ですね。竜人族への説明はどうしますか?」
アンリはふむ、と頷きサラには視線を向け、
「レウに伝言役をやってもらえるか聞いてくれるか?
サラの頼みなら断らないと思うんだが・・・。」
「任せとけ。資料を渡すだけで良いのか?」
「うん。後はサラからサボり魔のナードに向けた激励の脅し文句も伝えてもらってくれ。」
ハハハ、と笑ったサラはラズと額を付き合わせより良い脅し文句を考え始めた。
「これでとりあえずは相手待ちっと。
後は外交館の建設と教会関係の仕事を終わらせたいんだが・・・フランは何をしているんだ?」
部屋をウロチョロしながら家財を物色していたフランはピタリと動きを止め頷く。
「神が望むまま行動していますが何か?」
「・・・フラン?正直に教えてくれるなら俺の分のデザートをあげよう。」
リルトが用意しているプリンを示すと僅かに狼狽えそして数秒の葛藤の後その程度では揺らがない決意を込めた目が返ってきた。
アンリはそれに頷き、視線を共に来たノイルに向ける。
「ノイルはどうだ?」
「ココ、良い提案よなのったわ。
そやつはカイネに頼まれ空調魔具を狙っておる。」
フランが恨めしげに睨むのを受け流すノイルは手元に来た2つのプリンに匙を向けると再び笑い、
「意地の張りどころを間違えた主が悪い。妾はラッキーよ。」
「まぁ、カイネには頼みたい事もあるから空調魔具ならあげるよ。」
「・・・本当ですか?」
アンリは頷き、
「寝室に置いてあるんだが部屋が涼しいとサラが薄着で寝なくなるかもしれん。それは・・・困るよね?」
「アンリさんは誰に同意を求めているんですか?」
ラズの言葉に首を傾げながら椅子に座ると外交館関係の資料を片手にお茶を1口啜り、
「全員にだけど・・・いや、待って。めちゃくちゃ寒くしたら今以上に抱き合うように寝れるのかな?そこら辺どうなんだろう。」
「・・・どうなんですかサラ様?殴っとくなら私がやりますが。」
プラタの言葉に手を翳す事で止めたサラはプリンを口に運び首を傾げ、
「冬の支度になるだけのような気がするからやめろ。」
「そっか、ならどうするのが最善なのか・・・。
思う通りの理想とは難しいものだね。」
深く思案するアンリを背にフランは忍び足で3階の寝室へ向かった。




