停戦協定 ~クラン公国~
夜の闇に包まれている廊下を壁際に掛けられた灯りを頼りに足元に影と同化したロイズを連れアンリはカイネと並び歩いている。
背後に振り返り今出た扉に視線を向けていると声が来た。
「後はノイルに任せとけ。お前の前では猫かぶってるが知暴兼ね備えた化物だ。」
「そうだな・・・。サラも心配だし迎えに行くとするか。」
前を振り向き手にしたリベルト王が印したの停戦協定書を1度確かめ歩を進める。
「それにしてもいいタイミングで来てくれたな。あと1手押すか迷ってたんだがカイネのおかげで折れてくれた。」
「クク、それは何よりだな。神も喜んでいるだろう。
で、成果としては満足いくものだったのか?」
「あぁ、時間は足りなかったから7割って所だけど後はこっちでなんとか出来る範囲だ。
これでサイモン王の崩御は確定したと言っていい。」
口笛を吹き笑みを浮かべたカイネは階段を降りながら頷く。
「なら後はスラグの馬鹿共の動き待ちだな。」
「そうだな、一応リベルト王に頼んで会談の用意をして貰おうとは思ってるけどね。」
2人は笑いながら階段を降りきり1階に辿り着く。
数歩歩んだ所で足を止めたアンリは壁に背を付け荒く息を吐き睨むグレイグに目を止め、
「グレイグ団長か・・・生きてるようで何よりだ。
丁度良いからサラの相手を止めるのを手伝ってもらおうか。」
「今後に役立つかと思って生かしといたが早速出番とは神の思し召しだな。」
カイネの言葉に首を傾げたアンリは回復魔術式を翳しながら停戦協定の説明を続ける。
「俺達の用事はだいたいが終わったから帰るんだけど外での戦闘を止めたくてね。
サラ・・・鬼の名前だ。は俺が止めるから貴方には騎士団達を止めて欲しい。OK?」
「ふざけるな・・・。良いようにやられて協力すると思っているのか!?」
怒声に身を竦ませたアンリは拳を鳴らしながら歩み寄るカイネを止め手にした書類を差し出した。
「停戦協定は済んでいるんだけどな。
何より貴方が今すぐ協力してくれるなら助かる命もあるだろう。」
言葉と同時に床に転移魔術式を描き取り出したのは台車付きの木箱で蓋を開け中の中級回復薬を見えるようにした。
「これはプレゼントだ。外で生きている者に届けてやると良い。
それでも納得してくれないなら貴方を人質に話し合いの場を設ける事になるがどちらが得か考える時間は必要かな? 」
荒れ果てた東側の城にある中庭は鑑賞樹が引き抜かれ、噴水や通路が破壊され、中央付近にあったテラスや囲む壁は崩れ至る所に赤い染みと倒れる者達の姿がある。
それらの原因である鬼を取り囲み戦闘を続けていた騎士団達は意図せぬ轟音を聞き視線を向け歩み寄る3つの人影に気付いた。
カイネはリボルバーを拡散にし空に放つ事で全員の注意がこちらに向いた事を確認し台車を押すグレイグを先に向かわせた。
「アンリは少し待て、私がサラを連れてくる。警戒は怠るなよ。」
「俺のスキルの前に不意打ちが出来る奴がいるか?」
「クク、そうだったな。ならウロチョロしないで座ってろ。」
カイネの背を見送り改めて周囲を見渡したアンリは溜息をついた。
「やり過ぎないようにって言ったんだけどな・・・。」
何度か角度を変えつつ視線を周囲に回したアンリは限りなく目を細めそして頷く。
「これはこれで趣きがあると、そう解釈すれば良いか。」
視線を前に戻すと兵達が回復薬を手に負傷者の下へ走り、その動きが乱れる中心からサラとカイネが談笑しながら歩いてくる。
「お疲れ、楽しめたか?」
「ん~まぁまぁだな。正攻法過ぎて捻りがなかったな。」
そっか、と呟き立ち上がったアンリはサラに身を寄せ怪我の有無を確認し頷く。
「俺は治療を手伝ってくるけど2人はどうする?」
「アンリの護衛は私がするからサラはシャワーでも浴びて着替えて来い。西側1階の左側通路の端が風呂場だ。着替えは持ってるか?」
返り血に濡れた衣服を確認したサラは首を横に振りアンリを見ると湯浴みセットが差し出されていた。
「用意が良いな。助かるよ。」
「それ位しか出来ないからな。護衛というか覗き防止はロイズに頼むよ。何かあればサラを頼ってくれ。」
影が隆起し人型になると同時に頬を掻いたロイズは困ったように口を開く。
「アンリさん。それでは本末転倒では?」
「気にするな。どの道人手が足りないから贅沢は言えん。」
ハハ、と笑ったサラはロイズの肩を叩き先を城を示す。
「行くぞ。この時間なら湯は沸かしてないし水浴びなら直ぐに済む。アンリもまた後でな。」
「行ってらっしゃい。後で武勇伝でも聞かしてくれよ。」
2人を見送り負傷者の治療に向かった。
書類にサインをし終わったリベルトは眠気を払う為に伸びをし従者が差し出した水を口に含んだ。
商談が全て終わり外からの戦闘音が聞こえなくなった部屋で対面に座り笑みを作るノイルに視線を向ける。
「これで全てだな?損害は大きいが利益の見込める話であった。」
「ココ、こちらも利益が確約される内容であったわ。損害については力で押し通そうとした代償として受け入れてくれるかえ?」
仕方なさげに目を伏せたリベルトは納得の為に数秒の時間を置き頷く。
「儂らが負けそちらが勝った。賠償金の話がなかっただけ良いとする。」
「それが正解よ。妾達は共に歩む事を望んでおる。妾達の王、アンリがその方針故な。」
「あの奇人か・・・失礼だがあれは頭の病気なのか?」
ココ、と笑い否定の為に手を横に振ったノイルは背もたれに身を預け、
「先も言ったがあれが普通で今日はまだ大人しい方よ。比較的まともと言えるな。
妾の時は脅しから始まり横になりながら進め、最後は酔っ払いになっておったわ。」
リベルトが哀れみの視線を向けると同時に扉が開き頭を下げたグレイグと疲れた顔のアンリが入室した。
サラに後ろから身体を支えられ更に歩を進めたアンリは幻影族の2人から会談内容を纏めた書類を受け取りリベルトと従者、そしてグレイグの順に視線を動かし、
「回復魔術使い過ぎて今日は転移出来なくなっちゃったから部屋貸してくれ。とりあえず寝たい。」
「「「・・・・・・。」」」
沈黙を受け止めたアンリは肩を竦め唇を尖らせるとベッドを指差し、
「貸してくれないならここで寝るぞ。良いのか?今なら王様相手でも容赦しない程度に睡魔の限界だ。」
「・・・下の階の部屋を使う事を許す。明日細かい事を決め全ての精算としたい。良いか?」
アンリは頷き、サラの背にしがみつきおんぶ体勢に入り1度振り返る。
促しに応えノイル達が立ち上がり歩を進めたのを確認してからリベルトに会釈を送り、
「じゃあおやすみなさい。良い夜を。出来ればサラの為に朝食は肉料理をお願いします。」
扉を潜った背を見送ったリベルトは項垂れながら、
「明日は朝から胃がもたれるな・・・。」
「薬を用意しておきます。」
「あの・・・騎士団、護衛団の被害状況の報告よろしいですか?」
リベルトはやつれた顔のグレイグから報告を聞きながら今後を考えると臣下を集め夜通しの会議を始めた。




