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鬼と人と約束と  作者: 敦人
二章 謀略の魔王
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商談 ~クラン公国 ③~

緊張の表情を浮かべたリベルトは大きく息を吐きそして机に肘を乗せ前のめりに身構えた。

場合によっては交渉の破棄による戦争すら起こり得る話だからこそ判断を間違えない様にしなければと思う。


対するアンリは笑みを止め会釈を返し資料に目を落としながら思考する。

文明の加速化を表に出さず、流奴を集める方法として交易による積み重ねの信頼を持つクラン公国に目をつけたのはいい判断だと思うが同時に教会関係の雑務をこなして行かなくてはならない。

それを思い前提の確認を口にした。


「最終的な終着点の確認だが流奴に人権を与え全面解放、これは現実的ではない。

恐らくどの国も反対するし、可能になったとしても諍いは必ず起こるだろう。」

「そうだな。人と魔族が争うように異世界から来た思考も文化も違う者達を受け入れる事は簡単ではない。」

「ならば資格なり条件付きで段階的に受け入れる形が望ましいと思う。

クラシスさんをモデルケースにしてみたらどうだろう?」


ふむ、頷いたリベルトはギルドマスターの経歴を思い出す。

多くの戦いを歴て功績を上げた故に市民権を得た傑物だったなと思い1つの懸念を口にした。


「終着点と言うなら多くの流奴は帰還望んでおる。現状その方法はわからないが帰順では納得しないだろう。」

「帰還方法を知ってる奴はいるが・・・なんでそんなに帰りたいんだ?面倒しかないと思うんだが。」


全員が首を傾げたのに疑問を感じながらアンリは続ける。


「帰った所で今迄通りの生活が出来るわけないじゃないか。

良いか?行方不明者の発見は大事になる。不明期間が長ければ犯罪に巻き込まれたかの調査や厄介な病気の検査を初めとした国の介入を招きその際の調書で異世界行ってきました何て言えば良くて精神病扱いだ。」

「・・・良くて?なら悪かったら?」


従者の疑問に視線を合わせたアンリは頷き、


「王としての立場から気付いた事だがそれを真っ当に取り扱うなら如何なる手を使っても異世界へのルートを確立させるだろう。

何しろ自国に未発見の土地、いや世界への道があるならそれは地下資源から産物などだけでも莫大な富を生む可能性を秘めている。

帰還者を待つのは尋問と今後の調査協力を名目にした拘留で社会復帰など出来る筈がない。」


全員がそれを想像して目を逸らすがアンリは肩を竦め、


「現実は利益を生む可能性の前には酷なものだよ。

例え愛する家族に会いたくても国相手の事業を前に認められると思うか?

そして仮にその件が公になったとしても国として動く建前は更なる行方不明者の捜索、それだけで世論を黙らせ人道的な行為として行動出来るのだから誰でもそうするだろう。」

「つまり貴方の結論は・・・。」

「帰化までだ。だからこそ彼等の教育施設をこの国に必要としている。

当然そこで帰還した際のリスクを説明して出来るだけ諦めてもらうようにしたい。」


リベルトの手元の資料に記された土地は城下町の西側の空き地であり、そこの買取り許可が添付されていた。


「許可を頂けるならそこで学ぶ者はある程度の画一性が生まれ、兵でも農業でも1から教える事無く運用出来るとあれば各国からの依頼はある筈だ。

そこで指導する教員を新たな雇用とし、更に各国から授業料を取るならこの国を潤す助けにもなる。

流奴達としても学ぶ機会を得る事で自らの得手を理解し、適切な職場で活躍出来る可能性が高くなると思うんだが。」


アンリの説明を横目で見ているノイルは小さく頷き口元の笑みを隠す為に手で覆う。


呪いにより常識の境を消された事は聞いておったがそれをふまえても先ほどの奇行と違い過ぎる人間よ。


だからこそ依然、興味が尽きぬと思い商談のサポートの為に一枚の資料を差し出す。


「そちらの許可次第じゃが魔族との相互理解を兼ね森への課外授業も準備するつもりよ。

今までにない新たな情報を得る場は何処の国も求める事であろう?」


リベルトは脳が焼けるのでは?と思える程思考を回していた。


この話を停戦協定前にしているのはまともな会談では取り扱って貰えない事を理解しているからだろう・・・。

確かに利益の多い話だが、だからこそ判断を誤る訳にはいかないと思い1度呼吸をし脳に酸素を送りこむと目眩を感じる。


「・・・いかん、久しぶりに考え過ぎて気持ち悪くなってきた。」


机に体重を掛けつつ見たアンリは頷く。


「体調には気をつけた方が良いよ。ストレス無く、早く寝るのがオススメだ。お肌にも良いしね。」


従者と2人でお前がやって来たからそれが出来なくなったんだよ、と恨めしげに見るが肩を竦めたアンリは追加の資料を差し出した。


「吐くなら部屋の隅でお願いします。

続けるが建設費用はこちらで受け持つよ。委託する業者もこの国の職人に任せるけど可能な限り流奴を雇い、教会の旗を掲げてくれ。」


青筋を浮かべ深呼吸を繰り返すリベルトを休憩させる為に従者が頷き言葉を返した。


「教会・・・?貴方の事業では無いのですか?」

「工事関係は教会の旗を掲げる約束なんだ。勿論この事業は教会からの許可も得ている。

クラン公国が認めたなら、の条件付きだが各国にも宣伝をしてもらう手筈だ。」


困惑しながら言葉を探す従者の肩を叩き持ち直したリベルトは大きく息を吐き対面を見据え口を開いた。


「人権等を認める条件を聞いてなかったな。案はあるのだろう?」

「顔色悪いぞ。俺達優位に進めるから寝てた方が良くないか?」

「それを聞いて寝てられるかっ!!」

「それだけ元気なら大丈夫だな。まぁ条件はわかりやすく国が認める功績を挙げるか勤務年数もしくは市民権の販売でどうだ?

現状を調べた限り彼等の多くは長時間労働に加え先の見えない不安から自殺が多い。続くのが戦闘による死者と病死だな。」


リベルトの頷きを待ってから続ける。


「短期間で死なれては教会への寄付金を考えるとコストパフォーマンスが悪いだろう。

労働環境を整え適材適所への配置をする事で経験を積み国に利益をもたらす者が生まれ、その者達はこの国に帰化する。

先に交わした貿易協定に与する国内のみ認められる市民権なら人材の流出もある程度防げて世間体も保てると思うがどうかな?」


リベルトは頭痛を堪えるように頭を抱え待ったをかける。


ふざけてばかりの狂人と思っていたが判断を誤っていた・・・。これはいかん、深く考える前に儂頷いちゃいそう。


チラリと見たアンリは九尾の耳を触ろうとして腕を掴まれた所だった。


マジでわからんぞ・・・。やっぱりただのイカレかも知れん。信じていいのか?


コホンと咳払いが聞こえ見ると腕を払い除けたノイルが笑みを浮かべ部屋の入口を指差すと同時に扉が開き血に濡れた衛兵が投げ込まれる。

続くように扉を潜ったカイネは腰に手を当て首を傾げ、


「なんだ、まだ終わってなかったのか?モタモタしてるとサラを相手してる奴ら全滅するぞ。」


言葉と同時に地を揺るがす音が届いた。

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