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鬼と人と約束と  作者: 敦人
一章 獣人族の侵攻
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準備

空は青く雲1つない快晴、陽の光が森を照らし地に木漏れ日を落とす森を村で借りた荷車を引きながら小屋へ向かっていた。

荷車には乾物や植物油、木枠に瓶などが積まれている。揺れて壊れないか心配だが道がないので出来るだけ丁寧に運ぶ2人は丘の上に差し掛かった時後ろを振り向く。


「・・・何で付いてくるんだ?」


視線の先には教会で会ったエルフがいる。


「そんな警戒なさらずに、商売をするなら人手が必要でしょう?お手伝い出来る事があればと。」


微笑みとともに言われ思案する。

確かに人手は欲しい。1人では森で行動も出来ないのだから尚更だ。


「・・・必要な物の収集とか製作になるけど良いのか?失礼だけどその・・・戦える?」

「えぇ、人並みには。カイネからも言われてますから何でも仰ってください。」


その言葉にサラが顔を顰める。


「人並み?謙遜し過ぎだ。お前に殺された奴らが泣くぞ。」

「いえいえ、彼らは生を謳歌し充実して逝きましたよ。」

「謳歌?充実?」


戦いの中ではあまり聞かない言葉にサラが応えてくれた。


「コイツは殺害願望の塊でね。戦いで捕らえた奴を拷問して殺すのが趣味なんだ。」

「・・・・・・」


思わず黙るが慌てた顔でラズが近寄り、


「アンリさん違います。私は戦いの悲しさと生きる素晴らしさを知ってもらいたくてやった事でそれがいつもやり過ぎるだけでして・・・。」


言葉に顔が引き攣るのが分かるが怒らせないようにしなければ、


「あ、あぁそうなんだ。大丈夫だから気にしないで・・・あの俺にはやらないでね?」

「大丈夫です。敵対した者にしている趣味なので私は安心安全です。」


趣味?と思うが口にはしない。

どこが安心安全なのか分からないが怒らせないようにしようと誓い歩を進める。





昼前に小屋に着いた。

行きより荷物はあったが早く戻ったので村で買った弁当を食べるが予想を上回る程不味い・・・。自分で作れば良かったと後悔するがもう遅かった。





「とりあえず今日は石鹸と道具を作るよ。」

「おいおい、動物の脂と灰で作った石鹸は臭くて売れないぞ。」

「ちゃんと売れる物を考えてるから大丈夫。」


怪訝な顔の2人に指示をだす。サラには略奪品の石鹸を粉にすり下ろす作業を頼み、ラズには道具作りを手伝ってもらう事にした。

2人とも意図が分からないようだが特に聞かれる事もなく作業に入る。


「さて、忙しくなるぞ。」


気合いを入れ作業に取り掛かった。


まずは木枠を洗ったり木を削り攪拌に適したヘラなど今後使える道具を作る事にした。

やはりエルフ、手先が器用だし手慣れている。

言葉や絵に書いただけで理解してくれるのは非常に助かる。やる事がなく申し訳ない位だ。


「ラズは器用だな。エルフのイメージ通りだ。」

「あら?そちらの世界にも同族がいるのかしら?」

「いや、ただ色んな物語には出て来るから知ってる程度だけどね。」

「そうですか・・・どんな感じで語られるのでしょうか?」

「森に住んでて寿命が長くて、美形で弓が上手で器用って所かな。後はか弱い描写が多い気がする。」


そんな感じだった筈だ。


「この世界のエルフは強いぞ。長く生きるのは同じだが鍛錬に費やすし経験も豊富だからな。」


それもそうかと納得しサラから石鹸の粉を受け取る。


「で、それで何をするんだ?商品にならなきゃ怒るぞ。」

「任せとけ。こっちも準備出来たから後は俺がやるよ。」



帰り道で採取したハーブ類を湯に付けといた液体を少しづつ混ぜ練り続け、それを木枠の中に形を整えて置くだけで香り付き石鹸が完成した。

市場を見た時普通の石鹸しかないのは確認した。売られてた物はどれも基本しかないので派生を作れば差別化ができる筈だ。

石鹸は使えるようになるには1週間位のかかるからそれを目処に商品を揃えつつ集客方法を考える事にする。

石鹸はまだあるし色々なタイプを作って試してみよう。






今日の作業が終わり水浴び後には陽が沈み始めている。

夕食には途中ラズが狩ってきた兎を使う事にしよう。

確か淡白で鶏肉に似ている味だと聞いた事があるから簡単にメニューを決め作業を始めた。


獣は毛皮を剥ぐ要領が同じなので前回の要領で手早く済み食べやすいよう骨を取り下味を付けて塩胡椒と酒で揉み込みしばらく置く、その間に村で買った牛乳とバターを使いシチューを作る。

バターと小麦粉を炒り兎の骨の出汁を足してルーを作り、牛乳と塩胡椒で味を付けたら炒めた野菜と兎肉を入れて煮込み続ければ手抜きだが完成した。

下味を付けた兎肉に小麦粉をまぶし唐揚げにしてサラダと買ってきたパン切り分ける。

水浴びから帰った2人と共に席に付き食事が始まった。





ラズは昨日に続き食事に満足していた。

成程と頷き、カイネの言葉が嘘ではないと実感する。

今まで食事はそのまま焼くか茹でるのみで後から調味料を付けるだけだったが目の前にある物は全く違う。どうやればこうなるのかすら分からない程の差がある。

確かな調理技術を持つ者は非常に少なく王族や貴族のお抱えで技術の拡散が止まっている為だ。



これに慣れたら今までの食事に戻れなくなるのでは・・・そんな不安を覚える。

視線を前に向けると唐揚げばかり食べる鬼に野菜を食べさせようと必死な人間がいる。

そんな2人のやり取りに苦笑し、


「貴方は本当に私達を恐れないのですね。」


ん?と聞こえアンリと視線が合う。


「あぁ、恐れないと言うよりもう諦めてるから。鬼でもエルフでも虫でも襲われたら何も出来ないから同じだ。俺は釣りも出来ないし畑作業も満足に出来ないんだ。笑えるだろ?」


自嘲気味な言葉に改めて男の失った物に気付く。自分だったらと思うと応える言葉がなかった。その沈黙を埋めるように、


「だから距離を空けるよりお互い理解し合いたいんだ。それだけで避けれる争いもあると思うから。次いでに守ってもらいたいそんな打算もあるしな。」

「最後が無ければ良い台詞でしたね・・・」


ふむと頷き頭を下げられ、


「ならそこは聞かなかった事にしてくれ。」


横のサラと目が合い苦笑する。


「この人いつもこうなんですか?」

「いや、普段は普通だがたまにおかしい言動がある。会った時に頭打ってたからな・・・まぁ面白いから気にするな。」


アンリはおかしいかなと首を捻っている。


ラズはその姿見て先程を思い出した。

肉片や骨、野菜屑を調理して外の魔獣にあげていましたね・・・。何がしたいか分からないが俺は美味しく無いぞ~とか言いながら真剣な行動でした。これがおかしい言動の1つだと頷き、


「アンリさん。困った事があれば声を掛けて下さいね。貴方が出来ない事の手伝いになれると思いますから。」





アンリは食事後ラズから魔術を教わっていた。

エルフの使う魔術体系は人間とは微妙に違うが基本は同じらしく鍛錬に付き合ってもらい代わりに調理を教えて欲しいと言われ了解した。


「回復系は使い続けるしか向上出来ません、ですが転移系は魔術式と魔力量でやれる事が増えます。見たところ今は小さな魔術式に触れた物を自分に転移させるのが限界ですね」


目の前には魔力が尽き倒れてるアンリがいる。


「全く役に立たないな・・・見えてなきゃ発動出来ないなら直接渡して貰った方が疲れないぞ・・・。」

「最初ですから。使いこなせれば此処とソドムの行き来も可能になるかと。」

「それは楽だな・・・でも今日はもう無理・・・。」


アンリはサラに荷物のように持ち上げられされるがまま寝室に運ばれる。


「悪いね。魔術はよく分からないから色々教えてやってくれ。多少厳しい方が覚えも早いだろう。」

「えぇ、お任せ下さい。使い手の少ない尖った分野ですが怠らなければ良い力になるでしょう。」


攻撃が出来ない以上魔術鍛錬を長所を伸ばす事にするしかない、結果その分野の怪物になるかも知れない期待がある。


ラズは面白い知り合いが出来たと思い、成長を願いつつ戻った鬼と酒を酌み交わし夜が更けていく。

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