VSクラン公国 ⑩
歯を噛み締め怒りの表情でカイネを睨むグレイグは全身が熱を持った事を感じた。
窓際から反対の壁に声を出し笑いながら歩く相手から視線逸らさずに改めて怒りを感じ、許せない言葉だと思い、安い挑発だとも思う。
この場で求められるのは全力を尽くす事でその結果に付いてくるのが勝敗だ。
それが先に決まっているなど認められる話ではない・・・!
重心を前に倒しながら負傷した左足を確かめつつグレイグは思う。
森への侵攻を王が決めた時の事だ。
ディストラントでの説明会を受け、軍の鍛錬から徴集、武装の確保と帆走する部下達は皆勝利を手にする為に全力を尽くしてくれた。
森から戻らぬ諜報の者達も、各国を走り回り情報収集と協力関係に励んだ者もいる。
それらに不足を感じつつも決断したのが王であり任されたのが自分だ。
あの時間を、覚悟を努力を、ただ敗北を早めただけだったと笑うのか!?
「否!我らの努力を敗北と決めるな!!」
熱を振り払うように1歩を確かに踏み込み声と共に加速した。
グレイグは己の身を前に瞬発させ横薙に剣を振るう。
壁際での戦闘は剣を振るう範囲が狭くなる為場は廊下の中心だ。
後退するカイネに歩を進め、ミスリルダガーの届かぬ、だが銃を取り出されたなら即座に距離を詰めれる適切な距離を心掛けつつも怒りから力が入る事に苛立ちを感じる。
良くない事だと、戦場では冷静でいなければと思うが笑みを浮かべる相手の顔を見る度に頭が沸騰しそうになる感覚を覚えた。
対するカイネは楽しんでいた。
昼にギャンブルで負けた鬱憤もあり、アンリの金を失わせた以上成果を挙げなくては今後の対応が悪くなる可能性を感じていたが団長が相手なら良い土産になるだろうと思う。
「あぁ運が良い。神様ありがとう。」
言葉は2つの意味を持っている。
1つは成果を挙げられるチャンスが来た事。
もう一つはグレイグがサラに殺される事によりクラン公国との今後に支障が起きない事が確定した事だ。
振るわれる剣を躱しながらグレイグのスキルを思い出す。
スキル[蓄積]
発動中に攻撃した全ての疲労、痛み、損傷の自然治癒を拒否する長期戦向けの戦闘スキルだ。
やりようによっては鬼の特性を超え身を断つ可能性があるスキルの為、サラと相対していたら即座に殺す手筈になっていたがそれが回避されたのなら懸念はないだろう。
笑みを浮かべるカイネは剣が過ぎたのを見計らい銃に手をかける事でグレイグの身を前に誘導した。
グレイグは剣を振った勢いを利用し右肩から体当たりを選び、即座に誘われた事を理解した。
激突する筈の身体は読まれていたかのように避けられ、背に回られると同時に膝裏を押され身を崩す。
背後から髪を捕まれ引き倒され、重心が後ろに向かうに従い鎧の重さも加わり床に仰向けに倒れ込んだ。
カイネは咳き込み立ち上がろうとしたグレイグの頭部を蹴り改めて床に打ち付けると1歩距離を取り銃を構え両足に2発ずつ魔力弾を打ち込んだ。
「アハハハ。夏とはいえもう少し良い装備しておくんだったね。」
フルプレートの鎧は熱が篭もりやすく警護団として街を動き回る事の多いグレイグにとって不要な物であったが今だけはそれに同意したくなっていた。
痛みに顔を顰めそれでもと剣に伸ばした腕のガントレットの関節部が射撃され苦悶の声が廊下に響いた。
「神は全てを見ている。そして私とでは経験も技量も違う。わかったら馬鹿みたいに両手を頭の後ろで組んでいろ。」
「ふざけるな・・・!まだ負けてないっ!!」
ため息をついたカイネは銃をしまうとグレイグに歩み寄り残念そうに声を落とす。
「敗北を認めれない奴は成長もしない。次に活かせるように夢で反芻しとくんだね。」
踵による踏みつけを2発頭部に落とし黙らせると伸びをしてから階段へ歩を向けた。
「流奴について・・・?」
リベルトの呟きは机の上の資料を片付けているノイルと新たな資料を取り出したアンリに向けられたものだ。
「うん、同じ立場としての見方だが彼等は立場的に弱く虐げられている。
それについて糾弾も批判もする気はないが可能なら彼等の自立に力を貸して欲しい。」
沈黙が場を包む中、書類を配り終えたアンリは胸を張り、
「見ての通り人見知りのうえ小心者で繊細かつ、か弱い俺の頼みを聞いてくれないか?」
「「「・・・今のは誰の事だ?」」」
全員の否定を受けたアンリは拳を震わせ、
「お前ら俺に内緒で打ち合わせしてんのか!?」
バンッと机を叩いたアンリは自分に注目を集める為に立ち上がり、
「この場で一番か弱くて守りたい兎の様な存在は俺以外いないだろう!異論があるのか!?」
静かに手を上げた従者がリベルトに遠慮しながらノイルを指差し、
「貴方より女性を守りたいとしての思うのは間違いでしょうか?」
「ココ、良い言葉よ。しかし妾を守れる力を持つ者は少ないぞえ。」
全員が頷き言葉を待つアンリを無視してため息ともに資料に視線を落とした。
動揺しつつ椅子に座り直したアンリは手を打ち全員を見渡すと笑顔を作り、
「さぁ、リハーサルはここまでにして本番を始めるか。皆で俺が繊細かつか弱い事を肯定しろよ。」
「「「しねぇよ!!!」」」
再び全員が声を揃えアンリは項垂れた。
リベルトは咳払いをし流れを断ち切る為に実力があり、まともと思えるノイルに助けを求める視線を送ると小さく頷きが返され資料を示される。
「アンリは基本こうゆう奴故、特に気にする事はない。信じ難いがこれでも正常よ。さて、話を続けようかえ。」
横目で睨むアンリを無視してリベルトに視線を合わせたノイルは柔らかな微笑みを浮かべ、
「この国では流奴の教育施設を作って欲しい。妾達はそう思っておるよの。」
「・・・教育?」
返答に頷いたノイルは蹴りを入れ真面目モードに戻ったアンリに場を譲る。
「痛てて、あぁ済まない、何か理不尽なイジメに似た現象に我を忘れていた。
ノイルの言葉を理解してもらう前に確認したいんだがこの国でも流奴の扱いは兵か農奴だな?」
沈黙が返されアンリは頷く。
わかっていた事であり責める事でも事でもないと思い言葉を続ける。
「彼等の扱いに口出しする気は無いが一応教会との約束でね。俺は流奴の地位向上と自立を助ける事を条件に命を見逃して貰った身だ。
教会は流奴を渡せば寄付金が入るからそれでいいんだろけど各国は死ぬまでコキ使いたいだろうからその辺の兼ね合いで話がある。」
「それを理解した上での言葉なら聞こう。」
腕を組み促しの視線にアンリは笑みを返した。
周囲の地に穴が空き、所々で壁も崩壊した中庭にいたサラは瓢箪から酒を煽り口元を拭い退屈気に視線を城の西側3階に向ける。
左手で握っていた剣を畳みながらに丸く握り潰しそれをお手玉のように宙に放り遊びながら周りを囲む者達に向け口を開く。
「もう少しまともにやり合えないのか?これならアンリの横で商談を聞いていた方が楽しいんだが。」
「化物め・・・。何故この地を荒らす!」
首を傾げたサラは難しい顔で頬を掻き、そして閃いたのかスナップ音を鳴らし笑みを作る。
「最初に攻めてきたのはそっちだろう?暇だったからその報復に来たということで納得してくれるか?」
「ふざけるな!!」
怒声にはぁ、とため息をこぼしたサラは手にしたボールを兵が密集している地に投じた。
複数の防御魔術式の破砕音が響き直後に悲鳴が起きる。
「理由があってもどのみち戦うんだろう?ならどうでもいいじゃないか。」
鬼が踏み出した1歩に警戒を浮かべた警護団、騎士団員達との戦いが加速した。




