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鬼と人と約束と  作者: 敦人
二章 謀略の魔王
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商談 ~クラン公国 ①~

アンリは沈黙に包まれた室内を進み空調管理をしている魔具の前で風を浴びつつ周囲を見渡した。

趣向を凝らした細工が所々に見える家具があり、横の窓の外から伝わる音はサラが暴れているのだろうと思う。

静寂が満ちた室内でアンリは深く頷き全員の視線を集め口を開く。


「俺はこの空気を知っている・・・怒られる前の空気だな!」

「ココ、正解よ。弁明があれば先に聞こう。」


ノイルに向き直り、その背に隠れようとしているロイズに視線を向け、


「助ける気はあるか?」

「・・・無いです。巻き込まないで下さい。」


よろしい、と頷き怪訝な顔をしている王と従者に5指を広げ待ったをかけノイルに向き直る。


「覚悟は出来た。どのような言葉も聞き流す俺のスルースキルを披露してやる。さぁ御手柔らかにお願いします。」


一瞬の間を置き距離を詰めたノイルはアンリの耳を掴み説教が始まった。








東の森で撤退戦を強いられているクラン公国軍はゆっくりと自国の方角へ進みながら交戦を続けていた。

朝から移動と戦闘を続け疲労を感じる身体を起こし魔族の突撃に応戦する。

ルークスとリノアに率いられた人狼族を代表する獣人族と夜魔族が猛威を振るい、剣を交わす音、魔術の炸裂する音が森に響く中に異なる戦況があった。

集団戦ではなく己の力量のみで殺し合いをするファルモットとプラタの戦いだ。


スキルを駆使し戦況を見極め最善の行動を自軍に伝えながら振るう剣はプラタの甲殻に阻まれ弾かれる。


「そんなものか?ラズを退けたのなら私よりは強い筈だが?」

「戦いは俺も負けたんだよ!つーかアンタ妖蜂族だろう?なんであの人間に従ってんだ。有り得ねぇだろう。」

「あの馬鹿が私達の王だからだっ!!」


言葉と同時に拳に毒針を生成し突き出したそれは驚愕の表情で体勢を崩したファルモットの右肩を掠め血を宙に散らせる。

肩を掴み引き寄せつつ放った左の拳に対しファルモットは身を回す事で拘束を解き、回転し剣を振るうがプラタはしゃがむ事で剣を避け1歩後退した。


1つ呼吸をし再び拳と剣を交わし合う2人は互いの実力が近い事もあり膠着状態になりつつあった。



樹上から2人を眺めていたラズは拍手をしてから転移されてきた紙を広げ唇を尖らせつつ矢筒から矢笛を取り出し弦に番え溜息と共に放つ。

空に放たれた矢は音を鳴らし撤退の合図を自軍に知らせるものだ。


「皆さん目的は完了しましたから帰りますよ。忘れ物ないように気を付けて下さいね。」


呑気な声を作り地に降り立つと伸びを1つしてから2人に歩を進め手を打つ音で2人の間に入った。


「プラタさん。貴女にもしもがあれば虫人族全体に関わる事になります。引いてくれますね?」

「・・・あぁ、そうだな。熱くなっていたようだ。」


ファルモットを睨み1歩を大きく後退したプラタは駆け寄ってきたアキナから回復薬を受け取り歩を進める。

それを見送ったラズはファルモットに向き直り一度頭を下げ一枚の紙を差し出した。


「どうぞ、貴方の国の王からです。」


受け取った紙には魔族の領域内での敵対行為の禁止と帰還命令が王の直筆サインで記してある。

それを握り締め歯を噛み締めたファルモットは砦への撤退を告げる声を飛ばしラズに向き直った。


「停戦交渉が済んだという事は団長は間に合わなかったのか?」

「どうでしょう?停戦したのはこの地だけですから貴方の国での戦いは続いていると考えるべきでしょう。」


顔を顰めたファルモットに対し首を傾げたラズは笑みを作る。


「何をしようと手遅れです。

私もどうかと思うのですがアンリさんはそういう戦いが得意な方ですから。」

「だろうな、どう見ても誘い出されたって事だからな・・・。」


俯いたファルモットに微笑し、


「また機会があれば会いましょう。次は武を競う場で無ければより分かり合えるかも知れませんね。」


背を向け仲間達の下へ向かった。








停戦協定を記した紙を転移で送るのを見ていたリベルトはおそらく同様の方法でこの国に来たのだろうと納得した。

話だけなら信じないが目の前の机に並ぶ資料を見て常識を超えねばならない時だと思う。


「東の森での戦いは囮だったのだな。」

「うん。本来ならもっと作戦を練る時間を設け、ここに来るのは明日の予定だったんだけどそちらの副団長に潜伏が気付かれたから・・・素晴らしい人材を抱えているね。」


リベルトは何度か対面した事のあるファルモットを思い出し横の従者に視線を向ける。


「あまり良い印象は持っておらんかったが・・・?」

「私も口と態度が悪い人という印象しかないですね。」


腕を組み揃えるように同時に首を傾げた2人にノイルは笑みを浮かべる。


「こちらの予定を1日早めたという事はこの場での商談の想定を詰めきれておらぬという事よ。さらに加えるなら森での死者、負傷者、を両軍共に減らしたと言えよう。」


リベルトが深く頷き何か褒美を与えねばな。と決めた所で視線をアンリに移す。


「全てはこの場を設ける事、それが目的だったのだな?」

「まぁね。ほらあれだミス・・・ミスディ?ミスディレ・・・。」

「ミスディレクションか?戦況という大局に使ったという事か。」


アンリはリベルトに頷き親指を立てる。


「そうそう、それだ。あの短いスカートの女性が座ってると思わず視線を向けてしまうやつだ。見えないとわかっていても見てしまう抗えない力だね。」

「・・・何故か納得してしまう儂自身もう駄目かも知れん。」


俯くリベルトに首を傾げたアンリは横のノイルとロイズに視線を向け、


「何か間違っていたか?」

「いえ、自分はその・・・。」

「・・・後で2人とも説教よ。良いな?」


絶望的な表情で机に頭を打ち付けたロイズとアンリに満足気に頷いたノイルは視線を逸らしている対面の2人に資料を一枚差し出し口を開く。


「妾達はこの国と共存する可能性を示す為に来ておる。考える時間は多くはないが・・・。」


言葉の途中で窓を震わす音が響き何かが崩れる連鎖的な音も続いた。


「外で鬼が暴れておる故に早めの決断がそちらの兵を救う唯一の手段よ。」

「それでは話にならん。王同士の対話を求めつつこちらのみ制限を掛けられる等、到底納得出来んことよ。」


ココ、と笑うノイルを見る眼光は老人とは思えない程鋭く、威圧に満ちていた。


「そう睨むでない、であれば何を対価に差し出すのかえ?」

「・・・現状を優位に進めておるそちらに対する譲歩として此度の件におけるその被害、損害は不問とし一切を交渉に用いないと約束しよう。」


ほう、とこぼし思案を進めるノイルの横で机に広がるアンリが身体を起こした。それにふむ、と頷き、


「まるで釣り合いが取れておらんの。」

「そうだな。こちらも被害を受けているしこの場と商談の為に少なくない金を使って準備をしてきた。」


肩を竦めたアンリはリベルトに視線を合わせ、


「更に言うなら今のこの状況こそこちらの価値を示している場でもあり、その対応が貴方の国の価値を測る場でもある。

つまり、今の条件で引くつもりはないって事だ。」


睨むリベルトの視線を受け流しつつ椅子に座り直したアンリ書類を示し、


「さぁ、金の話を始めようか。」


商談の開始を告げた。

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