VSクラン公国 ⑨
グレイグ達騎士団は城門前で足を止め、破壊された城壁に息を飲む。視線を先に向ければ5m程の扉がひしゃげ地に跡を残し転がっている。
城門の向こうからは戦闘の音と悲鳴、そして笑い声が響いていた。
この先には化物がいる・・・。
恐怖と使命を感じ重くなった足を前に進めた先は惨状と化していた。
魔術、矢、そして虎の子の銃撃を以て迎撃する警護兵に対し獰猛な笑みで悠然と歩み続ける女が居た。
周囲には接近戦を挑んだのであろう兵達が倒れ、地を赤く染めている。
女はヘルムを手にしそれを握り潰し掌に収まる程に圧縮すると更に笑みを濃くし振りかぶる。
「そら次だ。上手く避けろよ。」
言葉と同時にヘルムだった物を投じた。
それは空を裂く音と共に警護兵の密集している地に届き血飛沫と悲鳴、苦悶の声があがる。
「あれが鬼か・・・。」
困惑は3つの意味を持っていた。
現状の戦力では到底太刀打ち出来ない事。
それでも王の下へ近づける訳にはいかない事。
そして、最善を尽くす為に己が取るべき行動と覚悟を示す事だ。
数秒の沈黙を起き、深く呼吸をしたグレイグは背にいる部下達に声を作る。
「なんとしてもあの女を止める。足の速い者は場を離れ王の下へ向かえ、他全員は俺に続くように。」
死地に向かえと言われた返答は無言であり、ただ敬礼の後で剣を構える音が続く。
ファルモットならこの状況でも軽口と共に兵の鼓舞もするのだろうか、と思いつつ苦笑する。
「すまん、王の為に時間を稼ぐしか出来ないだろうが。それでも・・・。」
「俺達は構いません。ですが団長は王の下へ向かって下さい。」
声の意味がわからず振り向いた先には頷きがあり、笑みがある。
「この場は俺達に任せろって事です。だいたい平民の俺達が王様の対応出来る訳無いですよ。」
「俺も王様相手に緊張する位なら美人な鬼の姉さん相手に緊張したい。その方が健全だろ?」
「だよな。あんな美人を差し置いて王様の下へ向かえなんて命令聞ける訳ないぜ。」
「俺達があの女の相手するから団長は王様相手に頑張って下さいね。」
恐怖から口の端を震わせつつ各自が己を納得させる理由を決めグレイグの横を過ぎていく。
意味がわからずにいるグレイグの肩を通り過ぎる1人が叩き、
「生きてたら後で飯を奢ってください。団員全員分ですからね。」
グレイグの返答の前に全員が鬼に向かい駆け出した。
カイネは城内西側を気軽な足取りで歩んでいる。サラが外を担当し城内の担当はカイネになったからだ。
呻き声を上げる足下の衛兵の頭を蹴りあげ、背後に吹き飛ばし目の前の扉に手をかける。
鍵がかかっている扉をジョブによる恩恵の元解錠すると落ち着いた調度品に囲まれた室内に入り扉を閉めた。
扉前で耳を澄ますと音を聞きつけ来たであろう鎧の音と足音が聞こえる。
音が部屋を過ぎた後で扉を開け背後から魔具のリボルバーを雷属性に合わせ射撃を行い地に倒した。
何が起きたかわからないでいる兵の眉間に銃口を向け引き金を絞り肩を竦め口角を釣り上げた。
「今日は天の門に行列が出来るな。神も仕事が尽きず喜んでいるだろう。」
クク、と笑い背を向けようとした時正面に息を切らした身なりの良い男が剣を構えている事に気付く。
「お前は確か・・・グレイグだな?おいおい、サラを倒したのか?」
「・・・あの鬼の仲間か?」
「質問してるのは私だ。それに答えてからが礼儀ってもんだろ。」
睨むグレイグの視線に溜息をついたカイネはゆっくり銃口を向けつつ外からの音が続いている事でサラを避けて来た事を理解しどうするかな、と思う。
衛兵から聞き出した情報が確かなら背後には階段があり、幻影族が王の部屋を探している筈だから先に通す訳にはいかないな。
思考をまとめ笑みを浮かべたカイネは銃口を音のする外へ示し、
「こんな所にいるより外の鬼の相手をして来いよ。」
「貴女を切り伏せ、王の無事を確認したらしたらそうするさ。」
言葉に肩を震わせ可笑しそうに笑うカイネは呼吸を整えつつ首を横に振り、
「まぁ、お前程度にそれは不可能なんだがそれでもやるのか?」
ギリッと歯を鳴らし足に力を込めたグレイグは1歩目から全力で踏み込んだ。
天蓋付きのベッドに腰掛けたクラン王リベルトは窓の外から聞こえる戦いの音に耳を傾けている。
過去の戦いで片足を失った時から部屋から出る事が少なくなり執務の大半を部下達に任すことになったが今回の件を引き起こす原因を決定したのが自分にはある事を理解し今の自分に何が出来るのかを考えていた。
傍らに立つ従者に視線を向け現状を問うが小さく首横に振られ、杖を差し出された。
「よろしくない状況でしょう。どうか王としてのご決断を。」
「逃げろと?儂に国を捨て逃げろと言うのか!?」
「・・・貴方が生きている事が国の再興に必要なのです。」
「ならん!国の行いに責を負うのが王だ!どのような事が起きようとこの場を離れる事はせん!!!」
それでも、と地に頭をつけ懇願する従者から視線を切らし目を伏せた時扉の向こうから大きな音がし、そしてゆっくりと開かれた。
身体を起こし王を守る為に扉との間に移動した従者は魔族の姿と上半身を焼かれた衛兵がゆっくりと、地に倒れるのを見た。
アンリはノイルの背からそれを見ていた。
ロイズが示した扉前に立つ衛兵2人が武器を構えると同時にノイルが払うように手を振ったのだ。
ただそれだけの事だったが灯として二人を照らしていたランプが爆発し炎が身を包んだ。
「実に見事なウエルダンだな。何をしたんだ?」
「ココ、狐火と言ってな炎を操っただけよ。」
もう一度手を振り火を消したノイルは歩みを進めながらゆっくり変化を解き扉に辿り着くと同時に九尾に戻っていた。扉を押し開くと同時に衛兵が倒れアンリを促すように深く頭を下げる。
衛兵2人に手を合わせてから扉を潜ったアンリは警戒を浮かべる従者とベッドに腰掛ける老人の姿を確認し背後のノイルとロイズに振り返った。
「こんな夜に寝室に訪れるとか・・・変な勘違いされないよね?」
「アンリさん・・・この状況は殺しに来たと警戒されていると思います。」
ロイズの声に改めて室内の2人に目を写し首を傾げる。
「それはないだろう。そのつもりなら扉を開けないで魔術を叩き込むね。俺には無理だけど。」
「ココ、物騒な会話は止めて王同士対話を進めるが良い。」
ノイルの言葉に頷いたアンリは従者の背から見える老人に声を飛ばした。
「さぁ、時間もないから始めようか。あぁ、確認の為にも言うが始めると言っても夜這い的な事じゃないからな?
俺はノーマルなので勘違いで期待するのは止めてくれ。」
「「しねぇよ!!」」
リベルトと従者が声揃え、ノイル達は肩を落とし溜息をこぼした。




