VSクラン公国 ⑧
月明かりが照らす裏路地を城に向かってアンリ達は走っていた。
宿屋を出て20分程過ぎアンリは速度を緩めネクタイを解き熱を逃がす。
「クソ・・・暑すぎる。」
「当たり前だろ。何でそんな格好してんだ?」
額の汗を拭ったアンリはカイネに向き直り両手を広げスーツ姿を見えるようするアンリはネクタイ、革靴、ハンカチーフまで完備した完全装備で頷く。
「王様に会うし俺が持つ最高の防御装備だからな。色も黒で闇夜に溶け込んでいると思わないか?」
「面白いから黙ってたんだがそのスーツ?だったか。魔力切れで普通の布地と変わらん防御力だぞ。」
ゆっくりと崩れ落ちたアンリはカイネを睨みつけ、
「先に言えよ!俺、馬鹿みたいじゃねえか!?」
「初めから馬鹿だろう。気付けただけ神から祝福があるだろうよ。」
泣き真似を始めたアンリをほっておきノイルはサラとロイズに作戦を伝える為にパンフレットを取り出す。
月明かりを頼りに正門に指を這わし、
「鬼の娘とカイネは陽動よ。ここで派手に暴れてくれれば良い。幻影族はその隙に城内の探索を行い王の居場所を特定せい。」
「任せろ。だが、お前とアンリはどうする?」
「ココ、幻影族が特定次第転移で移動するわ。その際のアンリの護衛は妾が受け持つが良いな?」
ロイズも頷き、サラに頭を下げ遠慮がちに口を開く。
「王の対応は商談の場ですからね。ノイル様に任せた方がよろしいかと。」
「・・・わかった。確認だがアンリを確実に守り通せるな?」
「任せておくが良い。商談の場でも問題無きよう取り計らうつもりよ。」
サラは嘘をついてない事を確認して頷き、不貞腐れているアンリの頭に手を起き髪を撫で微笑む。
「行ってくる。また後でな。」
「うん、気を付けて。向こうの団長のスキルだけは気を付けてね。」
手を振りサラ達は先へ急ぎ、路地裏に残されたアンリは立ち上がりノイルに視線を向け頷く。
「とりあえず待ちか・・・。サラ達なら問題ないだろうし暑いから着替えに帰っていい?」
「ココ、ダメよダメ。書類を用意せい、妾と商談内容の確認をするぞえ。」
項垂れたアンリは上着のボタンを外し確認作業に入った。
月に照らされた城門前には4つの人影があり足下には更に3つの影がある。
サラは城門を見上げると手に持っていた衛兵だった者を外に放り投げ、勢いよく転がり木にぶつかったそれは動く事なく崩れ落ちる。
「この門壊していいと思うか?」
「ふむ・・・神の家は閉じる門を持たないといわれている。人の上に立つ王にも同様の対応を求めるだろうから許される筈だ。」
寛大だな、と呟き数歩下がり腕まくりしたサラはカイネと叩きのめされた衛兵に視線を向け首を傾げた。
「そいつはどうする?」
「あぁ、わざわざ生け捕りにしたんだ。情報でも喋って貰わないとな。」
カイネは衛兵の髪を掴み視線を合わせると質問を口にする。
「王はどこに居る?」
「・・・言うわけなギャッ。」
言葉の途中で地面に顔面を叩きつけ手を左右に動かし地に擦り付けてからまた顔を起こさせる。
「繰り返すか?喋りやすくなるように次からは指を折るサービスを付けてやろう。」
何度か地面に叩きつけ情報を喋らせたカイネは笑みで足下の影に向き直り、
「3階の西側だそうだ。門を開けたらさっさと行けよ。」
影が隆起し、若干引いた顔の幻影族は敬礼をして、
「「「イエス、シスター。」」」
「よろしい。じゃあ行くか、開門任せた。」
あぁ、と頷いたサラは改めて城門を見上げ獰猛な笑みを作る。
堅牢な作りだ、と思いだからこそ壊したいと強く1歩を踏み込んだ。
空けた距離を詰め、地がひび割れる程の震脚を以て右腕を全力で振るった。
ほぼ同時に空気を震わせた2つの音に顔を上げたアンリは視線を城の方角に向ける。
数秒後には通りに人の気配を感じ、サラ達が行動を始めたのだろうと、思い立ち上がる。
隣で楽しげに笑うノイルが書類をしまいながら口を開いた。
「ココ、主はあの鬼の娘が災禍の化身と呼ばれておった事を知っておるか?」
「悪鬼と恐れられる位暴れ回ってたって事は聞いてるけど特に興味ないな。それは俺が知るサラじゃない。」
立ち上がり同様に城に視線を向けたノイルは騒ぎの音に目を細め、
「それを知っておきながら共にいるとは豪胆よの。
鬼の暴はフェミナにも引けを取らん。それも知っておくと良い。」
「つまり心配しなくていいって事か。なら俺の不安は1つだけだな。」
視線をノイルに向けたアンリは首傾げ、
「王様に突然訪問する口実として御中元持ってきましたってのはどうだ?俺のいた国では時期的にも合ってるんだが。」
項垂れたノイルはアンリの記憶で見た風習だったのうと思い出し溜息をこぼす。
「この世界にそんな風習はないのよ。その後の商談に指し関わる程不審人物扱いされるから止めておくが良い。」
「贈り物をするのにそんな対応とは人の繋がりが薄い悲しい世界だね。やるせない話だ。」
天を仰ぎ全身で悲しみを表現しようとするアンリの襟首を掴んだノイルは大きくなりつつある騒ぎの音から離れる為に場を後にした。
兵の詰所からの森で戦う兵の伝令を受け隊を率い街を走るグレイグもまた同時刻に城の方向から届いた音を聞いていた。
「クソ、ファルモットの懸念が当たったって事か。」
「団長今の音は門が破られたのでしょうか!?」
「わからん!だが、城内に敵の侵入を許した事は間違いないだろう。急ぐぞ!」
速度を上げ駆ける通りは人だかりが出来つつあり、モタつけば更にその騒ぎは増すであろう事が用意に理解出来焦りを感じる。
どうやって侵入したんだ!?
転移魔術の使い手との報告だったが過去に遡っての入国審査にアンリの名は無く、該当しそうな経歴の者もいなかった筈だ。
「クソ、俺の不手際だ・・・。」
人だかりを避けつつ思うのは己の未熟さだった。
転移魔術は圧倒的に使い手の少ない魔術系統なので何が可能なのかを知る事が出来ない事と対策が思い付かない事に苛立ちと不安を感じる。
だが、今この状況だからこそわかる事もある。
相手は今日まで城門を通れなかった。
それは城内の情報を得る事が出来ていないという事を示している。ならば王の部屋に向かうとしても探索と警護兵に足止めされている筈で間に合うだろう。
思考を働かせながら騎士団全員に聞こえるように一度呼吸を整えたグレイグは命を飛ばした。
「団長権限で騎士団全員の城内での戦闘、移動制限を解く。敵を見つけ次第交戦に入れ!何があろうと王の下へ近づけるな!」
了承の声を背に見え始めた城へ向かい速度を増した。




