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鬼と人と約束と  作者: 敦人
二章 謀略の魔王
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VSクラン公国 ⑦

宿屋の机を囲む全員は無言でアンリの右手に握られた短刀に視線を集める。重い静寂が室内を満たす中アンリは血に濡れた短刀を机に置き肩を竦めた。


「ラズに弁当を送ったのは不味かったかな?」

「まぁ武器を仲間に奪われるとは思っていなかっただろうな・・・。」


全員が頷き緊張に喉を鳴らしたアンリは左手に短刀を持ち転移で送ると1度手を打ち気持ちを切り替える。


「ラズには後で謝るとしてとりあえず食事にしようか。」

「後で定期報告だろ?大丈夫とは思うがその時確認しとけよ。」


カイネの言葉に頷き食事を始めた。






ファルモットは自分が生きている事を理解しつつも何が起きたのかわからないでいた。

視線を傍らのエルフに向けると落ち込んだ声が届く。


「お弁当・・・振ってしまいました・・・。」


意味がわからん・・・と思うが身体を起こし先程まで短刀を持っていた右手に布で包まれた箱のようなものを持っている事に気づく。

現状を整理する為に動向を注視しているとエルフの左手が青く光り短刀が手に握られていた。


驚の表情を浮かべたファルモットは喉を鳴らすと高速で思考を回し何が起きたのかを理解した。

視線を周囲に飛ばし術者がいない事から助かったのは偶然だろうと思い、確かめなければならない事を口にする。


「トドメ・・・刺さないのか?」


ラズは溜息をこぼし歩きながら頷く。


「どのような理由があれ私の一刀は終わりました。先程の約束がある以上手出しは致しません。」

「律儀だな。本当に良いのか?」

「貴方は商談と言いました。それを無下にすればアンリさんに怒られてしまいます。もっとも、貴方が攻撃を仕掛けてきたら応戦しますけどね。」


木の根に移動し落ち込んだ顔を見せるラズに気の毒な思いを得つつ会釈で礼を伝えたファルモットは腕に刺さった矢を抜き回復薬で治療を始めた。




治療を終え剣を拾い装備の確認をしながら疲労から座り込んだファルモットは携帯食を口に含み、食事をしているラズに視線を向け違和感を感じた。

何かを見落としてる気がし警戒した時ソレに気づく。

陽が落ちる為焚き火の仕度を始めたラズが持っている古紙だ。先程送られてきた弁当のパンを包んでいたそれはクラン公国内で発行されている新聞だった。


夏の森の中、確実ともいえる懸念を感じファルモットは身を震わせた。

喉が乾き、視線が火を着けられた古紙に集中する。


この距離だ、有り得ない・・・。勘違いだろうと思いつつ確認をしなければ、と決め口を開く。


「先程の転移魔術は誰が使い手だ?」

「アンリさんですが、それが何か?」


首を傾げたラズに険しい顔でそうか、と返し次の確信の言葉を作る。


「そいつはクラン国内にいるんだな。」


ラズは微笑を浮かべ頷く。

先程の戦いを思い出し今のやり取りからも素晴らしい洞察力を持つ戦士ですね。と感心し拍手を送った。


「ご明察です。でしたらもう手遅れだという事も、アンリさんの策の全貌も読めたのでは?」


立ち上がりかけたファルモットは言葉を反芻し、ラズを睨む。それを受け流し微笑み続けるラズは焚き火を挟んだ地を指差し、


「座ってください。暇潰しに付き合っていただけるなら追加の情報をあげますよ。」

「要らねぇよっ!!」


ラズに背を向け野営予定地へ走る。





完全に出し抜かれた・・・。魔族共の目的は俺達の足止めだ。そして俺達の目的はこの地にいねぇ。


初日からの部下の報告を思い返しそこに鬼の目撃がない事も焦りを増す要因だった。


ヤベェ、と思い、どうすればいい?と思う。


今から国に戻る事は無理だ。時間が圧倒的に足りねぇ。

なら連絡だ・・・。定期連絡の為に通信魔具は野営地に持ってきている。


木々を駆け抜けながら追われる気配は無く前方にも戦闘の音はない事に1つの安堵を覚え、不安は多いがやるべき事の為に速度を増す。






残されたラズはメモを入れた弁当箱が転移で回収されるのを待って立ち上がる。


「失敗しましたね。あの疲労なら会話を選ぶと思ったのですが・・・。」


まぁいいです。とこぼし伸びを1つして夜戦の見物の為に仲間達の下へ向かった。









アンリは皿を片付け終わり部屋に戻ると転移で受け取った定期報告書とラズからのメモをカイネに渡す。


「俺がこの国に居るのがバレた。今日にも決着をつけようか。」

「お前何かヘマしたのか?」

「わからん・・・思い当たる事はないつもりだが。」


文字を追い負傷者の人数を確認したカイネは向かいに座るノイルに渡しパンフレットに書き込まれた情報に視線を落とした。

ロイズも同様に覗き込み作戦会議が始まるのを任せたアンリは歩みを進め、窓際で街を眺めているサラの横で歩を止め視線を同じくする。


「夜は早寝したかったんだけどな・・・。」

「たまの夜更かしもいいものだろう?記憶で見たがそんな漫画もあったじゃないか。あの夕暮れにデカイしゃもじを持って隣国に侵攻するやつだ。」

「あぁ、突撃!隣のチンギス飯か。

食あたりに倒れた皇帝を救おうとフビライ飯が挑むシーンは作中屈指の見せ場だったな。」


サラも頷き思い出すように視線を宙に向ける。


「仲睦まじいのは良いが主らも真面目に参加せよ。」


声に振り返るとノイルが空いた椅子を示し促している。アンリはそれに肩を竦め、


「戦闘のプロが決めた事なら文句はないから任せるよ。それに俺はカイネが賭場で負けた金の確認がある。」


ベッドの上に置かれた皮袋を示すと作戦会議をしている机が静かになった。


「はっきり教えてくれれば楽なんだが・・・口篭るという事はかなり負けたんだろ?」

「アンリ、お前は何もわかってない。私も神も悲しんでいるぞ。」


カイネは椅子を反転させ立ち上がると指を祈るように組み頷く。


「主の教えは働こうとしない者は食べる事もしてはならない、だ。これは教訓として言うなら働かずして富を得るな、という事になる。

私は負けたのではなく教えに従っただけの事で何も間違えていないしおかしい事でもない。わかるな?」


無言で腕を組んだアンリは皮袋を揺らし、


「反省しないなら次は無いがそれで良い?」

「よ~しわかった。悪かった。つい熱くなり過ぎてどれだけ負けたかわからん。許してくれ。」


全員が変わり身早いな、と思うがアンリが頷き許したので言葉にはしないでいた。


そのやり取りに溜息をついたノイルは時間を見て立ち上がる。


「主らとまともな会議は出来んのう。アンリも金勘定は後にせい。行くなら作戦は後で伝える故に早めに行動するとしようかえ。」

「そうだな、このクソ暑い中面倒を抱えるのは頭が悪過ぎる話だ。神が嘆く。」


ノイルとカイネが仕度の為に隣の部屋へ向かうのを見送りサラも伸びをしながら続く。


「楽しめると良いが・・・期待はしないでおくか。」

「戦いというより王様と商談するのが目的だからな?やり過ぎないでくれよ。」


手を振り部屋に消えるのを見送りアンリとロイズ達も仕度を始めた。

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