ウサギを巡る冒険……ってゆーかウサギの冒険?
勢いが大切な時が、あると思われます。
という訳で、勢いで書きました。なんでしょう、こう犬に噛まれたと思って……。
初投稿の新参者です。よろしくお願いしますm(_ _)m
その右手には、ステッキが握られていた。
……多分。
多分っていうのは、『ステッキ』では無く『握られていた』という部分。
「今晩は。良い月の晩ですね。実にすばぁらしい!」
何がそんなに嬉しいのか、たいした威力の上機嫌。
月夜の道端で、出会った紳士に釘付けですよ。それは、もう否応もなく。はい。
俺は、平凡な大学生。バイト帰りの一般庶民。
「……ばんわ」
挨拶されたから、まあ挨拶くらいは返さないとね。
相手はといえば、初対面で恐ろしくフレンドリーな人ってたまにいない? まさしくそんな感じ。
……ちっこいけど。
万人受けする容姿ってあるじゃない? まあ、好みの差はあるにしても。
……かわいいんだけど。
「よかった、よかった。漸く私に気付いてくださる方が現れて!」
テンション高っ! てか、は?
「……じゃ」
「お待ちください!!」
短く応えて立ち去ろうとしたら、両手を広げて小さな体で待ったをかける。
……跨げそうだけど。
「このか弱き者を助けると思って、どうかお待ちください!」
冷静に考えて、いや、考えなくても。
「無理」
「わーっ!! お待ちくださいー!」
「わーっ!! 無理ー!」
「何故ですか!? せめて、お話だけでもー!」
相手が必死なのもわかるんだけれども。
「なんで、ウサギが喋ってんのーっ!?」
そこんとこ、結構重要じゃね?
どうしても分からない事が、あるんだよね。
……あのステッキ、どうやって握ってるのか……。
気になるー!! けど逃げるーっ!!
だって、怪しさ満載じゃん。
……誰だって自分が可愛いものじゃないかっ!
***************
だがしかし、本気になったウサギどんにかなうわけもなく、あえなく捕獲される俺……。
本気の必死さ加減で負けた模様です。
おかしい。俺だって結構必死だったのに……。
公園のベンチに連行されたよ、俺。
「私としたことが、ご挨拶が遅れて申し訳ございません」
右手を胸に当てて軽く会釈するウサどん。ご丁寧に。
因みに、ウサギといっても、普通のウサギよりふた回りくらいサイズがでかい。
首にネクタイしてて、そんでもって何故かズボンらしきものを穿いてる。
……その足どうなってんの?
「私、ローネスト王国のジョシュア・エーベル・シュタッツ・ルッケンバウアーと申します」
無駄に立派な名前ですな、ウサどん……。
……名乗られたんじゃ、さすがに名前で呼ばないとまずいかー。
「ご丁寧に、ありがとうござる」
ふざけてないっ。ふざけてないよっ!
ちょっと驚きが過ぎて、落ち着かんかっただけです!
「あっ、高村聡です」
「タカムラさま」
「いや、さまはいいです」
「では、サトシ。私のことはジョッシュとお呼びください」
今、勝手に距離をツメられました。心の距離を。
「……取りあえず、その国の名前に覚えはないっす」
「そうですか……」
「ちっさい国?」
「とんでもないっ! 数ある王国の中でも1・2を争う大国です!」
「そーなんだ」
テンション高っ。つーか、振り幅がでかいよ。びっくりするよ。
「素晴らしいお天気でしたので、つい散歩に洒落込んだのですが」
「しゃれこむ……」
合ってる? 使い方あってるのか?
「因みに、ここはどちらですか?」
「日本です。東京です。ここは公園」
「ほう、日本ですか」
「ご存じで?」
「いえ、知りません」
何で知ってそうな感じ出したの?
「でっかい国ならやっぱこの世界じゃないよ」
「やはりそうですか」
ジョッシュなりに……うわぁ、違和感ハンパねぇ。俺の中では、もうウサどんで。
ウサどんなりに、何か思うところがあるらしい。
適当なこと考えて、現実逃避真っ最中な俺。
あと、これ言っとかんと。
「今更なんだけど、決定的な事があるよ」
「そうなのですか?」
「ここ、ウサギ喋らない」
「……え?」
固まる固まる。とりあえず、ウサギなのは合ってるんだ。
そんでもって、自分がウサギな自覚あるんだ。
「基本、ウサギ喋りません」
いや、俺の知しらない喋るウサギがいるかもしれないからさ。
「では、どうやって会話するのですか?」
「高い確率で、ウサギと会話しません」
「そんな、……いったどうなってるんですかっ!?」
俺が聞きたいわ。あっ、耳がピクピクしてる。
「この際、そこは置いとこうか」
「そうですね。まあ、異世界のようですしね」
「取りあえず、落ち着いて状況を整理したらいいと思うよ」
若干棒読みな俺。
「ほら、早く帰れた方が良いと思うし」
そう、俺の為に。そして俺も帰りたい。
「はい。ありがとうございます、サトシ」
「あー、散歩してたんだっけ?」
「はい。領地の林の中を――」
今、聞きなれない単語を拾った気がする。
俺の聞き間違いかもしれないので、確認してみる。
「りょうち?」
首を傾げて、思い切り『?』付きで。
ウサどんもつられて小首を傾げたよ。
「はい。私、伯爵の称号を賜っておりまして、治めている領地があるんです」
理不尽な話だろうが、ちょっとイラっとした……。
「歩いていると、いつもより木立が少なくなり、気が付けば先ほどサトシとお会いした辺りにいたのです」
……え? 早くないか? 回想終わるの早くないか!? 絶対、はしょったよウサどん。
「俺の他に話しかけなかった?」
いや、まあ、話しかけられても困るだろうけど……他の人も。
でも、何故にして俺だったのか。俺が最初に通りかかったのか? ……なに、そのイヤすぎる確率。
「両手の指を越える程度には、私の前を通り過ぎる方がいらっしゃったのですが、どなたも私に気付いてくださいませんでした」
自分の両手の掌(?)を見つめながら溜息をつくウサどん。
肉球の間から、白い毛がモフっと出てる。……モフモフですな。
「お疲れさまでした?」
言いながら自分で首傾げちった。多分、言葉のチョイスを間違えたよ俺。
「そこへ現れたのがサトシですっ!」
「うおっ!」
いきなり詰め寄られて、俺もおどろくっちゅーの!
「貴方は、私の恩人ですっ!」
「いやっ! まだだからっ! 俺、何もしてないからっ!」
頼むから、過剰な期待はやめてくれ。
「おお、私としたことが。失礼しました、サトシ。少々先走ってしまいました」
ウサギだけにな。
いや、上手くないよ俺。……ちょっと反省。
「はっ!」
「えっ!?」
今、俺しか見えてない的な事を言った気がする。
「どうしました、サトシ?」
大きな声が出てたらしい。ウサどんびっくりですな。すんません。
やべ。ウサどんの名前忘れそう……。いや、そんな事より。
「まさか、幽霊じゃないよな?」
「通りかかった方たちが?」
小首を傾げて、ヒゲがひくついてるウサどん。
「いや、ウ、ジョッシュが」
あぶねー。ウサどんて言いそうになった。
「え? 私、死んでるんですか!?」
質問を質問で返された。
「俺が知るわけあるかいっ! 生まれてこの方幽霊なんて見たことないよ!」
「何をおっしゃってるんです。私は、死んでなんかいません」
胸をはって、きっぱりと言い切ったウサどん。
なんか、心当たりがあるんかいな。
「何で死んでないって分かるんだよ」
一応。念のため、確認しとかないと、ほら、……今後の展開の為? 的な……。
「分かりませんが、死んでるはずありません」
……。
「だから、何で断言できるんだよ」
「そんなの分かりませんよ!」
「あーっ、うざいっ!」
「何ですと!?」
あ、やば。つい本音が。
「うざいとは……、どういう意味ですか?」
ウサギが小首を傾げてる!
つぶらな瞳で! かわいい! そしてセーフ!!
「まあ、ちょっと置いといて」
流す。全力で。流れてしまえ~。
これ以上、面倒くさいことになってたまるか~。
「散歩のあたりをもう一回、細かく思い出してみたら?」
ウサどんの耳が……、ヒゲが……ピクピクしてる。
今更だけど、これあれだね。リアルピー●ーラ●ッ●。もしくは、リアルシル●ニ●的な家族だね。
「そうですね。ありがとうございます、サトシ」
俺の心の脇見運転も気づかずに、ご丁寧なごあいさつ。
さすが伯爵さまだね。紳士。
「その領地の林って、……ジョッシュの家から遠い?」
やべーっ! 今、一瞬名前が出なかった。こんなんばっか……。
「屋敷から少し距離がありますね。ただ、馬を使うほどではありませんが」
「……屋敷……馬……」
どこから突っ込もう……。
まあ、伯爵さまって言ってるから『屋敷』は納得するとして。馬って……。
ウサギが馬って……。
あ、いや、ダメだ。俺が脱線しちゃダメだ。
「林を抜けると、何がある?」
小さな疑問。
「林を抜けると、森に入ります」
「あ?」
それ、森の入り口で良くね?
「はい。何時もなら、林の中を散歩して足を進めれば、森に差し掛かるのです。ところが、こう、木立が逆に少なくなっていきまして」
一応、気づく事はあったんだ。
「方向が間違って、別の方へ歩いてたってことは無いわけ?」
「それは、ありません」
ウサどんは、強めに主張した。
「生まれた時から走り回っている、庭のような場所です。目をつぶってても、間違える訳がありません」
胸を張るウサどん。髭がぴくぴくしてる。これ、多分どや顔かな。
「で、その後は?」
ダメだ。一緒に横道へそれると、また話が進まなくなる。とりあえず、先に進めたい。そして、ウサどんを帰したい。さらに、俺も帰りたい……。
「気になったので、周りを見渡しました。そうすると、一本の木の幹に、赤いボタンがあったのです」
うわー……怪しさ爆発でないかい。
「何ともりっぱな赤いボタンでしたので、こう、ポチっと」
「押したのっ!?」
「はい。こう、ポチっと」
目の前にボタンがあるみたいに、グッと押す仕草を繰り返すウサどん。
アホや、このウサギ! 何で押すんだよ、そんな怪しいもんっ!
「何で押したんだよー」
思わず項垂れる俺を、誰が責められようか。
「気になりまして」
こいつ、好奇心強すぎで、そのうち酷い目にあう。
あ。今か。そして、巻き込まれた俺かっ!
ショックを受ける俺をしり目に、ウサどんの回想は続く。
「ボタンを押した次の瞬間、突然目の前が光って、気が付けば最初にサトシとお会いした近くに佇んでおりました」
おふっ。誰の仕業か解らんまでも、原因はっきりしたね。
うん。その赤いボタンだね。
「気になるのは、この時、来ていた上着と帽子が、どこかへいってしまった事です」
溜息をついて、項垂れるウサどん。
上着? 帽子? 懐中時計があったら、ア●スのウサギだな。
「えっと、上着と帽子は、見つかってないって事?」
「はい。帽子は嗜みですが、上着は、本来着用しているもので、実は先ほどから上半身裸のようなもので、少々恥ずかしく思っている次第です」
恥ずかしそうに、少し肩をすぼめるウサどんだった。
つまり、ウサどん只今、裸ネクタイ?
いや。突っ込むのは、そこでないぞ俺っ!
そして、まだ気づいてないだろ、ウサどん! ここで突っ込むのが俺の仕事(?)
「それだろっ!」
それだって! どう考えたってそれだろ!
「えっ!?」
「絶対、その赤いボタンが怪しいってっ!」
「……なんと!?」
「遅っ!」
やはり、天然か? アホなのか?
「具体的にどんなヤツ? 大きさとか、形とか」
「そうですね」
ウサどん、辺りを見回しながら思い出す。
「赤くて、丸くて、私の手のひら大の……」
ウサどんは、一度、自分のもふもふの手を見た後、また回りを見回した。
「おお、丁度あんな感じの」
ウサどんの指さす方に木があって幹の途中に、赤くて丸い突起が出ていた。
「怪しすぎるだろってゆうか、アレだろっ!」
青い鳥的なオチかいな。
しかも、近付いたら木の根本にウサどんの上着と帽子があった。
決定的、物的証拠なんじゃ……。
「おお、これは」
ウサどん、いそいそとそれを着込んだ。最後に帽子をかぶる。
赤いボタンを見つめるウサどん。
「すばらしいです、サトシ。やはり貴方は、私の恩人」
「あー、結果的にかな。いや、でも俺たいした事してないから」
話を聞いただけだよ俺。
「貴方が、私の世界にいらした際は!」
「やめっ!」
ちょっ、やめれ! 変なフラグ立てるのやめてあげてっ!
「サトシ?」
小首を傾げる以下略。
悪気が無いのは分かるけど、だからって許されると思うなよ。
「いや、もうお構いなく」
「なんと謙虚な。さすがですサトシ」
関心しきりなウサどんには悪いが、面倒は勘弁です。
改めて二人(?)して、赤いボタンを見る。
「やはり、押さずにはいられない感じですね」
はっ。そういえば、ウサどん既に押してるんだ。っていうか、押した結果からの現状。俺にできるのは、忠告。
「取りあえず、ボタンは慎重に押した方が良いよ。また何が起きるか分かったもんじゃないからさ」
「ポチッとな」
「は?」
おいこら、言った側から! 人の話聞けやウサギっ!
「おお、何とか帰れそうな気がします。ありが――」
何か嬉しそうに言いながら、こっちを見たウサどんの目が、カッ! と光った。
「うわっ!」
びっくりして目を閉じた。
光が消えて、静かになったから目を開けると、ウサどんは消えていた。
「え?」
呟いて辺りを見回す。
怪しい赤いボタンも無くなって、俺の目の前には、普通の木が立っていた。
「……終わった? ……は? 今ので?」
……え~。
「か……帰ろ……」
つ、疲れた。無駄に疲れたよ。
違うな。俺、疲れてたんだよ。夢だよ、きっと。
うん。……帰ろ。
了