圧倒的ではないか
本気を出していればホメロウが10周の間に三馬鹿を周回遅れにするのは簡単だった。だが慶司から怪我をさせない程度にお仕置きをしろと命じられた弟子は、お仕置きを実行すべく、敢てギリギリの状態で獲物《三馬鹿》を追い詰めながら最終的には流すようにゴールし、彼らの到着を待っていた。
ホメロウは日々訓練を怠らず、元々の才能、そして努力が明確な差となって現れていた。唯でさえ貴族は自分の足で歩かない事が多いのだ、当然の結果が出たと云っても良い。
「遅すぎだぞお前ら」
流石に差が付き過ぎて、ホメロウも呆れていた。
「ハァハァ」「マジ「アリ、ゲッホゲッホ」
到着が対戦の合図である、流石に周回遅れギリギリにされつつも頭は正常に働いたようで3人揃ってのゴールしてきたが、三馬鹿(ホメロウ命名)は既に疲労困憊になっていた。最後の一人となった侯爵は咽て倒れそうである。
だが此処で師匠の教育方針のみならず馬鹿にしていた事がホメロウの心優しい部分を消去してしまったのだ。
そう彼は尊敬して止まない師である慶司を馬鹿にされた事に怒りを覚えていた、静かに慶司やその仲間しかホメロウの怒気に気が付かなかった。慶司からすれば任せた案件でもある上に、ホメロウだからやり過ぎる事もないと安心して見ている。
どちらにせよホメロウが三人が到着した後に回復するまで待つ必要など何処にも無く、容赦なく一声発して攻めかかった。
「では、参る」
「エ」「チョット」「」
「グッ」「ガッ」「オブゥゥゥゥゥ」
的確に、素早く、そして強烈な一撃が三名に加えられた。見事に一撃で意識を刈り取っている。最後の侯爵に至っては鳩尾にもらった蹴り上げによって、壮絶な悶絶の上でという注釈が必要ではあるが一撃だった。
「うーん、まあこういう結果になる訳ですが、意識が無いのでこの子達には特訓の際に伝えるとして、皆さん如何に体力というものが大事かは解って頂けましたか、戦いは自分の都合で先延ばしに出来たりはしませんよ?」
「「「サー、イエッサー」」」
「では、皆さんもこの後の走りこみから実技まで気を抜かないように、怪我をしてはいけませんからね。それとホメロウご苦労でした、日々力をつけて居るので安心して任せられました」
「自分などまだまだです」
アレでまだまだとは、と同級生である彼らが困惑するやり取りの後で慶司は倒れこんでいる三名を軽々と担ぐと「それでは」と一言告げて歩いていった。ホメロウの活躍も脅威的ではあるが、校長でもある慶司が殆ど同じぐらいの年齢にも関わらず信じられない膂力を持っている事に度肝を抜かれた生徒達はジゾン達から注意が入るまで口をあけて連れ去られていく三馬鹿を見守っていた。
◆◇◆ ◆◇◆ ◆◇◆
「それでは、貴方達は約束どおり特別訓練です」
慶司が目を覚ました三馬鹿に対して訓練の開始を言い渡した。
「まあ体力の重要性は理解できたかと思いますので、強制的に走って貰いましょうか」
慶司の用意したのはウラヌス達の散歩という名のランニングである。但し拘束具付きだが。ウラヌス達の走る速度は意思疎通で既に伝えてある。
「折角ですからね、毎日君たちにはウラヌス達に引っ張って貰って強制的にマラソンをしてもらいましょう、期限は一度でもウラヌス達によって引っ張り倒されなければ合格としてあげましょうか」
「ハン、そんな事やってられないな」
「ふむ、別にウラヌス達に追いかけさせるでも構いませんよ、ウラヌスはどちらがいいですか追いかけて噛みたいのだったらそれでもいいですよ、返事は一回吠えたら了承ということで」
「ワフ」
「追いかける方がいいですか」
「チョ、チョット待てよピレードっぽいけど会話とか馬鹿じゃね」
「その喋り方も将来には宜しくないので矯正が必要ですね、そうですよねウラヌス返事は2回でいいですよ」
「ワフワフ」
「マジカ」「アリエナクネ」
「グゥルルル」
「「「ウォォォ」」」
「学校は本来道徳や礼儀などを教える所では在りませんが、この学院は冒険者を育てる意味でも護衛などの可能性もありますから、厳しくいきますよ。それではウラヌス、ヘリオス、アルテそのロープでとりあえず繋がった生徒が倒れたら引き摺らないで待ってあげるように、不遜な態度や問題があれば殺さないなら教育的指導も認めましょう」
「ワフ」
「では行ってらっしゃい」
「チョ」「ナッ」「ウワアァァ」
三者三様の呻き声と共にウラヌス達に引っ張られた三馬鹿が反省して真面目に取り組むようになったのは三日掛からなかった、だが合格ラインに到達するのに要した日数はそれから一ヶ月の時間が必要だったと云う。
「ウラヌス殿お待ちください」
「ヘリオス殿、もう少しペースを……」
「アルテ様、引っ張らないでくださいませ」
「「「ウギャー」」」
その特訓の様子をみたホメロウは自分も参加したという。特訓が一ヶ月過ぎた頃になると彼らの言葉遣いは更に変化していた。
「「「ホメロウ先輩、本日も宜しくお願いします」」」
「共に浜辺ランニングを今日こそ成功させるのである」
「「「おー」」」
「「「わふー」」」
そして何故かトレーニングメニューとして新たに浜辺ランニングを自主的に取り入れた特待生組みも含めて参加者が増えていた。それは日が経つにつれてドンドン増加していった。
「イッチニ、イッチニ、ヘイ、イッチニサンシ」
「「「イッチニッサンシ、ニイニッサンシ!」」」
「ワフー!」
「「「体力とは冒険者の基礎」」」
「ワフー!」
「「「継続は力なり」」」
「ワフー!」
「「「走れ!走れ!走れ!」」」
「ワフー!」
「「「根性、根性、ド根性」」」
「優秀な冒険者になりたいかー」
「「「走れ!走れ!走れ!」」」
ランニングハイにでもなっているのではなかろうかと慶司が若干心配した程に参加者も次々に増え、着実に基礎体力という宝を生徒達は手に入れている。
仲間が次々に参加して、朝の地獄からいち早く抜け出し次々に実技訓練に向かう様子を見れば自然と俺も私もと参加者が増えたらしい。実技の訓練時間が延びたと慶司の下へと報告が来た事も喜ばしい出来事であったし、三馬鹿が反省を見せた事で訓練自体を真面目に取り組む生徒が増えた事も大きい成果だった。
特訓の参加者が増えていった話だが、一部に強烈なファンがいるモフモフ代表のウラヌス達と一緒に出かけられる事に釣られた生徒達もいた事に応えたのか、継続してウラヌス達がこの訓練の先頭を常に走っている事でグラームに新たな名物ができたのは余談である。




