創意工夫は発明の母?
翌日の朝、慶司とエルはご飯を食べてから外出した。
二人で様々な武器を取り扱う店を回った。
「我もこう、武器を構えようかの。
やはり賢者らしく杖が似合うじゃろ」
「まあ確かに鎌を構えてとかだと様にならないか」
「まあ、いざとなったらぶっ叩けるのが杖のいいところじゃ」
「店で見る限り魔術付与されてる杖はあっても、
打撃まで考えられてるのは無かったよ?」
「まあ普通はそうじゃろう」
「うーん、単純な木の棒でも十分な気もするけどな。
どうせならグルテンさんに頼むか…
小柄なエルが振り回して威力がでて、
トンファーだと短いしな…うーん杖のように構える、
ヌンチャクを持った中学生…いや接近されすぎだなあ…
いや三節棍を二節にして、
魔法の取り外しが出来れば遠心力でガツンと」
慶司が唸って考えた武器だが、これらは実在する物だ。
長梢子棍と言われる中国武器に存在する。
同じ仕組みの武器は西洋にもあるのだが、此方が長梢子棍より慶司の発想に近い物だ。
フレイルと呼ばれる武器である。
先端の棒の部分をトゲトゲ鉄球にすれば、よくゲームで登場するモーニングスターとも呼ばれる仕様となる。
「よし、全長が5ネルで、1ネル分を鋼で覆ってもらうだろ。
その部分と本体を鎖で繋いで、振り回せるようしてもらう。
魔術で接合部分が取り外し可能にしてもらえばいいかな」
「まあ任せたのじゃ」
飛び道具の強化版としてクロスボウや銃なども考えた。しかし武器の発展を促す事で世界に与える影響を考え取りやめたのだ。
魔術を使い、筒と発動条件さえ組み合わせれば連発式の銃ぐらいは即座に可能だろうと考えたのだ。だが、これは慶司の思い違いである。小型の銃を作るには鉄の耐久性問題があった。なのでもしも銃の作成に挑んでいても完成させるには困難を要しただろう。
しかも大砲なら作成が出来て即時運用が可能でも魔法や魔術に及ばず意味が無いのだ。火薬を必要としてないこの文明では炸裂させるという発想もなく、それならば魔術もしくは魔法を行使したほうが早いのである。
余談ではあるが、後日、慶司は爆発符の作成に成功している。大量の魔石を必要とするのが欠点であったが、ダイナマイトと地雷と炸裂弾を同時に発明した事になった。余りに強力な魔術道具だったので、慶司の判断で作り方は秘匿された。
◆◇◆
「こんにちは」
「あら、いらっしゃい。
ちょっと待っててね、もう少しでお昼だから。
昼食に戻って来ると思うのよ」
「はい、ちょっと投擲武器も見たいので」
置かれている商品を確認していく。
「やっぱり投擲武器はこっちじゃナイフになるのか、
この上のは槍の穂先だもんなあ」
皮膚の厚い獣などに打ち込むには、ある程度の重さも必要になる。かといってナイフじゃ本数が持てないのである。クナイもナイフと変わらないし大きさである。手裏剣やチャクラムも収納が問題になるのは変わらない。
こうなると必要な大きさや仕様が浮かんでくる。
指をかけてまっすぐに飛ばすとして、刃の部分と投げる部分で金属の重さを変える。形状は棒手裏剣のような長さで薄く板にすると…0.5セルの厚みで5セルの半分を削って刃を作る。柄には指先を掛けやすいように凹みを入れて、柄から1.5セルは軽い金属にして、そうだ、刃じゃない部分の真ん中をくりぬいてもらえば罠にも使えるな…うん予備もいれて20本あればいいな。
図面を引きながら、慶司は新しい投擲具を考え出した。
「おう、いらっしゃい。
例の仕込み槍は明日の朝には仕上がる予定だ。
面白くてな俺も仲間も徹夜で作業しちまったよ」
「実は更に、注文をお願いしに来たんだけど…」
慶司はエル用の杖と考案した投擲具を説明していく、フムフムと頷いたグルテンは、これなら時間はかからんと言って、明日の昼までに全部揃えてやると約束してくれた。エル用の杖を1000リュート、投擲具は20本で4000リュートで引き受けてくれる事になった。
念の為に武器に関しては量産をしない方向で話をつけて、慶司とエルは店を後にした。
◆◇◆
待ち合わせまで時間が出来たのだが、暇を潰すのに何かいい案は無いかと思案した。
そこで慶司は、魚釣りの道具を持ってはいても予備も無いから探してみようと考え、まずは雑貨屋を覗いて質問してみる事にした。
「魚釣り用の道具はありますか?」
「ああ、そこに置いてあるよ」
棚を見てみると流石に骨などではなく、山人の里らしく金属の釣り針が置かれていた。きちんと返しもついているが少し大きすぎた。これより小さな針は取り扱いは無いと言われた。恐らく既製品は存在しないとの事で、職人を紹介してあげようと言ってくれた。
糸は数種類在ったが、まずは虫から取ったという糸が一番人気でギルドに採取依頼が出される珍しい物だそうだ。見た目は持ってきたナイロンの糸そっくりだが短く、10ネルしかないうえに太さもバラつきがあった。それでも100リュートする。
長い物がほしい場合は同じ糸を結わえて紡ぐか、同じ虫から別の方法で取った糸や綿の糸に樹脂を塗りこんだ物になるということらしい。虫製の長い糸は透明ではなく20メルぐらいの物を見ると200リュートと、先ほどの物よりはお買い得ではあるがこれまたいい値段である。綿糸は安いが釣りと言っても網などの補修用らしくザリガニでもいれば釣ったりできるだろうが用途外だった。やはり趣味にお金を出すのはこの世界の文明ではかなりの贅沢になるようだ。
後日だが虫を調べたら記憶にある蚕より大きな芋虫だった…けっこう採取できるらしいのだが擬似ナイロン糸の製法はなかなか凄かった…凄かったとだけ述べておく。実は森人の重要な輸出品で反物は高価だとか、そりゃ絹だもんなと慶司は思った。そう言えば小学生の頃に校庭に桑の実がなって食べ始めたらブームになってしまい1週間後突如学校側による農薬散布という形で諦めなくてはならなくなった事を思い出した。
何に必要になるかは解らないが、糸は便利なので数点を購入してから店を出た。
◆◇◆
釣り針の件で紹介された店はB&M工房といって、包丁やハサミなど日用品をメインにしつつ趣味で釣り針を作ってると教えてもらった。趣味でやっているなら、穴場なんかを教えて貰えるかもと喜んで慶司は足を運んだのである。序に包丁も和包丁とか作ってもらえばなどと、何やら料理人のような事まで考える。
「失礼します、釣り針の特注品をお願いしたいのですが」
「いらっしゃいませ。
ごめんなさい亭主も弟も昨日から帰ってきてなくて…
明日になれば戻ると思うのですが。
宜しければご注文をお伺いしておきます」
「ではこの釣り針の大きさの半分のサイズの物を10個と、
3個をくっつけて糸を通せる物を10個お願いできますか」
「では、この絵のように仕上げさせますね。
明後日には仕上がってると思いますよ。
前金として銀貨1枚となります。
お名前をお教えていただけますか」
「慶司といいます。
アドニス料理店の2階に逗留してます。
なにか問題があれば連絡下さい」
エルの武器に投擲具、そして釣り道具まで頼んだ慶司は心軽やかにエイミーを待つために部屋まで戻った。エルに付き合わせた感謝を込めてフルーツ牛乳を造り冷蔵の魔術箱に放り込んだ。そうか牛乳が持たないのは保存だけじゃないやとそこで気がつくのである。元の世界で売られている牛乳は煮沸消毒済みである。高温で一気に殺菌していたのは覚えているが慶司は何度で何秒かまでは思い出せなかった。
一般的な日本の牛乳は120℃~150℃の超高温殺菌で、0.5秒~3秒という殺菌方法が主流だ。他に低温、高温殺菌がある。他にも方法はあるのだが特別な牛乳というと変だがスーパーで売ってる牛乳とは一線を画す牛乳が存在している。
慶司はそこまで求めてないので殺菌が出来ないなら粉で我慢する事にした。
◆◇◆
慶司、エル、おまたせにゃ! と飛び込んで来たエイミーと一緒にギルドへ向かい依頼書を確認する。今回は慶司とエルも依頼を眺めていく。まず危険な討伐の依頼が出ていない事を確認した。現状では町の北方面の山中でドルド討伐の依頼があるだけで他は見当たらない。張り出した日時も今日の午前中と確認していたら別のパーティーが素早く剥がしていった。
採取依頼は少なくはないが、山方面に行かない事を考慮に入れると減るらしい。
そこで慶司達が選んだのは。
ラビの5羽以上一羽300リュート、10羽まで、皮別途清算。
ハンマーレブ3匹以上一匹250リュート何匹でも可。
ヌガの花の採取300リュート、10個。
バンエの葉の採取500リュート、100枚。
挑戦する狩猟も採取も期日は明後日までとまず問題は無さそうである。
カウンターに行くと昨日の受付の女性だった。作業確認のサインを貰ってると、昨日のドルトの顛末を教えてくれた。なんでも別の若手パーティーが討伐依頼を受けたが想像以上の数が現れた為に逃げ出し、本人達は怪我は無かったそうだが牧場にまで逃げ込んでいたという。依頼失敗に懲りていればいいのだが、先程張り出した北方面のドルド討伐をまた受けたらしい。
ドレスムントは大きな都市でもある為、山村の村や町に比べると依頼の殆どが護衛任務か初級の採取任務、鉱山採取となるだけに討伐系の高ランクの冒険者は少数らしい。今朝も南へ討伐に鋼の高位レベルのパーティーが向かった為そちらは心配していないが、北側からは注意して欲しいと忠告をもらった。
これはフラグというのではなかろうか…と嫌な予感を覚えながら御礼を述べてギルドを出発した。
◆◇◆
「ふむ…懲りぬ奴らがおるようじゃの」
「たぶんお金持ちの坊ちゃん冒険者にゃ」
「昨日もこっちをヘラヘラ笑いながら喋ってるのがいたな。
こんなのもいるのかと感心してたんだよね…
ある意味テンプレ的な存在すぎで」
「「てんぷら?」」
「すごい食いつきだった…食べ物に反応しすぎだと思う。」
「「なんだか美味しそうな響きだったのじゃ(にゃ)」
またハモってるよと思ったが、そうかフライっぽいものを見ないから今度作ろうと、料理の事になると考え込むのが慶司である。海に行けばエビとかいるかなあなどと考えながらサクサクと採取していく。
ヌガとバンエは似たような場所に生息しているので同時に受けやすい、ハンマーレブは小川にいるらしくどんな魚かと思ってたら魚じゃないので岩をどかすか棒を突っ込んで取るらしい…それってザリガニじゃないかと思ったが、棒で突いて出てきたのはザリガニサイズのハサミで木の枝が折られてしまった。これは作戦を立てねばなるまいと話して先にラビの方へ目標を変えた。
ラビはどうやって取ってるのと聞くと猫又族らしく抜き足差し足忍び足という、あとは弓矢で仕留めるのが一般的らしいのだが意外な事に猫又族の狩猟方法の方が成功率が高いのだそうだ。それでも成功はしていない。まあ的も小さくそこそこの腕前が必要だとは思っていたが予想外である。魔法も対象が小さい為に難しいとの事だった。これもやり方を見て慶司の身体能力なら捕まえられなくもないのだがアレは反則みたいなものだ…ここはやはり正式に挑もうと考えた慶司は一旦都市に戻って雑貨屋へと赴いた。
◆◇◆
「網ってありますか?」
雑貨屋で糸を見ていたので尋ねてみた。
慶司のアイデアには網が必要なのである。
「残念ながら網自体は作られてないわねぇ。
あれは漁村で漁師の人たちが手作りで作ってるから」
「じゃあこの綿の糸に樹脂をつけたやつを下さい。
1セル間隔で5ネルの網になるから……
520ネルもあれば足りるかな。
どうせなら3人分作るか」
「一巻きで400ネルあるからね。
100リュートを4巻で400リュートね」
無ければ作ればいいじゃないとばかりに糸を購入して帰る事になった。
部屋に戻った慶司は早速網を作り始めた。まず糸巻きから細い3ネル程の棒に糸を巻着付ける、そして二人に本編みの方法を教え板をゲージ代わりにしてドンドン編み進めていく。やり始めると無言で作業は進んでいった。最初に編みあがった慶司は残った糸を4打ちの丸紐に加工していく、長さも7ネル程にして頑丈なロープに仕上げた。編み上げは一気に出来たのだが、3人ともご飯も食べず熱中して作業をしたものだからアドニスがご飯はどうするのか尋ねにきたぐらいだ。
翌日の早朝、グルテンから商品の出来具合を確かめて欲しいという連絡を受けた慶司は、朝食を食べて直ぐに工房へと赴いた。お礼にと寄り道をして、蒸留酒とおつまみを買って持っていく。序にエイミーが今日まで店の手伝いがあり、昼になったら合流する為、完了した任務の報告を先にすませておいた。
「おはようございます」
「おお、おはよう出来上がったぜ。
裏で試していくか?
それに聞いたぞ、釣り針注文したらしいな」
「もう知ってるんですか?」
「そりゃ手伝いに来てた野郎達の工房のことだからな。
知らないはずが無いさ。
変わった形の注文だからっていっててな。
ブルーノの嫁さんが仕事があるから帰って来いってんだ。
見てみたら依頼にケイジと書いてある。
こんな変わった依頼する奴は一人しかいない。
この武器の依頼者だって言って結局今日の朝まで徹夜よ」
「なんだかすいません。
このお酒気に入ってもらえたようだったので、
また持ってきたので3人で飲んで下さい」
「おう、君が慶司君か!
釣り針の依頼を見たが何を釣るのかね?」
「一応ロックフィッシュと、
マーガレットフィッシュを釣ろうかと」
「ほう、ロックフィッシュであの針の大きさか…
だがあの3つ連結させたような針の用途はなんだね?」
「あれはまた別の疑似餌の為なんですよ。
今回は使うかどうかわからないんですが、
釣り針を作ってる工房だったので作ってもらおうかと」
「今度時間があればだが、
北門から西へ行ったところにある湖へいってみるといい、
釣り小屋があってボートで釣りがたのしめるぞ、
レインボーやシルバーが釣れるんだ」
「時間があれば是非いってみます」
「ブルーノの釣り話が始まったら夜になっても終わらん。、
とりあえず、裏に行くとしよう」
最初にまず仕込み槍のついた棒を振り回す、軽すぎず重すぎず、両端に金属と刃が仕込まれているので、遠心力を加えた打撃で大抵の獣の骨は砕ける。丈夫に作ってもらったからよほどの事が無い限り曲がったりまではしない…はずである。仕込みの穂先は3色の金属で不思議な模様をかもし出していて、切ることできる刃になっていた。
投擲具は予想通りの出来だった。重さが足りない部分を指をかけた力で補い巻き藁に突き刺さった。慶司の力なら普通に全力で投げれば骨も砕けるぐらいの威力はでる仕上がりだ。
最後にエルがフレイルモドキを振っていい杖じゃのぉといって振り回してた。ある意味愛嬌のある姿だったのだが、魔力を流し込んでからフルスイングでぶち当てた瞬間に巻き藁が砕けて折れたのである。中々の威力だと感心していた慶司だったが、グルテン達は呆気にとられていた。
慶司の太刀はあくまで近接戦闘のみに特化しているが、これである程度の獣がでても距離を保って対処できるようになった。
七日後にネックレスを仕上げて貰うのだが、何か武器に不具合があれば調整してやるから言いに来いと言われた。恐らくそんな事は無いだろうと思いつつも礼を述べて慶司達は冒険者ギルドへと向かった。
2014/09/03加筆修正