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王と英雄

 突然鳴り響く轟音、崩れる巣穴。もちろん崩したのは慶司の攻撃である。大規模な魔法は一切使わないで穴を塞いだのだが、慶司が爆発系の魔法を使わなかったのには理由がある。


 魔法で爆発させる事など常識から外れた行為に当たる。無論魔力保有量の問題もあるが、何故爆発が起きるのかが理解できていないとその現象を引き起こす事が不可能と云えば理解して貰えるかと思う。


 王国の軍隊の魔法師部隊などが爆破は特定位置に火をつけてそれに酸素を急激に送り込むといった手順を踏む、厳密にいえば爆薬の生成もなければ水蒸気爆発を起こしたわけでもないので威力は低い。戦闘でも使えないような魔法でしかないのが実情だった。高等魔法の部類に入る魔法を一般人や研究者でない軍所属の魔法師が使える筈も無い。そもそもが彼らは魔法師となってはいるが魔術師であった。


 ファーレンの魔法や魔術の発達は経験に基づいてのみの実践方式でしかない。特にマギノ以外の土地では研究さえ進められていないのは資質の問題が関係する。魔法を扱うための体内魔力の保有量をもっているのは竜族や精霊といった規格外を除けば森人、山人、魔族だけであって基本的に魔術しか使えないのだ。


 また、火は火であり水は水であるというのが基本的なファーレンの常識だった。イメージがなければ魔法は使えないし、原理がわからなければ発動もしない。


 爆発を魔法で本格的に起こすとなると原理を知る竜族しか使えない高等魔術になるのも道理である。


 これは慶司が旅の中や資料室を作った事で判明した事で、口外していない事になる。なので爆破の場面は見られないようにして、更に念入りに大規模の魔法ではなく岩盤の数箇所を内部へ水を染み込ませた上で熱膨張させるという細かい芸で行っていた。流石に崩れていく岩の音までは考慮に入れていなかったので爆音が響き渡ったが、そこまでは気にしていられない状況だった。急がなければ軍隊が壊滅する。


「こちらにいる軍団の責任者に告げる、一時退却せよ」


 命令に従ってくれるかどうかは不明だ、危険な場所に覚悟してきているのも事実であり、そして放置すればウィルソルカンポ達は確実に近隣の村まで襲うだろう。だが謎の爆発により後続が絶たれウィルソルカンポ達の動きが一瞬止まった好機をアルゼは見逃さなかった。


「総員、敵をひきつけつつ川へと走る、村への撤退は許されない、走れ」


 機を見るに敏、そして後退する場所の設定も考えていたのかと関心する。


 そして何故か一人暴れまわる兵士を慶司は見つけた。ちょっと邪魔である。


「おい、そこの兵士、邪魔だ」

「ああん、単騎で突撃しまくるのが男の甲斐性の見せ所だろうが」


 信じられない事にこの男は一人で群れの中で暴れ続けている。慶司にも可能な事だし、微温湯のような所業だが、一般人がやるともなれば不可能ではないだろうか、出来るとすればルージュクラス以上、いやまさか神薬かと慶司は考えたが、だが見るからに普通ではないがあの銀の輝く肌ではない。初めて見るブロンドの虎紋族とそこで思い当たる。


「バルトホルス・マルテア国王よ、退いてくれないか」

「む、俺をマルテア国王だと知った上で退けと言い放つなんざアルゼぐらいのもんだがな」


 慶司は会話をする為に一直線に彼の元まで敵を屠りながら近寄っていく。その光景に驚きもせず返事を返すバルトホルスも只者ではない。双剣を振り回しながら戦い続けている。


「貴方達は巣の規模を図り間違えたか、もしくはウィルアンツの本当の巣の状態を知らずに挑んだのだろうが、国の国民に被害を与えたいのか」

「グッ、だがここで退けばこの巣から溢れ返った奴ら(ウィルアンツ達)が村に……」

「だからそちらの指揮官は軍を川に引いているのだろう。と云うか処理してやるからさっさと逃げろ」

「ム?何処からその自身が……まさか貴様……」

「いいから早く撤退の手伝いをしてやれよ、あの軍隊もお前の国民だろうが」

「グムムム、わ、判ったこの借りはいつか返す、渡良瀬よ」


 慶司の心の声を表すなら一言「バレテルのかよ」である。名乗りも上げてないが、有名になったものだ。


「まあ何故お主がわが国にいるのか不思議だが、まあ大よそ竜の使いかなにかだろう、ここは任せた、必ず王宮に来いよ」

「約束はしかねる」

「ハッハッハ、俺と一緒で堅苦しいのが嫌いなようだな、まあいいさ、なら招待状を送るまで、では頼んだぞ」

「信じられない奴だ、というか何歳なんだあの王様」


 慶司が呟きたくなる気持ちも当然だっただろう、そして疑問の答えは御年70歳、ハーフの森人とハーフの虎紋族の間に生まれた非常に稀な人物であった。彼の両親は子供が生まれたときに驚いた程である。

 まず虎紋族と森人が子を成す事は出来ないらしい。恐らくではあるが遺伝子上で何かがあるのだろうが、これは虎紋族とも子を成せる人間を介すと珠にではあるがほぼ普通の子が生まれてくる。


 そしてバルトホルスは稀な確立を更に稀にしたような存在としてこの世に生を受けた人物だった。普通の子ではなく森人の特徴と虎紋族の特徴を持った子供として。


 驚きのハイスペックな人物も居た者だ。と他人事の様に云う慶司だが存在そのものがチートだと忘れている。


 ともかくこの場の敵をなぎ払う必要がある。王様からの招待なんて面倒以外の何者でもないから平然と無視しようなんて決めてかかっているので即座に頭を戦闘モードに切り替える。


竜鳴ノ一(りゅうめいのひとつ)極焔ほむらのきわみ】で以前は処理したが、森も近く飛び火すれば厄介でしかない。


 バルトホルスに会う為に一時的に解除していた【明王憑醒みょうおうひょうせい】を再度掛けてウィルアンツの群れを分断していく、右手に【雷火(らいか)】 左手に【霹靂(へきれき)】放ち殲滅しながら群れを自分の方へと導いていく。ポジションを確認し、軍にも被害の及ばない地点までやってきた慶司はエルウィンの加護によって使える竜族魔法を発動すべく蹈鞴の太刀を構えた。


竜鳴ノ一(りゅうめいのひとつ)極電いなずまのきわみ】選択したのはブレス、地形的なダメージがなく飛び火も少ない物で後に残らないとなればこれしかないと判断した。。最初から巣穴に向けて放てるのに封印していた意味がこれでなくなったともいえよう。


 ここまでの苦労を無駄にされた慶司のアルテアに対する印象は最悪となった瞬間である。色んな意味でだが……


 納刀と共に今度は上空へと上がり真上から巣の中心から潰す為に魔法を発動する。


(一旦全員退避して)

(((了解)))


 丁度クイーンのいたシャフト部分の上部に降り立った慶司は鞘毎大地に突き立てる。


 エリスとノルン、そしてヒルデガルド、ロミーに教えてもらった地竜系統の魔法を地中に向かって発動させようと慶司は考えた。水は魔素を形質変化させる要素が肝心の魔法であり、実は水以外も創造するのはこの変化によるもの、そして土は合成や整形を魔素によって行う。互いに関係の深い魔法なので4人の得意な魔法などを見せてもらって慶司なりに纏めた結果がさきの魔素を使った魔法の概要となった。


 精霊はその手の事はあまり考えずに使うし、竜に至っては知識があろうと基本は本能という野生児タイプの運用しかしないし、まだまだ不明な点が多いのが魔法という存在だった。


 エリスの得意とする攻撃方法で土石流のような攻撃があるのだが、これはまさに土の変化によるものである。そしてヒルデガルドは水で竜巻を起こしたりする、何もない空間から水を大量に生み出すのは物質創造の成せる技といえる。とはいえど金を生み出したりは出来ないようで生成できる物質にも限りはあるようだが何を元にしているのか、今ひとつ解明に至っていない。恐らく空気中もしくはその場の元素に関係しているのでは無いだろうかと考えているが、証明手段が今のところ思いつかない。


 とにかく慶司はこの本能だけでという部分が苦手であり、仕組みがわからないなら竜の知識を借りるという手段でもって使っているし、この蹈鞴の鞘と太刀はそういう意味の補助で云えば最高の道具である。


 天地創造とでも名づけたいような気分で地中へと魔力を放出しながら土や水などと共に巣の中を埋め尽くしていく。慶司の体から放出される魔力が刀を通して地面に吸い込まれ大気の魔素は慶司に吸い込まれていく。地中の様子までは見えないが内部では魔力によって魔素が変化を起こしながら内部の空間を埋めていく。


 外部の様子は美しいといっていい現象が起こっていた、白銀の色に染まる太刀から発せられる光と魔素が慶司に吸い込まれていく様子は可視化されるほどになっていて正に幻想的な空間が構築されている。


 森の木々や大気の彼方から魔素が慶司めがけて渦を巻き集まっていく。


 まるで魔素が意思をもっているかのような光景が広がる。実際木々が送り出す魔素は精霊からの助力である。流れる川からも空からも慶司へと精霊が力を貸していた。


 この光景をもしも精霊達以外に見るものがいれば慶司を敬う宗教が誕生するような事態になっているだろう。


 慶司達の出てきた穴から土が溢れたところで内部をノルンに確認してもらって問題が無いと判ると、慶司は学院へ【幻日環回廊(げんじつかんかいろう)】を開いて部屋へと戻った。


「なんだか疲れたよ、ちょっと横になるから15分で起こして」

「了解しました」


 シルフィに頼み込むと慶司はそのまま眠りについた、いくら莫大な量の魔力をもっているとはいえ無限ではない、使った分を外の魔素を取り込む事のできる慶司といえど精神的な疲労は否めない。だが理事で校長という逃げ場が無い状態では仕事は逃がしてくれない。そして竜具屋のオーナーでもある。起きれば書類の山が待ち受けているし、無視だとは云えど今回のあの馬鹿っぽい王に会ったことなどマリシェル達と話し合う必要もあった。数十秒そんな嫌な未来を考えていた慶司だが疲れは彼の意識を眠りへと誘っていた。


 毛布をもってエルウィンがやってきて体に掛けても気がつかずに眠っていた。


「どうやら働きすぎのようじゃな、主様よ、無理はするでないぞ」そう云いながらエルウィンは慶司の髪を撫で付けている。気を利かせたシルフィが部屋の外へ出てゆく。静かな空間に慶司の寝息だけが規則的に微かに響いていた。

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