六臂があっても忙しい
花月から開校したファーレン冒険者学院、全寮制をとっている為に朝の授業に遅刻する生徒など通常はいない。
だが世の中には何事も例外という物は存在する。どうせ授業の開始などの合図をするなら本格的にしたいと希望して大きな鐘楼を用意した特大の鐘の音が響き渡るなか一人の生徒が大急ぎで宿舎から走り出してくる。
猫又族の青年で名前をルーサーという。実力主義の教育制度とはいえ規律を守らない生徒には教師も甘く接するわけには行かない。
今日も彼は一時間目の授業は着席を許されず立ったまま教室の後部で教科書を開きながら受講する事になるだろう。
其の辺りの罰則は教師の裁量に任されてはいるものの課す内容は慶司からの提案された物から選ばれる。
一昔前にあるような廊下で立っていろなどという処置は罰ではあるかもしれないが教育を受けさせる機会を失う事になる。よって授業に遅れた場合の処置は教室の後部で1時間の間起立したままの受講となる。
しかしながら三日に一度の割合で遅刻していると流石に周りに示しがつかない。教師からの報告で慶司が理由を聞くことになった。誰かが担当しなくてはいけない事ではあるので仕方が無いと慶司も引き受けたのである。
「それで、ルーサー君、君は三日に一度の割合で遅刻していると報告が上がっているのだけれども何か理由があるのかな」
「いえ、只の寝坊です」
「ふむ、理由も無しで遅刻していると?」
「朝には弱くて」
「では夜早く寝るなどの対策は採っていないのかな」
「そうであります」
「では退学で」
「え?」
「退学でいいよ」
「タイガクですか」
「学ぶ気が無いのであればどれだけ実技や優秀な成績であろうと退学してください、我々の目指す教育は怠け者を待遇するのではなく、優れた冒険者が死なないようにする為の知識を勉強してもらい、また技術を学び生存率を上げるための授業を受けてもらう為に入学してもらっています」
「勿論内容はしってますが、遅刻ぐらいで退学となるのは」
「そして、仲間も危険にさらすなどといった行動なども採らないようにするべきなのが冒険者たる者の心得です。君は病気でも無く確たる理由も無しで自ら学ぶ時間を減らすだけでなく回りに迷惑を掛けているのです」
「そ、それは」
「と云うわけで退学して頂いて構いません、この学校は義務教育では無いのです」
「わ、分かりました、遅刻はしませんからどうか許してください」
「では何か対策を考えて下さい、其の方法を今日中に私の方へ届ける事」
「わ、分かりました」
冷や汗をダラダラと流しながら部屋を飛び出ていくルーサーを見送ってから慶司の後ろに立っていたエイミーがやれやれと云った風な仕草をみせる。
「あれは本気じゃないにゃ」
「そりゃもう調べているからね、だけど実際悪い影響があるのも放って置けない」
「にゃはは、やっぱりもう調べてあったのにゃ」
「そりゃ、あれだけ遅刻回数が多けりゃ病気も疑うし何か理由があると思うじゃないか」
「それで原因はなんだったにゃ」
「仕事の請けすぎだね」
「そんなに仕事を請けてるのかにゃ」
「うーん彼はどうも要領が悪いね、それと幾らなんでも仕事しすぎだと思う。学生の内にできるだけ返済が楽になるようにと考えたとしてもちょっと仕事の量が多すぎるね」
「にゃんか事情がありそうだにゃ」
「現在それを調査中」
「ちょっと興味があるから分かったら教えて欲しいにゃ」
「できればフォローにまわってくれると助かるんだけどね」
「じゃあちょっと行って来るにゃ」
「宜しく」
「まーかせるにゃー」
一生徒だけを特別扱いする訳では無いが目に留まり耳に入ってしまえば致し方が無い。そういう性格をしているのだからと本人ですら割り切っている。
調査はシルフィに任せているし、実際慶司はまだまだやることが大量に残っている。
書類整理などに関してはエイミーやグラディスの助けを得ているし、校長業として本来は対応すべき業務もギルド代表との付き合いでミシェルさんに便宜を図ってもらう事や、商会との話などもグラディスさんの顔でかなり軽減されている。
何より慶司は現状で奴隷の解放だけでなく他の国関係の調査なども行っている。ブルトン王国は現地の女王シャーリィとミランダに任せれば問題は無いし、何かあれば直に連絡が取れる体制は整えてある。フルトリア王国も黒狼のフルトリア支部の連絡網がある為それなりに対応が可能である。しかし以前刺客を送りつけてきたロゲリア王国、エリミアド王国、マルテア騎士国、マレド通商連合国家、その他南方の小国家郡などが存在し、聖教会も存在し、奴隷問題や領土問題、戦争問題もあれば魔物の問題などもある。
そして竜族の支配地域では無い所の村では魔物の討伐が遅れたりする事も生じやすく、精霊の連絡があれば支配地域問題は抜きにして慶司が対応する事になっているのである。
特に問題となるのはウィルソルカンポなどが作ったダンジョン問題であった。
一部の冒険者がもぐって対処できるレベルの物はあちらこちらに存在するのだが、大陸南の国家郡に存在するそれは超巨大ダンジョンに成るものも存在する。
通所の蟻のスーパーコロニーを形成する事は割りとしられている事実であるが、それが人間規模の大きさの蟻によって作られるとなると大問題でしかなかった。
それ以外にも様々な問題が待ち受けているのだが、今日はこの後直に発見されたウィルカンポの殲滅に向かう事になっていたのである。
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外出中と札を掛けた慶司は一旦屋敷に戻り装備を全部用意して【幻日環回廊】を構成して直接討伐へと向かった。
新大陸では大陸全ての地下がダンジョン化しているだろうと云われている。
早期に決着をつけなければ30テル以上(90km)の巣に発展する可能性が示唆された。
「早速哨戒行動中の奴のお出ましか」
「そのようだね」
「張り切っていきますわ」
「ま、うち等に掛かればこれぐらい速攻で片付くぜ」
「頑張るのだ」
「ビューンといっちゃおう」
「それでは皆さん頑張るのですよ」
フレア、ロミー、エクレア、ノルン、ソアラ、そしてシルフィーと6名の精霊が勢ぞろいしているのは慶司の魔力保有量の為せる精霊王と呼んでいい程の力だ。
【明王憑醒】を発動した慶司も既に戦闘態勢に入っている。炎のフレア、雷のエクレアが一番の武闘派ではあるが、夫々戦う術は持っている。土のノルンは本来は防御だが槍状に射出する魔法と手に持った金属を生成した槍をもっている。ロミーは水をカッターのように噴出させるようにできる筒を装備していて触れるものは全て切り刻まれる。ソアラは強力な魔法も使用できるが唯一の魔法が強力すぎる上に一撃放つと魔力切れになるので慶司の用意した魔術付与済みの短刀を両手に持ちその移動速度を活かした攻撃を仕掛ける。そしてシルフィは風の刃を操ったり気圧を下げて絶命させるという恐ろしい手段を持っている。
夫々肉体の作成まですると魔力の消費が大きい為に慶司の用意した戦闘用の服や手袋を装着しての戦いであり、訓練施設で使っている対人用訓練装置の改良版とも言える物だ。現在さらに改造中の技術で最終目標は自律動人形である。既に半分以上出来上がっていると言っていいのだが、最終テストを済ませていないので今回は持ち出されなかった。実はシルフィが一番楽しみにしている技術でもあったりする。
「それじゃ行こうか」
「「おー」」
こうして慶司の『お仕事』が開始された。




