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プロローグ

「ケーキ、ケーキ」

「嬉しいのは分かるがの、しかし、ちと浮かれすぎではないかと思うのじゃ」

「エルさんは毎回作ってもらえるからそんな風な事を平然と言えるのですよ」

「ですがマリシェル様は竜聖母ですからのぉ」

「ヌヌヌ、大丈夫です、こんな風に接しているのは貴女と慶司さんの二人だけですよ?」

「非常に怪しいのじゃ」

「ウグッ、でも、結婚したエルにはこの嬉しさはきっと解らないのよ」


 竜聖母の神殿の一室で繰り広げられているのは、この神殿の主でもあり、ある意味この世界で一番偉いと云われるマリシェルとエルウィンの掛け合い漫才のようなやり取りであった。


 事は慶司が土産にとエルウィンに持たせたケーキをみたマリシェルがはしゃいで喜んだ事が始まりだ。


「確かに主様のケーキは美味しいのじゃが、以前より食べる機会も増えた筈じゃ」

「そうですけど、実際に嬉しさが湧き上がるのは致し方無いのです」


 エルウィンとしても慶司を独占している(一部違う部分もあるのだが)引け目もあるので強くは言えないが、いくら優れた夫だからと云って妾を許したくは無いと思うのだから譲れない部分でもある。


 マリシェルが竜聖母という立場が無ければきっと慶司に思いを寄せて、告白ぐらいはしているのではないかとも思えば強くは言えない。立場を抜きにして云えばマリシェルやエルウィンも含めて当代の4種族も含めた竜族のトップは非常に仲が良い。唯一の既婚者であったグラディスを除けばやっと2人目の結婚でもあり、いくらずば抜けて人間離れした慶司と子が成せたからと云っても本来は種族の差があったのだ。


 それを竜聖母の権限で一言の元に結婚を認めてくれた友でもあるマリシェル、エルウィンが恩義を返したい思いと独占したいと云う感情に苛まれるのも仕方ない。なにより知り合いで慶司を慕っている者は多いし人の風習ではハーレムを築く者も多いのだ。


 ケーキを頬張りながら幸せそうなマリシェルを見るとコレぐらいは仕方が無いのかもしれぬ、とエルウィンは麓の森にある校舎にいるかどうか怪しい夫の事を思い浮かべていた。



 ◆◇◆          ◆◇◆          ◆◇◆



「もらったぁっ」

「背後から襲ってくる奴が声を上げるか、馬鹿者!」

「失礼しましたぁ」


 勢い良く生徒が吹き飛ばされている。

 背後から襲って「もらったぁっ」ってのは常識で考えてありえない、でも口に出てしまうのだ、何故ならその方が格好良く思えるから。だがしかし冒険者としては失格と判断するしかない。


「では、少し出かけてきますので」


「お気をつけて」


 何故か挨拶は敬礼付となってしまっているが、軍に進路がある者もいるし風紀の引き締めにも繋がる為になし崩し的に根付いてしまった。慶司としてはここまでする心算は無かったのだがノリで許してしまった。


「シルフィ頼めるかな、行き先はリヒトサマラなんだ」

「お任せください」

「【幻日環回廊(げんじつかんかいろう)】」


 数日毎に慶司は大陸の各地を巡っている。主な行き先はリヒトサマラ、ドレスムント、ブルトン王国、マギノ等の主要都市と開発中の港湾都市であるブレシングポート、黒竜の隠里等と忙しい。


 何より現在はファーレン冒険者学院での指導もある為に必ず戻る必要がある。


「よう、相変わらず忙しいな」

「ムーサさん程じゃないですよ」

「そうか、いい勝負だと思うけどね、前に比べりゃ寝る時間もあるし、こっちはマシになったと思うよ」


 そうムーサは言ってくれてはいるけれど相変わらず竜具の販売は好調でブルトン王国向けの輸出分などが増えた為に忙しい日々なのは変わらない、しかも調味料の売れ行きまで伸びている。


 まあ以前は本当に寝る暇も無くムーサが煙草を燻らす時間さえなかった時よりはマシではあった。今はこうしてゆっくりと庭を眺めながら話し合いができるのだ。


「まあ慶司も一服やんな」

「ええ、じゃあせっかくですから」


 良質の煙草の販売はもとからリヒトサマラの収入源だったし、ムーサの趣味でもあって最上級の葉が用意されている。


 煙管で一服というのも風情がある。この世界だと紙巻は存在していない、あるのは葉巻とこうした煙管やパイプを利用した物だけだ。火皿に刻み煙草を詰めて魔法で燻らせる。

 大体三口ぐらいで灰を落として吸い終え、魔法で火皿や内部のヤニを綺麗に吹き飛ばす。

 慶司の持っている一品はムーサから譲られた物で全体が金属で出来ていて竜の意匠が施されている。


「この後ブレシングへ行きますけど何か書類はありますか」

「じゃあこっちの商品の要望書が来てた奴の返事が出来てるから持ってってもらってもいいかい」


 通常なら数週間かけて運ぶ距離でも慶司が運べば一瞬で済む。直営店の中でもブルトン王国にはブレシングポートと王都店があって双方ともに非常に高い利益を上げれる秘密はここにあると云っても過言ではない。


 書類を受け取った慶司は挨拶を済ませると、そのまま次の目的地へと移動した。


「慶司の忙しさだけには敵わないねえ」


 後に残ったムーサは忙しく移動する慶司に対して誰も居ない縁側で茶を啜りながら呟いていた。



 ◆◇◆          ◆◇◆          ◆◇◆



 学院の理事と校長を兼任しているが慶司の日常はそれだけでは終わらない、先ほどの竜具屋に関してもそうだが仕事は山の様に存在する。ブレシングポートは【竜の騎士】ブレッシング・オブ・ザ・ドラゴンとしてブルトンから所領として受け取ったというよりも元奴隷や現在でも各地から逃れてくる人々や獣人を受け入れる重要な拠点になっている。

 その活動は黒狼との連携で行われていた。


 書類を竜具屋ブレシング店に届けた慶司はその足でフルトリアにある黒狼の隠里へと赴いていた。


「それで次の目標が決まったのかな」

「ええ、未だにこの国は奴隷を使っていますから」


 フルトリア支部頭目のクレアとしては長年続けてきた活動がようやく実ったと言える状況だがフルトリアの聖教会を実質上潰したとしても奴隷取引が無くならないのであれば最終目標は遂げられていないのと変わらなかった。


 まず売られてしまうような状況の村に関しては救済を行う事で奴隷として新たな被害が広がらない様にする、これがメインの活動であり場合によっては村の人間全てを新しい土地へと連れて行く必要が出る。


 フルトリアはエリミアドとの戦争で疲弊しているので領民は働き手を失い残るは子供や女性、老人ばかりとなっている村など当たり前のように存在する。それがまだ人間であれば奴隷になる事までは無かった。だが元々身分の低い獣人は簡単に奴隷に落とされてしまう。であれば受け入れ先さえ存在するならば全てを引き受けてしまえという事になる。


 基本的には合法の手段をもって移民させていく。これが慶司の方針だった。


 しかし既に奴隷に落ちている者達もいていくら竜具で稼ごうと全ての奴隷を救いきる事は不可能で、そうなると己の手を汚しても救わなければならない。普通に使われているだけなら慶司も手を出さなかったかもしれないが種族という点だけで差別され、奴隷として満足に食事さえ与えられない情況が普通と知ってしまった今は綺麗ごとでは済ませられなくなっていた。


「今度の目標はこの地の領主です」


 副官のイデアが地図を指し示して目的地を告げる。フルトリアの王都からはかなり距離が離れた土地だ。


「この土地の領主は農地を全て奴隷に耕させていますが土地を耕そうと搾取のみですね、おまけに人でさえも他の領地へ売り払っています」


「そんな事をしてて問題にならないのか」


「聖教会へ多額の寄付を収めてましたから、現在も王都で絶賛活動中ですよ」


「騎士の力で後は抑え込んでいるってことか……」


「今回はちょっと大物になるのでご助力願えれば助かります」


 領内の全ての奴隷となった獣人を全員連れ出すのだ、大物どころではないし、普通に考えれば無茶な作戦と思えるが黒狼の人員も優秀ではあるし、何よりも慶司の存在自体が反則その物だ。



 ◆◇◆          ◆◇◆          ◆◇◆



 打ち合わせから一週間後の明け方に近い時刻、慶司、エルウィン、エイミー、ルージュが領主の城へと忍び込んだ。


 基本的に鎮圧は慶司の役目、残りのメンバーは気を失った兵士や騎士を縄で縛っていくのと奴隷として働いている獣人の保護が役割となる。


 闇に紛れている上に有り余る程の魔力を有する慶司は空中を飛ぶ事で足音さえさせずに頭上から背後に降り立ち気絶させていく。安全と言う訳ではないが首の頚動脈を5秒も絞めれば意識を失わせる事は容易い。電撃で気絶させたり気圧を変化させる攻撃よりはマシな処置だろう。複数名が相手になればそういった手段も採らざるを得ない。


「……ッ」


 次々と仕留めて奥へと進んでゆく。普通の兵士では慶司を止める事は敵わない。せめて猫又族程の危機感知能力や虎紋族のような鋭さ、犬狼族並の嗅覚でもあればせめて襲撃に備えるなり反撃に出てくるのだろうけども奴隷に周辺警護をさせる程の度量は領主には無かったようだ。


「慶司様、あの先の部屋は詰め所になっています」

 シルフィの先行によって敵の所在も掴み易く無難に対処が可能となる。

 大部屋に控えている連中には運が無かったと思ってもらい、気圧を一瞬だけ部屋毎下げる。人は酸素濃度が急激に低下すると意識を保てなくなる。これを続ければ確実に死亡するが一瞬であれば死なない可能性もある。今の慶司にとって重要なのは全員の安全な脱出が可能な状況を作ることであって敵に情けをかける事ではない。


 領主の部屋までたどり着いた慶司はそのまま寝ている男を敢て起こすような真似はせず、そのまま寝台に拘束して猿轡もかませて無力化してしまった。目を覚ました瞬間に電撃を浴びせたので他の者に比べると多少は乱暴な対応だったが慶司も人の子であり領民を省みないような人間に対して慈悲など持ち合わせようとは思わなかったのだ。


「エクレア達からこの館にいる奴隷全員と町や農家で働いている者達を連れ出すことに成功したと連絡がありました」


「ありがとう、これで後は逃げるだけだけど、一日後に解放するような手筈でいこうか」


「了解しました」


 逃がした獣人達は一度森の中にまで連れて逃げた後で馬車にのせて目隠しをした後で竜により即座にプレシングポート近郊へと運ばれる段取りになっている。


 慶司達の活動は黒狼としてではなく奴隷解放運動のレジスタンス活動として喧伝されていく。聖教会の組織力が低下し国力が低下しているフルトリア、そして先の騒動で【竜の騎士】ブレッシング・オブ・ザ・ドラゴンを恐れている国王は間隙を縫って仕掛けられたエミリアとの戦争に対応を追われている為に国内のこのような出来事までとても対処仕切れなかった。


 必然として現在ブルトン王国に攻め入る軍などフルトリアは起こす事もできずにいるため安全に女王は体制を強化する事ができるのだった。


「と云うわけで、新たに200人程だけど住人が増える」


「と云うわけで……で済ませてしまうというのはどうなのでしょうか」


「シャーリィ様、諦めましょう、慶司様はこういうお方ですか」


 ミランダは既に慶司に関してはある意味達観しているが、シャーリィとしては未だに常識から判断しようとしている為に報告に訪れた慶司が一言に200人ブレシングポートに引き受けるよと事も無げに言ったのを聞いて若干頭を抱えたくもなる。誕生日を迎えて16才になって世間から【叡智の女王】と呼ばれていてもまだまだ少女の域に居るし、慶司の前では自然とそうなってしまう。


「なんだか王都よりブレシングポートが発展する未来が視えます」


「それはご慧眼でしょう」


「やっぱりそう思いますよね」


「はい、あの町はこの国の流通の革命であり、そして生命線を担っています。そして【竜の騎士】ブレッシング・オブ・ザ・ドラゴンに女王が託したと現在ではこの国の主だった商人も次々に開店の許可を求めておりますわ」


「うう、何故か私の功績のように」


「まあ、そこは度量があったから事実じゃないか」


 うぐぐ、と唸るシャーリィだがその点は確かな事である。まさか数日で町の基礎まで仕上げるとは思っていなかったが開発などを有能な臣下に任せて国を発展させるのもまた優れた君主の資質と見なされる。

 慶司以外の誰に任せたとしてもあれ程速やかに港も発展はしなかったし、まして竜の支配地域との交易も含めるとシャーリイが女王に即位してからの安定した国政は行えなかった。


 しかしである、この功績が慶司が齎してくれている事に対する褒美を慶司は受け取らない。というより今もケーキを片手に持って訪れていて持て成しているのかさえも怪しい。そしてその慶司本人はそんな事は一切構わず気にするなとヒラヒラと手を振るばかりなのだ。


「それじゃ、これから授業があるから帰るね」


 そう言い残して私室から出て行く慶司は軽やかに手を振ると廊下へと消えていった。


「相変わらずです」


「ええ、全く、やはり妾になるべきですわ」


「そっち」


「冗談です、一応。まああの方のお陰で問題は無くも無いですがこの国は安定しています、慶司様以外なら私も生命線を握る港など国以外に管理を任せようと思いませんが」


「せめて爵位を受けてくれればいいのですが」


「爵位ですか、既に白金の冒険者ですし、かの支配地域において聖地の近くの土地を授けられていますから」


「白金は……失敗でした」


「まあそれでもこうしてケーキをもって遊びに来てくださるのですからよしとしておきましょう、長期戦です、徹底的に」


「そうね、頑張るわ私!」


「ある意味、エル様辺りから崩すのが最善かもしれませんが」


「何か方法を考えましょう、将来の為に!」


 主従を越えた結束は謎の方向へと迷走しつつあったが、もちろん慶司の知るところでは無かった。



 ◆◇◆          ◆◇◆          ◆◇◆



 学院に戻った慶司は自分の担当する授業の準備に取り掛かっていた。

 校長でもある慶司だが基礎の武術に関して自ら週に1コマだけだが生徒に教えている。まだ基礎課程にいる生徒達が中心のクラスのみだが地獄を見ると既に噂になっていた。


 ホメロウとカミュで実験ならぬ試験をした器具を使っての訓練などが行われていくと失神する生徒が続出してしまった。これは慶司も計算外の出来事で驚いた。ある意味ホメロウとカミュが優れていた故に起こった悲劇といえる。


 動体視力、思考能力の向上を目指す訓練から組み手などを徹底的に教え込まれ無手になったとしても戦闘継続が可能なように目指している。特に護衛任務などで即座に対応しなければいけない仕事があったりするので必須技能としているので教え方も相応に厳しくなる。種族関係無しでこの授業は行われるのである。


 通常の基礎体力にしろ他の技術にしろ種族差は考慮されるのであるが慶司の理念はその種族の差を越えた技術の習得にあった。


 これは竜王格闘杯《D・L・F・C》の経験から慶司は種族ではなく技術さえあれば問題ないと判断したからだ。


 実際戦闘は確かに膂力に優れた者の方が有利であるには変わりないが、武術を極めるのは其の差を埋める事に繋がる。故に修練が成される。


竜撃八識無我りゅうげきはっしきむが】の基礎だけでも使えれば必要の無いことだが、こればかりは人に使える魔法では無かった。なので地獄の特訓が成される。


 今日も平和に訓練施設に悲鳴が響き渡っていた。




大変お待たせしました、まあ寄り道が多かった、というか現在もやりたい事が山積です。

まあそんな中でまた更新を始めていきますので宜しくお願いします。

出来るだけ連日投稿する予定ではあります。

正直ブックマークも減っているだろうと覗いたら増えてて慌ててしまいました。

どうか、生暖かい目で見守って下さりませ。

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