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エルの想い

 アリーから出発した慶司達の旅はこれといってトラブルは無かった。

 ただ冬季の森を通り抜ける事になった際にはホワイトドヌルの群れが襲ってきたりした。

 しかし今や麒麟族として逞しく成長したウラヌス達が立ちはだかり、その威容を見ただけで群れの動きが止まった。そこにエルやエイミーが矢を放ち、慶司とルージュが突っ込むのである。

 後方の押さえとしてセリーヌも控えていて一瞬のウチに殲滅されてしまった。

 この様に途中で獣の邪魔が入ると慶司は処理をリヒトサマラの竜具屋職員に任せてしまう事にしている。

 皮を剥いだりっすると時間が取られてしまうからだ。

 そしてお調子者ではあるがこのような時に役に立ったのがソアラである。

 リヒトサマラだけでなくソアラがいる事によって【幻日環回廊げんじつかんかいろう】の使用に制限が殆ど無くなったのである。元々居ないと判断して他の精霊とも契約をしたのだがこれは嬉しい誤算だった。

 お調子者だし普段は全く使えないと言ってもいいぐらい出来る事は少ないのだが、移動に関する事に関しては最高の手段を与えてくれたと慶司は思っている。


「それじゃ、ちょっと運んで処理してくるよ」

「うむ、ムーサに宜しくな」


 慶司が【幻日環回廊げんじつかんかいろう】へと獲物を運び終えると、慣れたもので全員が休憩を取った。

 エイミーやエルはウラヌス達のブラッシング、ルージュとセリーヌは警戒、ミレーヌはお茶の準備とテキパキと動いた。

「最近の慶司は急がしにゃ」

「まあ、仕方ないの、そのままフルトリアに向かうかも知れぬとなれば一日も早くと考えておるのだろうしな」

「でも夜とか昼の休憩とかも使ってるにゃ」

「あれは学校の打ち合わせに行っているそうじゃ、そろそろ入学希望の者が現れているらしいし願書も届いていると聞いた」

「私達もあの魔法が使えたら手伝えるのににゃ」

「慶司はあの魔法が精霊界を一瞬で抜けるように作り出しているとは言っていたし、危険は無い可能性もあるとは言っていたが使わせてくれぬじゃろうな」

「確実に安全とは言えないからかにゃ」

「うむ、妾でも確実性がないから止めておけと言っていた、精霊界は魔素の塊のような異空間らしいからの。

 まあ気にせずとも妾達には妾たちが出来る事をしていればよいのじゃ、最近は主様も飛び込みに迷いが無いからの、我等を信用しておるという事じゃ」

「そうだといいにゃ」

「慶司が感心していたぞ恐らく弓の上手さはエイミーが一番じゃとな、ずっと旅の始まりから練習を続けておるじゃろ」

「続けてる事を知ってたのかにゃ」

「そりゃ勿論じゃ、最近は違う事をルージュとしてるようじゃがな」

「ちょっと恥ずかしいにゃ」


 そう言ってちょっと照れ臭そうに耳を垂れたが尻尾はフリフリとしてる。

 獣人は尻尾に関しては誤魔化せないのだ。






 慶司はリヒトサマラでの用事を終えて戻ってきた。

 ついでにグラームにも立ち寄り学院の教員とも打ち合わせを終えてきていた。


「ただいま」

「お帰りなさい、主様も少しは休憩するが良い」

「お帰りなのにゃ」

「うん、でも出来るだけ急がないとね」

「いや、最近の主様は以前にまして頑張りすぎじゃ」

「そうかな、出来る事が増えたからやれる事をしてるだけなんだけど」

「主様は一人では無いのじゃぞ、我等に出来ぬ事も多かろうが何事も一人でしようとは思わぬことじゃ」

「そう、だね。有り難うエル」

「ほれ、膝枕じゃ」


 そう言ってエルは強引に慶司の頭を太ももの上へと乗せた。

 エルウィンは少し恥ずかしいとは思ったが、顔を赤くしながら寝転がる慶司と髪を撫で付けるエルウィンを、周りは微笑ましく二人を見つめていた。


 慶司に出会うまでのエルウィンは恋愛に一切興味を持っていなかった。

 己よりも弱い竜族ばかりだったのだ。元々女性の竜族の方が強いのは当たり前なので仕様が無いと言えば其れまでなのだが、エルウィンは強さを求めて生きてきた。二人の両親が戦いの果てに無くなったと聞かされた時からずっとである。

 教育係であったブリガンに勝てるようになったエルウィンはアルザスの管理をすべてブリガンに任せて武者修行のように各地で戦った。

 その伝説は各地で残っている。

 同世代の竜族の女性とは激しく戦いつつ友情を深めた。

 特にグラディスとは幾度も戦いあった仲だ。

 彼女が冒険者として人に紛れたときには呆れた程である。

 態々弱い姿になって鍛える意味などあるのかと喧嘩したほどだ。

 エルウィンは比較的温厚な者が多い白銀竜の一族において戦闘的な幼少期を送った。

 自分が一族の者たちを守らなくてはならない、それが使命だと考えたのだ。

 ブリガンにはよく母と似ているなど言われたが母も強かったはずだ。

 そして各地を巡っては竜族と戦い続けた。

 ラピルのヒルデガルドは中々相手にしてくれないので腹いせに木をなぎ倒そうと体当たりしていたら、本気で怒られて謝ったこともあって、それ以来は少し苦手にしていた。

 一番戦ったのはグラディスで、互いに認める相手だった。グラディスが結婚相手を紹介した時、まさかグラディスが結婚するとは思わなかったエルウィンは好敵手が居なくなるのでは無いかと心配したほどだ。

 その次に戦ったのはやはりエリスだろう。

 若干年下ではあったが見所があったので鍛えてやると住み込んで鍛えてやった事もあった。

 慕ってくるのもその時の薫陶の賜物だとエルウィンは考えている。

 なにしろ山の形が変わるほどの厳しい特訓つけてやっただからなどと思い込んでいる。

 お蔭でエリスは何度も自分の住処を壊されていて、怯えているだけなのだがエルウィンには伝わっていない。

 そんなエルウィンも鱗が白銀の輝きを帯びてくる頃にはアルザスを中心に動くだけになって、たまにしか戦いを求めに行かなかった。

 しかし、部下に巡回をさせるだけではなく時折は自らが飛びだして問題を解決していたのである。

 この世界で最強の竜は誰だ、そう質問すればエルウィンかグラディスの名が挙がる。

 支配地の管理でマギノに赴いた時などにはそんな話も聞いていた。

 実際エルウィンとグラディス程の強さと言えば怒り狂ったヒルデガルドぐらいしか相手にならない。

 エリスは少々引きこもりだし、ヒルデガルドも滅多にラピスから出てこないので名前が挙がらないのだ。

 そんなある日近隣の村からの訴えで暴れる竜種を討伐に赴いた。

 いつもの如く配下には任せないで自ら退治に赴いて帰る心算だった。

 だが、大した相手でもないと油断して受けた一撃から入り込んだ毒のような物がエルウィンの行動を徐々に阻害し始めた。

 もし、ブリガンが母エイミーの最期を詳しく話していれば違った未来もあったかもしれない。

 だがもしもは存在せずエルウィンは敵を倒した後に自分の体を乗っ取られてしまった。

 竜の意志、魂は竜玉に宿っている。これまで犯されてしまえば消えてしまう…そんな恐怖で一杯になった。

 白銀竜の一族とは言われているが白銀なのはエルウィンが最後の一人でほかは白竜である。

 白銀竜としてまだ子孫も残していない…

 自分は消えてしまうのかとそう思った。

 だが諦められないエルウィンは必死に抵抗していた。

 体は本能の赴くままに暴れている。

 森をなぎ倒し突き進んだ。

 そして、そこに不思議な男がいた。

「………」

 何か叫んでいるが済まないな、としか思えなかった。

 なにしろ体が言う事を聞かないのだ。

 ぶつかれば人など簡単に死んでしまうだろう。本能に任せた体の体当たりをその男は避けた。

 ほう、とエルウィンは感心した。なかなか素早いものだ、人の身でありながら本能任せとは言えど竜の攻撃を躱などとは思ってなかったのである。

 しかも攻撃までしてきた。

 人に蹴られたなどとグラディスが知れば笑われるかも知れないが、その男は咆哮まで避けて見せたのだ。

 思わず声をかけてしまった。

(むぅ、人の子よやるではないか)

 魂だけの竜玉からの念話である、通じないかも知れないが…そう心配はしたが通じた。

 そして、事情を説明した、詳しくは知らないがこれは変異魔素だ、まさか自分がと悔しかったがこれ以上は被害を増やせない。できれば他の竜族に危機を伝えてくれと頼んだ。いくらなんでも自分を止められないだろうと思いつつ想いを伝えた。

 すると男は普通に倒してもいいのか、などと言って来た。

 人が竜を倒すと言ったのだ。

 愉快だった。

 なんて面白い奴がいるのだと思った。

 グラディスが冒険者をしていたのはこの楽しさを知ったからかも知れない。

 さらに元に戻す方法まで尋ねてきた。

 念話をしつつ、攻撃を回避し続けてである。

 もしも、もしもである。この人間ならできるのでは無いか。

 そう思った。

 人が竜に勝つ、それも自分を救って。

 一筋の光を頼りにするような希望だった。

 だからこそ、逃げさせようと思った、この者なら竜族に伝えてくれるだろう。

 なのにである、逃げるように説得した自分を叱り付けて諦めるなと言い放った。

 渡良瀬慶司、そう己の名を名乗った男は攻撃をかわしつつ自分の体を一振りの剣にして首を落とした。

 信じられなかった、人が竜に傷をつけるなど、ましてや倒せるなど…

 この男ならば朽ちていく肉体を与えても良い。

 そう思ったのに慶司は何も知らなかった。

 仕方が無い、そういえば戦いも一振りの変わった剣のみだった。

 魔術付与を知らないのかも知れない。

 肉体を捉えていた魔素も霧散している。

 これほどまでに強い男だ、肉体に竜族の力を宿よりも物に力を与えてやろう。

 話をしてマントに付与を与えてやろう。不思議な素材だったが竜族の体すべてを結晶化して付与するのだ、とてつもない一品となるだろう。切り落とされた頭も変わった形の剣に付与してやればいい。こちらは竜族魔法の知識を引き出せるようにしてやればいい。余った肉と骨で鞘には剣を修復する力でも付与しよう。

 なにしろ竜玉も運んでもらわないといけないのだ。

 それにこの男は我よりも強い。

 ならば我が体の全ての力を与えるのも一興だ。

 そして慶司と旅を始めた。

 竜玉のままと言うのは不便だった、体を失って魔力がない。

 人の身になるのもギリギリの力しかないとなれば魔力を借りればいいのでは。

 さっきからおいしそうに食べ物を食べているし自分も魔力が欲しい。

 小さい時に魔力を通い合わせる方法を聞いた事があった。

 試してみたい。

 其れぐらいの気持ちだったが、慶司の血ならば構わないだろうと思った。

 何しろ自分より強い男で魔力もあるのだ。

「ッハーッハッハッハ! 我顕現!」

 格好良く登場したつもりだったのに裸でしかも子供のような大きさだった。

 しかもなぜか叱られてしまった。

 後々きいたらあれは様式美というものらしいので叱ったわけでは無いそうだが。

 それから竜聖母の元へいったり、慶司のご飯を食べたり、色々した。

 …そうして知らない間に慶司を好きになっていた。そして結婚もした。

 そしてまだ短い時間だがこうして旅を続けている。

 決して竜体では得られなかった幸せである。

 恋愛と結婚が同時だった。

 まさか自分が結婚するとは…


 軽く慶司が頭を動かした。スヤスヤと気持ち良さそうに寝ている。

 時折寝ていると魘されていることもあった。

 悩みながら人を切った事も知っている。エイミーあたりも知っているかもしれないがな、そう思う。

 この悩みを少しは相談してくれれば良い物を…

 普段は小さい体で解りにくいかも知れないが、妾とて4000年を生きた竜なのだぞ。

 そう思いながら優しく慶司の髪を梳かしてやる。

 慶司が皆を守ろうとするのは知っている。

 だからこそ支えて見せようと愛しい夫を膝枕しながらエルウィンは思うのだった。


資料を整理して公開できる部分と出来ない部分を選別中です。

近日公開(予定)です。

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