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冒険者として

「この掲示板に張ってある中から依頼をこなすにゃ」


 エイミーは壁にある掲示板を指しつつ自分にあった依頼が無いか調べている。

 皮鎧やハーフプレートを着ている冒険者達は狩猟対象の掲示板を見ている。テーブルの方では仲間を待っている冒険者が談笑していたりと活気があった。


「こんにちは、なにかお探しですか?」


 話しかけてきたのは20歳ぐらいの女性で冒険者に見えない、普通の服装からして職員のようだ。

 物珍しそうにしているから声を掛けて来てくれたのだろう。


「ええ、実はあそこにいるエイミーさんが此方へ来るということで興味があり同行させて頂いたのです」


「エイミーさんのお連れさんでしたか、彼女はいい冒険者ですよ。

 まだまだ駆け出しですが採取の腕は確かですしね。

 危険を感じるとすばやく引くところも考えると実際は銀レベルの採取ランクでもいいぐらいです。

 ですが採取ランクの高い薬草などはどうしても高レベルの獣のいる地域まで行く事になりますから彼女は受けないんですよね」


「冒険者登録って時間かかったりしますか?」


「いえすぐ出来ますよ、説明も含めると、そうですね10分も頂ければ」


「では宜しくお願いします」


 せっかくなのでエルも登録することにしたのだが、竜族でも稀に変わり者が登録する事はあるらしい。


「ではまず登録ですが費用としてお一人200リュート必要となります。

 こちらはカードの発行ならびに登録情報を各地のギルド支店へ送る事に使用させていただきます。

 カードの種類はまず銅、鋼、銀、金があります。

 一部例外として白金が用意されていますが、白金は特別な任務をこなした冒険者にのみ与えられます。


 依頼内容によってですが個人レベルの上限2個までは受けれますので最初は銅3のランクまでとなります。

 採取、狩猟、討伐、護衛それぞれにランクが設定されていますが、カードの種類が変更になるのは一種類でもランクが上がれば適用されます。

 まあ、あまりありえない例ですが、仮に採取が金10でも狩猟が銅1なら狩猟の任務で引き受けられるのは銅3までとなります。

 特殊条件として上位のランク保持者とチームを組む場合はその限りではなく、適応範囲は上位ランク者から2ランク下の物まで可能となります」


「ではエイミーさんと私たちが組むことがあれば鋼5のランク採取まではおこなって問題ないと?」


「そうです、ですがあくまでそこまで可能であるというだけで、当ギルドとしては推奨していません。

 次にカードの登録ですが名前と出身地を此方にご記入下さい」


 出身地はどうしようかと思っているとエルが記入していってくれて、出会った場所であるブレーメの森の近くにあるオビスという土地なった。


「ではこちらがカードとなりますカードに魔力を込めて下さい。

 そのカードについている魔石と対を成す物をギルド本部と各支部で保管していますので本人確認をカードで行う事が可能です。

 カードは魔力を込めると形状が変化して腕輪になりますので無くさないとは思いますがご注意を、破損などでの交換、ランク昇格での交換は認められていますが紛失の場合は再発効はされません。

 そうですその手首の上辺りで右手から魔力を与えると魔術発動でぐるっと腕に巻きつきます。

 治療促進などの魔法で腕が倍異常に膨らんでも対応してますからご安心を。

 外すときは解除魔術を差し込むのですが盗難などの防止措置としてギルドに来ていただく事になります。

 では良い冒険者となられる事を期待しております」


 せっかく冒険者登録をしたのだから依頼の一つもこなしてみたい。

 だがそろそろ工房へ赴かないと本来の目的が達成できないのだ。

 エイミーは此方の説明が終わるまで待っていてくれたらしく依頼書を片手に手招きしていた。


「登録したのかにゃ?」


「うん、登録はしたんだけどすぐにもどらないといけない」


「そうなのかにゃ…一緒に採取もいいかと思ってたにゃ」


「すまぬの、まずはグルテンのところへ依頼があるのじゃ」


「名工グルテンにゃ?」


「やっぱり有名なんだ?」


「有名にゃグルテンの武器と言えば白金貨でも買えないにゃ!」


「そんなに有名な人だったのか…」


「それじゃ私は採取依頼をこなしてくるにゃ」


「うん、それじゃ良かったら明日にでも一緒に採取依頼にいってもいいかな?」


「構わないにゃ!楽しみにしてるにゃ、明後日までは手伝いの依頼が継続だから待ち合わせはギルドがいいかにゃ?」


「そうだね、あーでも宿もとらないといけないか」


「我はテントでもかまわんぞ」


「だったら店の上が宿になってるにゃ安くしてくれるから交渉してみるにゃ」


 そこでエイミーは採取へ慶司とエルはまず宿の交渉をしておこうという事になってお昼を食べた店へ向かった。



 ◆◇◆



「お、あんちゃんまた来たのか?」

「ええ、上を宿として貸し出しているとエイミーさんから聞きまして。

 数日お借りできれば助かるのですが」


「まあ、素泊まりで風呂は部屋についてる。

 一部屋200リュートでよけりゃ使ってくれ。

 うちは空き部屋を貸してるだけだからな。

 大した設備もなにもなくてよければだ。

 元は住み込み用にと用意したんだ」


「宜しくお願いします、とりあえず5泊分を先にお渡ししておきます」


「それじゃこいつが鍵だ。

 2階の奥の部屋になる。

 洗い物とかは裏の井戸を使ってくれ」


 鍵を受けって階段を上り部屋へと入った。

 貴重品以外の荷物を部屋に置き、慶司達はグルテンの工房へと向かった。



 ◆◇◆



 グルテンの工房で預けておいた砂金から交換してもらった金貨をバッグに仕舞う。

 流石に全部の金を交換する事は出来なかったが、それでも声を掛けてもらった貴金属の工房としては商会を通じて仕入れない分お得だったらしく3割程を交換してもらえた。

 白金貨3枚、金貨31枚、小金貨5枚、銀貨7枚、小銀貨3枚となった。

 合計7157300リュートだ。


 グルテンは山人としては大きな方らしく、身長も160cmぐらい、腕の太さは慶司の2倍はあるし全身が筋肉の鎧でできているような風貌である。


「おまえさんが聖竜母様のお使いか…ふむ、只の金持ちって訳じゃなさそうだ」


「初めまして、渡良瀬慶司です、こっちは連れのエルウィンです」


「エルウィンじゃ」


「ハハハッエルウィン様と同じ名前の娘っ子が連れか」


「あーそのエルウィンです」


「エルウィン様っていえばお前霊峰アルザスの白銀竜様だぞ?」


「ええ」


「ナンジャトォォッォ?」


「まあ姿を変えて来てますのでしょうがないですよ」


「ウム」


「ハァ…ではエルウィン様と渡良瀬様、此度はこのグルテンに依頼される物があるとか」


「はい、こちらの素材を使ってペンダントを作っていただきたいのがまず竜聖母様からの依頼です」


「ふむ、ミスリルと白金の合金を作ってこの魔石を埋め込む…

 そうだな1週間は欲しい、他の職人に任せる部分がミスリルのチェーンぐらいしか思いつかん。

 彫金するにもミスリルと白金の合金だと魔法が効き難い。

 代金はこの頂く素材で十分だ」


「それと出来ればなのですが。

 ちょっと硬いものを切ってしまって伸びた、この片刃の修理をお願いしたいのですが可能ですか?」


「ふむ、これはどこの名工作だ?」


「故郷で譲られた物で作者不明です、銘もありません」


「これは元は曲がってたわけだな?

 ふむ…まあわしらの種族魔法を使えばなんとかなるかもしれんな。

 その鞘に収まるようにするとして、この鋼なのか鉄なのかわからん素材じゃ…

 やっては見るが、良かったらわしに白金貨5枚で売らんか?」


「残念ですが故郷の思い出の一つですので」


「まあそうじゃの、ちと研究してみたいとも思ったんだが。

 この片刃の作りは何故かなあ…」


「曲線を描いて切る為の構造だと聞いたことがあります。

 恐らく両刃にしても構造的に内側になる面は意味を成さない為にそうしたのかと。

 特殊なものだと切っ先諸刃作りといって先端部分のみを両刃にしたようですね。

 突いて刺す構造であったとか」


「なるほどな。

 よしこれも1週間ほど時間を掛けたいが、このような刃に文様が浮かび上がる研ぎはちとむりかもしれん。

 魔法での修理のみとさせてくれ、値段は難しいな。

 通常に魔法を使ってみたが曲がらんからの…」


「その刀はおそらく3種類の金属からできてます」


「なんと…

 ふむ表面上の金属だけでは無理か…

 そうなるとブルーノとマルティンの奴に手伝わせるとして、酒の代金でも貰えればこれを見せてもらった価値があるな…

 小銀貨5枚で受けよう」


「そんな金額でいいんですか?」


「なに珍しい作りの物を見せられて友人と酒が飲めれば他に必要な物などワシにはもうないのさ、他に必要な物はないか?」


「そうですね、店を見させて貰いましたが槍を一つ特注で作りたいです」


「新しい意匠の武器を欲しがる奴はそういないが。

 こんな珍しい形の武器をもってるんだ言ってみてくれ」


「長さは自分の身長よりも少し長いぐらい。棒の中に芯として鋼を親指ぐらいの太さで仕込み、それを木で包みつつ、両端の6分の1ぐらいの長さを鋼鉄で巻いて、仕込みの両刃を両側に組み込みたいんですよ」


「変わった武器を欲しがるな。

 長さはふむ6ネル、太さは1セル中に0.7セルの金属の棒と両側に1ネルの金属と。

 図面はこんな感じでいいか?」


「そうですね、このネルとセルは…」


「ネルはこの肘から手首あたりの長さだ、これが意外と他の種族も長さが同じぐらいでな、これの1割をセルとした。

 最初にこれを決めたのが山人の族長だったお人で子供の名前からとったらしい。

 故にもう一つ上の単位はメルという、彼の奥さんの名前がメルティじゃからよ、フッハッハ」


「両刃は種類がありますか?」


「そうじゃのぉ、この先何か付与を考えているのならミスリルをダラス鋼と混ぜるか…

 いやクロム鋼、おおそうじゃこの片刃と同じ作りにしてみぬか」


「付与はそのうち考えています。

 切っ先のみに近いですからね…

 確か中心に柔らかい鉄、外に鋼と聞いてます。

 だから、ミスリルを鋼で包むなんて面白そうですよね」


「フフフこれは職人の腕を試す物になりそうじゃのお…

 すぐに作る!ペンダントは後回しでもいいか?

 こいつを作るのに3日だ。

 芯の鋼鉄は別に手配できる。

 端から1ネルの部分を鋼で包むなら、そこの仕掛けは魔術で取り外しできるようにしてやろう。

 武器は3日後残りはそうじゃの10日後としてくれ。

 この棒状の武器は材料費で構わんから小金貨1枚あれば十分だ。

 早速ブルーノとマルティンのところへ行かねばならん」



 手配に走っていったグルテンさんを残った奥さんは仕様が無いわと呆れつつ見送っていた。


「久々に楽しい仕事にめぐり合えてやる気をだしてるのねぇ」


「それでは、此方が聖竜母様の材料と直してもらう刀です。

 それと依頼料で小金貨1枚と小銀貨5枚をお渡ししておきます」



 ◆◇◆



 慶司達は店に帰ってそのまま食事を済ませた。

 部屋で風呂を使おうとして雑貨屋でもみた筒が2種類備えられているのを発見した。

 なるほどこれで水とお湯を出すのかと関心しつつ魔力を込めて先にエルに入らせる。


「ふむ、時折湖などで水浴びはしたがこの風呂というのはなかなかよかったぞ」


 普段はどうしてるのかと聞くと風と水の複合魔法で汚れを落としていたらしい。

 寝ている間に慶司にも掛けてくれていたらしい。

 風呂で毛穴から広げて汚れを落とすという習慣が無いこの世界では風呂といえば行水である。

 日本人である慶司には、やはりバスタブに湯を入れてから、じっくり入るのが一番という思いがある。

 エルにも同じようにしたのだが、エルは竜族の為にその違いを理解しておらず、これで入浴とは風呂に湯をはって入ることだと覚えこんだ。


「そういえばグラディスが冬に領地で温水の湖で水浴びをすると気持ちよいと言っておったがこういうことか…奴め誘えばいいものを…」


「お風呂上りにフルーツ牛乳をのめたらなぁ」


「なぬ、なんじゃそれは美味いのか?」


「美味しいよ、こんど牛乳が手に入ったらつくろう、チーズがあったんだから手に入るだろう」


「たのしみじゃ」


 本当は4000歳で歴とした女性のエルなのだが中学生の容姿にこの態度である。

 一応は女性として扱おうと思うのだがどうも妹のような感覚に陥ってしまう。

 一緒に寝ても別段なにも感じないなぁなどと、不敬ではあるがこれは慶司のせいだけでは無いはずである。

 異性に対しての免疫がないままに人型の姿でくっ付いて寝るエルにも問題があるのだ。

 だがその関係だからこそ二人はお互いに信頼できる相棒になっていくので悪い事ではないのであろう。

 そして夜を共に一つのベッドで過ごして朝を迎えた。

 エイミーがニャ! っと驚くのは次の日の朝である。

2014/09/02加筆修正


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