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竜族会議

 ―フルトリア聖教会神殿―


 一人の女性が静かに報告を聞いている。

 聖女と呼ばれる地位にいる女性であった。

 彼女は名を持たない、聖女になったその日から名を無くしたのだ。

 その瞳は必ず閉じられていて他者に向けられることは無い。

 穢れを受けぬように決して他者の前で目を開かない。


「それで、軍は引いたのですね」

「はい、演習である事を伝え撤収を終えております」

「しかし、神薬までも渡した貴族軍で壊滅できないとは…やはりまだまだ神薬の研究を進めねばなりませんね」

「担当者に伝えておきます」

「だが何があったか調査は行いなさい、それとシャーリィ王女からの宣言も気になるところですね」

「では手の者を忍び込ませますか」

「人選は任せましょう、あとこの国の黒狼の動きも監視を強めるように、ブルトンの者共のようにはいかぬでしょう。情報が漏れることの無きようブルトンの者は始末なさい」

「ハッ」

「行きなさい」


 そして報告に来た者が去っても聖女は動かず思案を続けていた。

 ブルトンの内乱を利用し教会派の貴族に領地を与える計画の失敗。

 何が原因で失敗したのか…神薬まで与えてやったというのに屑の分際で。


 神の御心に背く者共がっ…吐き捨てるように呟き一人神殿の奥へと立ち去った。





 宗教と政治については元の世界で習った歴史でいい印象がない慶司である。

 神様の存在を知った今でもその考えは変わらない。

 その一旦は慶司のであった神様にも問題がありそうであるが、その話は省略しよう。


「それでは国教会をどう扱うかの会議を始めるわ、ミレーヌ司祭からまず提案を」

「では私から、まず国教会の教えの現状ですが神より給いし王権を承認し、人々を救済するのが我々国教会となっております。竜族を国教会では神の使いとして扱っています、これをこの度の改革にあわせさらに現実的なものにしたいと思っておりますが教義を変更するともなれば大事業になると思われます」

「教義を変更するのは構わないのだな」

「元々聖教会の教えとブルトン王族の考えを受けて誕生した宗派で御座います、本質は人々への救済、教義に拘りましたら見える物が見えなくなります」

「ふむ、国教会とは面白き教えをもっておるな」

「一応聖教会から派生した宗派ですからいままで公に聖教会を異教邪教とはしていません」

「では、今回の改革で可能性があると」

「私からもその方針で進めるように頼んだのです」

「聖教会の教えですが、最初の一文からも完全に人族以外を罪をもった存在としています、竜族もはっきりと敵として記述されていてこれは今後の方針と照らしあわした際に必ずや反発しあう事になります。

 そこで私達国教会は聖教会の教えを異端として新たな教義聖典を作ろうかと思っております」

「そこまですれば既に国教会というより新たな新興宗教となりますね」

「そうですね、今までの歴史を紐解きましても宗教はどの時代でも存在しましたが教義はそのつど作られ場合によっては古い物を引き継いだりもしております、私達は死に対する恐れを救済する事が宗教の大きな目的と考えています、罪を犯し、死を恐れ、死を悼み、心を救うのが宗教であればその本質さえ見誤らなければ構わぬと存じます」

「確かに死に対する心の救済を第一にするならば問題はないと思いますが…」

「そもそも神とは何かこれを正確に知るものが居りませんわ」

「そ、そうですね」

「私達の改革案ですが、まず聖教会の教えの全面的な否定です。そして竜族を守護者として認め、竜族による王権の承認をうける事を奏上いたします。国教会は竜こそ神聖なものとして崇めるブルトン聖竜教として生まれ変わらせるつもりです」

「竜族《妾たち》はそんな大層なもんじゃないと思うがの」

「宗教とは信仰をあつめ心の拠り所になる物です、竜族ならば人々の為魔獣や魔物を倒してくれておりますし、これからの国作りにとって何より関係を深めねばならぬ相手でしょう」

「言い方は悪いけど竜族を崇めることで利用するわけですね」

「そうですね」

「それは竜族的にどうなのかしら」

「くすぐったい話じゃな」

「俺は悪い話でもないと思うよ」

「そうなのかの」

「うん、元々竜族の支配地では軽い竜信仰のようなものだしね、人は弱いから何かにすがる為に宗教をつくるんだ、できるなら国と宗教は完全に切り離したほうがいいとは思うけど、宗教自体は必要だろうね、宗教があると道徳という教えを広めやすい、そして死を悼む心を支えるには教えがあったほうがいいと思う」

「国と宗教を離してしまうと王権の主張に問題がでませんか」

「そこで竜族の出番でしょ」

「そうですね、それならば竜族が王権というより、女王を承認するといった方が良いかもしれません」

「なんじゃ都市の市長を承認するようにせよと言う事か」

「悪くない考えじゃないか、シャーリィにも言ったがどのような優れた組織も長くはなかなか続かないのは優れた人物も寿命を迎えていなくなりその内に悪化していくからなんだが、竜族が後見として見守るなら間違えた王を正すという事にもできるよ」

「それを王国が認める事ができるのかの」

「構わないと思います、もとより人を治め国を治めるという事は竜族に認められないようでは出来るはずもありません」


 おもった以上に過激な改革になりそうだなと感じた。

 予想通りといった内容に纏まったのだが、心配しても始まらないと諦めた。


 聖竜教は、聖教会の教えは人の驕りから作られた教典の教えであるとし、他者を蔑むことで自尊心を満たすだけの教えは害悪であると糾弾した。さらに王権との癒着により人々の救済ではなく自らの宗派を広める為だけの物であり、もはや人を救う物ではなく宗教として認めないとを宣言した。


 王権については、王とは竜族に承認された人物であるとした、よって聖竜教とはその庇護の元で人々の救済を行う組織であり王を認める組織だは無いとした。

 また聖竜教の司祭が政治に参加する事を自ら禁じ、また騎士団を廃止して国へと移譲すると発表、宗教が武装する事の矛盾と愚かしさを説いた。


 さらに宗教観がかなり変革されていて輪廻と因果応報いう思想が組み込まれていた。

 魂が転生するという考えである。

 罪を犯せば虫になったり動物になる、そしてまた人間に生まれ変わる。

 天国と地獄という発想までは無かったがこれは新たな教えの根幹として根付くことになる。


 そして宗派として分派を認めない、宗教解釈を認めないとしたのも面白い考えであった。

 国教会が元でそこまで宣言したのはある意味自らへの皮肉により聖教会への皮肉と捉えられた。


 これを発表すると完全に聖教会を敵に回すことになる。

 最初から敵とされていましたから今さらですよとミレーヌさんは笑っていたが腹の据わった人だと感心させられた。



 竜族の件に関しては即時に竜聖母へと連絡が行き話し合いをすることとなった。

 流石に手紙だけの遣り取りで済まされる内容では無い為に慶司はエルと共にエルファストまで飛んだ。

 今回の件は全地域の代表が集まる事になった。

 アルザスからはエルウィン。

 グラニエスからグラディス。

 ドレッセンからは地竜の長エリス。

 ラピルから翠竜の長ヒルデガルド。 

 そして特別参加として慶司。


「なんだ、エルウィン姉さま小さくなってるぞ」

「たわけ、これは愛らしくなってるというのじゃ、それにお主のほうがまだ小さいわ」

「ウチの一族はこれで大きいの」

「お久しぶりねエルウィンさん、それにエリスさん」

「久しいのヒルデガルド、相変わらず寝ておるのか」

「お久しぶりですヒルデガルド姉さま」

「フフフ、そんな人聞きの悪い、私寝てばかりじゃないわよ」

「そうか、アタシの知る限りおめえは寝てるだけな気が」

「何か…仰いまして」

「いや、なんでも無いから睨むなって」

「ちょびっと危なかった、驚くからやめてよね」

「ほら、エリスがちびったっていってるじゃねえか」

「言ってないよ」


 おかしい、竜族の最高会議のはずなのだが…

 なんだろうこの雰囲気は、あれ何を期待してたんだっけ。


「はいはい、皆さん私の話を聞いてくださいね、今日集まってもらったのは、ブルトン王国が新たな方針を打ち出したことについてですよ」

「その前に紹介しておかねばならんな、妾の主様じゃ」

「どうも初めまして、渡良瀬慶司と言います」

「おお、この男性が現在最強の男なのか、噂はきいてるぞ、あとで語り合おう《拳で話そう》、エルウィン姉さまの旦那ということはウチのアニキだ」

「これは、我が支配地でもムーサからの連絡などで聞いて御活躍の方は存じております。ヒルデガルドと申します」


 この面子が最強の布陣か…

 マリシェルはワンピース調のドレス、グラディスさんは相変わらずの衣装で、目のやり場に困る、エリスって子? は何故か武胴着だし。ヒルデガルドさんはドレス、エルは買ってあげた服を着てる。

 着るものも正確がよく現れてる気がするなぁ。いきなり拳を突き出しながら語ろうと言われると成程ねと納得できるし、ヒルデガルドさんは普段は大人しいけど起こらせると怖いタイプってとこか。


 竜族は女性《雌》の方が強い、これが当たり前というより事実だから全員女性となるのは必然だが。

 よくもここまでタイプの違う人達で揃ったものだ。


 マリシェルは竜聖母を現すように母性。

 エルウィンは威厳のような傲岸不遜。

 グラディスは姐御肌。

 エリスは戦闘と陽気な感じかな。

 ヒルデガルドはみんなのまとめ役っぽいから委員長ってとこか。


「それで今回の提案はですね、慶司さんとエルさんからの議題なのですがブルトンを治める王を竜族として承認することが可能かです」

「ブルトン王国は次の女王の即位をもって改革を進めることになってます」

「ほう、どんな改革をするんだ、あの国の王族は面白いのが出てくるからな」

「まず奴隷撤廃と差別廃止、そして聖教会の禁止、さらに聖教会禁止に伴って国教会が宗教としても変革することになりできれば聖竜教と名称を改め国政への不参加、王権承認権の放棄、聖教会の否定、新教典と人々への竜信仰と輪廻転生をもっての救済、騎士団の廃止を決めています」

「……それはまたえらく思い切りましたわね」

「ウチの支配地域に一番ちかいけどパトロールでたまに攻撃してくるのはどうなったんだ」

「そやつらは国外追放じゃ、すでに一番の聖教会派の貴族は反乱を起して潰れておる」

「そっか王都周辺と地方で違った対応はこれで解決されるのか、ならウチはかまわんと思うぞ」

「アタシも承認に関しては都市の市長を決めるようなもんだから問題があれば取り消していいというなら賛成だな」

「私も問題は無いと思いますが、承認した場合に起こる騒動の方が問題かもしれませんね」

「どういうことだヒルデ」

「グラディス、考えてもみなさい、今まで王という政治形態の国を竜族が承認したことはないのですよ、ブルトンのみ承認されたとなれば戦争が起きる可能性もあるでしょうし、信仰を集めるための存在ではない我等竜族が王を承認することで混乱がおきるやもしれません」

「そのあたりの問題はいかがなのですか慶司さん」

「そうですね、ヒルデガルドさんの懸念の通り、王の承認と聖竜教を認めるということは戦争の火種となる可能性もあります、ですがこの大地で暮らす人々の事を考えれば竜族の庇護は必要な物ですからもともとある竜族の支配地における竜信仰が一つの国家として認めるのは悪くないと思ってます」

「妾たちは元々軽く信仰されているような物だったじゃろ、それを人々の救済にあてるといっておるし、竜族が見守る土地への侵略は我々は認めておらんではないか、故にブルトンを我等が承認するならばそこは我等の支配地とみなすと宣言してやればよい、仕掛けてくる馬鹿者には主様と妾がお仕置きをしてくれる」

「エルは相変わらず好戦的だわね、でも確かに我等の支配地で暮らす人々には庇護を与え進軍することは認めていないわね」

「じゃあいいんじゃねえか、聖竜教もアタシの土地で布教しても問題ないがそれはどうする」

「一つの宗教としてですか、ある意味宗教をなくすほうが難しくこれまでも色々な宗教がありました。我等は宗教に関与はせず規制もしない黙認ぐらいでいいのではないかと思いますけど」

「マリシェルさんの言うとおり此方からあえて認めるといわずともいいとは思いますが、聖教会の否定はされた方がいいと思います。軍を持ち人を扇動している事で人を苦しめている」

「竜族の支配地に来る程骨のあるのは聖騎士ぐらいじゃがな」

「例の問題もあったな…」

「例の問題って何ですの」

竜王格闘杯(D・L・F・C)を開いただろ、あの時に決勝で慶司と戦ったのがその聖騎士だったんだが、体内に魔石を埋め込み魔術を付与してあったんだ」

「なっ」

「それでそいつは強かったのかな」

「魔術の解析で首に微弱な電気のでる魔術付与と最終手段として自爆する魔術が胸から腹にかけて施されていたのだけど、あの人は体の痛みを感じない人だったし、魔術では不可能に近い思考速度を早くする事に成功していたよ」

「決勝での暴発を未然に防いだとの報告までは上がってきてましたが、そこまでの事を…」

「これは飽くまで可能性のみの話なんだけど、今回のブルトン改革について聖教会派の貴族と戦う機会があって、最終的には勝ちはしたけども、最後の足掻きで使われた薬が黒竜化のように人間を魔素変化させる物だったんだ、俺はこれが聖教会と関連があるんじゃないかと睨んでる」

「黒竜化…」

「あの忌まわしい災厄を…」

「倒しはしたけど、もしあの場で俺が居なかったら…考えたくないけどブルトンを破壊して消滅させる事態になってたと思う、できればあの姿になる人間は見たくないな」

「一応報告は聞いてましたから私も懸念はしておりましたが…しかし少し話しがずれてしまいましたね」

「そうでしたわ、では話をもどして竜族がブルトンの王を承認と庇護を与えること、問題を起せばな承認が取り消されること、聖竜教は黙認する事で私も賛成を致します」

「では私も問題は無いとして全員一致の上で承認を与えましょう」

「で、だれが行くんだ」

「そこはエルウィン姉さまではないのか」

「妾はしばらく旅を続けるから無理じゃな」

「私達で一番繋がりのあるのはエルでしたからねえ」

「少し待った、なあ質問だが…式典というからには晩餐なんかもあるよな」

「それは勿論あると思いますけど」

「そこで慶司の料理はでるのか」

「うーん、頼まれれば作ると思いますけど、侍女の方々にレシピを伝えてるので少なくとも改良されて出てくるんじゃないかなぁ」

「じゃあアタシが行こう」

「ちょっとお待ちなさい、グラディス態度が変わりましたわね」

「怪しいほど姉さまの態度が変わるということは何かあるのね」

「え、ああそうかお前たちの所には直接は赴いてなかったのか、慶司の料理は美味いんだよ」

「会議の後で食べてもらおうとお茶菓子は今日も用意してはきましたけど」

「まぁ、久しぶりに慶司さんの料理が食べられるのですね」

「「マリシェル様」」

「ウフフフ、今日は会議を開いて正解でしたわね」

「あの、どういうことでしょうか…」

「マリシェル様が壊れた」

「ヌッフフ、ヒルデにエリスよ…それはこの後のお茶菓子を食べれば解るじゃ」

「クッ…事前に聞きだしておけば黙ってアタシが行ったのに」

「とりあえず、そのお茶菓子が原因の確認となるなら頂きましょう」





 そこまでじゃないだろう、そう思いながらお茶とお茶菓子を用意して一息入れることになった。勿論茶葉はムーサに作らせた紅茶と、お菓子はマリシェルが好物ですといってくれたチーズケーキだ。

「「こ、これは」」

「さて…グラディスこれが狙いで引き受けましたわね」

「もともと出不精のヒルデは行かないだろうし構わぬではないか」

「ウチもこのお菓子以外にも食べ物があるならいくぞ」

「ほれ、竜族をも蕩けさせるのが妾の主様の本当の恐ろしさなのじゃ」

「確かにこれは危険な食べ物ね」

「ここは抜け駆けをしないというのはどうかしら」

「どういうことだよ、アタシはいくぞ」

「ウチもいきたいぞ」

「だから4種族全てから代表を出すのよ」

「私はどうなるのでしょう」

「竜聖母さまは今動けないとお聞きしましたが」

「ゥゥゥ…」

「またケーキをお送りしますから…」

「本当ですかっならば問題はありませんね」

「主様が恐ろしいのじゃ」

「いや、しかしこの味では…」

「ウチも嫁にしたら作ってくれるのかっ」

「フフフフフ、エリス、死にたいのかや」

「ヒィ、ジョ冗談ですよエルウィン姉さま、だからウチの住みかは壊さないで」

「冗談じゃ、でも主様は妾のものじゃからな、お前も早くみつけるのじゃ」

「うにゅにゅ」

「まさかエルに先を越された上にここまでの…グラディスのはある意味納得でしたが」

「そういえば、グラディスにはもうフェリエスがいますし、エルと慶司さんの子供も私の中にいるから、お二人は早くいい人見つけないとね」

「ハッそうか子供までも…私としたことが、いささか眠り過ぎて…」

「そんな事いっても強い男がいないぞ」

「ッフ、エリスよ強いだけで選んではいけない、アタシのところのように幸せになれる相手がいいぞ、アタシの旦那はヘタレだったがいい奴だ」

「いいじゃないの貴方たちは結婚できるのよ、私は結婚できないからケーキと結婚します」

「マリシェル様…それはどうかと思います」

「ウチもそれはどうかと思うな」

「ハハハ、でもいいじゃないか」

「まぁ、不憫になったのじゃ、主様にたまにケーキは届けてもらうようにするぞ」

「それで結局…全員でいいのですか」

「「「もちろん」」」


 こんな理由で四種族からの使者が訪れるなどとは伝えられないな、そう思いつつも、楽しい会話と承認された事での安堵からか、慶司の顔は微笑みを浮かべ賑やかな光景を眺めるのだった。


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